面倒くさい奴
今日は日本語学校の入学式だから一応スーツを着て行った。
慣れない格好で妙にソワソワする。
学校の近くの会場に入ると、ずらりと椅子が並んでる。
まだ早かったのか席は半分くらいだけ埋まっていた。
何語か分からない世界各国の言葉が飛び交っていて、ちょっとワクワクしてきた。受付で名前を伝えて、後ろの隅の方に座って人間観察しながら入学式が始まるのを待っていたら、先生らしき人が話しかけてきた。
「オムさん…ですよね?彼も韓国人だから仲良くしてね。」
赤い髪のチャラい男が立っていた。不思議な色の組み合わせのジャケットとゆるっとしたバルーンパンツという姿。
仲良くって幼稚園じゃあるまいし、同胞だからって誰でも仲良くなれるわけないのに。
朝から面倒くさいのばかりに絡まれる。
赤髪が日本語で「初めまして。キムジフンです。」と自己紹介したきたので、つられて日本語で「あ、どうも、オムテウです。」と返してしまった。
わずらわしいので、ここから韓国語で話した。
『韓国語で話しませんか?』
『助かります。まだ全然日本語話せなくて。』
赤髪は、俺と同い年で、大邱生まれのソウル育ち。半年ぐらい韓国の塾で日本語を勉強してきたらしい。専攻が美術と聞いて、コイツの容姿に納得できた。
話してみたら悪いやつじゃなさそうで、連絡先を交換した。
ようやく入学式が始まった。
校長先生の挨拶はどれだけ難しいかと構えて聞いたら、拍子抜けするくらい簡単な言葉で激励された。
ここで一年死ぬ気で頑張って日本語のチカラをつけよう。
入学式が終わると、その場で生活のガイダンスみたいなのが始まった。学校に遅刻するなとか、タバコをポイ捨てするなとか、怪しい宗教とかビジネスに気をつけろとか。
こんなに細かく説明されるんだなぁ、と他人事のように眺めて、横をチラ見したらジフンは寝ていた。そろそろ座り続けてケツが痛い。
そう思っていたら、ちょうどガイダンスも終わって、やっと立ち上がることができた。
帰りに学校に寄って学生証と教科書も受け取った。
大学卒業して、また勉強することになるとは…感慨深い。
結局あれだけ反対された親のスネをかじることになって、甘やかされてるよな。帰ったら両親にも電話しなきゃだな。
せめてバイトぐらいはして生活費ぐらいは稼がないといけないから、家に帰る前に銀行口座の開設に行くことにした。
ちょうど自分しか客がいなくて窓口の人につきっきりで書類の書き方を教えてもらった。机の上で勉強するのと違って、日本語で何か手続きをするのって達成感があってテンション上がる。
出来上がった通帳を見て軽く感動した。
キャッシュカードは後から郵便で届くらしい。
これでバイトもできる。
気分良く銀行を出てスマホを見たら、赤髪ジフンからメッセージが来ていた。
ジフン:助けて
イラッとした。
やっぱりアイツは面倒くさい奴なのかもしれない。