ようこそ、悲劇のヒロインへ
1話 なんじゃ、こりゃ?
だいぶ明るくなって、鳥の囀りも聞こえてきたが、勝己は、まだベットで寝たい気分だった。そこで、寝返りをした時に違和感を感じた。
(あれ、なんか胸が引っ張られる。胸に何かついてる? なんだこれ、なんか大きい。え〜。あれ、これって女の胸みたい。でも、そんなことはないよな。夢見てる? 下はさすがに、あれ下もない。あれ、あれ? なんだ?)
ベットから飛び上がった勝己は鏡の前に立って、着ていたシャツを脱いだ。
(なんだー、これは? 女だ。え、俺??? なんだ、なんだ? そして、この声、アニメキャラみたいで変な声。 でも、どうして? まず、俺は誰なんだ? まず、このスマホ、顔認証できるか? あできた。今日は、2023年4月3日、ということは、確か昨日が2日だったから今日で間違いない。俺が女になっただけ? 俺は誰だ? ところで、ここはどこだ?)
勝己は、何が何だか分からないでぐるぐる、その場を回っていたが、少し冷静になり、まず、周りのバックとか、何か分かるものをごそごそと探した。そこで、分かってきたことは、自分が糸井 彩ということ、2005年2月20日生まれの18歳で、愛媛から、昨晩、東京にある清和女子大の寮にきて、9日が始業式であることだった。
(まず、何をすればいいんだ。この大きい胸、なんか動いて邪魔だな。そういえば、ブラジャーがあったから、それを付けてみたら動かないのかな。えーと、こんな感じで、えいえい、少し寄せればいいのかな。意外と、締め付けられている感じで窮屈だな。女って、こんな面倒なものいつも付けてるのか? さて、何からするか。男と女と違うことは何だ? トイレ、それはまだいいから、次は? 化粧だ。すっぴんで外とか出たら、逆に目立つしな。どすればいい?)
さっき探していた時に、化粧のポーチがあったので、それを持ってきて、まず、YouTubeで化粧について調べてみた。
(化粧って、メークっていうんだ。初心者メーク徹底解説という動画を見てみたけど、疲れた。結局、よく分からない。詳しくは今晩にもう少しゆっくり見て、リップだけ塗って、少し、食べ物とか買い出しに行こう。その前にトイレ。)
勝己は、恐る恐る、廊下に出て共同トイレに行ってみた。今日は、まだ寮に来ている人は少ないようで、廊下も空いていた。
「あら、こんにちわ。1年生かな。私、2年生だけど、よろしくね〜。」
「こちらこそ・・・」
(先輩らしき人が、手を振って通り過ぎていったけど、シャツだけで、下とかパンツだけで廊下歩いている? こんなもん? 春休みで人がないないから? 女って、人が見ていないと、そんなんになっちゃうの? それはいいとして、えーとトイレはここだけど。立ちションはできないよな。えーと座ったけど、これから、どうなるの? あれ、チョロチョロ出てきた。こんなところから出るんだ。なんか、出てくるところがびちょびちょという感じで、方向が定まらないけど、あ、ジョーって出てきた。こんな感じね。でも、トイレットペーパーで拭かないとダメだ。なんかグロテスクっていうか、変な感じ。こんな風なんだ。)
お財布を見ると5万円入っていて、勝己は買い物に出かけることにした。さすがにスカートは恥ずかしかったので、まずは長袖シャツと、薄手のスエットのようなパンツをはいて、リップだけ塗って、外を歩いてみた。
(結構、緊張するな。なんか、女の服って、軽いからか、よく分からないけど、着ていない感じで、見られているっていうか、気にしすぎかな。さて、スーパーに着いたけど、まず、寮の食堂は8日からと書いてあったから、食事とかかな。部屋に冷蔵庫と、食堂に湯沸かし器はあったから、カップラーメンとか、パンとか、お茶とか買っていこう。)
部屋に戻ってきた勝己は、部屋にあった服を一通り着てみた。
(この服、どう着ればいいんだ。手をここに入れて、あれ、なんか着れない。あ、こうすればいいんだ。スカートって、どっちが前だ? こんなに短いの、電車で座ったら見えちゃうな。)
夜中まで、ブラの付け方とか、髪型とか、かなりの時間を使って情報収集をして、まあ、なんとか明日以降やっていける気になったのが深夜。
(でも、どうして、こんなになっちゃったのかな? 明日、俺の家に行ってみよう。)
2話 僕はこの世から消えていた
朝起きたら、昨晩考えた通り、自分が一昨日まで暮らしていた吉祥寺の家まで行ってみることにした。今日は、チャレンジとして、薄手のワンピースで行くことにした。
(さすがに、女、女した格好で、恥ずかしいな。下スースーだし。でも、ワンピースじゃないと、上と下で、どう合わせるのか、どう着るのかよく分からないから、ワンピースは助かる。そうそう、上とか下じゃなくて、トップスとボトムスだ。言葉も覚えないと。まず、よく、周りの女を観察して、どう合わせるのか調べよう。トップスをボトムスに入れるとか、外に出すとか。でも、女の服って、ボタンで前開きになっていない服も多いし、なんか不思議だ。でも、なんか、見られている気がするな。あの男、ジロジロ見やがって。お前の女じゃないんだよ。)
勝己が睨むと、相手の男は自分のスマホに目を向けた。
寮の最寄りの駅である広尾から恵比寿経由で渋谷に行って、渋谷から吉祥寺。もちろん、このルートはよく知っている。渋谷から、少し北に歩いていって、自分の家があったところに着いた。
(え、家がない。自分の家が、なんかビルになっていて、あれ、ここにあった自分の一軒家がなくなっている。どうしてだ? あ、近所のおばさんが来たから聞いてみよう。)
「あの〜、ここに、昔、清水さんていう人の一軒家があったような記憶があるんですけど、何か覚えていませんか?」
「どなた? 私、ずっとこの辺に住んでるけど、ここはずっと昔からこのビルが建っていましたよ。清水さん? 知らないですけど。急いでいるんで、すみません。」
(どうなっているんだ。俺がいた痕跡がなくなっている。俺は戻れないのか? ずっと、この体で過ごしていかなくちゃならないのか? 何もかも分からない。)
勝己はとりあえず、家に帰ることにした。
(まず、これ以上考えても、結論出ないから、少し汗をかいたし、まず共同浴場でシャワーを浴びてから考えよう。昨日は時間も早かったし、まだ始業式まで時間があるからか、誰とも会わなかったけど、今日はもう17時だし、誰かと会っちゃうかもね。)
勝己は共同浴場に行くと、すでに1人入っていた。
(いよいよ、本当の女風呂に入るんだな。これはワクワクしちゃう。ただで、女の裸が見れるなんてラッキーだ。俺も女の体だから、きゃーということはないよな。では、さっそく、おじゃまします。)
先に入っている人は湯船に浸かっていて、勝己は、背中を向けて体を洗い始めた。そうすると、その女が横に座ってきた。横から見るだけでも、胸も大きくて、スタイルも良く、魅惑的すぎる。これって、いいのか〜?
「私、今年入いる1年生ですけど、先輩ですか? 同じ1年生ですか?」
「1年生です。」
「そうなんだ、よろしくね。いつこの寮に入ったの?」
「2日前。」
「私も〜。広尾って、おしゃれなお店とかいっぱいあるから楽しみだよね〜。でも、緊張しているの? それとも人見知り?」
「それほどでもないですけど。なんか、初めてで。」
「あ〜そうなんだ。温泉とか銭湯とか来たことないのね。だから恥ずかしいんだ。でも、そんなにジロジロ見てると、変わっているって思われちゃうよ。あ、ところで、ここって、ムダ毛剃っていいんだよね? 昨日は人がいなかったから剃っちゃったけど、どうなのかな? 知っている?」
「よくわかりません。」
「敬語じゃなくていいよ。そうだよね。共同浴場初めてじゃ、わからないっか。まあ、他で剃れないし、剃っちゃうしかないね。」
(剃り始めたけど、足とか、脇だけじゃなくて、あそこも剃るんだ。びっくり。そういえば、あそこ、つるつるで毛がないじゃないか。)
「そんなに見ないでって、言ったじゃない。あ、そうか、あなたパイパンじゃなくて毛がもじゃもじゃだもんね。ごめん、悪気はなくて、言い方間違えた。毛がない方が清潔だし、結構、そういう人多いんじゃないかな。それが気になったのね。私は、剃ることを薦めるわ。」
「そうなんですね。今度、やってみます。」
「剃ると、最初の頃は毛が生えてきて、ちくちく痛いから、脱毛とかの方がいいかもよ。」
「アドバイス、ありがとう。」
「かわいい声なんだから、もっと話した方がいいよ。また、今度、レストランとか一緒にいこうね。」
(そうなんだ。でも、毛がないと、あんな風になっているなんて知らなかった。でも、これが毎日だと楽しみだな〜。)
(お風呂から上がったけど、髪を乾かすのは面倒だ。でも、前髪は長めだけど、後ろ髪はあまりないっていうのは面白い。女の髪ってあまり見たことなかったけど、これなら、夏でもそんなに暑くなさそうだ。でも、乾いたら、櫛でとぐぐらいでいいのかな。カーブとかかかってなかったようだったから、それでいいような気もするけど、そういえば、なんか挟む棒みたいな電化製品があった。あれで、髪を巻くのかもしれない。部屋に帰って調べてみよう。)
勝己は、今日、女言葉になっていないと気づいたので、今夜は、女言葉を勉強することにした。どんな人が見ているのか、よく分からないが、YouTubeを見ると、女らしい抑揚とかいっぱい出ているので、今夜も深夜まで取り組んだ。
3話 エッチ
勝己は、朝起きて、ぼーっとしていると、部屋にノックがあり、誰か入ってきた。
「こんにちは。今日から、ここで一緒に暮らす室井理恵です。よろしく。」
「そうなんですね。こちらこそ、糸井彩って言います。よろしくね。これまで相部屋とかなかったから、どう過ごせばいいか分からないけど、何かあったら、遠慮せずに言ってね。」
(そうそう、昨晩、勉強した女らしい抑揚、ここで試してみよう。)
「こちらこそ、不満とかあったらすぐに言ってね。じゃあ、荷物を入れます。そんなないけど。」
その後、引っ越しがあって夕方になった。
「今日は、二人で引っ越し祝いということで、部屋でパーティーでもしない?」
「いいね。部屋じゃお料理できないけど、料理とかどうする?」
「ポテチとかでもいい。あと、炭酸系の飲み物とか。一緒に買いに行こう。」
「じゃあ、行こう」
(楽しいな。これって女の子とデートじゃん。)
買い物から帰ってきた2人は、テーブルにスナック菓子を広げ、パーティーを開始した。テーブルには、向かい合って席があったが、理恵は、横に椅子を持ってきて座った。
(女の子って、こういう距離感なのかな。なんかベタベタとくっついてくるのもいいな。)
「ねえ、彩って、スタイルいいね。」
「それほどじゃないよ。」
「彼とかいるの?」
「今はいないかな〜。」
(でも、女同士だからって、腕組んで、こんなに胸とかくっつけてくるかな? まんざらじゃないけど。)
「そうなんだ。私、なんかぴーんときたんだけど、彩って、女の人好きじゃない?」
(あれ、俺が男ってバレたか?)
「いや・・・・」
「隠さなくてもいいよ。私もそうだから、なんとなくわかるんだ。今どき、女同士のカップルだっていっぱいいるし。」
「でも、これまでそんなこと・・・。」
「そんなに、警戒しなくていいって。まず、気軽に試してみて、嫌だったら、やめればいいじゃん。一緒の部屋になったのも運命だと思うの。私は、彩のことタイプ。初めてみた時に、この人って思ったんだ。」
そういうと、理恵は、彩にキスをしてきた。そして、いきなり、ベットに連れて行き、上に乗って、濃厚なキッスをずっとしてきた。
(理恵さんは、胸とか小さいけど、なんか女を抱いてるって感じがいいな。男とエッチなんて気持ち悪いし。下半身ももちろん女だし、嫌なものはない。でも、こんな濃厚なキッスは初めて。さっきから10分ぐらいしているかな。いつまでやるんだ? そろそろ、胸とか触りたいけど、そんなことしない方がいいのかな?
あれ、なんか服脱がされちゃった。ブラも、するりと外されている。胸って、揉まれると気持ちいいのかな? 揉んできたけど。あれ、なんか、下の方がうずうずしてきた。というより、なんか、あそこが湿ってきた。女だから、女の急所を知っている? でも、あれ、声が出ちゃっている。どうして。あれ、私の体に何か入ってきた。)
「え、何?」
「びっくりさせちゃって、ごめん。これ、女同士でエッチするときに、両方に入れて両方とも気持ち良くするおもちゃ。中に入って、動くんだよ。面白いでしょ。初めてかと思うけど、痛かったら、すぐ言ってね。無理しないから。」
(え、そんなもんがあるの? なんか、下の方、くちゃくちゃ音している。あれ、理恵が体を動かすから、私の体におもちゃが入ってきて、行ったり来たり、気持ち良くなってきた、あれ、なんか、理恵と一緒に入った時に声が出ちゃっている、あれ、もう我慢できない、あぁ、体が爆発する〜。)
「よかった? 最初からこんなハードにするとだめかなと思ったんだけど、彩だったら、むしろ、最初から、こっちで攻めた方が、上手くいくんじゃないかと思って。彩は女性ホルモン、そんなに嫌じゃないんだよ。多分。結構、近づくだけで気持ち悪いっていう女もいるし。でも、初めてで、そんなにいっちゃうなんって思わなかった。」
「恥ずかしい。」
「そんなことないよ。これから、ずっと一緒だね。私って、昔から悩みがあって、男の人が好きになれなかったんだ。でも、女に声をかけても嫌われるんじゃないかって。でも、なんか彩にあった途端、この人だったらいけるってビビってきて。今日は突然でごめんね。でも、よかったでしょ。」
「うん。理恵のことよく知らないし、これから、いろいろ教えてね。」
(これって、天国じゃね。女と一緒に暮らして、毎日でもできるって、思ってたよりいいじゃん。)
二人は、今晩は、一緒にキスをしながら眠りに落ちた。
4話 生理
そんな勝己にも、生理が来た。
(こんなに痛いって知らなかった。どうすりゃ、いいんだ。なんか眠いし、イライラするし、これは温泉旅行とか無理だな。ナプキンも、なんかおむつはいているようで、肌に優しいとは言っているけど、ガサガサして本当に嫌だ。毎月、来る? やめてくれよ。)
そんな中でも、お風呂に行った。
(これまで観察していたけど、なんとなく生理の人はシャワーだけみたいだね。まず、シャワー浴びようか。なんか、ももにぬるっとした赤い液体が流れていって、汚い感じ。本当に嫌だ。これと一生付き合っていくのか?)
(女子大だから、みんな理解はしてくれる。あ〜、あの日なのねって。そういえば、周期がわかる便利なアプリがあるから使ってみればって。そう言うのは勉強になるけど、でも、それだけ。痛いのが軽くなるわけじゃない。ああ、ゆうつだな。でも、そういえば、ピルとかあるらしいけど怖いし。)
でも、生理も終わると、勝己は気分がいきなり明るくなった。
(こんなものなのかな? なんか気持ちの起伏が男の時よりも大きい気がする。なんでもできるんじゃないという気分。これから外に遊びにいくぞー。あ〜、楽しい。)
「理恵さん、今日、一緒にレストランに行かない? この前、この先のイタリアンが美味しいって聞いたから。」
「行こう、行こう。今日はご機嫌だね。」
「そうそう。じゃあ、予約しておくね。」
レストランに着くと、二人の会話は弾んだ。
「部屋で話すのと違って、これはこれでいいね。」
「そうね。そういえば、英語Ⅱの先生、なんか明治時代のおばあちゃんっていう感じだよね。」
「それ、面白い。確かにそう。もう少し、今時のニュースとか軽やかにレクチャーする方がいいのにね。」
「だから、あの先生の授業には、生徒が少ないんだろうね。私、参加してみたけど、いつも寝ちゃっていたもん。」
「それわかるー。先生、やめちゃうべきかもね。」
「それは言い過ぎだよ。そう思うけど・・・。あはは。」
二人の会話は続き、その後も、部屋で大笑いしながら続いた。でも、大学の別の女子生徒が、その姿を見ていた。
5話 いじめ
もう5月になり、授業にも普通に出席していた。勝己は英文科で、もちろん女子大だから女ばかり。そんなに英語は不得意じゃなかったから、なんとか過ごしていた。
「彩って、あの室井さんと一緒の部屋なんだよね。あの人、変わっていない? なんか暗いし、話しかけても、あまり答えてこないっていうか。」
「そんなことないよ。部屋では、笑って、いつも話している。」
「そうなんだ。でも、気をつけた方がいいよ。なんか、雰囲気の悪い男の人が周りにいて、気に食わないと、乱暴されるとか聞いたこともあるし。」
「本当? そんなことないと思うんだけど。」
「彩って、天然だから、気づかないだけだよ。」
その日、部屋に戻って、理恵と話した。
「今日、友達が、理恵は雰囲気の悪い男を使って、気に入らない女に乱暴しているとか、ありもしない話ししてたんだよ。ひどくない?」
「私、昔から、よく言われないし、気にしない。でも、言ってくれて、ありがとう。私、前にも言ったけど、男とはあまり近づきたくないし、女も私のこと好きって思ってくれる人少ないし、あまり人に溶け込めないんだ。だから、彩がいてくれて、本当に助かってる。」
「大丈夫、大丈夫。私は理恵のこと、信じてるから。」
(なんか、女って、本当か嘘か分からないけど、人が言ってるとか言って、噂話しするの好きだな。自分が見たとか、聞いたことないし。)
翌日、いつも付き合っているグループとは違うグループで、好きな歌手のコンサートに行くとか話していたから、入ってみた。
「ねえ、ねえ、スピリットのコンサートに行くって盛り上がっているって聞いたんだけど、私も話しに混ぜてくれない?」
「彩さんね。あの、室井さんと仲良しの。」
(あれ、なんで知っているの? もしかしたら仲のいい友達グループの誰かが広めてる? そんな裏切りみたいことするなんて、あるのかな?)
「そう、室井さんとは仲良しだけど。」
「あなたも、男使って女をいじめているの?」
「室井さん、そんなことしていないよ。それって、根も葉もない噂だって。そうそう。いつ、どこのコンサート? あ、これ、夏に横浜アリーナでというやつ?」
「ふ〜ん。」
「どうかな。みんな、行こう。」
「そうね。今日のランチ、不味くなっちゃった。」
「あれ? 行っちゃうの?」
(それ以降、このグループの子達と話しても、なんかはぶられているっていうか、なんか無視されてしまう。さらに、私は男にだらしないとか噂になっている。男なんて好きじゃないんだから全くの嘘なんだけど。なんか、女って関係が難しいな。)
「彩、なんか悪い噂流されているよ。男にだらしないって? そりゃー、男にモテるってことだよね。いいことじゃない。気にすることないよ。」
「ありがとう。」
「そのうち、誰も言わなくなるって。あのグループって、本当に柄が悪いっていうか、いずれ、みんなから相手にされなくなるね。それよりも、男友達から合コンの誘い受けたんだけど、みんな行くよね。」
「行く、行く。」
「どんな人なの?」
「それが、京王大学の3年生だって。」
「いいんじゃない。」
(男と合コン、なんかやる気出ないな。でも、断るのも、角が立つし。)
「いつのなの?」
「5/19の金曜日だって。そうそう、男にモテモテの彩も来ないと。」
「そんなんじゃないけど、5/19は行ける。メンバーに入れておいてくれる。」
「みんなも大丈夫だよね。うん。では、こちらは4人、男も4人でセットしておくね。場所は、六本木あたりだと思う。」
(なんか面倒だけど、これも付き合いだし、仕方がないか。)
第6話 合コン
合コン当日になった。学生同士なので3時からの開始だった。今日は勝己も、最近は、女の服にもなれ、喋り方も立派にマスターしていた。
「こんにちは。女性陣4人で〜す。」
「きたね〜。いや、美女ばかりだ。大学1年生だし。今日は上がるね!」
「いえいえ、どう座ればいいでしょうか?」
「あなたは、こちら。あなたは、こちら。こんな感じかな。」
「私たち、未成年ですから、お酒は飲まないですよ。」
「冷たいな。少しだったらいいよね。なれてきたら、考えてみて。」
合コンが始まった。
(なんか、こいつ、俺の胸ばかり見てるな。こんなに男って、女の体を見ているのかな。まあ、笑顔で、そうですね、そうですねと言っておけばいいんだろう。そうすれば、時間が終わって、帰れる。)
そんな形で始まったが、勝己は、横からヨイショされて、まんざらではない気分になっていた。
「彩さんって、綺麗だし、スタイルもいいし、男からいっぱい声かけられるんでしょう。こんな素敵な人っていないよね。」
「そんなことないですって。でも、そう言ってくれると、嬉しいです。」
「いや、そうだと思う。まず、飲んで。いつも、休日とか何しているの?」
「何かな。気づいてみると何もしてない。あはは。」
「そりゃ、もったいない。彩さんは、誰もが認める美人なんだから、外に出る義務があるよ。そうだ、これは憲法に定められた義務だ。なんて。」
「そんな、いい過ぎですよ。」
「いや、こんな美人、自分の彼女とか言って、周りに紹介したいな。どう?」
こんなことをずっと言われ、お酒も飲まされて、勝己はなんとなく、よく分からなくなってきていた。そして、体が熱って、なんか、横の男がカッコよく見えてきた。
(なんか、私のももをさすってくれないかな。あそこがむらむらする。まず、腰をくっつけて。酔ったふりして、腕組んで胸を押しつければ、少し興味持ってくれる? あれ、なんか、横の男、カッコいいじゃん。こんな男に抱かれたいな。あれ、俺って男なんだよな。でも、横の男が素敵に見える。なんか濡れてきちゃった。あれ。)
少し、時間も経ち、彩も酔いが回ってきた。
(やっと、私のスカートに手を入れてきた。そうか、スカートって、いつでも外から手を入れるんだ。そう、もう少し、上にきて。パンツまで、もう少し。でも、ちょっと、足くんだりして、焦らしてみよう。このスリルたまらない。でも、ここじゃ、ここまでかな。友達から、男ぐせが悪いのは本当だって言われちゃうし。)
「ねえ、彩って、ベタベタしすぎじゃない。顔が少しだけいいからって、図に乗っているんじゃない。」
「そうよね。やっぱり、男にだらしないって本当だったんだ。」
女子トイレでは、友達がこんな会話を続けていた。
「あの子、もう持ってけるね。俺と2人でこの後、みんなと別れる。お前たちはどうする。」
「みんな目星はついた。じゃあ、バイバイね。」
一方、男子トイレでは、こんな会話がされていた。
彩は、いつの間にか、タクシーに乗っていた。それから30分ぐらい経った頃、彩の酔いも覚めてきた。時間をみると夜の7時。
「あれ、ここどこですか? みんなは?」
「大丈夫。これから、僕とカラオケをするんだ。」
「そうなんですね。でも、ベットの上? あれ?」
いきなり、男が上に乗ってきた。彩ちゃん、かわいいねと言いながらキスをしてきた。
(あれ、なんか気持ちいい。抱きしめてていう感じ。彼の胸元とか、なんか憧れちゃう。どうして。でも、筋肉もすごくて、かっこいい。そう、そのがっしりとした体で抱いて。ぎゅっと私を壊して。あれ。乳首を揉んできた、だめ。いや、もっとやって。だめ、これ以上やったら、私、止められない。あれ、あそこ舐め始めた。いや、いや、感じちゃう。だめ。恥ずかしい。あそこ、ぐちょぐちょだし、くちゃくちゃ音している。)
「もう、我慢できない。お願いだから入れて。」
「わかった。燃えるな。」
(これまでおもちゃとかでやってきたけど、男の人のあそこって、こんなに気持ちいいんだ。固くてあったかい。そして、なんか敏感なところに当たって、その時に声が出ちゃう。でも、体だけじゃなくて、この人好きって、どうして思っているんだろう。この人に抱きしめられたいという気持ちが抑えられない。この硬くてたくましい体、なんかとっても魅力的。もっと来て、やめないで。私は、あなたのものだから。)
二人は落ち着いてから、彼は彩の顔の上に自分の棒を持ってきて、お願いを1つしてきた。
「彩ちゃん、お願いが1つあるんだけど、僕のここ口でやって。」
(昔と違って、目の前にあるせいか、なんかそそり立っていて立派に見える。女って、ただのひだとか穴だけで、しょぼいという感じだけど、これは固そうで、なんか強い力の象徴みたくて、かっこいい。だけど、そうはいっても、口でっていうのは?)
「それはちょっと。」
「彩ちゃんはうぶだね。でも、慣れるって。みんなやっているし、最初だけ、ちょっと気になるだけだよ。」
そう言って、彼は、口に入れてきた。
(結構、大きい。大きく口を開けて、やっとていう感じ。しかも、先っぽしか入らない。でも、男のここは、こうやって、ここを刺激すると気持ちいいだよね。)
「あ、いっちゃう。」
(え、口の中ねばねばしたもので、いっぱい。ティッシュはどこ。)
「彩ちゃん、寂しいな。そんなに驚かないでよ。飲んでほしいな。でも最初だから仕方がないか。気持ちよかった。」
彼は、いきなり立ち上がり、帰ろうとした。
「さあ、9時になったし、帰ろっか。女子大の寮って門限もあるんだろう。」
(まだ帰らないで、私を、ずっと抱きしめていて。この時間がずっと続けばいいのに。ずっと、抱きしめていて欲しい。なんか安心する。)
「もう帰るの? 寂しいな。でも、門限もあるし、また会ってくれる?」
「そうだね。今度、連絡するよ。LINE教えて。」
「わかった。」
でも、それ以降、数日経っても、彼からの連絡はなかった。また、彩は、自分の変化を感じていた。最近、女を見ても全く興奮しないのに、ついつい男に目が行ってしまい、背中がかっこいいとか、胸板がかっこいいとか、抱かれたいとか、そんなことばかり考えるような毎日となっていた。
第7話 失恋
「彩、最近、ちょっと私に冷たくない?」
「そんなことないけど、この機会だからいうけど、なんか、ちょっと、女とエッチするの、気持ち悪いって思うようになっちゃったんだよね。ごめん。理恵が嫌いとかじゃないよ。」
「そうなんだ。仕方がないね。寂しけど、別の人探すしかないな。」
「本当にごめん。」
「たぶん、初めての経験で、興味があっただけなんだよ。でも、よく聞くことだし。それとも好きな人できたの?」
「好きな人というのはまだなんだけど。」
「じゃあ、エッチはやめるけど、時々は、一緒にショッピングとか付き合ってね。」
「わかった。」
(最近は、本当に、体だけじゃなく心も女になっちゃった。女の裸とか見ても、ワクワクしないし、なんかかっこいい男がいると、目で追っちゃう。なんか、素敵な彼に優しくしてもらいたいって、気付くと想像している。男にチヤホヤされると嬉しくなっちゃう。体も、生理があるから女性ホルモンとかいっぱい出ているのかな。生理が明けると、どうしてもエッチしたくなっちゃって、寮じゃできないから、気づくと、デパートのトイレとかで、自分でやっちゃう。止められない。そんな時に、私を抱いてって、これは性依存症なの? 私のこといっぱい聞いてくれて、ぐいぐい引っ張って行ってくれて、いつも優しくしてくれる彼が欲しい。)
そんな時、合コンで出会った男と恋が始まった。彼は、落ち着いていて、大人で、どんな話しをしても、そうだね、そうだねと聞いてくれた。親がお金持ちらしくて、スポーツカーで、海辺とかに連れて行ってくれたり、おしゃれなレストランに一緒に行ったり、いつも、新しいことが経験できて、本当に好きになった。
ただ、ある時、彩は、道端で、彼が女と一緒に歩いているのを見かけた。その時、彩の目は吊り上がっていた。
(誰、あの女。少し、後をついて行ってみよう。あれ、今度は別の男と歩いている。あの女、男っていえば見境もなく近寄って、人の男を奪っていく、メス狐だわ。あんな女は彼にはふさわしくない。写真撮って、本当の姿を彼に見せつけてやる。)
「涼さん、この間、この女と一緒にいたでしょう。この人と会うのやめた方がいいわよ。この人、この写真の通り、涼さんと別れたすぐ後に別の男と一緒に歩いていたし、なんか、お水の商売している人っていう噂聞いたし。やめといた方がいい。」
「水商売っていうのは誰から聞いたの。」
「それは、誰だったかな。」
「それは違うよ。彼女は、今、仕掛けているビジネスのお客さまとして狙っている会社の社長だ。若いけど、実績もあり、しっかりとしたビジネスウーマンだ。どうして、そんなゲスなことを言うんだい。」
「あなたにふさわしくないと思ったから。」
「彩、君はそんな人だったのか? 残念だ。」
「いや、私は間違っていない。嫌いにならないで。」
「少し、距離を置いてお互いに冷静になった方がいいね。」
「待って。」
そんなやりとりの後、彼とは連絡が取れなくなってしまった。
(いつの間にか、嫌いだった女の言動そのものをしてしまっている。どうしてなの。)
第8話 再生
日は過ぎ、彩は就職活動をしていた。
「彩、どう上手く行っている?」
「難しいね。男女平等って、本当なのかな。なんか女だけ、落とされている気がするの私だけ。」
「どうだろうね。でも、頑張んないと。」
そうこうしているうちに、とりあえず、彩は、社員数は少ないがIT企業の秘書に内定をもらった。そして、入社日が訪れた。
「彩さん、君のデスクはここ。当社は小さいから、なんでもやってもらうよ。まずは、これコピーしてきて。」
「はい。」
「それから、今夜、彩さんの歓迎会だから、でてね。」
「気を遣っていただき、申し訳ありません。もちろん、参加させていただきます。」
その夜の歓迎会は、ひどいものだった。酔っ払った勢いで、彩の体を触る人もいるし、男達は脱いで全裸で踊る、そんな雰囲気だった。でも、彩は、愛想笑いしかできず、触られても、嫌と言うと、その場の雰囲気を壊すと思い、言い出せなかった。
(この会社、間違ったかな。でも、この人達以外にも社員はいるし、いい彼見つけて、すぐに辞めてしまおう。でも、結婚退社なんて、いつからそんなこと考えるようになったんだろう。女なんてめす豚で、穢らわしいとしか見えなくなっちゃった。でも、もう忘れてきたけど、私って、男だったんだよね。夢とかなかったけど、男の人に気に入られることばっかり考えて、話していても、いつも、男の人に嫌われないようにごまかして。自分で意見を言うのも忘れちゃった。ヘラヘラと愛想笑いばっかりして、本当に自分が嫌い。死んだ方が世の中のためかもね。)
(なんか、子供とかに興味ないし、これから楽しいことなんてあるんだろうか。誰かと結婚しても、家を出ることなく、旦那の奴隷になっていくのかしら。私、何もできることないし、なんのために、ここにいるの。私って、ダメな人。周りの人も、誰も幸せにできていない。理恵だって、涼さんだって、みんな私から離れて行ってしまう。それは私がダメな人だから。それでいて、いつも男の人に大事にされたいって。本当に矛盾してる。そんな資格ないのに。だめ、だめ、だめ。こんな私だから、みんな、私のこと嫌いなんだわ。私のこと思ってくれる人、1人もこの世の中にいないんだ。親も、きっと私のこと嫌いだったんだ。だから、東京の大学の寮に入れて、せいせいしていたに違いない。きっとそうだ。私は、大学でも、みんなから嫌われていた。そう、何もできないし、へつらうだけで、生きる価値がない人だから。)
そんな気分のまま、目には涙いっぱいでフラフラと横断歩道を渡っている時、突然、正面から車のライトがひかり、彩は轢かれてしまった。即死だった。
「あれ、なんか眩しい。ここ、どこだろう?」
ぼやっと周りが見えてきたが、なんか、巨大なダンボールの中のように見える。
そこに、巨大な女の子が覗いてきた。
「あれ、可愛いワンちゃんだ。お母さん、飼っていいよね?」
「あら、本当に、可愛いワンちゃん。美奈にも、そろそろ何かペットとかと思っていたから、ちょうどいいかもね。でも、捨て犬みたいだから、まずは保健所とかで調べてもらわないと。」
「ワン(これはなんなんだー)」
バットエンドは、いかがでしたでしょうか?
体に振り回される主人公をお楽しみいただけたら幸いです。
このようなテーマを、引き続き投稿していきますので、応援ください。
次回は、この話しと並行して進行する話しを投稿します。お楽しみに。