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恐怖

作者: 伊渕和人

 私は人である。

 魂を包み込む骨があり、肉体があって人としての形を維持している。

 私は私自身の本体は胸の奥底にある魂だと思っているが、動かせるのは肉体であることに解釈不一致でむず痒さを感じている。

 魂の模造品である心をもつ人という生き物は、感情を起伏させ主に喜怒哀楽と呼んでいる。その喜怒哀楽の木の枝にある「恐怖」という感情は突如として意識外からやってきて私を苦しめるのだ。


 恐怖と呼ばれる感情には様々な種類があるのだろう。

身に襲いかかる恐怖。未来への恐怖。孤独な恐怖。周囲との差に対する恐怖。その他諸々。

 恐怖を擬人化したらよく分かると私は思う。目に見えるようになれば良いなと私は思う。


一つ妄想を膨らませてはみようではないか。


恐怖君は突然やってくる。

 時にナイフを握りしめて背後から追いかけてくる。

この時の彼は自分にとっての「焦り」に感じる。

貫かれても痛くも痒くもない。

だが間に合わなかったことの苦しみを与えられる。

 時にドッペルゲンガーとなり目の前に現れる。

彼は安心しきった顔で「不安」を感じている自分を煽るかのように私を見つめる。

そして歩もうとしている道の先を、決まっているかのようにして進んでいく。

私は動くことは出来ない。

見えない壁を乗り越えられない。

魂を振るわせたこの腕がこの声が届かないのだ。

 時に彼は周囲の人々を重ねた指先の音で消し去ってしまう。

本当は知り合いも仲間も友達も家族だって誰一人として「自分」として接してくれていないことを実感する。そう、自分という一人の人間ではなく、あくまでも「友達」「知り合い」「仲間」の括弧の中の小さな一人にしか思われていないのだと感じてしまった。

心の壁を作ってしまった自分を悔いて思う。

自分一人で縋るものもなく生きていくことに対して「拒絶」したくなる。

 時に彼は同じ齢程の人間をわたしに引き寄せる。

彼らは秀でている一芸を持っているのだ。どんなスポーツも一等級の彼。音楽家を夢見て現実を変えようと模索し作詞活動に精力を注ぐ彼。近代的な情報についての技術を持っている彼。

どんなに自分が頑張ったって届く気のしない彼らに私はジェラシーを抱える。

目を閉じていても襲いかかってくる眩しさに眩む。

そしてなんの力もない自分は彼らよりもずっと劣っているのだという現実の槍を突きつけられた。

感情が肥大し、心の中の「塊」としてつっかえるように爆弾を押し付けられたのだ。


こんなふうに恐怖という感情は喜怒哀楽から派生したはずが、もっともっと人間らしい感情を提示する新たな木になってしまった。避けようにも避けては通れないのだ。

抱える苦しさを「希望」に変える以外には恐怖を乗り越えられないのだ。


恐怖を乗り越えた先に何が待っているかなんて誰にもわからない。

ならば私は乗り越えてみたい。


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