不本意だけど悪人を裁く
エレシアさんが縛り首に?なんでだ?
「どうしてですか?」
俺がそう聞くとスアットさんは少し腰をかがめて俺に話した。
「大きな声では言えねえが上の責任を押し付けられたらしい。昨日の緊急討伐で貴族の死者が出ただろう?それが貴族の耳にもう届いてしまって、ギルドの責任問題だって騒いでいたらしい。それで上が緊急討伐はギルドマスターが強行したことにしてしまって、その責任でギルドマスターが縛り首になってしまうんだよ。」
「そんなことなんで誰も文句を言わないんですか⁉」
「みんな上が怖くて何も出来ないんだ。冒険者ギルドが続けれるのも上の意向だしな。上の考え次第で冒険者制度はいつでも廃止にできるんだ。それに貴族が絡んでる案件だからな。誰も何も言えないんだよ。」
そんな...こんな理不尽なことあってたまるかよ。どの世界でも権力を持ってるやつは法で裁かれないで、違うやつが裁かれるって何のための法だよ‼
俺は上の奴らへの怒りで燃える。だが怒ったところで俺らがなにかできるわけでもない。
法律...あっ!
俺はその時、頭であることをひらめいた。
「スアットさん。エレシアさんが打首っていうのはそういう法律があるからなんですか?」
「んっ?あぁ。ギルドマスターが強行した緊急討伐で死者が出た場合、強行した者が責任を取り縛り首になるっていう冒険者ギルド独自の法律がな。今回ギルドマスターが強行したわけじゃなく、上の奴らが強行したから普通は上の奴らが責任を負わされるんだがな。」
「説明いただき、ありがとうございます。」
「どうした兄ちゃん。ギルドマスターが危ないっていうのにやけに丁寧だな。」
スアットさんはやり場のない怒りをぶつける先がない。そのため今、冷静な俺にぶつけようとしている。
だが俺もエレシアさんを見捨てる気はない。
「スアットさん、エレシアさんの刑はいつ執行されるんですか?」
「なんでそんなことを知りたがる?兄ちゃんはギルドマスターへの恨みがあるのか?生憎だが俺はギルドマスターには恩があるからな。ギルドマスターを笑いに行きたければ」
「違います。俺はエレシアさん、ギルドマスターを助けに行くんです。なので教えて下さい。」
俺はスアットさんが言い切る前に話を遮った。今争っても何も生まれない。俺はエレシアさんと深い関係があるわけではない。だが無実の人が死ぬのは防ぎたい。
「分かった。兄ちゃんにはなにか考えがあるんだな。ギルドマスターの刑は昼過ぎに執行されるらしい。刑は貴族側の要望により公開してやるそうだ。本当にギルドマスターを助けられるんだな?」
「私も話に入れてよ。」
「今忙しいから明日な。」
アカネが途中で話に入ってきたが気にしない。今は最優先でエレシアさんを救い出すのが重要だ。
エレシアさんの刑が執行される場所は、この前アカネとエレシアさんが戦っていた闘技場だった。確かに見せしめにも人が集まるのにもいい場所だ。
俺たちはそのまま昼過ぎまで待った。この作戦が失敗したらエレシアさんは死ぬだろう。
そしていよいよ刑が執行される時になった。エレシアさんが全身黒色の服の奴らに、闘技場の真ん中へと連れてこられていた。エレシアさんは目隠しをされている。そして高い台の上に登らされた。闘技場の観客席の上に高価そうな服を来たおじさんたちがいる。恐らくあれがギルドの上の奴らだろう。
「これより、貴族を殺した大罪人。エレシアの刑を執行する!」
「それはさせない。ファイアランス。」
エレシアさんが首に縄をかけられる前に魔法で縄を焼ききった。
「誰だ!刑の執行を邪魔する気か⁉」
「あぁ、そうだよ!」
エレシアさんを連れてきた奴らの中の一人が叫んだがどうでもいい。俺は闘技場の中へと降り、周りにいる奴らは無視してエレシアさんの前へと歩いた。そして作戦を実行する。
「俺の目の前にいるエレシアは悪だ。スキル、法律を無効化しろ。」
俺がそう言うと周りの奴らが驚いたように固まった。
そして久しぶりに聞く声が俺の頭に響いた。
(条件を満たしていないため、スキル【法律貫通】が発動されませんでした。)
ここでこれが失敗したら俺らも全員捕まってしまう!今、ギルドの上の連中はスアットさんにお願いして足止めしてもらっている。ここで失敗するわけにはいかないんだ!
「なんでだ!はっきり悪だと認めたぞっ⁉」
周りの奴らが何やら話している。なにか手を打たれる前に早くっ‼
(それはあなたがまだ心から対象を悪と認めてないからです。)
「なっ⁉」
確かに俺はエレシアさんのことを心の底から悪だとは思えない。だけど今だけはスキルを発動してくれ‼偽善でもなんでもいい、名誉も今だけはいらない!このままだとエレシアさんが権力を持っている奴らにイジメられることに‼
(...)
だったらいい。こうなったらここにいる奴ら全員を口封じに消せばいい。
俺が闇堕ちをしかけたその時、またあの声が響いた。
(スキル【法律貫通】の覚醒条件を満たしました。スキル【法律貫通】を覚醒します。)
はっ?覚醒?条件?一瞬頭の思考が停止した。
「おい、それってどういうことだ?」
(詳しくはステータスをご確認ください。)
いちいち手間取らすな。今は急いでるんだ。ほら周りの奴らだって闘技場の外へと行ってしまったじゃないか。これは援軍を呼ばれそうだな。まぁいい、全員を始末するよりは少しの賭けをしたほうが楽だしな。
「ステータス表示だ。」
そして
『<ステータス>
マサノ ナオト
HP 100/100
パワー 213
ディフェンス 284
スピード 206
<スキル>
基礎能力上昇Ⅱ
基礎能力が上昇する。
上昇値:10 』
ステータスが相当上がっているが今は気にしない!それよりいちばん大事なのはっ‼
『・・・
法の正義
このスキルは以下のスキルを内包している。
✗✗✗〜✗✗✗
等倍反射
自身への攻撃・魔法を2倍にして跳ね返す。
自身への攻撃とは殺傷能力のある武器で攻撃された場合のことである。
相手が武器を持っていない場合は攻撃とみなさない。
<所持装備>
森羅万象のガントレット
パワー上昇Ⅴ
装備中パワーのステータスが上昇する。
効果値:25
森羅万象
火・雷・水の属性を持つ魔法が使える。
火と雷の魔法は同時発動が可能。
魔力循環
魔石から魔力を生み出し続ける。
使われていない魔力はガントレットに巡らせ、自動修復される。 』
見つけた。テミス、法の女神の名を冠するスキルということは...
俺はスキルの効果をしっかり確認をした。ここまで来て抜けがあったら困る。
そしてスキルの効果を全て確認した俺は笑みを浮かべる。まさに今の状況にぴったりなスキルだな。
おっと、さっきの奴らが援軍を連れてきたみたいだな。
「あなたは誰ですか?無駄なことはやめたほうがいいですよ。あなたも罪を負ってしまいますよ。」
エレシアさんが俺に話す。こんな時も他人を気遣うのか。その優しさ、尚更助けたくなるな。
「お前ら!よく聞け、お前ら!分かってるやつもいるだろうが、ギルドマスターを縛り首にするのは間違っている!ギルドマスターは討伐を強行なんてさせていない。させたのは全部冒険者ギルドの上の奴らだ!」
「ふざけるな!嘘を吐くな!どこにそんな証拠がある⁉」
おっとスアットさんが抑えていたが、スアットさんは捕まってしまったらしい。上の連中が声を荒らげた。大丈夫だ。スアットさんもすぐに助ける。そのためにはこいつらの罪を暴かないとな。
「今ここで証明する、上の奴らの大罪をな‼」
「私達に罪などあるわけないだろう!警備員そいつも捕まえろ!」
まだしらを切るつもりか。
「だったら息子の責任は誰が取るんだ!」
おっと俺が死んだ貴族の親か。余計な者が入ってきたな。この際まとめてどうにかしてやる。
「裁きの目...」
ナオトの目が赤く輝く。
テミスの中に内包されているうちの効果の一つを使った。
これは対象者が犯した大罪を使用者だけに見えるようにする。まずは上の連中の罪だ。奴らは己の罪を他人に押し付けたという罪だ。これは予想していた。だが問題は貴族の方だった。
ゲスル・ラベール«己の子供を用済みと称し死の危険がある討伐に無理やり行かせた。»
なるほど。あいつ責任をとれと言ってる割には自分から行かせてたのか。クズすぎる。
「上の連中、お前らの罪は己の罪をギルドマスターに押し付けたことだ。そしてそこの貴族、ゲスル・ラベール。」
「なっなんで私の名前を知っているのだ!気安く呼ぶでない‼」
「黙れ。お前は責任をとれと言ってる割には子供を討伐に無理やり行かせただろ。」
「なぜそのことを...お前らが喋ったか⁉」
ゲスルは後ろの従者らしき人たちの事を睨んだが、従者は首を横に振った。
「お前!」
上の連中は闘技場の中に下り俺に掴みかかろうとする。だがそんなことはさせない。
己の罪を知れ。




