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M.T  作者: K.dameo
3/6

2:天才は馬鹿であり、馬鹿は馬鹿である。


「あぁー……やばいな」


これは、非常事態だ。ほんとに。


「やべえってなにがでぇ?」


早朝、なんだか霧が出てる山の中、熾した焚き火で、どっから獲ってきたのか分からない緑色の、なんか、名づけるならゴブリンって感じの魚を焼いているジロさんが、俺の独り言を拾ってきやがった。


「お前」


「ああん!? んだってそりゃぁ、おい!!」


朝からテンション高いアルマジロだなぁ……うざ。


「いやっ、ていうかさ! ジロさんやめてそれっ。なんか、ものっそい臭い!」


なんとか丸まって、まだ一眠りしようとしてたゴリラが堪り兼ねた様に起き上がるとそんなことを言う。


「確かに、臭いよなぁ……なんか肥料燃やしてるみたいななー……」


まあ、今の俺はそうと分かっていながらもどうでもいいくらい、憂鬱だ。


「おまっ、ゴリラてめぇっ! 人がせっかく朝食作ってやろうとしてんのにぃぃぃ……臭いってぇぇええええ死ねぇえええええええ!!」


ジロさんはいい感じに焼き上がってる緑のゴブリンをゴリラへぶん投げる。



「うぉあっつぁああああああい! やめろやぁあああああああ!!」



目の前を何度か高速で横切るゴブリン。


その都度上がるゴリラの悲鳴。


ジロさんの怒号。



「あー……うるさっ、くっさっ……」



ほんと、どうしようか……。


























――一時間後。





「ああんっ!? なんだってぇ!? ほんとけぇ、そりゃぁ!!」



意外と食ってみたら美味かったゴブリンを三人で狂ったように食べ終わり、俺は意を決して、ゴリラとジロさんへ今の危機的現状を語っていた。



「ああ。マジだ。ほんとに旅の資金残り千円も無いぞ」


「うせやろ? ちょ、これからどうするん?」


「わからん。飯も食えんくなるし、疲れてもひたすら歩きなるし、死ぬな、どっかで」


家を半ば追い出されるように旅出された身で、しかも、じじいが金をくれたっつってもたった5千円だったし、終わりが見えん旅で1万でも少ないだろうに、5千円とかそもそも底が見えていたんだこのクソみたいな鬼退治。



「え、じゃあ、なに? この先ずっと鼻くそ(きび団子)とゴブリン?」



「そうなる」



「まあ、ええけど」



ええんかいやっ……。



「ゴブリン美味いしな」



「いや、ゴリラ。移動するし、この先川無くなったらゴブリンも無くなるぞ? 鼻くそだけや」



「いやや。あかん」



即答で折れたぞ、こいつ……。



「つぁ~ノーゴブリンけぇ……。じゃぁ、どうすんでぇ、これからよぉ」



金じゃなくて、ゴブリン食えなくなるのが辛いみたいになってきてるな。なんだこれ。




「働く……しかないな」



いや、ええんやで。働くのは。



ほんま、ええんやで……。




「だっる、死ぬ? ここらで死んどく?」



「いや、なに言うてんねん。自分で言うたのに諦めんの早すぎやろっ、あほっ」



「そうだぜぇ、モモ太郎ぃ。おめぇはあれけぇ……なんつったっけ……? あの、みーと? いんやぁ、みゅーと? いや、ちげぇ、あのあれ……そうでぇ! ヌード!!!!」



森の中にジロさんのヌードがこだまし、あまりの大きな声に驚いた、人化していない小鳥たちが慌てふためき泣き声と共に飛び交う音が混ざり始める。



「……ニートやろ。……死ねや、うるさい……」


溜め息を吐くゴリラ。


「あ? ニュートン? 万有引力けぇ?」


知識があるのか無いのか、分からないアルマジロ。



“ぶふぅ~……ぷっぷぷっ………”


「おっ……おおっ……」


自分の意思と関係無く、己のケツから屁が出て驚く俺。



「くっさっ! なんか濃いっ! まじくっさ!!――――ちょっと、ウンコ行ってくるわ」


人の屁で、急に催すゴリラ。


「ふっ……さてはあれだねぁ。あいつぁ、腹壊してびーばっぱぱらっぽだなぁ」


汚い推理をするアルマジロ。


“ぷっ………ぷぷっ……ぶふぅ~………ぶちっ……!”


「な、なんやのっ……ぶちってっ、物騒なっ……」


際どい音がして己の尻に驚きと若干の叱りの念を込める俺。






果たして、こんな三人を雇ってくれるところなんかあるのだろうか……?









いや、あるはずねえだろ……。ふざけんな。俺は漏らしてはいない。




























――二時間後。




「おっしゃ、じゃあ、いくぜぇっ」



「おうよっ」



「任せろっ」



悩んだ末にやっぱ働くことにした俺たち三人はまず履歴書が無くては始まらん。

そして、履歴書だけあっても始まらん、写真がねえとってことで、なけなしの金で履歴書を入手後、今度は証明写真を撮りに来ていた。


ただ、二つ問題があり、一つ目、それは証明写真は意外と高いって事だ。


そして、もう一つ目は、一回分つまり、一人分しか金が無いということだった。


だから、考えた末、三人で証明写真機の中に入っている。



考えた作戦はこうだ。



名づけて『ちゆぅちゆぅとれーいん作戦大作戦めんでぃー』



説明しよう。



まず、椅子の上にジロさんが立ち、そしてその後ろに俺、で、一番後ろは小さいくせに妙にかさ張るゴリラの並びで立つ。


そして、案内に従いジロさんが操作していき、さあ、写真撮影というところで、まずジロさんがセンターで最初に写る。そして、もう一度撮影を押し、次は俺がセンターで写り、同様にもう一度撮影を押しゴリラが中心に写る。



これで、三人で取れるはずだ。俺達って頭良過ぎて困る。マジで。



“撮影を開始します”


「おっしゃ、こいってんでぇ!」


“カシャッ!”


「うれぇぃってんでぇ?」


一発目の撮影、ジロさんはこれでもかと言うくらいの決め顔。


「おっしぇぇぇーい!」


ハイタッチする俺達。



“これでよろしいですか?”



「ばかやろぅぃ! もう一度でぇっ!」



ぽちっとボタンを押すジロさん。


お次は俺だっ!



“もう一度撮影します。3、2、1……”



「いぇえええええええええええ!!」



これでもかと身体を反らし写ってやる俺。



「っしぇええええーーぃ!」



ハイタッチする俺達。



“これでよろしいですか?”



「うるせぇってんでぇ!」



ポチっとボタンを押すジロさん。



“もう一度撮影します。3、2、1……”



「おっし……むんっ」


どこぞの有名カレー店のマークのように、顔にこれでもかと影を作り写るゴリラ。

何故か白黒だけど、かなりイカしてやがるぜ。黄色のTシャツにでっかくプリントしたいくらいだ。


「っしぇえええええええい!」


“これでよろ――”


「黙れってんでぇ! ったくよーう!」


“これで、やり直しは最後になりま――”


「わかってるっつってんだろうげぇ! ひゃははははっはー!」



最後だ。これぞ、フィナーレ。



作戦名にあるとおり、俺達はジロさんから順に俺、ゴリラと、テンポをずらし、身体をメリーゴーランドの様に回しちゆぅちゆぅとれーいんする。


因みに、メリーゴーランドじゃくて正式名メリーゴーラウンドって事は知ってる。



なんてったって、俺達は天才だから。




「いぇえええええええい!」



ハイタッチして、まず最初の仕事を終えた俺たちだった。




























――2時間後。





「そうかぁ……馬鹿だったんだな、俺達」


「ほんまやなぁ……なんであんなテンション上がったんやろ……」


「もしかすっとよぉ……ゴブリンに幻覚作用でもあったんじゃねぇけぇ……」



三人揃ってブルーシートへ寝転がり、木々の間から覗く空を見上げていた。



足元には買ってから開けていない新品の履歴書と三人がぶれまくってよく分からないカオスな証明写真が切り取られもせず転がっている。



「終わったなぁ~……」


「やなぁ……」


「だなぁ……」


本日も快晴なり。

馬鹿が三人人知れず飢えで死んだとしても、何事も無かったように日々は続いていくんだ。



「これだったら、キンジロウに殺されて方がまだ、有意義だったかもなぁ……」


「そっちの方がまだ意味あったやろな……多分」


「名誉の戦死みてぇえな感じだけぇな~……」



無駄に金無くなって終わったったでぇ……。



「とりあえずさ……書く?」


ゴリラはそう問い起き上がると、早速、履歴書を開封し始める。


「いや、思ったんだが……写真以外にも問題あるんじゃないか?」


同じように起き上がり言うと、ゴリラが「問題?」と問うてくる。


「ああ。まず、お前らの住所」


俺はじじいの家の住所とか書いとけばなんとかなりそうだが、ゴリラやジロさんはそもそも家が無い。


家が無いって、どう過ごしてたんだと思うが、どうやら俺と会うまでは、その日、その時、その場所で気の向くままに過ごし、各地を転々としていたらしく、その時出会った人の手伝いやらで報酬を得たことはあったらしいが、就職はもちろん、アルバイトでさえ、ちゃんと身を置いて働いたことは無いらしい。



だもんで、住民票すらあるのかすら分からない。

というか多分、ないだろう。ゴリラとアルマジロだし。


「ああ……そうか、住所の欄あるな確かに……」


ゴリラは手に持った履歴書に視線を落とし、気分も落とす。


「ああん? そんなもん、『近くの森』って書いとけぇ」


「いや、どこやねんそれってなるやん……」


「なるけぇそんなもん。今なんて俺っちたちアニモォ達だってそこらのコンビニでバイトしてたりすんだぜぇ? もちろん、家なんてねえ奴らもいらぁ」


「それは確かにそうかもやけどさ……つうか、アニモォってなに? もしかして、アニマルって言ってる?」



ったく、しょうがないな……こいつらは。




「わかったよ。ここは――この中では一番面接に通りやすい俺が、お前らの為にも働いて、旅の資金を作ってやるよ―――」



「え、まじでっ、モモ太郎……?」



「本気けぇ? おめぇさんよぉ……」



「……なんて、そんなこと絶対言わねえからなぁ、俺。クソだりぃしさ。ああー、ほんとどうするぅ?」



仕事なんか嫌いだ。



俺がしたいのは仕事じゃない。



『仕事じゃないよこれは。趣味さ』


なんて言えるような、好きだからやってて、尚且つ、報酬もらえるような、仕事って意識ないワークがしたいんだ。



「うわぁー死ねぇ、お前。少し尊敬しそうになった気持ち返せ、マジで」


「ほんとだぜぇ、まったく、クソがよぉ」


「うるせえ、ばか、ばぁーーかっ。勝手にちょっと期待してんじゃねえよ、このおんぶに抱っこ共がっ」


仲間の為とか言って一人で全て背負うとか絶対やだからな、俺。

そんなのは、よそのくさい奴等が寄り集まったくさい物語の中だけでやってろってんだ。馬鹿がっ。


「はぁーぁだぜぇ、ったくよぉ……」


ジロさんは心底失望したとばかりに俯き加減で首を振り、傍らに置いてあった腹巻を掴んで立ち上がると、ブルーシートをメシメシいわせながら歩き出す。


「どこ行くん、ジロさん」


ゴリラが問うと、ジロさんは歩を止めず言う。


「こうなりゃ、俺っちがなんとかしてやらぁ。ちぃっとまっとけぇ」




去り方はなんかかっこよくも見えたが、あいつは初対面で既にどこぞの誰かのパンツを被っていた変態アルマジロであり、正直、言われた通りに素直に待っておくのは俺もゴリラも物凄い不安だった。


























そして、30分後。





奴は戻ってきた。


「いやぁ~っ。やってやったぜぇ」


なんだかご機嫌という感じなのと「やってやった」という言葉。



「なにをだ……。やめてくれよ、ほんとに」



「大量にパンツ盗んできただけとかちゃうやろな……。刑務所入れるから大丈夫とか絶対嫌やからな」



それはそれはもう、俺とゴリラには不安でしかなかった。



だが、ジロさんは俺達の不安をよそに、鼻歌混じりにブルーシートへ胡坐をかいて座ると、タバコに火を点ける。


「俺っちはよぉ……ふぅ~……。今ぁ、気がでかいからよぉ……おめぇらの失礼な言葉にゃ、怒らないでやるぜぇ」


たかだか、30分くらいの間になにがあったというのんだこいつ……。

なんか、むかつくな。



「……で、お前はなにをやってやったというんだ」



「ジロさん謝るのは今の内やでからな。もし、そんな雰囲気出しといて、やっぱりパンツ盗んだだけやったら、ほんま殺すからな」




だが、やっぱり、俺らが何を言ってもジロさんは「へっ」っと笑うだけで、怒ったり言い返したりもしてこない。



ということはつまり、やっぱこいつ旅の資金のあてでも見つけてきたってことなのか。




いや、まさか、そなことはない筈……。



「すぅ~……」



なんて、ことを考えていると、ジロさんは再びタバコを一吸いし……。



「ふぅぁ~~…………」



深く吐き出すと、やっと、己がやってやった事を口にする。










「いいか、おめえらぁ、俺っちに感謝しろぃ。明日の朝10時に面接決めてきてやったんだからねぁ」



仕事が早い男に酔っている風で煙草を吸うジロさんに俺とゴリラは一瞬言葉が出なくなった。



「い、いや……」



「いや、ちょっ……」



ようやく出た、俺とゴリラの初めの言は同時だった。





そして、声を揃えて同じ言葉を言っていた。













“履歴書どうすんねん!!”














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