#6:その名は牧門奇兵。
ドラ息子チーム 対 女子高生&女刑事チーム
葉山礼司✕―〇伊藤ステラ
田川末男✕―〇伊藤ステラ
洞須ニコラ〇―✕伊藤ステラ
洞須二コラ ― ホームレス(対戦中)
神木長重郎 織宮翼
山羊角の邪竜 【1赤紫青】
属性:龍・魔・闇・炎・王
飛空(このカードは飛空を持たないカードにブロックされない)
このカードが対戦相手にダメージを与えるたび、相手は100ポイントにつき1枚の手札を捨て、あなたカードを引く。
赤X:任意の対象にXの百倍のダメージを与える。
AP400/BP300
サバトの黒山羊といえば、サタンの象徴だという。
捻じれた山羊の角は、その悪の力を象徴し、それを冠する魔竜は、エナジーさえあればいかなる敵も焼き尽くす炎の息吹を放つ。
その大きな翼は敵を飛び越え、敵へ攻撃を叩き込むのだ。
鎧をまとった竜の悪神。対戦するふたりの頭の中にはテーブルの上の悪意の化身を実感している。
「俺は、緑コアをセットして《濾過コア》で緑エナジーをふたつ生成。そして1エナジーで《アーマーリザーズの訓練生》をプレイ、更にもう1体プレイする」
アーマーリザーズの訓練兵 【緑】
属性:爬獣・トカゲ・獣人・戦士
あなたがこのカードよりAPかBPの大きいモンスターを召喚したとき、このカードを1段階強化する。
また、このカードが破壊される場合、2段階弱体化させることで戦場に残しても良い。
AP100/BP100
アーマーリザーズの訓練兵 【緑】
属性:爬獣・トカゲ・獣人・戦士
あなたがこのカードよりAPかBPの大きいモンスターを召喚したとき、このカードを1段階強化する。
また、このカードが破壊される場合、2段階弱体化させることで戦場に残しても良い。
AP100/BP100
1ターン目に置き、後続を召喚すれば次々に強化されるアグロ向きのモンスター。
4ターン目に2体出しても出しても育成が間に合わない――通常ならば。
「コイツらを育てる役割はコイツに任せるぜ。《訓練教官》だ」
アーマーリザーズの訓練教官 【1緑】
属性:爬獣・トカゲ・獣人・戦士
あなたの戦闘の開始時、あなたのコントロールするこのカード以外の爬獣属性のモンスター1体を1段階強化する。
AP100/BP200
「さっき除去したカード、2枚目も持ってたのか……!」
「バイタリティポイント、BPが《訓練生》よりデカイので、《訓練生》の効果が機能し、成長する」
アーマーリザーズの訓練兵
AP100/BP100→AP300/BP300
アーマーリザーズの訓練兵
AP100/BP100→AP300/BP300
「……一段階強化って100ポイントだったと思うんだけど?」
「分かってる上で質問してくれているのも分かっているが、分かった上で分からせてあげようじゃないの。
《アナコンダ》の効果で2段階強化になるってことだねェ」
鉄鱗のアナコンダ 【紫緑】
属性:爬獣・蛇
あなたのモンスターが強化を受ける場合、1段階多く強化される。
APP200/BP300
「お前らぁあああ! ガッツを見せろおおおおお!」
『アイアイサー!』
立体映像のワニのような顔をした訓練教官の激が飛ぶ。
それに応える訓練兵2体、そしてその強化はアナコンダの存在によって効率が増す。
訓練兵の筋力は大きく膨張し、教官以上のサイズに成長している。
当のアナコンダは、とぐろを巻いて長い尻尾をブンブンと振っている。
――カードゲームあるある。
なんでどうしてそうなるのか分からないが、そういう効果がある。
なぜアナコンダがいるだけで強化効率が激増するのか誰にもわからないが、そういう効果なんだから仕方ない。
「――戦闘に入らせてもらう。《訓練教官》の効果で《アナコンダ》を強化。こちらも2段階強化だ」
鉄鱗のアナコンダ
AP200/BP300→AP400/BP500
「その蛇、ドラゴンよりデカくはないか!?」
「その通りだ! アタック!」
鉄鱗のアナコンダ
AP400/BP500
山羊角の邪竜
AP400/BP300
戦闘になれば、お互いのアタックポイントを相手のバイタリティポイントにぶつける。
ブロックに入ればライフは守れるが、お互いにアタックポイント400を相手のバイタリティに叩きつけあい、《アナコンダ》は500のバイタリティで耐えるが、《邪竜》はバイタリティが300しかないので倒されてしまう。
虎の子である《邪竜》が一方的に倒されればライフを守っても勝利はない。
防御せず、結果的に丸太のようになった《アナコンダ》の体当たりが、大幅に二コラのライフポイントを削った。
二コラ LP2000→LP1600
《邪竜》がなくては勝てないが、《邪竜》単独でどうにかなる盤面でもなかった。
返しのターン、二コラは《邪竜》の効果を《訓練教官》へと向けた。
山羊角の邪竜 【1赤紫青】
属性:龍・魔・闇・炎・王
飛空(このカードは飛空を持たないカードにブロックされない)
このカードが対戦相手にダメージを与えるたび、相手は100ポイントにつき1枚の手札を捨て、あなたカードを引く。
赤X:任意の対象にXの百倍のダメージを与える。
AP400/BP300
《邪竜》の放った炎のブレスが最もサイズの小さい《教官》を焼いていく。
『教官殿ーッッ!』
「お、お前たちに……教えることは……もう、何もない……ぐふっ……」
立体映像のそんな会話が有った気はするが、まあ、それは置いておくとして。
そのまま二コラはターンを終了し、続くキヘイのターンでキヘイは後続のモンスターを召喚するも、二コラはカウンター呪文で対抗。
魔力の散逸 【1青】
奇襲(このカードは任意のタイミングでプレイできる)
相手の使用した3コスト以下のカードの発動と効果を無効にする。
このカードは自分のターンには使用できない。
戦場に出ることすらなく消滅するので、《訓練生》たちのサイズアップもしない見事な対処。
しかし、それでもサイズ的に止めることはできなくなっていた。
《訓練兵》も既にAP300、二コラの唯一のブロッカーである《邪竜》のBP、バイタリティは同じく300。
防御もままならず、ライフを削られ、更に次のターン、二コラも今引きできず。
「ネクストゲームよ、キヘイ」
トッププロである二コラを相手に、キヘイは1ゲーム目を制した。
とはいえ、カオスキーパーズには絶対に勝つデックも絶対に敗けるデックも存在しない。
相性や手札事故、様々な要因が付随する。だからこそトーレディングカードゲームは面白い。
ならばこそ、このゲームは3本勝負だ。
一本目はマグレがあっても、残る2本で挽回もできる。
もちろん、マグレが2回続くこともなくはない。
だが、控えのサイドデック15枚で苦手なタイプにも対応でき、そこも含めた構築の対応力を含めれば、プロにアマチュアが勝つことは、限りなく困難となる。
――はずだった。
2ゲーム目。
二コラ:LPP650→LP0
「これは……まさか……!?」
2ゲーム目。
二コラはドローソースを駆使し、サイドデックから投入した対モンスター用のカードを引き当て、十二分に実力を発揮した。
ドローも噛み合い、事故ということもなく、油断もプレイミスもなかった。
ただ、それでも、ライフが尽きたのは二コラだった。
「パァアアアアアアリイイイイイイイイっっ!
まさかまさかまさかぁああああ! まさかだああああ!
古豪! 洞須二コラがストレート敗けだぁあああああ!
女子高生のステラちゃんの熱戦に応えようとハッスルしちゃったかぁああああっっ???
名もなきホームレス、次は……」
「名もなきホームレスじゃないわよ、アッチョ。彼は……」
道化の仮面の司会者は二コラに遮られ、マイクの位置に目配せをする一拍の沈黙を以て続きを促した。
「キヘイ、顔を見せなさい」
「なんだ、命令するのか、無礼なヤツだな」
「古い馴染みに顔を見せないのは無礼じゃないの?」
「勘弁しろ。俺だと知らなければ舐めたプレイのひとつもすると思ってな」
「――私は誰を相手にしても油断も手加減もしないわよ」
キヘイが擦り切れたフードを降ろすと、そこにあった顔はあごの端に剃り残した無精ひげ、中途半端に伸びた頭髪を強引にオールバックにしただけの顔。
人前に出るから最低限の清潔感は担保してきたと言わんばかりの、洒落ているとは言い難い容姿。
それでもなお、男は燃える少年の目を備えた、強く美しい艶やかな野獣そのものだった。
「改めて名乗ろう。牧門奇兵だ。何年ぶりだ? ニコラ?」
「あなたが優勝した第二二回大会以来だから……八年ぶり。立派になったわね」
「立派になる以外、やることがなくて、な」
――牧門奇兵? 第二二回大会の、牧門奇兵だって?――
その場にいた人間、そして配信を見る人間たちが、波のようにその名前を思い出した。
その名前を思い出すのに時間が掛かった人間もいた。
だが、その配信を見ている人間で、その名前を知らない人間はいなかった。
牧門奇兵。伝説の男、そう、牧門奇兵なのだ。