#7:カミバカばかり。
ドラ息子チーム 対 女子高生&女刑事チーム
葉山礼司✕―〇伊藤ステラ
田川末男✕―〇伊藤ステラ
洞須ニコラ〇―✕伊藤ステラ
洞須二コラ✕―〇牧門奇兵
神木長重郎 織宮翼
牧門奇兵。
世界大会を二連覇した唯一の男。
隔年でありながら既に五十年以上続き、二六回を数えた世界大会。
その二一回大会当時、十一歳だった牧門奇兵は、決勝トーナメントで優勝候補である前大会優勝者の洞須二コラを破った。
十一歳での優勝は歴代優勝者の中でも第二位の若さであり、その二年後の大会までも制し、初の連覇者となったことでその伝説は未だに色褪せてはいない。
アーマーリザーズは当時から使い手が少なく、牧門の活躍後に流行の兆しは見せるも、誰一人、牧門と同じように使いこなすことができなかった。
全く同じデックを用いても、牧門と同じようには決して勝てなかったのだ。
“牧門奇兵の勝因は、彼が牧門奇兵であること。”
第二二回大会で、実況席のプロデュエリストの放った一言は、あまりにも有名だ。
――しかし、第二三回大会には姿を現さなかった。
それどころか他の大会にも全く姿を現さなくなり、忽然と足跡を絶ったのだ。
様々な憶測が飛び交い、死亡説も付きまとった伝説の男、それが今、裏の世界とはいえ、動画の配信に姿を現したのだ。
賭けの対象となり、アウトローたちの娯楽であり資金源。
闇の賭場に入り乱れる負の感情の中で、伝説に沸く熱が損得勘定を超越した炎となっているのを誰もが感じていた。
「――よォ、ハジメマシテ。長重郎。この前の大会、テレビで見させてもらったぜ」
「ホームレスもテレビを持っているのか」
「電気屋でな。店員と一緒に盛り上がってたんだよ」
「それは光栄と思うべきなんだろうな。あとでサインでもくれてやろうか?」
「いんやァ、色紙を買うカネもねぇんでな。お前から貰うのは――勝利だけで良い」
伝説の男に次に対するのは、最新最強の男。
第二六回大会の優勝者、神木長重郎。
貸しスタジオの配信セットで、表の世界の人間は見る機会すらない闇デュエルで、その対戦は実現しようとしていた。
神木長重郎は、特徴的な三連の泣きぼくろに茶髪の襟足をちょこんと縛り、よくわからない外国語の書いてあるネルシャツ。
ふたりとも年の頃は20代。多少奇兵の方が年上だろうか。
何も知らずに見れば、ただ学生同士で遊んでいるようにも見えるだろうか。
いいや、それはない。ふたりの放つ強者の余裕めいた威圧は、恐らくカオスキーパーズを知らなくとも、確かに感じ取れるだろう。
先手後手を決めるサイコロに手を伸ばそうとするふたりを、アッチョが制した。
「おぉおおおっとおお! ふたりともふたりさん、ふたりサマ! 待ってくれぇえーい!」
「――ん?」
「なんだ?」
「この対戦! 今までの放送機材だけで放送するにはあまりに惜しい! そこで!」
どやどやと貸しスタジオに入ってきた、アッチョと似たような仮面を付けたTシャツにジーンズ姿の男たち。
彼らはテレビ局のクルーそのものという手際の良さでふたりの首元にマイクを設置し、スタンドを立ててふたりの手札を見える位置にカメラを置いた。
「……手札も写すのか?」
「ふたりが了承してくれないなら外さざるを得ないが、頼む!
試合中のふたりには絶対に情報は渡さない! この部屋の中には他の誰もいさせない! 絶対に試合の邪魔なんてさせない! だから了承してくれ! あんたたちふたりの対戦、その譜面は残さないとダメだ!」
今までの道化師じみた態度は一体どこへ行ったのか、アッチョの真剣な態度に、牧門と長重郎が応じる間もなく怒声を挙げたのは、部外者なはずがない部外者の男、葉山礼司だった。
「ちょっと待て! 他の誰もって俺たちもか!」
「当然。余計な口出しでもされて試合が邪魔されたくない」
「ふざけやがって……! あのなァ! この試合には俺の人生が懸かってるんだよ! もしそいつが負けたら俺は犯罪者だ! この俺がだぞ! わかってるのか!」
「ふざけるんじゃない! 元々あんたが起こした事故でしょうが! あんたが責任を取るのが――」
「――うるせぇ」
葉山の横暴すぎる発言に、ここまでゲームを静観していた織宮翼が正義を爆発させたが、アッチョが同時に遮った。
アッチョにとってはどちらも等しく無意味なこと。そう断言するように。
先ほどまで熱心に牧門と長重郎に対して説得しようとした男とは思えない冷たさで。
「――あのな? これから始まるのは、誰しもが観たかった試合なんだよ。
あの牧門奇兵と神木長重郎の正面対決。
それに比べたら、あんたらの職業倫理やヌルい人生なんてどうでもいいだろ」
「俺の人生がヌ……!? てめぇ、俺は、俺はなァ!」
「ただのクズだろ。
プレイングやカードの扱いの雑さを見れば、あんたが大したことのない人間なのはみんな知ってるさ。
そのあんたの人生とか命とか、どうでも良いと全員思ってるよ」
「な……ッ!?」
「ステラちゃんの方は応援してるよ。彼女のデュエルはまた観たいと思えるものだったからね。
とはいえ。それも牧門奇兵対神木長重郎のデュエルの前には些事だからね、全ては――」
「ふたりの対戦、早く見たいです!」
言い切ったのは、もうひとりの人生が懸かった張本人、伊藤ステラだった。
恐怖が消えたわけじゃない、だが、それを上回る期待が彼女の声を弾ませていた。
――そうか、こいつらもカミバカなのか――
カード1枚に熱中し、カード1枚以上のことがあるわけがない。
カードが人生の一部ですらない、人生がカードをやるための小道具であると理解している人種。
カミバカ。紙の莫迦。この空間にはカミバカばかりだ。
反論は無意味であると悟ったのか、葉山たちは部屋から出て行くしかなかった。
「手札の配信は俺は了解する。勝手にしろ」
「俺も構わん。世界にアーマーリザーズの力を思い出させてやるさ」
「……! パァアアアーリイー!」
嬉々として。
先ほどの冷たい言葉がなんだったのかという熱い叫び続き、アッチョと部下たちは設営を二分と掛からず終わらせようとする頃、奇兵はアッチョを呼び止めた。
「……お前、アッチョと言ったか?」
「ああ! 伝説の男に私の名前を憶えてもらえるとは!」
「……お前さん、どこかで会ったことがないか? どうにも……どこかで……?」
「……いや、ないですよ。会ったことなんてないさ。
俺とあんたは、会ったことなんてあるわけないのさ」
「? そうか……? まあ……今は……」
「ああ! 最高のゲームを見せてくれ!」
他のメンバーも隣に急遽設置した配信専用ルームに移動し、そして、ふたりの対戦がはじまった。




