スラム街
コメントください
灰色のコンクリートの天井が視界に広がった。
馬小屋のように狭いこの部屋に自分ともう一人、母が暮らしている。
普通なら精神が崩壊しそうな場所でも、生まれて育った自分にとってはふるさとだ。
「お母さん。朝だよ。」
母さんは眠そうに目を開けると大きなあくびをした。
「んー。美奈、今何時。」
「6時よ。起きないと。警備の時間でしょ。」
母親は起き上がり携帯食料を手に取り、着替えはじめた。パトロール隊に所属している母親は、30代の女性とは思えないほどに筋肉がついている。
「通りを歩くときは、DEVILに気をつけて。部屋を出るときは鍵を閉めていくのよ。」
母親が口癖のように美奈に言っていることだ。
「はい。」
「じゃあ、いってきます。」
ここは保護区域とは違う自治区域だ。
日本中に呪い、化け物が蔓延した事件を「ラグナロク」と呼ぶことがある。
北欧神話での世界の終わりを指し示す言葉だ。そのラグナロクのとき、非難できず取り残されてしまった。もしくはお金が無く、保護区域に入ることのできなかった人々がここで暮らしている。
厳重なロックとパトロール隊の存在のおかげで、物理的法則の中での行動しかできないDEVILの危険からは守られても、「霊力」を持ち瞬間移動や呪いを操つるGHOSTの進入の危険に常にさらされている。
お金を貯めるか、パトロール隊で名を上げ、保護区域を守る「ナイト」になれば、保護区域に家族ごと移り住むことができる。
母親の美里は、美奈の実の母親ではなかったが、美奈と一緒に保護区域に移り住むために、パトロール隊の仕事を必死にやっていた。
美奈は買い物に行くために自分も着替えた。
市場はすべてが灰色の世界である自治区域の中では、野菜、果物、雑誌などのおかげで唯一、色が鮮やかな場所だった。
「美奈ー!」
野菜を選んでいるときに旧に声をかけられた。
「佐奈じゃない。どうしたの?」
「野菜は後でいいでしょ。今、お肉が安いの。急いで買いに行こ!」
自治区域で暮らす若い女性にとって買い物は仕事であり、数少ない楽しみの一つだ。
走り行く佐奈の後を美奈も全速力で追いかけ始めた。
コメントください。二人目の主人公の話でした。