スターへ続く道
たくさんの方に読んでいただき大変嬉しく思います!
頻繁な更新は難しいですが、忘れられない程度に更新をしたいと思いますので、引き続き読んでいただけると幸いです。(5/10)
雅が猫山SSに入団してから一ヶ月ほどが経過しようとしていた。
雅は順調に上達していて、すでに下級生のレベルでは無双状態だった。
そんな雅もひとたび日常に戻ればただのサッカーファンで、今日は父昇吾のホームゲームを見に来ていた。
「パパー!」
雅がアップから引き上げる昇吾に手を振ると、昇吾もまた気づいて手を振り返す。
「ほんとによく見えるわね」
「えへへ。パパはすごいんだから!」
感心する緑になぜかどや顔で雅が語る。
そうこうしているうちに試合が始まった。
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昇吾たち、ブルースターズは前半から押され、前半終了間際にディフェンスの裏をとられて先制を許してしまった。
「昇吾さん、ちょっといいですか?」
「ああ、どうした?」
ハーフタイム中、橋本が昇吾のもとへ行く。前半の戦いから橋本は敵のある狙いを感じとっていた。
「多分相手は昇吾さんからのパスによる展開を一番警戒してます。だから、ずっと俺の方を重点的に攻めて昇吾さんの方にボールが回らないようにしていますよね?」
「そうだろうな。まあおっさん的には走らなくていいから楽なんだが、暇で暇で」
ハハハと昇吾は自嘲ぎみに笑う。
「ただ俺とハッシーがポジションを入れ替えたところで向こうもやることを入れ替えてくるだけだ。まるで意味がないだろうな」
「はい。だから、今日は俺と昇吾さんの役割を入れ替えないっすか? 俺なんかが最高のパサーである昇吾さんの代わりが務まるとは思えないですけど、それでも意表はつけると思います」
このチームでは基本的に昇吾が攻め、橋本が守備を中心にボランチの役割を分担している。もちろんそこまで明確に分けているわけではないが、決定的なパスは昇吾から出されることが多かった。
橋本の提案に昇吾も頷く。
「だな。正直俺もそれしかないと思っていた。ハッシーが言わなきゃ俺が言ってたよ。ハッシーも言うようになったよなあ」
「す、すみません! 出過ぎたマネっすよね!」
「いやいや、新人のときからハッシー見てきたからずいぶん成長したなあとしみじみ思ってさ」
それからピッチに出ていく直前、昇吾がもう一言付け加える。
「ハッシーは俺のようになろうとするな。ハッシーはハッシーだからな」
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「くそっ! またこのおっさんかよ!」
「ベテランはなあ、相手が嫌がることは知り尽くしてんだよ!」
昇吾は的確に敵の意図を先取りし、敵の攻撃を次々と刈り取っていく。
橋本側から攻めようとする敵の攻撃を刈り取ることは、必然的に昇吾も同じ側にいくということで、それはすなわち、昇吾がもともといた場所がポッカリと空いてしまうためリスクはあった。
だが、敵は共有していた作戦をおいそれと変更するにも話し合う時間が足りない。
完全に昇吾たちの作戦がはまっていた。
「ハッシー、頼む!」
「うっす!」
距離が近くなったことで昇吾から橋本へのパスも通りやすい。
橋本から前線にどんどんパスが供給される。決して急所ではなくても、前に送り続けることで次第に相手を押し込む。
そして後半三十分、ついに橋本からのパスを起点として、ブルースターズは同点ゴールを割ることに成功した。
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「むう、パパの活躍をハッシーが奪ったー」
「こーら、そんなこと言わないの」
今日は完全に橋本の日だった。
同点ゴールの演出を始めとして、ミドルシュートで勝ち越し、さらに決定的なパスからPKをもぎとり、チームメイトから譲られたそのPKも決めた。
「だって、いつもはパパが攻め担当だもん!」
雅がぶーぶーと相変わらずの文句を垂れ流していると、関係者通路から昇吾と橋本が出てきた。
「パパー!」
「おー。ちゃんと見てくれたか?」
「うん! まあパパの活躍をどろぼうしたハッシーは見てないけど!」
「ハハハ……」
つーんとした態度の雅に橋本は苦笑いするしかなかった。
「今日はパパよりもハッシーの方が上手だった、それだけだよ」
「違うもん! パパが世界一だもん!」
抱っこされた雅は昇吾の胸にぐりぐりと頭をこすりつける。
「橋本さん、ごめんなさい」
「いえいえ、雅ちゃんの言うとおりですから。いつもの昇吾さんの活躍を利用した泥棒ですよ」
「そう言うな。ハッシーの実力だ。自信をもてよ」
そう励ます昇吾の腕のなかでは、お姫様の頭がうつらうつらと揺れていた。
「眠いか?」
「んー」
ようやく大好きな父と話ができるのにと雅は眠気に抗おうとするも、すぐに腕の中で眠ってしまった。
「ハッシーもうちでごはんどうだ?」
「いいんすか? 雅ちゃんずいぶんと俺にご立腹みたいですけど」
「寝てるから大丈夫だろ。それに本当はわかってるさ。どうもサッカー観は図抜けてるみたいだからな」
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一色宅へ向かう道中、橋本は考えていた。
『ハッシーは俺のようになろうとするな』
それは以前、居酒屋で昇吾に言われた言葉と意味はおそらく同じだった。
橋本はずっと昇吾の背中を追ってきた。日本代表に選ばれることはないが、本来選ばれていてもおかしくはないレベルである。
そんな憧れ続けたスターに言われた言葉が引っかかっていた。
「あの、昇吾さ」
「あ、ハッシーにちょっと頼みがあるんだけどさ」
昇吾が橋本に耳打ちするように話しかける。どうやら緑に聞こえないようにしているらしい。
「すまんが、この前の居酒屋の件、ハッシーからも話してくれないか? あそこに緑の友達いたらしくて、見られたっぽいんだよ」
「……ぷっ」
「お、おいハッシー?」
橋本は思わず吹き出す。
ずっと憧れていたスターも嫁には敵わない。そんな人間らしい一面がこの人にもあるのだと思い出した。
「つい、すみません。えーとあれって、一ヶ月も前ですけど」
「いや、あいつめちゃくちゃ根にもつからさ。ことあるごとにぐちぐち言われて困ってんだよ……」
そういって肩を落とす男は、あの頼れるスーパースター一色昇吾と同一人物とは思えない。
「でも、あの日昇吾さん俺を置いて逃げたからなあ」
「お、おい! それは謝っただろ?」
後日、昇吾は橋本にきっちり謝罪したのだった。結局橋本もあれこれと理由をつけて女性たちを撒いたらしい。
「冗談です」
雲の上のスーパースターから頼れる先輩に。
「少しは近づけたのかな」
やはり自分はこの人を目指したい。
そう思いつつも、嫁の尻には敷かれたくないと思うのだった。




