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短編集

死神

作者: 佐々木 龍

 あるところに、みじめな子供がいました。彼の名前は「ジョイ(喜び)」。名前の通りの人生だったらこの少年はきっと、死神を見ることは無かったのかもしれません。


 ジョイが()っつの時の、冬の夜の事です。ジョイは寒さと空腹で眠れないので、仕方なく、くたびれた毛布を体に巻き付けてじっと耐えていたのです。隣の部屋から、酔いつぶれた父親の大いびきが聞こえてきます。

 こういう時の、ジョイの気持ちといったらどんなものかというと……おやじがこのまま朝まで目を覚まさなければいいのに。だけどあんなに大酒かっ食らって、きっと夜中に目が覚めて、おれを起こすに違いない。「水を汲みに行け」って。そうしたらおれは素早く飛び起きて、おれを起こそうとするおやじのげんこつから逃げるんだ……ジョイはそんな事を考えながら、いつのまにか眠ってしまったのでした。


***


「子供よ、目覚めなさい」


 女性の声で目覚めたジョイは、目の前に真っ白い服を着た天使がいるのを見て、驚きひれ伏しました。


「ジョイよ、あなたはまだ小さな子供だというのに、ずいぶんと苦労していますね。そんなあなたは明日の朝、苦しみから解放されるのです」


 天使はそう言って、ジョイを慰めたのでした。

 ジョイは天使の言葉を聞き、やっと苦しみから解放されるのだと思い、涙を流しました。家に帰ってこない母親はきっと帰ってくるし、世話の焼ける赤ん坊の妹はすぐに大人になるんだ。そして酔っ払いのおやじは、酒を飲んで暴れるのをやめてくれる。そうしたらまた以前のように、楽しく生活できる。


「ありがとうございます、天使様」


 ジョイは天使にお礼を言いました。すると天使は人差し指をジョイに突き付けて、こう言いました。


「明日の朝、願いは叶うからね」


 ジョイは朝まで待てないと思いながらいつのまにか、眠ってしまったのでした。

 そして翌朝。ジョイは寝床で、冷たくなっていました。


***


「死神さん、何で天使になんか変装したんですか。ジョイ君はすっかり騙されて喜んで、見ていて何だか気の毒でした」


 新米死神秘書のグレースが、死神のした事に対し棘のある声で批判をしています。すると死神は


「彼が望む姿で現れた方が、彼が喜ぶと思ったんだよ。他に理由があるのかい」


 そう言って、紙巻煙草(かみまきたばこ)に火を点け、ふっふっと吸い口を吹いて煙をモクモクさせてから、煙を口の中に溜めて、ポッポっと煙で輪っかを作って遊び始めたのでした。そうして死神は、煙草の臭いを嫌がるグレースを、部屋から追い出したのでした。


「かわいそうな人間には、夢を与えてやらなきゃな。それが、俺たちデーモン族の仕事というものだ」


 死神の応接室の中央にある、豪奢(ごうしゃ)絨毯(じゅうたん)に寝そべる猫だけが、死神の呟きを聞いたのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 深いイイ、面白いイイ! [一言] 今日は暮伊豆さんのTwitterより参りました(^w^)
[一言] 天使と悪魔は紙一重なのですね……。
[良い点] ありですね! その先生きててもロクなことないですもんね! [一言] 死神とは死んだ魂が迷わず神のもとへ行けるよう案内する存在だと聞いたことがあります。 アフターサービスに期待ですね!
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