会いたかったよ
人がびっくりするとこんなに頭が真っ白になるんだ。
思い込み怖い。想像より大きな人影に無意識に後退りをして背中が駅の柱に触れ、ひぇっと声にならない声を出してしまった。
休日の昼下がり、駅前は人混みでうるさいはずなのに、時間が止まったみたいに雑音が聞こえない。
「ごめん、待った?」
ずっと会いたかった人から想像の何倍も低い声が聞こえた。
目の前にいるのは、すらりとした180を超えた背の高い男性。
ふわふわパーマの柔らかそうな黒髪、小さな顔、きれいな二重に羨ましいくらいの長いまつ毛が伸びている。女の子見たいな美しいパーツだけど鼻はゴツゴツして、どう見ても男の人だ。
腕をまくったカーディガンからほどよい筋肉が見えて、普通のジーンズも普通のスニーカーさえも全部キラキラして見える。
友だちの由依が好きなK-POPアイドルってこんな感じだった気がする。
いやいや、そもそも人違いなんじゃないのかな。
この駅で待ち合わせをする人は1人や2人じゃないから。
ぼんやりと眺めていると、オムちゃんは待ち合わせの目印にカバンにつけていた私のキーホルダーを指して、
「それ、リリちゃんのでしょう?ずっと会いたかったよ。」
そう言ってにっこりと微笑んだ。
覗き込んでくる笑顔を直視できず、思わず目をそらして、どうにか声を絞り出した。
「オムちゃん…日本人じゃないんだ…。というか女の子じゃないんだね…?」
「ん?言ってなかったっけ?韓国人だよ。」
オムちゃんは流暢だけど時々外国人っぽい抑揚でペラペラ話しかけてくる。
私だって会ったらいろいろ話したかったけど、今は頭がサーバーダウンしたみたいに何も考えられない。
満面の笑みが眩しすぎるよ、オムちゃん。
外国人なのも知らないけど、ずっとずっと女友達と思ってSNSで話していたんですけど!