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南が病院に入ってからは新しい病院は市民の公民館のような役割をしていたのかもしれない。というより南がくる前から病院は公民館のようなものになっていた。
話し相手のいない老人は看護婦や医者、同じような仲間との会話を楽しみに病院にやってきていた。
しかし南が病院に来てからは話し相手を探す老人だけでなく若い女性が増えるようになった。
仕事終わりのOL
1日中家事をしている主婦
また中学生や高校生までもが病院に通うようになっていた。
特に理由もなく病院は大いに盛り上がっていた。
よく考えれば理由はひとつだ。夏は冷房冬は暖房。
小さな街にそんな快適な生活をできるところなど病院以外ない。しかもタダで使えるうえにきれいな新しい病院である。
人が集まってくるには理由があるのだ。
それから何年かの月日が流れた。正は地元の中学に進学していた。
部活は、サッカー部に所属していて日々ハードな練習に耐えていた。それもそのはず正の学校は県内でも有数の強豪チームだったからだ。
部活、部活、部活の毎日の正には常に気がかりなコトがあった。
それは彼女である。
中学生になった正のまわりの友達は次々と彼女をつくり楽しい中学生活を送っていたのだ。
そんな正にも好きな人はいる。それはサッカー部のマネージャー桜井あおいである。彼女は、男の子からも女の子からもすかれる言わばマドンナ的な存在であった。
そんな桜井あおいのコトを正が好きになったのは中学に進学したての頃に正が母に連れられて新しくできた病院に行った時であった。そのとき正は学校の健康診断で『近くの病院で再検査してもらってください』とのコトだった。心電図に異常が見られたのだ。そのとき桜井あおいも同じ通知をうけこの病院にやってきていたのだ。
正は学校でもかわいいのと評判だった彼女とプライベートで会うことができてどこか自慢げであった。
『斎藤くんだよね…??同じクラスの。私ね同じクラスの桜井あおいです。わかるかな??』
『うん。わかるよ。』
急に話しかけられて明らかに動揺していた。
『よかった。斎藤くんも心電図ひっかかっちゃったの??』
『そうなんだ、自分では元気なつもりなんだケド』
『私もーなんだか私が病院に行くことになるなんて思いもしなかったもん』
予想以上に会話が弾むため正はもっと話をしたいと思った矢先
『斎藤さん、斎藤正さん。』
看護婦からの呼び出しだった。