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第1話マッドサイエンティスト異世界に行く

「……ようやく追い詰めたようだ、ドクタークレイ。もう君に逃げ場はない」


 大勢で研究所に押し寄せてきた輩は、機械仕掛けのロボットスーツで武装した集団を背後に控えさせて私に告げた。


 さて我が家をビックリするほど破壊した、先頭スーツ姿のメガネの男はいかなる組織に属する何某か?


 正直あまり興味はない。


 まったくもって野蛮だが、真っ先に我が研究室にたどり着いた優秀な彼らを快く向かえ入れ、私は笑みを深めた。


「ようこそ諸君。歓迎するよ。私がドクタークレイ、お探しの科学者だよ?」


 しかし自己紹介する私の姿をみると、この場に集まった者達は皆一様に息を呑んだ。


「君は……子供か?……いくら何でも冗談が過ぎる。クソ、またしてもしてやられたのか!」


 大慌てしているようだが、いやいや。この程度の事で驚くとは、いったい誰を探しに来ているんだと言う話だった。


「落ち着きたまえ。本人だよ。本人。肉体年齢を弄ったんだ。コツを覚えると案外簡単だよ」


「……なにを馬鹿な」


 顔を顰める疑り深い彼のために、私は自身の身体を本来の年齢に戻してやった。


 急激な変化は消耗するからあまりやりたくはないが、本日という晴れの日ならば出血大サービスというやつだ。


 ちなみに私は髪は白。瞳の色は赤に固定してある。


 色合いだけでクールな印象を醸し出す知的な配色は、一種の発明だと思う。


 研究の成果だが相応に改造が必要になるので、おすすめはできないが。


 3秒以内に元に戻してやると、サービスは彼らを驚かせるには十分な効果を発揮したようだ。


「!……聞きしに勝るマッドサイエンティストだな君は」


「いいじゃないかマッドサイエンティスト。誉め言葉として受け取っておくよ」


 動揺が広がっているが、いちいち付き合っている暇はない。


 私はパチンと指を鳴らす。


 すると並んでいたすべてのロボットスーツはガクンとその場に崩れ落ちて、機能停止に陥った。


 勝利を確信していた彼らは、突然の事態に目に見えて動揺しているようだ。


 うける。


「だが……私は少々がっかりしたと言わざるを得ない。想定していた脅威度より30パーセントは低いね。いくら何でも私の開発したロボットスーツで乗り込んでくるというのは私を舐めすぎではないかね?」


「……ドクタークレイ。貴方の社会的貢献度は誰もが認めるところだろう。しかし、度が過ぎた実験は許容できるものではないのだ。貴方は一線を越え過ぎた。おとなしく拘束されることをお勧めする。このチャンスを逃せば、君の生存を保証できない」


 しかしこの期に及んで拘束とは、ガッカリポイントもう一つ追加である。


「ほほう。そんなに恨みを買っているかね? 発明品の恩恵を存分に受けておいて勝手な話だ。まぁ……好き放題暴れたから一方的に責められる話でもないが……」


「……」


 その苦虫を噛み潰したような表情を見ただけで、自らの素行の悪さを再確認出来た。


 我ながら最近はひどい日々だった。


 勢いに任せて倫理観やら、道徳観やらを脇に置いてめちゃくちゃ実験してしまったわけだが、おかげで数百年分は研究が進んだ自負がある。


 ―――その成果として出来上がったとある研究が今回の計画の発端でもあった。


「邪魔だと言うのなら私にも思うところがないわけではない。甘んじて君達から追放されてあげるとしよう」


「いや、大人しくしていてくれるだけで―――」


「実のところ……私も少々疲れてしまってね。今日君達に集まってもらったのはお別れを伝えるためなのだよ」


「……集まってもらっただと?」


「そうだとも。でなければ尻尾を掴ませるわけがないだろう? そしてお別れだ。ここ大事なところだよ君? ただの消息不明では面白くないだろう? 私は―――ここから消える。ここではない、別の世界へね」


 要件を告げ、緊張感が増してきたところで準備が出来たらしい。


『転移装置、起動します』


 ナビAIのブロックがそう告げた。


「うむ。では行こうか」


 私はニコリと微笑み。このためだけに作られた研究所はすぐさま稼働を始めて、私という中心に扉を開くことだろう。


『ゲート形成を確認。座標を固定―――では良い旅をドクター』


「うん。では行ってくるよ」


「な、なんだこれは……」


「転移装置さ。ああ、詳しい行先は秘密だよ?」


 起点である私以外は力場に巻き込まれて、体が浮き始めている。


 少々不便だろうが、まぁ死にはしないはずである。たぶん。


 私の周囲はバチバチと帯電して、空間が揺らいだ。


 そして開いた扉が私の身体を飲み込んでゆく。


「私の資産はすべて経済に還元した。まぁ景気のいいお買い物はかなり楽しかったよ。後は……そうだね、大したものは残っていないが、この研究所に残っているものは好きにして構わないよ。あー……伝えるべきことはこれくらいかな?」


 思えば、苦労もしたが楽しい日々であった。だからこそ私は別れの言葉の一つも残す気になったのだろう。


「では、追えるものなら追ってきたまえ、その時は―――改めて相手をするよ」


「……待て!」


 光の粒が瞬き、歪む空間の中で何某の声はギリギリ聞こえたが、もちろん待つ義理などありはしない。


「さらばだ」


 この日この瞬間。


 ドクタークレイと呼ばれた、天才科学者は世界から旅立った。


 向かう先はこことは違う世界―――いわゆる異世界というやつである。


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