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Bicycle

作者: 一色春

まだ、朝だってのに蝉の鳴き声がうるさい。

「今日帰りに空くんのとこ寄って、これ届けてきて。」

そう言って母さんは俺の自転車カゴの中のカバンを少しどけて、ビニール袋を入れた。

「えー、今日部活あるんだけど。」

「これ桃だから、潰れないように気をつけて行ってよね。」なんて都合のいい耳なんだ。

俺は「はあ」とため息をついて自転車を漕ぎだした。

「重たいならギター置いて行きなさいよ。」バカ言うな昼休みも練習するんだ。

「気をつけてねー」と後ろから声が聞こえた。


駐輪場に着くと齋藤がいた。去年は同じクラスだったが、2年になってからは別々のクラスになってしまった。しかし、同じ軽音部でバンドを組んでいるので、毎日の様に顔を合わせている。高校に入ってからギターを始めた俺に、齋藤は丁寧に教えてくれた。その事について「ありがとう。」と言うと「いや、お前最初下手すぎてビビったわ。」と言われたのでそれ以来コイツには「ありがとう。」なんて言ってやるもんかと心に決めた。

「あー、今日の放課後練習出れなくなった。」桃を届けに行くから、とは言わなかった。

「りょーかい。昼は?」と齋藤は自転車に鍵をかける俺を待ちながら言った。

「昼は大丈夫。」カゴからカバンを取って言った。

「オッケ。で、そのビニール袋何?」

「えっと、桃。」


暑い。昼休みの音楽室は冷房が効いていない。暑い。防音の扉を閉めて練習しなきゃいけないから。暑い。昼休みの練習を終え窓を開ける。昼休みに練習しているのは俺らだけで、他のバンドは放課後に練習するが狭い音楽室は1つのバンドが限界でさらには吹奏楽部もいるので、毎日ではなく週に1回ローテーションで音楽室を利用している。

今日は放課後別のバンドが音楽室を利用する日なので、駅前のスタジオで練習しようとなっていた。

「放課後のスタジオ空いてるかな?」とドラムの一ノ瀬が言った。

「あ、今日俺無理になったんだった。すまん。」言い忘れてた。

「ん?バイト?してたっけか?」ベースの木場が言った。

「いとこの家に桃届けに行くんだってさ」齋藤が笑いながら言った。他のやつも笑った。

「なに?「はじめてのおつかい」的な?」「ちげーよ」

「桃持ってきたの?」「、そうだよ」齋藤に言わなきゃよかった。


放課後、いとこの空の家に向かう間、自転車を漕ぎながら部活のバンドでコピーしてるバンドの曲を口ずさんでいた。何かが背中を押す様で風が気持ちいい。空は大学生で一人暮らしをしている。昔はこの街に住んでいたけど、俺が生まれるくらいに関西に引っ越して、またこの街に戻ってきた。元々は別の親戚のおじちゃんと住んでいたが、すぐに今度はおじちゃんが引っ越した。しかし卒業するまで住んでていいと言う事になったらしい。

チャイムを押す。何回来ても家の大きさに驚いてしまう。「はい」「雲雀(ひばり)だけど」少し待つとドアが開き空が顔を出した。

「おー久しぶりだな。どーした。」僕は重たいビニール袋を見せた。「暑いんだけど」

空は大学の卒業論文を書いていたらしく、これ書かないと卒業できないんだよと言っていた。空の部屋には大きな本棚があった。本棚を眺めていると、「桃切ってきたぞ。」とちょうどいい大きさに切られた桃と2本の爪楊枝を乗せた皿を持ってきた。

「今日はバンドないの?」「うん。まあ。そう」本当は一応あるはずだったんだけど。

「ふーん。桃ありがとな。お母さんにも伝えといてくれ。」そう言って空は桃を爪楊枝で刺して食べた。「ふまいな」口の中に桃を入れたままで「うまいな」と言った。

はじめてギターを背負って空の家に来た時は、「おーおー似合ってるじゃん。」と言って大笑いしていたがもう見慣れたのだろう。最近は笑われる事はなかった。

「もっと早くギター始めてたらなー」せめて中学生から始めていたら、もっと思うように弾けていたのにな。と最近よく思う。

「そんなに楽しいんだ。」空はもう一つ桃を口に入れた。僕も一つ爪楊枝に刺す。

「まあ、それもあるけど早く上手くなりたいなって思ってさ」そう言ってから桃を口に入れた。窓の外はまだ明るいけど、もうそろそろ18時半だ。来週からテスト週間で部活ができない。けどそれが過ぎたら夏休みだ。もう夏なのか。早いな。空は卒業したら引っ越してしまうのだろうか。空の家でダラダラとする時間が俺は結構好きだったりする。

「空さ、タイムマシンとか作ってよ。頭いいんでしょ。」ソファにもたれ掛かってそう言った。

「おー、まかせとけ」そう空は適当に返事して、「そしたら卒論書かないでずっと遊んでられんのか」と言って笑った後「いや、タイムマシン作るだけで卒論書けるか」と言った。

「大学ってどうやって決めたの?」俺も夏休み前に進路希望調査書を提出しなきゃいけない。まだ高校2年の夏なのに。

「あー、雲雀もそんな歳になったのか」空は感心したように言った。

空の家から俺の家までは自転車で10分くらいで着く。家に着いたのは19時半ごろだった。

「お帰り。早かったね」空の家に遊びに言った日の帰りはいつも、もっと遅くなることが多い。しかし、今日は空が卒論で寝てないから寝ると言うので帰ってきた。

「桃、美味しかったって空が言ってたよ。」夕飯の匂いがする。

「そう。よかった。夕飯出来てるからね。」桃を食べて紅茶も一杯入れたはずなのに、もう腹がペコペコに減っていた。


テスト週間が始まって朝の自転車通学が少し楽になった。ギターを持って行かなくてよくなったから。テスト最終日に久し振りにバンドのみんなと会い駅前のスタジオで練習をした。1週間とちょっとぶりに背負うギターは心地の良い重さだと思った。

「夏休みさ、みんなでどっか行かね?海とかさ。」齋藤が言った。

「男4人で海ぃ?」と一ノ瀬が言った。

「あー、行くなら早めにな。俺、夏期講習あんだわ。」木場がそう応えた。

「なに?小鳩、おまえ夏期講習なんて受けんのかよ。」齋藤が驚いたように言った。

「あたりまえだろ。お前もそろそろやらないと。後悔するぞ。」

「へいへい。俺の味方は雲雀だけだぜ。」「なんでだよ。」俺は齋藤よりはできる。はず。

「だって、つぐみも成績いいじゃんか。」そう言って齋藤は一ノ瀬を見た。

「え?まあ、タカに比べたらね。」タカとは齋藤。齋藤崇裕(たかひろ)のことだ。

「なんだよその言い方!」と言って、齋藤は一ノ瀬に飛びかかった。それを見て俺も木場も笑った。

18時半だってのにまだまだ空が明るかった。夏なんだなぁ。とか思った。



ちりりん。と風鈴が鳴る。和室があるわけでもないこの家には不釣り合いな感じがする。

空の家に遊びにきた俺は話し過ぎて少し疲れてた。話の内容はくだらない。あのアイドルが可愛いとか、あのお笑い芸人が面白いとかそんなことばっか話した。あと、夏休み前にやったテストの結果とか。

「中学の頃から、もうちょい勉強してたらよかったなー」ソファにもたれ掛かってそう言った。

「今からでも遅くないじゃんか。」空はパソコンで卒業論文を書きながらそう言った。

「まー、そうなんだけどさ。」

「時間はフカギャクなんだよ。」突然、空は話を始めた。手を止め、こっちを見てそう話し始めた。空は立ち上がってテーブルに置かれたコップに入ったコーラを一気に飲んだ。

「例えばこのコーラを持つ前に時間が巻き戻ったとしても、俺はコーラを飲んだことを忘れてしまう。」コップをテーブルの上に戻した。

「そしたらまた、喉が乾いてるからコーラを飲む。結局、巻戻る前と何も変わらない、そんなもんなんだと思うよ。人生は1度きりしか体験できない。だから時間は不可逆なんだと俺は思う。やり直しなんて万に一つもないんだよ。」空のこういう話を聞くたび俺は言葉にならないビリビリした空気を感じる。始めてあのバンドを聞いた時も感じた息苦しさに似ている。

「じゃあ人生をやり直すなんてできないってこと?」

「過去を変えることはできない。けど、これからを変えるのはいつだって出来るんじゃないか?」今をちゃんと生きろよ。と続けた。これを言っているのが教師だったら、「わかってるよ。うるさいな」くらいにしか思わないはずなのに空が言うと妙に納得してしまう。

「まだ高校生なんだからタバコも酒もまだ早いぞ」と空が言う

「実は」と言って、俺は一応持ってきた数学の教科書を出した。「ちょっと教えてもらってもいい?」空は一瞬驚いた表情をして「おぉ、任せろ。どこがわかんない?」と嬉しそうに言った。


家に帰ると父さんが帰ってきてた。「おかえり。空君のとこか?」と夕飯を食べながら言った。

「そうか。」わざわざ聞いてくるのは珍しいな。「なんで?」父さんの視線の先を見るとTVがニュース番組を流していた。

俺の住む隣の県で起きた殺人事件についてのニュースだった。隣の県とはいえ自転車でも行けるくらい近くで起きた事件で、父さんはどうやら俺のことを心配していたらしい。無口なこの人らしい心配の仕方なんだな。

「まあ、もう犯人は捕まったみたいだから、な。」父さんが言って「そっか」と俺が応えた。

自分の部屋に戻るとギターが目に入った。家にいると練習ができない、明日は久々に練習のためにスタジオに行く。もっと早くギターを始めていたかった。そしたらもっと早く上手くなれたのにな。昼間の空の言葉はすごく重たく感じた。言い訳ばかりする俺に空は柄にないことを言ってくれた。俺は少しは変われたんだろうか。泥臭く生きていくことをかっこいいと思いながらそれはいつまでもどこか他人事で、変われていない自分を正当化する言い訳ばかりがうまくなっている。周りにケチつけて自分を守ってる。そんな気がしてた。


「花火大会行こーぜ。」練習が終わると齋藤がそう言った。そういえば今日の夕方から近くで花火大会があるんだっけか。海は諦めたのかと思った。

「いーね。行こうよ。」と一ノ瀬が俺と木場に同意を求めてきた。俺は木場を見た。

「行こうぜ。もしかしたら、こういう夏は今年で最後かもしんないしな」と木場は言った。

「いいのか?」と俺が木場に尋ねた。「当たり前だろ!」そう言って木場は俺の肩に腕を回した。



チーン。と仏壇の鐘を鳴らし手を合わせる。

夏休みが終わったからと言ってもまだまだ暑い。久しぶりに行く学校は何にも変わっちゃいない。齋藤たちとは時々バンドの練習で顔を合わせていたし、めちゃめちゃ日焼けしてる奴が1人と「あれ?どうしちゃったの?」ってくらいイメージ変わっちゃった女子が1人いただけで、まあそんなに変化のない日常がまた始まった。俺らのクラスには変化はなかった。

「転校生ってどんな奴だった?」と昼休みバンドの練習を終えた齋藤が言った。

「俺クラス違うから見てないんだよね」と俺が言うと、木場と一ノ瀬が「俺も」と言った。

「なんだよ。誰もまだ見てないのかよ。まったく。」と齋藤。「お前もだろ」これは木場。

俺らの学年に転校生がやってきたらしい。俺の毎日は特に変わらないけど。


「すみません。忘れてました。」帰りのホームルームが終わっても俺は教室から帰れないでいた。進路希望調査書を書くのをすっかり忘れていた。

「まったく。明日までに書いてくるように。」と担任が言った。

「はい。」そう言って俺はカバンを肩にかけて教室を出た。

駐輪場には誰もいなかった。齋藤たちは先に帰ったみたいだ。まあそりゃそうか。自転車の鍵を外して帰ろうとした時、見たことない男子がいるのに気がついた。まあ10クラスもあるから同じ学年でも見たことないのがいても不思議じゃないけど、なんとなく転校生かなと思った。

特徴がないと言うか、静かな感じというか、大人しそうな、そういう影の薄い感じがした。誰にも見つからないように息を殺している雰囲気がした。自転車に乗って家に着くまでいろんな歌を口ずさんでいたが、どれも曖昧でなんか上手くいかなかった。


家に帰ると空が遊びにきていた。「おーおかえり」と空は夕飯を食べながら言った。

「めずらしいね。どうしたの?」「これ持ってきてくれたのよ。空くんの実家、京都でしょ」母さんが紙袋を持ってそう言った。

「お土産で夕飯を頂けるなら毎日持ってきますよ。」と空は言った。

「もー、ちゃんと食べてるの?毎日食べにきてもいいのよ。」と母さんが言った。

「毎日毎日、雲雀が遊びに行って大変でしょう。ごめんなさいね」「いや、そんな全然。楽しいですから」と言って空がこっちを見た。すると後ろから

「おぉ、空君。来ていたのか。」と父さんの声がした。

「お邪魔してます。」と言って空はお辞儀をした。その後、空と一緒に夕飯を食べて空は帰った。帰り際、仏壇の前に座り線香をあげて鐘を鳴らし、それから手を合わせた。俺はそれをなぜか隣で見ていた。

「おじゃましました。それからごちそうさまでした。」と言って帰っていった。

「うん。お土産ありがとうね。」と母さんが言い「気をつけてな」と父さんが言った。

進路希望調査書には「進学」とだけ書いた。何も決まってなんかいないのに。


それから1ヶ月ぐらいが経った。その噂が関係のないはずの俺の耳にまで入ってきたのは。

「古谷っていんじゃん?あいつの親のこと知ってる?」と休み時間に一ノ瀬と話していた俺に、1年の時に同じクラスだった奴がそう話しかけてきた。

「古谷?」と俺と一ノ瀬が聞き返した。

「そう。転校生の」そういえばまだちゃんと見てないな。と一ノ瀬が言った。

「いや、あいつの親がさ。殺人事件の犯人なんだってよ。怖くね?」と聞いてもいないのに勝手に続けて、「夏休みに隣の県であった事件の犯人らしいんだよ。」そういえばそんな事件があったかもしれない。「まあ、噂だけど。結構ガチらしいんだよ」と最後に付け足し、チャイムの音で俺らはそれぞれ教室に戻った。

昼休みの間、音楽室にはいつものメンバーが集まっていた。齋藤がふざけたことを言って木場がツッコんで、一ノ瀬がそれを見て笑った。けど俺はその中には入れないでいた。一ノ瀬も元気がないように見えた。

そんな気がしてからまた1ヶ月ぐらいが過ぎていった。


「待って、雲雀。これ空くんに持って行って。」と母さんがビニール袋を持ってきた。

「桃?」「みかん」

駐輪場に着くと齋藤がいた。ビニール袋を見て「また「はじめてのおつかい」?」と言った。

放課後、駐輪場に行くと、いつだかの男子がいた。相変わらず影が薄いというか、息を殺したように見えた。するとそこに「おい。古谷。何、お前勝手に帰ろうとしてんだよ。」と男子が4人やってきた。同じ学年のやつで顔は見たことあるが、正直あまり関わりたくない連中だった。

古谷ってことはやっぱ転校生だったか。明らかにもめている。どうしようか。と考えていたら連中のうちの1人と目があった。

「あ?どーした?」と、こちらに近づきながらそいつが言った。


空の家に向かう途中、何度叫びたくなるのを堪えたんだろうか。何で俺がこんな惨めな思いをしないといけないのか。俺は結局何もできなかった。しなかったのか、いや。やっぱりできなかったのが正しい。「見て見ぬ振りをするのも加害者と同罪だ」そんなことを、いつかどっかで聞いた気がする。なら俺は。でも俺は。

気づいたら空の家に着いていてチャイムを押した。「はい」「雲雀だけど」いつもより早くドアが開いた。そんな気がした。「どーかしたのか?」と空が言った。「寒いんだけど」


「そうか」「そうか」と相槌を打ちながら、空はみかんを一つ手にとって聞いていた。

全てを話し終えた俺は、泣きそうだった。

「まずは、話してくれてありがとうな。苦しかったろ。」俺は何も返事ができなかった。

「その転校生のことだけど、やっぱり俺は手を貸してあげて欲しい。」と空は続けた。

「でも、どうやって助けたらいいんだろ。」俺は何とかそう言った。すると、

「助ける。じゃなくて手を貸してあげてくれよ。代わりに殴られろ。なんて言わない。でも学校で起きてるなら先生に言うとかさ。」それから、

「その子は俺や雲雀と等しく人間だろ。困っている人を見て、見て見ぬ振りは」ロックじゃないだろ。と空は言った。

「教師とかに頼んのは、なんか。」嫌だった。

正しい教師は、間違う俺らを否定する。

俺はずっと下を向いていた。空はきっとこっちを見ていた。

「雲雀、お前ならやれるよ。やれる事やれば十分だ。」


帰り道、自転車を漕ぎながらどうしたらいいかを考えた。手を貸すとして、どうやったらいい?いや、古谷は本当に助けて欲しいのか?そうなら、自分で教師に言うとかするんじゃないか?今日だって、さっさと帰っちまえば絡まれずにすんだのに。

いや、俺と等しく人間。俺があいつの立場なら、エスカレートしない様にするので精一杯か。



夏も終わり夜に聞こえる夜虫の鳴き声も随分変わった。

俺に何ができるんだろう。下手に怒りを買ってエスカレートするだけだったら?俺に怒りの矛先を向けて俺や齋藤、木場、一ノ瀬にまで迷惑をかけるんじゃ?

ギターを持つ。どうしたらいいのか教えてくれよ。ギターに爪を立てた。

未完成な俺が俺は嫌いで、キレイ事言う教師が嫌いで「先生。先生。」って呼ばれるあいつらの未完成さが堪らなく嫌いだった。

でも本当にキレイ事ばっか言ってたのは俺の方で、それなら。イヤホンから流れてくるロックはそんな俺の背中をいつもの様に押す。


仏壇に線香をあげ、鐘を鳴らし、手を合わせる。じいちゃんは「誰かの為に生きなさい」と口癖のように言っていた。それをずっと自分の恋人とか家族とか友達とかそういう人の為に。って意味だと思ってた。けど「誰か」ってのは本当に「誰か」ってことなのかもしれない。空はじいちゃんと仲が良かった。だから、じいちゃんの葬式であんなに泣く空を初めて見た。

俺が生まれた時にはじいちゃんは病気であんまり話したことはなかった。けど今の空の家にある本棚はじいちゃんの物で、それを読んだ空の話は聞いたことないじいちゃんの話を聞くみたいだった。

「じいちゃん。俺、誰かのためにってやつ。やってみるよ。」


昼休み練習をする前、皆に相談するべきだと思った。

「あのさ、古谷ってやつのこと知ってるか?」3人とも知っているようだ。


練習を終え音楽室から教室に戻ろうと4人で歩いていた。すると、「っざけんなよ!」と大声が響き渡った。俺らは目を合わせ、声の方に向かっていった。H組の教室から聞こえた。古谷がいるのはH組だったはずで、古谷に絡んでたのもH組の連中だった。

教室を覗くと古谷が教室の真ん中あの4人組に囲まれていた。

教師を呼びに行く奴はいない。教師を呼びに行くのじゃ間に合わない。どうする?そんなの決まってる。過去は変えられない。後悔したって自分がいやになるだけで、なら。

俺は他の3人と目を合わせてから。「俺、行ってくる。」と言った。

「バカ。なんでお前1人なんだよ。」

「付き合うに決まってんだろ」

「早くしないと!」

「ありがとう」



「雲雀やっぱお前すげーな。」と空は笑った。

空の家。俺の隣には齋藤と木場、一ノ瀬もいる。4人とも顔にアザがあって肩とか腰が痛い。4人とも代わりに殴られた。俺らのことを殴ったやつらはたぶん停学。

「どいつもこいつも見て見ぬ振りだったんだ。俺らが出て行かなかったら。」と俺は言った。痛い。喋ると血の味がした。

「結局何もできなかったけどな」と齋藤が言って「でも古谷くんは怪我しないですんだね。」と一ノ瀬が言った。

「それに、周りの奴らもこれからは、あんまちょっかい出さないだろ。」木場が言う。確かにそれなりの騒ぎではあった。

「俺らはやれるだけやったんだな。」と言った。

「そうだな。じゃあ一ついいか?」空が俺ら全員と目を合わせた。

「その見て見ぬ振りしてしまった、周りのそいつらも」等しく人間だからな。

正しい僕らは、間違う誰かを否定する。

ビリビリした空気を感じた。俺はまだ未完成のまま。

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