#4:洞須二コラは区別しない。
ドラ息子チーム 対 女子高生&女刑事チーム
葉山礼司✕―〇伊藤ステラ
田川末男✕―〇伊藤ステラ
洞須ニコラ ― 伊藤ステラ
神木長重郎 ホームレス&織宮翼
「良いゲームだったわね、ステラちゃん」
デックをお互いにカットしながらの世間話のような優しい言葉。
それは、ステラがテレビを見ているときに受けた緊張感のある印象とは異なった穏やかなもの。
人の人生が懸かっている裏のゲームとは到底思えない温厚さで、まるで親戚の子供と遊んでいるような気楽さで、その女は語り掛けてきた。
洞須二コラ。
カオスキーパーズが立体映像を取り込む前から活躍を続けるベテランの女傑プレイヤー。
若い頃……というとまだ若く美しい彼女には語弊があるが、いや、妙齢の女性に“まだ”も禁句だが……こういう言い回しをする相手には無言の圧力を飛ばす程度の彼女だが……とにもかくにも、新人の頃からのトレードマークである大きなリボンも、ステラにはテレビよりもずっと大きく威圧的に思えたのだ。
「ニコラ……さんは、このゲーム、どういうことか、分かってるんですか」
「ええ。わかっているつもりよ。私たちが勝てば伊藤さん、あなたが犯罪者になる、そういう怖いゲームよね」
「それがわかっていて……なんで……!」
なんでそんなに笑っていられるのかとステラが怒鳴る前に、ニコラはそれを手で制した。
その手にはサイコロがふたつ挟まれていた。先手後手を決めるから振れと、その意思表示だった。
「私は、私のためにこの場にいる。相手のことはゲームが始まれば一切関係ないわ。
ただ賞金の出るゲームに真剣勝負をしに来ただけ。私の行動に違法性もないし、後ろめたさもないわ。
伊藤さん、あなたは自分の人生を守りたいなら勝つしかない。
さあ、先手後手を……決めましょう」
目の前の人間の人生が、カードの勝敗に懸かっているということに何も違和感を持たない怪物がいるのだと、ステラは悟った。
プロデュエリスト。
善悪ではない。
ただ戦って勝つ。
それだけに生きている。
――そんな別種の生き物が、ステラの対面に座っている。
そして、サイコロは無情にもステラの心と合わさるように、細い数字を示した。
「――伊藤さんが2・3の5、私が6・5の11、先手はいただくわ。
それでは……よろしくお願いします」
「よ、よろしく、お願いします」
淑女。
宣言もドローも芸術的ですらある。
手早く丁寧、適切。模範的。静かでキメ細かな所作のひとつひとつが、ステラの心に圧力をかけていくようだった。
「私は《トライコア》をセット、終了よ」
マッドジャマーのコア
通常コア
1ターンに1度、紫・赤・青エナジーのいずれか1点を生み出す。
このカードは、プレイしたターンにエナジーを生み出すことができない。
三色のコア、俗にトライコアと呼ばれるカード。
設置したターンにコストとして使えないので速度では劣るが、安定感は高い。
ステラも知っている、二コラの十八番、三色デックだ。
対策は。
「ドロー、あたしは緑コアをセット、そこから《夜明けのパンサーレディ》をプレイします!」
夜明のパンサーレディ 【緑】
属性:獣人・猫・戦士
あなたが赤のコアをコントロールしているなら、このモンスターはAP+100
あなたが白のコアをコントロールしているなら、このモンスターはAP+100
(これらの効果はそれぞれに適応され、重複する)
AP100/BP200
剣と盾を装備した豹戦士が軽やかに出現する。
このカードは迅速を持っていないが、1コストなので1ターン目から出現させられるのが売りの軽量カード。
相手が強力なカードをプレイする前に殴り切って、勝つ。
アグロデックが持つ最強最大のプラン。全力で殴る、だ。
迷えるほど選択肢が多いデッキではない。最初から前を向いて走り切るのだと決めて、このデッキを選んでいるのだ。
「良いカードね。ターンをいただいても?」
「……ターン終了です」
「ドロー。《紫コア》をセット、終了です」
よどみなく、ただコアカードを増やして力を溜めるのみ。
戦術としては葉山のそれに近いが、プレッシャーが段違いだ。
「ドロー、あたしは《赤コア》をプレイ、2コストで《炎たてがみの銀狼》を召喚したいです」
炎たてがみの銀狼 【緑赤】
属性:獣・犬・炎
迅速(このモンスターは戦場に出たターンに攻撃できる)
このモンスターが相手がコントロールする効果の対象となったとき、任意の対象に200ポイントのダメージを与える。
AP200/BP150
「それでは攻撃宣言で……」
「うん、妨害はないわ。赤コアを出したから《パンサーレディ》もパワーアップね。迅速もあるから、即座に攻撃して合計400ダメージでいい?」
「え、あ、はい」
「残り1600。そのまま終了するならその前に《傲慢な徴収》をプレイしたい」
「! 対応はないです……!」
傲慢な徴収 《紫青》
魔法カード
奇襲(このカードは任意のタイミングでプレイできる)
各プレイヤーのデックの1番上のカードを確認する。
その後、その中の1枚をあなたの手札に加える。
ニコラは丁寧な手付きで、ステラのデックの上から1枚をステラに見えないようにめくり、自分のデックの上、そして自分の手札を最後に一秒か二秒、考えているとは到底思えないような時間の思考を挟めて見比べる。
――通常のプレイヤーならば、選択肢の多さに長考も珍しくない1枚を、である。
「では、伊藤さんのカードをいただくわ」
スリーブの違う1枚を手札に加え、淑女はターンを開始した。
「ドロー、私は《青コア》をセット、青・紫エナジーを出し、2コストの《神守の壁》。
このままターンを終了したい」
神守の石像 【2】
属性:造物・鉱物
専守(このモンスターは攻撃宣言できない)
あなたが神属性のモンスターをコントロールする場合、
このカードは専守を失い、パワー+200。
AP0/BP400
3エナジーがあるのに2エナジーのこのカードを出したのみ。
1エナジーのアクションが何かあると言いたげだが、壁が出てしまった以上、あまりやれることは多くない。
「ドロー……赤コアをセットし、赤エナジーで【野性の寵児】をプレイします」
野性の寵児 【赤】
属性:獣・猿
迅速(このモンスターは戦場に出たターンに攻撃できる)
あなたが他に獣属性モンスターをコントロールしていれば、AP+100
あなたが獣人属性モンスターをコントロールしていれば、AP+100
(これらの効果はそれぞれに適応され、重複する)
AP100/BP100
「なるほど。獣は《銀狼》、獣人は《レディパンサー》がいるね」
野性の寵児
AP100→AP300
仲間たちの存在に鼓舞され、力を増した小猿、豹の女戦士、銀の狼は並び立ち、攻撃準備を整えている。
そして、ステラの一声に従う。
「アタック、3体!」
「《石像》で《寵児》をブロック」
「だったら、《怒りの一撃》を《寵児》にプレイします!」
怒りの一撃 【赤】
魔法カード
奇襲(このカードは任意のタイミングでプレイできる)
モンスター1体を対象とする。
対象はこのターンの間、AP+300し、貫通を得る。
(貫通を持つモスターがブロックされたとき、そのBPをAPが超えていれば、超えた数値だけ相手のライフにダメージを与える)
BP400で立ちはだかった二コラの彫像に、猿はステラの唱えた魔法の力によって乗り越える。
しかし、二コラも手札から、手札の中で1枚だけ違う色のスリーブの付いた、ステラのカードをプレイする。
「《炎の矢》をプレイ。対象は《寵児》」
炎の矢 【赤】
魔法カード
奇襲(このカードは任意のタイミングでプレイできる)
任意の対象に250ポイントのダメージを与える。
奇襲カードは、相手の行動に合わせて使うのが基本。
強化された一撃で《石像》が破壊される前に《寵児》を破壊しようという戦術だ。
しかし、ステラは笑った。ステラもまだ使っていない緑エナジーが残されているのだ。
「《大地の守り》」を、《寵児》に使います!」
大地の守り 【緑】
魔法カード
奇襲(このカードは任意のタイミングでプレイできる)
モンスター1体を対象とする。
対象はこのターンの間、AP・BP+200し、魔封を得る。
(魔封を持つモンスターは、相手の効果の対象にならない)
「このカードの効果で《炎の矢》は無効です! そして《寵児》のパワーはさらに強化されます!」
野性の寵児
AP300→AP800(大地の守りと怒りの一撃の効果)
魔法の援護を得た寵児が石像を殴り倒し、その勢いは止まらず二コラへと殴り掛かる。貫通ダメージだ。
そして、豹戦士と銀狼も、もちろん攻撃を成功している。
洞須二コラ
LP1600→LP1200→LP1000→LP800
「ターン終了です!」
開始時に2000あった二コラのライフは、僅か3ターン目に半減以下。
ステラも自らの攻勢に、確かな手ごたえを感じていた。
「私のターン、紫コアをセット、紫と赤を含む3コスト、《煉獄》をプレイします」
「……え?」
煉獄 【1紫赤】
魔法
全てのモンスターに300ポイントのダメージを与える。
この効果であなたのモンスターが死亡した場合、1体につき100ポイントのライフを回復する。
どすぐろい炎が、戦場を包み込む。
豹戦士が、寵児が、銀狼が、その炎に巻かれ、断末魔を上げる間もなく燃え尽きた。
「私がモンスターをコントロールしていないので後半のテキストは意味がありませんが、コレでターン終了です」
――誘われた!――
ステラは、今の除去に対し、《大地の守り》を温存しておくべきだったことを、今更ながらに痛感した。
更に、恐らくだが、今の全体除去は前のターンで使うこともできたはずだ。
二コラは、ここまでの展開を読み切った上で、《傲慢な徴収》で《炎の矢》を奪い取り、強化呪文を打ちたくなる状況を作り、温存した全体除去を使ったのだ。
アグロデックは高速で殴り切るデック。
しかし、既にステラは前のターンで手札をほとんど使い切り、攻め手も切れている。
ニコラの残りライフは800、遠い。
さっきまでは僅かに思えていたその数値は、モンスター軍団を失ったことではるかに遠くなっていた。
「さあ、あなたのターンですよ。伊藤さん」
「……!」
その後、このゲームはステラの反撃空しく敗戦。
続く2ゲーム目。
敗北から先攻を選択したステラが果敢な攻めを見せるも序盤で決めきることができず長引く展開に。
そして。
「《山羊角の邪竜》を戦場へ」
山羊角の邪竜 【1赤紫青】
属性:龍・魔・闇・炎・王
飛空(このカードは飛空を持たないカードにブロックされない)
このカードが対戦相手にダメージを与えるたび、相手は100ポイントにつき1枚の手札を捨て、あなたカードを引く。
赤X:任意の対象にXの百倍のダメージを与える。
AP400/BP300
地上モンスターでは触れることすらできない空飛ぶドラゴン。
軽量モンスターを能力で焼き殺し、更に手札差を広げる。
成す術なく、ステラはストレート負けを喫した。
常に手のひらの上で転がされているような感触のまま。