凶悪!! 惑星滅菌計画!! その3
謎の衛星が、隕石を降らせている。
その女の説明に、広間は僅かにざわついた。
まだまだ大首領の影は拭えていない証しだろう。
だが、そんなざわめきを抑える様に、ダンと音が響いた。
音の正体は、アナスタシアが床を踏み鳴らしたからである。
「騒ぐな! 首領の御前成るぞ!」
普段ならば、良を首領とも思っても居ない女幹部だが、この時ばかりは幹部らしさを発揮していた。
女幹部の声に、良は思わず手を少し挙げた。
「アナスタシアさん、いや俺は別に……」
やんわりと女幹部を諫めようとする良だが、この時のアナスタシアはそれを敢えて無視して居た。
「貴様達が慌ててどうする!! 我々は! これから大首領へと喧嘩をふっ掛けるのだぞ!」
女幹部の一喝に、組織の面々は自ずと静まる。
何故なら、そのモノの言い方は、良のそれを模したモノだった。
声が止んだのを確認してから、アナスタシアは女へと目を向ける。
「中座させて済まない。 話を続けてくれ」
アナスタシアの声に、女は頷いた。
月の動画に変わり、次に画面に映ったのは世界地図。
それには、小さい数字と共に点が幾つか記される。
『さて、次に見てほしいのはこの図だ。 これらの数字はインターネットから人が確認したモノを参考にしている』
その声に、良はしげしげと画像を眺める。
良く見てみれば、小さな数字は日付とを時間だとわかった。
「なるほど、なんとなくだけど、段々……近付いて、る?」
見える図、表される数字。
其処から導き出される答え、それは【弾道修正】に近かった。
「お、おい、もしかしたら」
恐る恐る尋ねる良に、女は頷いた。
『うむ、確定出来る材料は無いが、ほぼ間違いなく此処を狙ってるね』
女の声に、思わず良は椅子から立ち上がって居た。
大首領からは、確かに【近々来る】という意味合いの言葉は云われている。
だが、まさか隕石落としをするとまでは想像していなかった。
「冗談じゃねぇぞ!! 野郎! 此処を吹き飛ばす気か!?」
流石に慌てる良だが、女は首を横へと振った。
『いや、恐らくはその程度では済まないだろう』
「どういうこった?」
『コレはあくまでも仮定だが、地表を丸ごと引き剥がすのには大きさ四百キロ程の隕石が必要に成る。 だがもし、人類を滅ぼしたいなら、数百メートルのモノで事足りるんだ』
説明を受けた良だが、眉間に皺が寄った。
「だった数百メートルって、そんなもん地球には蚊が刺す様なモンだろ?」
『まぁ、それはその通りだ。 星に取ってはね。 だが、地球が少し身震いしたとなったら、話は違うぞ』
女の声に合わせて、画面も切り替わる。
其処には、隕石が着弾した際の被害図が現れた。
組織が根城にしている地域どころの話ではない。
ほぼ国丸ごとがあっという間に焼き払われ、地表は激しく揺れる。
たった一つの隕石にて、地球上はほぼ黒くなってしまった。
『コレはあくまでも予想だが、着弾による二次被害で殆どの国は基盤が絶たれるだろう。 そうなれば、マトモに戦える者は居なくなる。 それどころか、文明が維持される保証は無い』
余りに惨い結果に、愛がワナワナと肩を震わせた。
「なんだってそんな事すんの!? 直接喧嘩売ってくれば良いのに!?」
正義の味方を自負する少女からすれば、相手がやろうとしている事が信じられない。
そんな少女の疑問に答える様に、広間へと入ってくる者が居た。
「それには私がお答えしましょう」
声と共に現れたのは、青年。
端正な顔立ちに、仕立ての良い背広、磨き抜かれた革靴。
何処から見ても、その辺に居そうで有りながら絶対居ないであろう姿。
現れたのは、かつて組織を抜け出した大幹部の一人であった。
「セイント?」
「なんだってあんた来たの?」
驚く女幹部に対して、露骨に嫌そうな態度を隠さない虎女。
そんなかつての同僚の態度に、青年は肩を竦めた。
「いや、古巣の危機だと想うと、どうにもこうにもジッとして居られなくて」
無粋な侵入者ではある。
が、良はそんな元大幹部を【取り押さえろ】とは言わない。
物理的に止められないという事もあるが、わざわざ来てくれたという事の方が大きい。
「首領、いきなりの訪問をお許しを」
丁寧な青年の一礼に、良は手を軽く振った。
戦っては居るが、同時に何度も共闘もしている。
そんな青年を、良は信頼をしていた。
「や、良いっすよ、それよりも続きを」
懐の深さを示す首領に、青年はサッと頭を上げた。
「では、其方のお嬢さんからのご質問ですが、向こうは恐らく、人類を滅ぼしたい訳じゃないんですよ」
セイントはそう言うが、愛は納得していないのかムッとしたままだ。
「だからぁ、なんだってこんな事すんの?」
回りくどい事が苦手な性格故か、答えを急かす。
焦れた少女に、今まで部屋の壁に背中を預けていた壮年が顔を上げた。
「簡単だよ、お嬢ちゃん。 それが、一番簡単な方法だからさ」
壁から背を放すと、大幹部である剣豪は広間を歩く。
「互いに武器を持って戦い合うだけが戦じゃない。 人がまだ、剣を持って戦って居た時代から使われてる確実な方法だよ」
大広間の真ん中に立つと、壮年は顔を上げた。
「大きな火砲によって敵の戦力を削ぎ落とし、最後には歩兵によるトドメ。 実に古臭いかも知れないが、誰でも知っていて一番効率的な戦法だよ」
それぞれが語り終える。
大幹部が勢揃いした光景は、かつての組織を彷彿とさせていた。
だが、違いもある。
誰もが死んだ目をしていない。 中でも、首領は作り物ではなかった。
「とにかくだ! 誰か何か案はないのか?」
パッと出された声に、場に居る者達の目が首領である良へと向けられる。
「俺が飛べりゃ今すぐにでも行くんだが、生憎と飛べなくてな」
首領の発言は、場に居る者達に取っては冷や冷やモノである。
良の場合、冗談抜きに本当に1人で行ってしまうからだ。
単純にして明快。 悪く言えば、馬鹿とも揶揄されるだろう。
だが、そんな首領を皆は嫌って居ない。
彼等が一様に集まっているのが、何よりの理由であった。
「首領、落ち着いてください」「駄目だから」
今すぐにでも飛び出して行きそうな良を女幹部と虎女が抑える。
二人掛かりで抑えられては、さしもの良も動けない。
幹部に抑えられ動けない首領をさて置いて、博士が何かを思い付いた。
実際には見えないが、まるで頭上に電球が浮かんだが如く。
「あ! そう言えば! 新しい基地に在ったロボット!!」
博士の声に、構成員達も色めき立った。
彼等もまた、ソレを見ている。
放置されてこそ居たが、その勇壮な姿は忘れられるモノでない。
「あれ! 動かないんですか!?」
期待を込めた博士の声に、女は何とも言えない難しい顔を浮かべた。
目を伏せ、口を真一文字へと結ぶ。
五秒ほど経った頃、女は顔を上げた。
『君達があの基地を飛び出した時、私も暇をしていた訳ではないんだ。 其処で、私なりにアレを調べてみた……』
言葉を区切る女。 誰もが、固唾を飲んで次の言葉を待つ。
『結果から言おう。 アレは、動かない……正しくは動けないだろう』
「どうしてですか!? なんでなんです!?」
間髪入れずに、博士は女に質問をぶつけた。
頭脳明晰である以上、理由が無ければ納得出来る話しではない。
このままでは、組織どころか世界が終わる。
無論、ソレは女も分かっている事では在った。
『アレをパソコンに例えるならば、身体は揃っている。 が、如何に高級な部品を揃えたとしても、頭脳が無ければパソコンも動かないだろう?』
女の言う事は、機械に疎い良でもわかった。
如何に車と運転手が居ても、それを繋ぐ物が必要である女は云う。
『出来れば私も協力はしたい。 が、遠隔に遠隔を重ねた場合はどの様な事が起こるのか、保証が出来ないんだ』
端的な説明に、場の空気が重くなる。
如何に改造人間とは言え、中身は人間である。
かと言って、何か適当な機械が誰も思い付かない。
そんな中、ただ1人、博士だけが在ることを思い出していた。
「皆さん! ちょっとだけ待っててください!」
それだけを言い残すと、博士は駆け出した。
*
組織随一の頭脳は、少女に在ることを思い出させてくれる。
博士が向かった先。 其処は、組織の格納庫であった。
殆どの車は新しい基地の方へと移送され、格納庫はほぼ空だ。
だが、其処へと残されているモノも在る。
息を切らせた博士だが、それを整える間も惜しんで居た。
被せていたシートを引き剥がす。
覆いが取られたソレは、半壊した首領専用マシーンだった。
主を守る程の忠義を見せたが、まだ死んでは居ない。
銃弾によって、脚とも言える車軸を折られこそした。
だが、博士が来たからか、マシンはライトを灯らせる。
【自分はまだ走れる】と言わんばかりに。
そんな良の愛車を、博士は撫でた。
「ねぇ、お願いが在るの」
壊れた自動二輪車に向かって、博士は話し掛ける。
本来ならば、持ち主が持ち物である機械に一々何を問う事は無い。
何故なら、機械は何をされても関係が無いのだから。
それでも、まるで魂が宿った様なマシンに、博士は優しい目を向けていた。
「良さんの為に、また立ってくれる? その身体を捨てる事になるけども」
マシンに首も口とが無い以上、頷く事も返事を返す事も出来ない。
ただ、何かを示す様に、ライトがチカチカと点滅した。
言葉は聞こえないが、まるで【速くして】と急かす様でもある。
「ありがと」
忠義に厚いマシンへと、博士は礼を贈った。




