想いは全てを凌駕する。
少年は夢をみた。伝説の英雄クラウスの物語。その一振りは山を裂き、その歩は大地を揺らし、その眼差しはあらゆる魔獣をも屈服させてしまう。そうこれは架空の人物。だが少年クランは憧れ、いつか自分も英雄クラウスみたいになりたいと強く想うのであった。
「すげぇ……!」
少年の口から思わず声が出る。
「ん? なんだ坊主?」
「おっちゃん冒険者? 俺も強くなりたいんだ! どうしたら強くなれるの!?」
「あー……」
冒険者は少し困ったような表情を浮かべたあと、にかっと笑った。
「そうだなぁ……坊主みたいなガキには、まず大事なもんがあるぞ」
「大事なもの?」
「おうよ。それを守りたいと思えば思うほど、強くなるってことよ」
「守りたいと思うほど……なんかよくわからないな!まぁいいや ありがとう!」
少年はそう言うと、駆け足でその場から立ち去っていった。
「あの子もいつか冒険者になるのかねぇ……」
少年を見送ったあと、男はひとり呟きながら、酒を一杯呑んでいた。
一方村内では
ギル「ここだ!」
ローン「うわぁ〜、大きい家ですね〜」
クリス「すごいですぅ……」
三人の冒険者が、とある大きな家の前に来ていた。
そこは、かつて貴族が住んでいたと噂される場所だった。
今は誰も住んでおらず、廃墟となっているのだが、若い冒険者たちの間では、一種の肝試し名所になっていた。
ギル「さっそく入ろうぜ!」
ローン「ちょっと待ってくださいよぉ」
クリス「楽しみだね!」
ギルが、意気揚々と玄関を開ける。
ギィイイ……という音とともに扉が開かれた。
中に入ると、埃っぽい臭いが鼻をつく。
しかし、そんなことは気にせず、彼らは中へと進む。
そのまま二階へ上がり、部屋のドアを開く。
そこには、ベッドや机など、当時の生活を思わせる家具が置かれていた。
ギル「おお〜、なんかワクワクするぜ」
ローン「本当にここで暮らしてたんですかねぇ」
クリス「お宝ないかな〜!」
彼らはそれぞれ部屋を見て回り始める。
すると、ある部屋にたどり着いた時、ローンが目を見開いた。
「こ、これは……!」
ローンの視線の先には、一枚の肖像画がかけられていた。
そこに描かれていたのは、一人の少女。
ギル「どしたローン?」
ローン「この肖像画?…………」
クリス「え? どれどれ?」
他の二人も覗き込むように肖像画を見る。
すると次元の歪みのような現象が起き、肖像画に吸い込まれそうになった。。
ギル「この手を離すな!?」
ローン【絶対離しません〜ん。早く助けて下さい】
クリス【紐見つけてきた。これで縛る】
間一髪、抜け出せた三人はこの出来事を報告するため、村長に会いに行ったのである。
「ま、まさか、この絵が人食いだったとはな。……」
「とりあえず村長さんに聞いてみましょうかぁ」
「そうだな……」
彼らは一旦外に出ることにした。
そして、村長の家へと向かった。
「ああ、あれかい? 昔、この村に旅人が来てねぇ。貴族の方から大変気に入られて、その時に描いたと聞いたかな。旅の道中様々な経験をしたらしく、その知識を村に教えてくれたのもその旅の方で今では本当に感謝しているよぬ。」
三人の冒険者たちは、村長の話を聞いている。
「それで、その人はとても優しい人でね、魔物に襲われている村人がいると聞いてすっ飛んで助けに行ってねぇ。ただその魔物が強くてね!後から聞けば天災に匹敵するかもとまで言われた位に強かったみたいだね。
【村長ありがとう。貴重な話が聞けて楽しかった】
ホッホッホッ若い冒険者はいいのぅ〜!
彼らは、宿に戻ってからも、ずっと話し合っていた。
「きっと俺たちが知らないところで、何かが起きてる。あのたぬきじぃさん間違いなく重要な事を言っていない。ただ今深追いすれば問題が見えにくくなりかねない。ここは冷静に様子見でいこう」
ローン【わかった】
クリス【了解ですぅ】
一方その頃、クランは修業をしていた。
「おう、坊主。く一人で稽古か?」
クラン「もちろん!俺は強くなりたいから」
「そうか、そりゃ大層なこった。頑張れよ。して強さを求めて何をする」
クランは強くなりたい事情を説明した。
「なるほど、お前さんの故郷はこの村の近くだったのか……。そして魔物の集団に襲われ命さながらこの村に来たのか……」
クラン「魔物は全て駆逐する………」
「その言葉と同時にクランの覚悟が一瞬その場にいるあらゆる生命に対し危機を知らしめていた。よし、わかった。俺が手伝ってやる」
「えっ!?」
「武器の使い方を教えてやる。その変わり俺は厳しいからな」
クラン「本当に! よろしくお願いします!」
クランは深く頭を下げた。
「任せな。とりあえず、この村の近くの森に行ってみよう」
クラン「はい!」
クランと男は村を出て、森の中に入った。
しばらく歩くと、ゴブリンに遭遇した。
「さて、まずは俺が戦うから見ててくれ」
そう言うと、男は腰に差していた剣を抜き放った。
そして、そのまま一気に駆け出した。
「はあっ!」
気合とともに振り下ろされた刃は、見事にゴブリンの頭部に命中した。
ギャアアッ!! という悲鳴を上げ、倒れ伏すゴブリン。
「ふぅ……、終わったな」
クラン「すごい! あんなに強かったなんて……」
「まぁな。これでもAランクの冒険者だからよ」
クラン「えぇ!? Aランク!!そんなに高いんですか!?」
「はは。ランクはあくまでランクだ。戦いは相性。相手がこっちにとって部が悪ければ、逃げる事もしなければならない。それが出来なければ冒険者はやらないほうがいい。
クラン「へぇ〜……」
「ほれ、次行くぞ」
クラン「はい!」
その後、様々な種類の魔物と戦った。
時には戦い方を教えてもらったり、アドバイスを受けたりした。野営をする時の注意点や勉強になることばかりだった。
おかげで、戦闘に関してはかなり強くなれたと思う。
あれから2年
「まぁ、今日はこんくらいやれば十分だろう」
クラン「はい!ありがとうございました!」
「いいってことよ。んじゃあ帰るか」
クラン「はい!……ところで、あの二人は?」
「ん? ああ、あいつらか。気にするな。それとクラン。もう教える事は何もない。今のクランに勝てる魔物はそうはいないだろう。今日をもって修業は終わりだ。これからは冒険者として自分の目で見て、感じて、考えて出した答えに突き進め。周りに合わせるな。確たる心はあらゆる力を凌駕する。」
【今まで楽しかったよ。ありがとな】
そう言って名も知らない師匠は、簡単な別れの言葉を残して現れた二人と共に消え去って行った。
あれから1ヶ月
剣豪シルバー・ウール、帝都聖騎士反逆の罪で死刑となった。
そうシルバー・ウールとは俺に剣を教えてくれた師匠だ。
俺は事実を知りたい。もし師匠が罪なき事ならこの理不尽を壊したい。
確たる心は凌駕する。師匠、俺は帝都ガラバスに行きます。