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M.T  作者: K.dameo
1/6

1/2:とりあえずはじまり。秒で。

むかしむかしあるところ……。



――つうか、あるところってなんだ? 山?



まあ、たぶん山。そしてたぶん川もあるんだろうな。


ということはつまり、山沿いであり近くには小川が流れてるみたいなところだろう。

もちろん、天然資源も豊富なんだろうな。


んで、まあ、ばばあが川に洗濯に行って、じじいは芝刈りに行ってたらしいから、歴史の教科書の最初の方で見るようなクソ田舎で昔なんだと思う。


つうか、洗濯はわかるけど、芝刈りってなんだ? 芝刈ってどうすんだろう? 

除去ってことなのか、集めてなんかしてたのか?


それに川のさ、流れてくるって事は上流からなんだろうけど、そっから流れてきた人間のガキが一匹入るようなでかくて見るからに怪しげな桃、ばばあも拾うか? そんなに大きかったらもはや桃ではない、なにか別の名前ついた食いもんだろ?


いやぁ、凄いよな。やっぱ昔なんだとすげー思う。


そんな、でかいとはいえ桃だぜ? それであろうと腹満たそうってパクってさ、家で早速食おうってんで、切ったら、まあガキが生まれたらしいけどさ。

どっちが切ったかはわかんねえけど、じじいとばばあの理性が少しでも残っててよかったよな。


もし、数ミリずれたり、力の加減とかももう少し強ければ、桃から子供以前に血が噴出してるところだろう。



ま、それで、桃から出てきたの育てて、なぜかそいつ「鬼退治に行く」とか謎の発言。

そして、じじばばもそれを快諾? したのかわかんねんけど、きび団子と……ぷっ……日本一て、なんのやねん。


まあ、のぼりみたいの持たせて旅立ったわけで、出会う動物にきび団子あげて「ついて来い手伝え」なんて、動物虐待な気がしないでもねえけど、鬼の住む島行って、鬼を退治してめでたしめでたし。

























「……ん~」


誰もが知る昔話、童話だけど。


俺はこの話に危惧の念がある。


拾い食いをしよう、動物にはなにあげても大丈夫みたいな部分はまあ、昔話だからそこまで影響力はあるとは思わない。


俺が思うのは鬼。


鬼は悪だから退治しようっていう強制力があるように思う。


それは人間同士の中でも、自分とは違う容姿や考え方だから虐めよう、退治しよう、排除しようっていうのと同じなんじゃねえかと。


鬼だからって悪さをするって決めつけていいものなんだろうかって。


そんな生まれて間もないような子供に植えつけるように聞かせる話なんだろうかって。


まあ、だからといって、昔話にケチをつけようってんじゃない。

桃太郎禁止令を叫ぶとかそんな何でもかんでも差別だどうだって叫ぶめんどくさい連中になる気はない。

俺はどちらかというとそういう連中は嫌いだし。


ただ、疑問に思うだけ。


仮に同じ立場――桃太郎となったとき、俺は同じように退治する側になるのだろうか?





「…………ふふっ」




なんて、自問、即答で否だ。



奴等(鬼)には奴等なりの考えがあり、生活もあり家族も居るだろう。

もし、それでも退治に行かないと行けなくなれば、行くのは行くだろうが、すぐに退治なんてのはないな。



それにそもそも根本的な理由がある。












それは…………。























「ちょーこえぇんだけど、どうしようなぁ~……」



足はガクガク震えるし、数十メートル先に見える巨大なシルエットに目を向けては逸らし、逸らしては目を向けると見せかけ逸らす。



「いや、でかすぎやろ……無理やって……」


隣で、初めに仲間にした――というか、ついて来た関西の生まれっぽいゴリラも同じように震えている。



「おいお~……ありゃ、キンジロウじゃねえのけぇ? やべえだろうぃ」


ゴリラの隣では頭にどこぞの誰かのパンティーを被った江戸っ子っぽさがのある口調のアルマジロもいる。



つうか、こいつこんな時でも下着ドロはやめねえのか……どこでパクってきやがった? さっき通ったウメさんの家か?


「キンジロウって誰なん? 知り合いなんか? ジロさん」


ゴリラがパンティーアルマジロ(アルマジロだからだと思うが、ジロさんと呼ばれてると自ら名乗った)に問う。



「知り合いじゃねえ。ただ、ありゃぁよ、あんなでけえ赤鬼っつったら、キンジロウしかいねえだろうぃ」


ほぉ、それは初耳だ。ということはつまり……。


「でかい赤鬼は全部キンジロウなのか」


「そうなんや。種類みたいな感じなんかな?」


「じゃあ、キンジロウの次はなんなんだ? モンジロウとかシンジロウとかか?」


「モンジロウってなんか更にでかそうやな。シンジロウは小さそうやけど」


なんて、ゴリラと話していると、ジロさんはため息を吐きながら俯き加減で首を振る。


「おめぇら、ほんっと馬鹿でぇ……。キンジロウ並みにでけえのがそんなぽんぽん居てたまるかってんでぇ。キンジロウは赤鬼の王だろうぎぃ」


じろさんの言葉に俺とゴリラは凍りつく。


「ま、まじか……お、王……」


「うせやろっ……しょっぱなから、王って……」



殺されるバッドエンドしか今の俺たちにはないのか……。




「なんで、こうなるんだ……」



じじいにそろそろニートは止めて鬼退治行けと旅立たされ、不安と恐怖を胸に抱きつつ、たまに捨てつつ、なんとか――といっても、勝手に付いてきたんだが、仲間の動物達と共に、さあ、とりあえずよく知らんけど気の向くままいっときゃたどり着くだろあの場所とかってところにって感じで、ぶらり旅気分で山を右側に田んぼに囲まれた長閑な田舎道を雑談しながら歩いてただけ。



ほんと、それだけ……。



なのに、なぜ、行く手を阻むように遠めで見ても絶対身の丈5メートル近くあると思う赤鬼の、しかも王であられる方が居られるんだ。


「…………」


誰かと待ち合わせとかじゃないし。むっちゃ、見てるもんこっち。

でも、待ってると言えば待ってるもん……俺らを。



「いや、待てよ……」


走って向かってきてないだけまだましか。

今なら、わき道入れるんじゃね?


「ん? どうしたんモモ太郎?」


あ、この馬鹿っ!


「ちょ、ゴリラ、名前呼ぶなって、マジで!」


キンジロウに聞こえたらどうすんだ、この馬鹿、考えろまじで。


「えっ、いや、なんで怒るん?」


「っつたりまえだろ、あほ! アレに聞こえたら抹殺されるやんけ!」


「ええっ、抹殺? なんで?」


「いや、なんでわからへんねん! 俺の名前で分かるやろ! 俺末裔やぞ英雄の“あの人”の!」


あの人とは勿論、といっても、童話の皆が知ってる桃太郎かどうかは知らんが、昔この島で起きた人間と動物と鬼の三種族の戦争で、当時引き連れていた動物と共に戦争を勝利と言う形で治めた百太郎ももたろうの孫に当たるのが、俺だったりする。


百太郎が引き連れていたのは、キツネとトラとタカとアライグマで、なんだかアライグマは可愛さ担当っぽいが、それ以外は凄くスタイリッシュでカッコよく、百太郎自身もかなりの強さであり同時に男前だったらしい。



それが、今はなんだ? 

俺はじじいに刀の稽古をつけてもらったとはいえ、そんなに強くないし、仲間はゴリラの中では小柄で妙に人間くさいゴリラとなんか見たのも始めてでどういう生き物かわからんが、基本飲んだくれてるかドロったパンツ被ってるか匂ってるか食ってるかしてる本能で生きる変態のアルマジロだけ。



こんなのキンジロウ以前に普通の鬼すら相手できる気がしないのに目の前に居るのは、赤鬼の王ときてる。



そこで、キンジロウに俺が百太郎と関係あるような名前だと知られれば、過去の恨みってことで絶対消される。



鬼達は人間よりも長命で百太郎時代を生き抜き、今も王であったり、それなりの地位で生きているものが大半だとじじいも言っていた。

だから、キンジロウも王であるなら絶対知ってるはずなんだ。なんなら、ももたろうなんて名前や文字並びは禁句かもしれない。



「あぁー……なんでぇ? もう、手遅れかもしれねぇぜぇ……」


「あ? 手遅れ? なにがだじろさ――」


じろさんに問おうとした瞬間、なぜだか、辺りが暗くなってることに気づき、視線を前に戻すと。



「おせぇじゃねえかよ。俺をあまり待たせるんじゃねえぜ」


赤黒い皮膚。金髪モヒカンヘアーにつり上がった金色の極太眉毛に切れ長で鋭い印象しか受けない赤い目。口の端を吊り上げ微かに覗く牙状の丈夫そうな歯。計6部屋くらいの三階建てのアパートが目の前にあるかのような錯覚を覚えるくらいでかい胴体、そしてそれを支えるは樹齢何千年を迎えていそうな大木の様な足に両肩から伸びるこれまた太い、土管の様な腕。そして、手にはキンジロウ仕様なんだろう、電信柱のような強大なこん棒の様なものが握られている。








こ、こいつ……








お、鬼だ。最凶の悪だっ……こえぇぇぇぇぇぇっ!!






「お前ら、なんか妙な組み合わせなだな、おい。5秒で説明しろ、早く」


やべえ、凶悪な見た目だけじゃなしに、せっかちな性格っぽいぞ、こいつっ。


「え、えっと、お、俺らは、その……な、なんか散歩してて、その」


「そ、そう。仲良しで、その、毎日外に出ては会話っていうか、語らいしてて、あの、なんやろ」


「そ、そうでぇ。んでよぉ、この兄ちゃんがきび団子とかをなぁ――」


「ば、馬鹿ジロ! それは言わない約束だろ!」


バレるって! 百太郎のなんかだってバレるって!



「ああ? きび団子だと?」


うわぁぁぁああああああああ! やっぱそこ興味持ったぁぁあぁあぁぁ!!



「なんだ、それおい。団子って食いもんか?」


えっ……あれ、こいつ。わかってない……?



「質問答えろや。食いもんなのかよ」



「え、ま、まあ。じじいが作ったからそんなおいしくないけど……」


ばばあが作ったほうが美味しいと思うんだ。まあ、家出して帰ってこないけど。



「そうか。なら、ちょっとくれや」



「え?」



「あ? くれって言ってんだろ。3秒で渡せ、早く」



「あ、は、はい。じゃあ……これ」


でかすぎるから渡しにくいと思いながらも、めいいいっぱい手を伸ばし、焦ってテキトーに袋を漁り握りとったきび団子三つ、四つくらいをキンジロウに渡す。


「これが、きび? だんごってやつか。……ちいせえな」


怪しげに何度か色んな角度できび団子を観察してから、キンジロウはきび団子を口へと放り込む。


「むちゃむちゃっ……」


何も言わず味わうキンジロウだったが、急に眉間にしわを寄せ始める。


「むちゃっ……なんだこれ、鼻くそみてぇえな味だな、おい。塩気多すぎだろ」


「あ、ああ……まあ、皆言ってるよ、それ。ばばあが作ると美味しいんだけど、じじいは何故か間違ってるとわかりながらも、塩入れるんだよな……」


「ふざけんなよ、2秒で……むちゃっ……まじで、おい」


とか、若干苛立ちながらも、キンジロウは吐き出しもせず、ガムのように味わっている。もしかしたら、案外好きな味なのかもしれない。たぶん、人知れず鼻くそを食うタイプなんだ。



「まあ、なんだ、こんなもんでも、くれたお前にはお礼をやらねえとな」



「え、いや、いいよ、お礼だなんて」



お前となにか関わりを持つとか嫌だから、とりあえず先に行かしてくれよマジで。二秒で。



「遠慮すんじゃねえ。俺はちゃんと礼を返すタイプだからな。素直に受け取れや」



「ええー? ま、まあ、そういうなら、まあ……」



「よっしゃ、じゃあ……」



言いながら、キンジロウは姿勢を正しながら、肩などを回し凝りを取るような仕草をした後、笑みを浮かべ目を合わせてくる。



「俺直々にぶち殺してやろうじゃねえか」



「ええー!? ちょっとそれはいらない! 困るっ!」



「遠慮すんなって言っただろうが。はっはっは」



野太い邪悪な笑い声を上げると、キンジロウは手に持った電信柱(みたいなこん棒)を肩に担ぐように持ち替える。



あんなの振り下ろされたら射程範囲内もろ中心の俺たちは一瞬でつぶれてしまうっ……。

けど、今更逃げるにしても振り下ろされる方が確実に早いだろうし、どっちみち俺らは潰されてしまうっ……。



ど、どうすれば……。



「お前らみたいな塵ゴミ潰したところで何も楽しくはねえんだがなぁ。お上からの指示だからよぉ。悪く思うなや」


「ああ? お上からの指示だってのけぇ? そりゃ、誰でぇ」



行く末を見守っていたのか、この期に及んでもパンティーを嗅いでいて夢中で黙ってたのかわからないが、ジロさんがキンジロウへと問う。



「お上はお上だ。ま、お前らにゃ関係ねえ」


だが、キンジロウは、もう既に死んでいると俺らを見ているのか取り合わず、会話を終わりにしたがる。



「まじでか……俺らもう、死ぬん? 早ない?」



ゴリラがそんなことをごちるが、俺はまだ諦めきれていなかった。


いや、まあ、厳密には別に病魔などどうすることもなく若くして死ぬならしょうがないとは思うが、こんな理不尽な死に方とか嫌だった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


だから、考えも半々にキンジロウへと待ったを掛けていた。


「ああ? 待たねえよ。お前らはもう死ぬんだからよ」


とか言いつつも、すぐに電信柱を振り下ろさないのは、こいつはそのお上ってやつの指示に少なからず不満があるからだと思う。


「キンジロウ! お前は王なんだろ!? 赤鬼の!」


「そうだぜ。だからっ……お前はやっぱり死に値するんじゃねえか? 王を呼び捨てなんてよ」



あ、やべっ……。明らかに今、こいつピクってした。



いや、でもそんなの知るか! こっちかて命懸かっとんのや! あほんだらぁ!



「うるせえあほ! 王なんて本当は嘘だろお前!」



「おまえぇ……俺を怒らせてただで済むと思ってのか、ああっ?」



「知、る、か、よ! そんなの! お前が本当に王で強いってんなら、なんで、俺みたいな弱っちい人間に小柄のこれまた弱そうなゴリラにパンツ被ってる変態アルマジロなんか相手してんだ!」


「なんだとお前っ、こらぁぁっ!!」


怒号。通常、人間同士でも結構心臓にくるものがあったりするが、キンジロウの身の丈から発せられるものは、さらに数十倍の驚きと圧だった。


でも、こんなところドキドキする胸を押さえ、息苦しくなってへたり込みそうになってる場合じゃない。


ほんと、命懸かってんだ、俺らは。


「だ、だってそうだろ! お前みたいなもの凄く強そうな奴は同じ物凄いやつに向かってこそだろ! なのに今のお前はなんだよ! お上の指示だからって、お上お上ってお上なんかに従いやがってよ! ゴミばかり相手して、そんで昔より腕が落ちて弱くなったお前をそれでもお上は傍に置いといてくれるのか!?」


「…………」


依然物凄い圧で睨んでいるキンジロウだが、返す言葉は出てこない。



「俺はお前を初め見たとき凄い強そうだと思ったしかっこよくも見えたよ。他の鬼とは違う戦士であり伝説の鬼って感じだなって。それが……こんなっ……鬼じゃなくても、ぶ、ぶち殺せそうなっ……お゛れ゛らっ、み、みだいなのをっ……ひっくっ……だいじしにきだってぇ……えぇえええええ゛え゛え゛ぇーん゛!」


フリのつもりだったのに、なぜだろう。俺は感情が昂りマジで号泣していた。

意識って怖いねぇ~?



「な、な゛ぐんじゃねえよっ……ば、馬鹿やろうっ、ぐっす」


なんか効いたみたいでキンジロウもその言葉はみずみずしく、鼻もすすり始める。



「お前みたいな゛かっこいいやつはざぁ……どらごんとかとたたかってるほうがぁ、いいんだってぇぇぇぇ」


もう、仲間の前で号泣とかしてるし、他に失うものはない。

だから、白い目で見ているゴリラと被ったパンティーの口の部分の布を息で膨らましたり萎ましたりしているジロさんを無視して、俺はキンジロウの右足にすがり付いた。



「がえしてっ、おれのあこがれかえじでっ!」


「返してって、かえせるもんなのかよ。おれは、まだっ……ひぎがえせるのかよぉぉぉ……!」


二人して、空を見上げ泣く。


「きっしょ。なにあれ」


「ま、まあぁ、助かりそうで、いいんじゃねぇけぇ?」


まさか、鬼のしかも赤鬼の王である鬼と共に涙を分かち合う日が来るとは、人生分からないものである。



























――20分後。



「んで? 確認だがよ」


「おう。何回でも聞いてくれていいぞ」


落ち着きを取り戻した俺とキンジロウは共に泣いた場所から少し離れた木陰に並んで腰を下ろし、暮れかけている陽を共に見ていた。



「きっしょ。なにあれ」


「すっかり、仲良しだな。おホモダチだぜありゃ」


ゴリラとジロさんとは実際の位置も気持ちの部分でも様々なものの距離が空いている。



「ドラゴンて奴は本当に強いんだな?」


「ああ。そりゃもう、でっかいし、キンジロウよりも数十倍でかいし、たぶん火を吹くし、噛み付くし、引っかくし。あれは最強だね」


知らんけど。


「で、そのドラゴンは、北に居るんだな?」


「うんまあ。北だけじゃないだろうけどな。暑い砂漠地方なんかにも居るだろうし。でもまあ、とりあえず、すぐ見つかるのは北とかじゃねえかな」


知らんけど。



見たことねえし。

でも、なんかヨーロッパとかに居そうだもんな。北とかってイメージ。

まあ、方角すら俺よくわかんねえんだけど、興味ねえし。


「おっしゃ、わかったぜ」


「お、もう行くのか?」


立ち上がろうとするキンジロウへそう声を掛けると「ああ」とにやりと笑う。



「俺は決めたからな。王として誰よりも強く、今以上に強くなって帰ってくるってな」


「いい心がけだな。それでこそお前だ」


知らんけど。


出会ってから1時間弱だし。


でも、恐らくこいつは馬鹿だが悪いやつじゃない。

俺が思う、鬼は全て悪ってのはおかしいって思いと合致する。


やっぱ、鬼でも話せば分かるやつや、仲良くなれる奴は居るんだ。


ま、そりゃそうだけどな。人間でもいけすかねえやつどうしても無理な奴はいるけど、仲良くなれるやつもいるし、鬼も人間も人化した動物だって変わりゃしない。

鬼だから悪ってのは馬鹿な考えだ。



俺はこの考えだけは絶対ブレさせないで進んでいく。



「なんだかよ、照れくせえけどよ。その……すまなかったなぁ」


「いや、いいって。こうして仲良く……まあ、俺はだけど、お前とは仲良くなれたと思ってるし、それはいいことだと思ってるよ」


キンジロウとがっしり握手を交わす。


「俺もよかったと思ってるぜ。んじゃ……まあ、またな。モモ太郎」


「ああ。またな」


身を翻し、のっしのっしと歩んでいくキンジロウの背を見送りながら俺はあること思い、キンジロウを呼び止めた。


「ああ? なんだ? まだなにか――」


そう言うキンジロウに俺は、きび団子が詰まった腰袋を投げて寄越してやる。


「やるよ。鼻くそみたいな味だけど、懐かしむ時がくるだろ」


正直言うと、まだあと三袋もパンパンに詰まった袋があり、重くて持って行くのがめんどくさいから一つでも減らしたかったというのが本音だったりするのは内緒だ。


「へっ……ありがとよ」


そうお礼を口にすると、キンジロウは今度こそ振り返ることはなく進んでいく。


「さて……」


じゃあ、俺たちもまた当てもなく果てもないだろう旅を再開しますかね。



と、数十メートル先でこちらを伺っているゴリラとジロさんの下へ歩いていく








――が。





「うわ、来た。きっしょ」



「逃げちまうけぇ」



なぜだか、二人は俺が向かってくるのを目視した瞬間背を向き小走りで逃げる。



「おーいおいおい! お前ら死なすぞおい! なんでやあほ!」



戯れも大概になさいよほんと、死ねっ。



「いやーないわ。さっきまでの流れなかなかどうして、きもいっ」



「Gだぜ、Gだぜ、あいつぁよ」



酷い言われようだ。過程はどうであれ、助けてやったのにさ。














ただ、これからどうなるんだろうな……。

キンジロウだから助かったってのは大いにあるだろうし。



実際、話が通じないやつもこの先出てくることだろう。


そんな時、俺に対処できるのだろうか……?





再び不安が押し寄せてくるくるが、旅はまた始まった。




なるようにしかならねえが……












事故と理不尽な死に方だけはしたくないもんだ。















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