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カミバカバッカ  作者: 84g
第一話『奇妙奇兵』
3/11

#3:ステラ・ステロイド


 締まりのない顔つきのその男は、ステラのデックをシャッフルしながら理解しがたい言葉を吐こうとしていた。

 その男のきしんだ髪は鮮やかすぎるピンク色、アンダーリムのメガネが、ステラにはズリ落ちそうに見えた。



「お前! 大人しく、犯罪者してろよっ……!」

「は……?」

「俺は、俺はさぁ! ちょっとだけしか飲んでないんだ! ビールとか梅サワーとか……あと飲んでたから思い出せないけど、あと白ワインを二杯とか三杯ずつだけでさぁ!

 それで、ちょっとだけ、缶ビールを飲んでる間に見落としちゃって、あ、あの男が悪いんだ、俺が走ってるのに、信号が青だからって渡りやがって……!

 だから、お前が! お前が! 刑務所に行けばいいだろぉーよ!」

「それ、あんたが全部悪いじゃん」



 不思議と、口が動いた。

 人生が懸かっているゲームで、威圧的なバカ息子に対して、口が自然と動いた。

 ――カオスキーパーズが嫌いになりそうだった。怖いだけで怯えながらカードをいじりそうだった。

 それが、ほんの少しだけ、楽しめると、楽しめればいいと、思えた。

 背後には翼が居る。自分を信じて戦おうとしてくれた人がいる。

 そして、なんだかわからないが――全然本当に一個もわからないが、ホームレスもいる。楽しめと話した非常識なホームレスだ。

 やることが同じだが、怯えることが止められないとしても、楽しもう。


「パァーーーッリイイ! さァさァ白熱してきたぜ! 実況はもちろんこの私、アッチョが担当! 今夜も最高のゲームを楽しもうぜぇ~!

 今日の試合は、パリアッチョチャンネルの独占配信だ!」


 ――口癖がパーリーで名前がアッチョ、併せて道化師(パリアッチョ)、しょうもない芸名――

 耳を貫きながらも聞き取りやすい声がいかにも癇に障ると、見守る翼が冷ややかな視線を送る。

 清潔感のあるスーツと劇で使うような光沢のある仮面、全力でエンタテインメントたる姿勢も、賭け試合を円滑に回すためだろう。

 警官として見過ごせる状態ではない。

 ご丁寧に配布されたのはコード付きのオーバースリーブ。

 カードを保護するためのビニールカバーが本来のスリーブだが、これはそれぞれに肉眼では透明にしか見えないが、それぞれにコードが刻印されているのだ。

 当のステラは、普段よりも重ねるスリーブが増えて多少デッキが分厚くなった程度のことしか考えずテーブルにつき、サイコロを2個ずつ振る。

 カオスキーパーズでは、先手後手はサイコロの2個振りの合計値で決める。


「4・5で9!」

「6・4で10、あたしの先攻!」


 カオスキーパーズは、60枚のデックでお互いに2000点のライフポイントを持ち、相手のライフを削り切った方が勝ちのゲームだ。

 カードにはそれぞれにイラストが描かれており、それがイマジネーションを刺激する。

 そのイマジネーションは、対戦するふたりにとっては、時に現実以上に現実感を伴う。

 お互いに1ターン目はエネルギー源であるコアカードを並べたのみで終了、そしてステラの2ターン目。


「――あたしは緑のコアカードを設置、さっきのターンに置いた赤コアから赤エナジー、緑コアから緑エナジーで……《炎たてがみの銀狼》!」


炎たてがみの銀狼 【緑赤】

属性:獣・犬・炎

迅速(このモンスターは戦場に出たターンに攻撃できる)

このモンスターが相手がコントロールする効果の対象となったとき、任意の対象に200ポイントのダメージを与える。

AP200/BP150


 召喚宣言と同時に机の上のカードから光がほとばしり、ステラの背後に火炎をまとった狼として形を成す。

 立体映像装置。

 これこそ、カオスキーパーズを“エンタテイメントの花形”へと引き上げた立体映像装置、大気投影(エアロセイル)システム。

 仕組みとしては、ただ単に事前登録しておいたスリーブをそれぞれが識別、それを立体映像として出力しているだけだが、ルールが分からない人間にも……いや、ルールの分かる人間にも、視覚的に衝撃を理解させられるようになったのは、脳内で繰り広げられていたカードゲームを半ば現実として引き上げるだけの説得力がある。

 はじめてこの機能を使ったステラも、自分の人生が掛かっている状態でも、銀狼の出現に胸躍るのを隠せていない。



「戦闘フェイズ! アタック!」


 ステラの攻撃宣言により、銀狼はステラの背後から駆け抜け、テーブルを透過し、対面に座るバカ息子、葉山に炎を浴びせ、葉山のライフを削る。

 立体映像とわかりながらもたじろぐ葉山の動きに連動するように、自動的に机の端に置いているライフカウンターが、2000から1800に減った。

 このカードゲームは、コアと呼ばれるカードからコストを支払い、更にそこから出るエナジーを消費してモンスターを呼び出したりや呪文を唱えて戦う。

 《炎たてがみの銀狼》は緑と赤のエナジーをそれぞれ1点ずつで戦場に出せる迅速カード。

 通常ならば戦場に出したばかりのカードはそのターンに行動できないが、

 『迅速』があるモンスターは例外で、速攻で相手に殴り掛かり、ライフを詰めるアグレッシブなカードだ。


高速戦術(アグロ)かよ! うっぜっぇ! バカっぽい!」

「あんたよりバカなヤツなんてそうはいないわよ! ターンエンド!」

「っち、っくそ……《黄コア》をセット! ターン終了だ!」

「あたしのターン。エナジーセット、《骨棍棒のケンタウルス》を召喚!」



骨棍棒のケンタウルス 【1緑赤】

属性:獣人・馬

迅速(このモンスターは戦場に出たターンに攻撃できる)

貫通(このモンスターがブロックされたとき、そのBPをこのカードのAPが超えていれば、超えた数値だけ相手のライフにダメージを与える)

このモンスターが攻撃したとき、手札1枚を捨ててもよい。

そうしたなら、このモンスターはAP+100/BP+100する。

AP300/BP300



 ステラのカードは、次も迅速持ちだ。

 アグレッシブに駆け抜けて殴る。それがステラのデッキの真骨頂だった。


「《銀狼》と《ケンタウルス》でアタック! 攻撃宣言時、手札1枚を捨ててケンタウルスのAPを400に!」


 序盤にアクションのない葉山を咎めるように、大きな骨を組み合わせたような棍棒を備えた半人半馬の立体映像が銀狼と共に一撃を叩き込むべく走りだす。



「黄エナジーともう1エナジーを払い、手札から《シルフのカーテン》をプレイだ! デカい方をブロック!」


シルフのカーテン 【1黄】

属性:精霊・風

奇襲(このカードは任意のタイミングでプレイできる)

このモンスターが戦場に出たとき、カードを1枚ドローする。

AP0/BP50


 葉山は手札からカードを盤面に投げた。

 防御さえしなければ、モンスターは自身のAP(アタックポイント)分だけのダメージを、相手プレイヤーのライフやモンスターのBP(バイタリティポイント)に与え、もちろん限界以上のダメージを受ければ破壊される。

 そして、カオスキーパーズは防御側が相手の攻撃をどう受けるかを選択する。

 銀狼はそのまま駆け抜けて葉山のライフを削り、しかしケンタウルスは、ヒラリと舞い降りたカーテンによって行く手を阻むように覆われた。

 今、ケンタウルスの一撃でダメージを受け、《カーテン》は墓地に送られる。


「これでダメージを受け流してやっ……」

「ねえ、あんた、バカだとは思ってたけど……アホ?」

「え……?」


 ステラはジェスチャーを示す。

 ケンタウルスは、カーテンを突き破り、ほとんど変わらない勢いで棍棒をバカ息子に叩き込む。


「っだあああああ!?」

「今の、ブロックするのは《銀狼》の方よ。

 《ケンタウルス》には貫通能力があるから、400から《カーテン》のBP50を引いて350点のダメージ。

 ライフは1800から《銀狼》の200と350を合わせて550のダメージで、残りは1250、よ」


 通常はモンスターを盾にすれば、プレイヤーはダメージを受けない。

 しかし、例外もある。

 防御されても相手の防御力を超えていれば、そのままプレイヤーにもダメージを与える能力、貫通。

 このバカ息子は相手のカードの効果を読んでない。基本の基本ができてない。

 ――私より焦ってる。勝てない相手じゃない――

 ステラは前を見ながら、高らかにターンを終了した。


「俺のターン、《紫コア》をセットして……終了だ!」

「だったらガンガン行くだけ! 手札からもう1体、《炎たてがみの銀狼》をプレイ、3体でアタック、残りライフ、550で合ってれば終了!

「く、ドロー……よし! 良いカードだ! コアカードをセット、そして黄エナと紫エナと適当に1エナジーを支払い、《陰陽選別》!」

「……これって……?」



陰陽選別 【1白黒】

魔法カード

以下から一つを選択して発動する。

・3コスト以下のモンスターを全て破壊する。

・4コスト以上のモンスターを全て破壊する。



 メンコか何かのように葉山が叩きつけたカードの産み出したエネルギーの脈動により、銀狼二匹とケンタウルスが消滅した。

 このカードゲームはモンスターだけではない。それを補助したりする魔法カードを組み合わせることで戦場が大きく流転する。

 今引いたカードでの逆転もカードゲームの醍醐味といえばそうだが、さっきまでの半ベソはどこへ行ったやら、自慢げに葉山は舌を滑らせ続けた。


「バーカ! 俺は、俺はなア、これを引くのを読んで、攻めさせてたんだよ! 逆転! 逆転だぁ!」

「ねえ、ターン、終わってる?」

「……は?」

「終わったなら終了宣言してよ」


 動じてないステラに、力なく葉山は終了宣言をした。


「ターン貰うわ。《赤コア》をプレイ」

「っは、エナジーにしかできないカード? 役に立たないカード引いたなァ!」


 エナジーカードは、あくまで電池のようなもの。

 電池だけあっても電化製品がなければなにもしないように、意味はない。

 これで前のターンでエナジーカードがなかったようで、ステラはこれで4枚目のエナジーカードだ。


「――赤ともう1エナジーで、《きらめく電光》をプレイ、ターゲットはあんた」


きらめく電光 【1赤】

魔法カード

奇襲(このカードは任意のタイミングでプレイできる)

任意の対象に300ポイントのダメージを与える。



 ダメージを与えるカードは、なにもモンスターだけではない。もちろん魔法カードにも存在する。

 電光がほとばしり、葉山のライフを打った。

 文字通り、電撃に撃たれたようにぽかん、とするしかないらしい。

 


「550に300ダメージで残りライフは250で合ってる?」

「合ってる、が……?」

「もう1枚、《きらめく電光》で。ライフゼロでいい?」


きらめく電光 【1赤】

魔法カード

奇襲(このカードは任意のタイミングでプレイできる)

任意の対象に300ポイントのダメージを与える。


葉山:LP250→0


 殴れるだけ殴り、最後は火力と呼ばれる直接ダメージ呪文で勝利。

 アグレッシブに戦うアグロというデッキを体現したスピード感のある勝利だった。



「んが……! ナメるなよ! バカっぽい! 運が良いだけだろうが!

 これは三本勝負だ! 先攻で都合よく勝てただけで調子に乗るなよ!」

「調子になんて乗ってないわよ。さっさとサイドチェンジしましょ」


 カオスキーパーズは、基本的に3本勝負を2本先取する方式で行われる。

 合間に予備のサイドデックとして用意した15枚から相手に合わせて調整を行う。

 いくら葉山(バカ)でも高速(アグロ)対策のカードくらいは用意しているだろう。負ければ人生が変わる。恐怖が消えたわけではない。

 それでも、ステラは少しだけ、ほんの少しだけ。振り返ってみた。

 そこにはガッツポーズの翼と、表情も分からないほどに目深にフードを被ったホームレスが控えている。

 素性もわからないホームレスは静かに、親指を立ててみせた。


「負ける気が……しないよね!」


 続く第二ゲーム。

 カオスキーパーズは前のゲームで負けた側が先手後手を選べる。

 アグロ相手では半歩早く動ける先手を葉山が選択。

 葉山、サイドインした除去を束にしてステラのモンスターを処理し、ゲームが長期化。

 消耗戦となり、お互いにコアとしてしか使えないカードばかりを引いて決め手に欠ける中、対策の対策として入れていたカードをステラが引き込む。


「――《火吹きのトロル》を召喚!」


火吹きのトロル 【2緑赤】

属性:鬼・炎・戦士

緑1:このカードの破壊を無効にする。

赤1:このカードのAPをターン終了時まで100ポイントアップする。

AP450/BP400


「だ、だあああああ!? 破壊できねぇ!?」

「――ありがとうございましっ!」

「キマったあああああああ! 勝者! 伊藤ステラちゃん! 自分の人生を守ったぁあああ!

 今の戦い、やはりポイントは3ターン目の――」


 実況の仮面男・アッチョの絶叫の中、気付いたらというか気付かないうちに、ステラは泣いていた。

 感情の泥のようなものに詰められながら、ステラは走り切り、自分の人生を守る一歩目を刻んだ。

 僅かながら、その泥の中に輝くもの。ゲームを楽しむという感情が、辛うじて正気を支えていた。



「礼司くん! あとは任せたまえ!

 私が残る三人を倒す! 私のデックは五色!

 全ての色を使いこなし、全ての色のパワーカードを兼ね備える最強のデック! 対策カードも潤沢! 負けようがない!」


 汚職刑事部長が椅子に腰かけ、そこからは筆舌に尽くしがたい戦いが展開された。


ゲーム1(先手田川)

ステラ・ライフ1700 対 田川・ライフ0

ステラ勝利。


ゲーム2(先手田川)

ステラ・ライフ2000 対 田川・ライフ0

ステラ勝利。



「負けたアアアアアア!? なぜだあああああ!?」

「いや、アンタ、弱いし……」


 五色にするということは、赤コア・緑コア・紫コア・青コア・黄コアを全て引かなければならないということ。

 複数の色が出せるというコアカードも存在するとはいえ、安定性は下がる。

 もちろん、五色で強いデックも存在するが、それは緻密な調整の果てに発生するものであり、

 “強そうなカードを全部いれた”程度のデックで勝てるほど、カオスキーパーはヌルいゲームではないというだけだ。



「あと……ふたり」


 ここから本番。

 プロデュエリスト二名。

 まずは口ひげの紳士、洞須二コラが、静かに立ち上がった。

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