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保険としての置き去り

己の罪を知れ。俺は手を前に出した。


「罪の鎖よ。大罪人を拘束しろ。」


俺がそう言うと空中から謎の魔法陣が現れ、そこから出てきた鎖がゲスルとギルドの上の連中を拘束した。これもテミスの内包するスキルの一つ、罪の鎖は対象者の犯した大罪の数だけ、対象者を拘束する鎖が現れる。こいつらを縛る鎖は一つだけだった。大罪こそあまり犯していないが、小さい罪は重ねているのだろう。実体はないがよく見ると小さい鎖が体に巻き付いている。


「これはなんだ!今すぐ拘束を解くのだ!」


こいつらまだ偉そうにしているな。ここまで来ると呆れてくるよ。


「お前らそろそろ立場を理解しろよ?今はお前らが裁かれる番だ。」


「き、貴様何を馬鹿げたことを言っている!私は貴族なんだぞ!こんな事をしてどうなるか分かっているのか⁉」


ゲスルは太ったお腹と鎖の拘束により倒れたまま、顔を真っ赤にし叫ぶ。ああやって見ると滑稽だな。豚みたいだ。


「分かってるよ、ゲスル。だけどお前の罪が裁かれなかったらの話だがな。だがその前にギルドマスターを開放する。法の理を対象エレシアに発動する。」


そして内包されている最後のスキルを発動した。使用者の正義感の元、対象者への指定した法律を無効化するスキルだ。


(何を無効化しますか。)


「冒険者ギルドのギルドマスターが強行した緊急討伐で死者が出た場合、強行した者が責任を取り縛り首になる、という法律を無効化する。」


(確認。対象への法律を無効化しました。)


よし、これでエレシアさんの安全は確保された。


「おい、そこの警備員。ギルドマスターは無実だぞ。開放しろ。」


俺は突っ立ったままの警備員に声をかけた。警備員は戸惑っていたがエレシアさんを台から下ろし、目隠しをとった。


「ナオトさん!どうやってこんな...」


エレシアさんは急に開放されているのと、お偉いさん達が拘束されているのに困惑している。エレシアさんを開放するという最初の目的は達成できた。だがそれでも俺の怒りが晴れない。もう二度とこんな事を出来ないようにしてやりたい。


「ナオトさん、一体何をするつもりなんですか?」


エレシアさんが俺の表情を見て、今から俺が何をするのか聞いてきた。考えてたことが顔に出てしまったのかな?


「法の理を裁きの目で見ている者を対象に発動する。無効化するのはあいつらの後ろ盾になっている法律全てだ。」


あいつらの権力を全て失くす。そうすれば次の被害者が生まれない。


(無効化が完了しました。)


「ナオトさん、これ以上はやめましょう。この方たちの罪も皆さんが知ったことですし、私はもう大丈夫ですから。」


何故かエレシアさんは怒っている。まだ俺の怒りは収まらないが、エレシアさんが言うのならやめよう。これ以上こいつらに何かしたら、俺をいじめてきたあいつらと同じになってしまう。俺は一旦怒りを胸の内に抑える。


「流石だな。作戦は大成功だったな。」


スアットさんは警備員から無事開放され、俺に話しかけてきた。


「だがな、あれは一体どんな魔法を使ったんだ?」


やっぱりそこは聞かれるか。スキルの事をまだ話していないしな。だけどそれは俺の手の内を明かすことになるし、もし言ってしまえばエレシアさんの無罪がスキルのまやかしだと言われてしまうかもしれない。


「それは...」


「「それは?」」


「今までの俺の人徳のおかげです‼」


我ながら上手く誤魔化せたのではないだろうか。これ以上完璧な言い訳はないだろう。

俺が自分の言い訳に満足していると、エレシアさんとスアットさんは怪しむような目で俺を見ていた。


「はぁ、これ以上追求はしませんがもう無茶な真似はしないでくださいね。それと助けていただいてありがとうございます。」


エレシアさんは俺に釘をしっかり刺した後、頭を下げてきた。


「そんな、いつも俺が迷惑かけている分のお返しですから。」


もちろん俺は遠慮する。人にここまで感謝されるのは前世を含めても初めてだったからだ。いや、前世でも合った気がするがすっかり忘れてしまっている。でもそんな細かいことは気にしないでいいか。


「そうですね、では今回の件はいつものお詫びということで受け取ります。」


エレシアさんは食い下がらずにあっさりとお詫びとして受け入れた。

俺はいつもどんだけエレシアさんに苦労させていたのだろうか。今回の件で相殺されるということは相当な苦労をさせていたのだろう。申し訳ない。


「それと、ナオトさん。一回私の事を悪だと言いましたよね?あれってどういう意味なんですか?」


「えっそれは、エレシアさんを助けるために必要なことだったので...すみませんっ‼」


エレシアさんに気迫で迫られたので、絶えきれずもちろん平謝りした。

そういえばなにか忘れている気が...しないな!


ナオトはアカネを放置していることに気がつかなかった。アカネは今回エレシアの刑が執行される予定だった闘技場に来ておらず、ナオトに用事があるから宿に行ってて、と言われ一人で先に憩いの泉に泊まっていたのであった。


結局エレシアさんの縛り首の件は穏便に収まった。俺の覚醒したスキルによってエレシアさんへの罪を被せる法律を無効化し、救い出した。そしてあの貴族とギルドの上の連中は守ってくれるような法律が無効化されたため権力を維持できずに、貴族は平民へと降格。上の連中はギルドを追放され、エレシアさんが信用できる人たちがその立場についた。


そして俺はすっかりアカネの事を忘れていることを思い出した。

急いで宿に行くとアカネがまたデロデロに酔っていた。


「にゃおと〜。おしょいよ〜(ナオトー。遅いよー。)」


「なんでまた酔ってるんだよぉぉぉ‼」


俺はまたアカネの対応に困るのだった。


次の日、お腹に走った強い衝撃によって目覚めた。やっぱり、アカネを酔わせたら駄目だな。次からは宿側にお酒の類を渡さないようにお願いしよう。


俺とアカネはアカネの防具が出来たとデモンさんから連絡が来たので、鍛冶屋に向かった。俺はまだお腹が痛くて声を出したくない。


「よく来たな。お嬢ちゃんの防具はこっちだ。」


「は〜い!」


アカネの機嫌がやけにいい。ここまで機嫌が良いとなぜか怖くなってくる。


「じゃーん、どう?」


アカネの防具はすべて薄い朱色をして、俺と同じく必要最低限の防具しかなかった。だが見た所俺の防具よりも遥かに性能が良さそうである。


「綺麗な色をしているしアカネに似合ってて良いんじゃない。」


俺はどうやら正しい返しが出来たらしい。アカネの機嫌が更に良くなった。


「フフ、そうでしょ?この防具も効果がすごいんだよ。なんと、全魔法耐性が付いているんだよっ‼すごくない⁉すごいよね!ずるいでしょ〜。」


「はいはい、よかったな。」


アカネの機嫌がいいのは良いことだが、ここまで来ると言葉を返すのが面倒くさくなってくるな。俺は年齢=彼女いない歴だったけれど、彼女が出来た男ってみんなこんな感じなのかな?

そしてどうやら俺は返し方を間違ったらしい。アカネが不満そうな顔で俺を見てくる。


「本当にそう思ってるの?」


「もちろんだとも。俺が嘘を言ってるように見えるのか?」


「嘘を言ってるようには見えないけど、面倒くさいって顔をしてる。」


俺の考えてることは全部アカネにバレてるようだった。アカネが殺気立ってきてしまっている。謝らないとだめなパターンだな。


「ところでだな、お前さん。昨日は大変だったらしいじゃないか?」


デモンさん、ナイス助け舟!デモンさんが話題を変えてくれたおかげで、アカネの気がそちらにそれた。


「昨日は大変って、私を仲間はずれにして何かやってたの⁉」


おっと、別の地雷を踏み抜いてしまったみたいだ。俺はアカネに睨まれてしまい逃げ道が無くなってしまった。また話題を変えるのは不自然だし、アカネも二度目は引っかからないだろう。


「あ〜、実は昨日エレシアさんの縛り首の話があっただろ?」


俺がそう話を切り出した。だがアカネはエレシアさんの縛り首の話を初耳というような顔で聞いていた。まさか人の話を聞いてなかったのか?縛り首の話はアカネも一緒に聞いたから知ってるはずだけど。


「まあいい。昨日その件で俺とスアットさんが動いていたんだよ。」


「それでギルドマスターを助けれたと。一体どうやったんじゃ?」


デモンさんにそう聞かれた。やっぱりみんなそれを聞くよなぁ。


「まぁ俺の人徳のおかげですね。」


すごい胡散臭そうな目で見られた。俺はそんなに人徳が無いように見えるのだろうか。

そこから俺は起きたことをスキルの事を伏せて、デモンさんとアカネに話した。今思え返せば俺の言動は完璧に黒歴史になるレベルで恥ずかしいものばかりだった。だが、そこはエレシアさんを助けたので目を瞑る。


「「いい度胸してるな(ね)。」」


なぜかそう言われた。


「普通貴族に喧嘩を売るやつは愚か者か英雄しかおらん。つまりお前さんは愚か者だったということか。」


「つまりじゃないだろ。いつもう片方の選択肢が消えた。俺が万が一にも英雄かも知れないだろ?」


「「・・・」」


アカネとデモンさんが急に黙った。流石に泣けてきた。


「まぁアカネを呼ばなかったのは、もしもの可能性があるからだ。もし救出が失敗してエレシアさんが死んじゃって、俺らが捕まった時に誰が助けるんだ?」


「いや、失敗する前提だったんだ。しかも私に助けてもらうつもりなんだね?」


「俺はエレシアさんに命を救ってもらったわけでもないし、義理もないからな。それで失敗して俺も縛り首とかになったら困る。」


「それは最低すぎ。見損なった。」


「俺にはプライドがないからな。名誉さえ貰えれば大丈夫だ。欲を言えばお金も欲しい。」


名誉だけがあっても、生きていけないからな。そして名誉があれば何でもできる、とまではいかなくてもある程度の言動は他人から甘く見られるに違いない。

ところでだがアカネの視線が痛い。俺は助けを求めるようにデモンさんを見た。


「お嬢ちゃん、新しい防具を手に入れたんだから小さな依頼でも受けてみたらどうだ?」


「そうかも。ねえナオト、気になることがあるからある場所に一緒に行ってくれる?」


「もちろんいいけど、何が気になってるんだ?」


なぜかアカネはその問いに答えてくれなかった。俺は仕方なくアカネの後をついていった。

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