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失われた天才の未来

しばらく過去編に入ります。

すみませんが、雅ちゃん推しの方は少し我慢してください。

なるべく面白い話になるように心がけますのでなにとぞ!

 時はさかのぼり十五年前、日本中に衝撃が走った。

 十八歳の日本人の少年が海を渡り強豪ひしめくスペインのリーガエスパニョーラへの移籍を果たした。しかもその移籍先は当時世界最強と称されたFCバルセロナだった。


「一色選手、FCバルセロナと契約した今の気持ちは?」


「世間では厳しい評価もありますが、自信はありますか?」


 スペインから一時帰国した話題の少年、一色昇吾、当時十八歳は空港で記者に囲まれていた。


「バルセロナとの契約は通過点でしかないです。今まで自分がやってきたことができれば十分に通用すると思います。自信しかないですね」


 昇吾は目をぎらつかせ、言葉通りの自信たっぷりの表情を浮かべる。

 この発言がさらに火をつけ、世間ではビッグマウスだの、どうせ失敗するだの、マイナスな評価が多めだった。

 しかし、シーズンが始まるとそんな世間の予想とは裏腹に昇吾は十八歳とは思えない活躍を見せる。

 序盤は控えからのスタートが多かったものの、得点やアシストを量産し、一時は得点王すら狙えるペースで一気にスタメンの座を勝ち取った。その後も日本人離れしたテクニックとスピード、シュート精度でゴールを量産し、最終的に十四ゴール十アシストの大活躍で一年目を終えた。

 この活躍に最初は批判的だった世論も次第に応援ムードが高まり、いつしか世界屈指の注目の若手として日本のみならず世界中のメディアに取り上げられるようになっていた。


「はあ、疲れた……」


 世界のトップで戦い、プライベートでも街中で昇吾を知らない人はおらず、テレビも新聞も自分の名前を見ない日はない。悪い気はしないが、プレッシャーの大きさは家でも休まることはないほどになっていた。

 ただ、そんな昇吾の胸の内とは裏腹にプレーは翌シーズン以降も絶好調だった。

 世界のトップバルセロナで不動のレギュラーとしてリーグ連覇を果たした翌年、昇吾は歴史的な活躍を見せることとなる。

 その年は例年以上に好調で、チームメイトもボールを持てばまず昇吾を探すほど昇吾がチームの中心となっていた。そして、昇吾も期待に応えて得点を決め続ける。

 その結果リーグ戦三十八試合すべて出場し四十得点、リーグ戦でも七得点。さらにヨーロッパナンバーワンを決めるヨーロッパチャンピオンズリーグ(通称CL)でも十得点で得点王となり、チームの優勝に大きく貢献した。

 その活躍が認められ、なんと昇吾は日本人で初となるバロンドールを受賞した。

 すでに日本代表でもエースとして認知され始め、日本のサッカーファンの間では次のワールドカップは優勝だって狙えるんじゃないかと騒がれ始めていた。

 何もかもがうまくいき、これから更なる高みへ上り詰めるに違いないと誰もが確信していた。

 そんな矢先だった。

 なんでもないオフの一日、ちょっとした買い出しに出かけた昇吾はいつも行くスーパーが見える交差点で信号待ちしていた。隣には少年が一人、サッカーボールを携えて同じく信号待ちしていた。

 きっと少年が昇吾を見れば目を輝かせてサインを求めてきていただろう。

 しかし、さすがに昇吾もこの三年で学び、サングラスに帽子を常備で変装していたため気づかれることはなかった。

 信号も青になり少年がいち早く渡り始める。

 そのとき、昇吾の視界の端で横断歩道へ突っ込んでくるトラックが見えた。目のいい昇吾は運転手は意識を失っているところまで見えた。

 少年も一瞬遅れて気づくが、驚いて立ち止まるのがせいぜいでもう間に合わない。


「くそっ!」


 昇吾は走って少年を突き飛ばした。

 次の瞬間、昇吾の体は宙に浮いていた。



 ********



「……ここは?」


 体を起こそうとしたが、体の感覚がなく動かすことすらできない。


「起きてはだめよ。そもそも起きられないでしょうけど」


 声がして隣に誰かいることに気づく。どうやらここは病院で隣にいたのは看護師らしい。


「覚えているかわからないけどあなたは交差点でトラックに轢かれたの。ひどいケガで生きているのが奇跡だったわ」


「ああ、そうだった。そうだ! 近くに男の子がいただろう! 無事か!?」


「ええ。泣きながら通報してくれたわ。ものすごくあなたの名前を呼んでいたけど知り合い?」


「いや、俺は知らない。ただ、彼は俺を知っているかもな」


 とここまで言って疑問がいろいろ湧いてくる。

 まず、この看護師、ここがスペインだというのに日本語を話している。なんとなく向こうが日本語で話してきたから日本語で返していたが、なぜここに日本人がいるのか。

 そしてもう一つ、この看護師は俺がサッカー選手だと知らないのだろうか。


「一色昇吾さん、起きて早々申し訳ありませんが、先生からお話があります。なんとなくわかっているかもしれませんがあなたのケガについてです。一応私が通訳もできますが必要ですか?」


「いや、俺もこっちで長いから大丈夫だ。ていうかあんたも日本人だよな? ここで働いてるのか?」


「元々は日本で働いていましたが、今はここで留学中です。あなたはサッカー選手、でしたか? あいにく私はスポーツには詳しくないのであなたのことも知らないのですが」


「そうか、まあ数少ない日本人同士よろしく。きっと長くお世話になるだろうから」


「……ええ、よろしくお願いします」


 看護師の表情が暗かったのを昇吾は見逃さなかった。

 その後、看護師の態度から覚悟はしていたが、医師から説明を受けた昇吾は正気を保つことで精いっぱいだった。

 体全体で複雑骨折により全治半年以上。さらに脊椎損傷により完全に元の運動機能を取り戻すことはほぼ不可能と診断された。

 この瞬間、一人の天才が世界から失われた。

小説家になろうの素晴らしい機能を紹介します。

ページの下にあるブックマークを押すとなんとどの話まで読んでいたかわかるようになるのです。

この素晴らしい機能をぜひ活用してください!(なぜか作者のやる気も湧いてくるそうです)

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