凶悪!! 惑星滅菌計画!!
大首領の魔の手から、辛くも自らの組織を救った篠原良。
仲間同士で戦わされるという苦悩。
それでも尚諦めず、立ち向かう。
しかしながら、その代償は大きかった。
何とか大首領の正体を暴こうとした良だったが、相手の正体を暴く前に、自爆に巻き込まれてしまう。
爆発の範囲は差ほど大きくなく、基地の損害は大きくない。
操られた怪人達を解放したものの、良はその代わりに意識を失った。
仲間の声に導かれ、なんとか意識を取り戻した良。
結果から言えば、最小の犠牲で、最大の戦果を上げたと言える。
そんな良ようやく動ける迄に成っていた。
医務室の寝台から降りるなり、肩をグルグルと回してみる。
「あー、エラい目にあったぜ」
博士と魔法少女の一悶着からも何とか解放された良。
とは言え、まだまだ首領としての役目は終わってはいない。
自分の事が澄んだとしても、他はまだだった。
腕の治療を受ける女幹部へと良は近寄る。
「よ、どうだい?」
見舞いに来たような良の声に、治療をする博士と受ける側の女幹部が同時に顔を向ける。
「大丈夫ですよ、直ぐ良くして見せますから!」
歳は若くとも、優秀な技術者らしい顔を見せる博士に、良は頷く。
対して、アナスタシアは困った顔を浮かべていた。
「あ、あの、首領……ちょっと」
まるで絞り出す様な声と、忙しそうに泳ぐ瞳。
それを見て、良はウンと唸る。
「お、なんだ? 飲み物か何か持ってこようか?」
見舞いその物といった良の声に、アナスタシアの隣の寝台で横になる虎女はハァと長い息を吐いた。
その顔を表すなら【此奴わかってねーわ】である。
「首領……心配してあげるのは有り難いんだけどさぁ、良く見てみなって」
虎女の忠告に、良は首を傾げながらよく見てみる。
すると、何故アナスタシアが声を潜めたのか、そして、虎女が声を低くしたのかがわかった。
誰かが大規模な治療を受ける際、着衣のままという場合は少ない。
余程の緊急事態でない限り、出来れば衣服は外すだろう。
この時のアナスタシアもまた、同じ立場であった。
一応はシーツにて肢体は隠れて居るが、その下は何も無いのだ。
所謂、真っ裸である。
事態にようやく気付いた良。
嫁入り前の娘の身体を舐め回す様に見るのは良いことではない。
「……あ! すまん!」
一言詫びるなり、良は大慌てで医務室から抜け出す。
そんな首領に、虎女はフゥと安堵の息を吐く。
「あーあ、別にアナスタシアは出ていけ! なんて怒ってないのに、ねぇ?」
そう言いながら、カンナは女幹部を見てみる。
すると、アナスタシアは意外にも頬を赤くしながら難しい顔を見せていた。
恥ずかしながらも、同時に嫌がっても居ない。
在る意味、極度に緊張感を保った様な素振り。
まるで恋をやっと知り始めた様な無垢な様。
そんな同僚を見て、虎女は片目を瞑った。
「あ、ごっめーん! 首領追い出しちゃった!」
実に白々しい虎の声に、アナスタシアは目を閉じる。
「べ、別に! 私は! 何も云ってない……」
大幹部同士の腹の探り合いを聴いていた博士が、ふと手を止める。
「ん? 博士、どうした?」
アナスタシアに問われた博士は、何とも言えない目をしていた。
窄められた眼には影が掛かり、否が応でも暗い印象が出てしまう。
「ホントは、結構ギリギリでしたよ。 今回は、偶々みんな助かったけど」
それ以上は言おうとせず、博士は女幹部の治療へと戻る。
少女が言わんとしている事は、二人の大幹部もわかっては居た。
偶々勝ちを拾うことは出来た。
だが、博士の不安通り、大首領は未だに倒せては居なかった。
*
遠く離れた世界の何処かで、争いや何かがが起こって居たとしても、それは近く居なければ気付けないモノである。
地上の何処かで何かが起こっていたとしても、飛行機が空を飛んでいれば気付くモノではない。
が、何かが空を飛んでいれば、窓から見ることは出来た。
興味深そうに窓から外を覗く子供。
親に連れられての旅行とは言え、長時間の空の旅は子供に取っては退屈なモノでしかなかった。
雑誌やゲームに飽きた頃。
若く体力旺盛な子供は、暇そうに唸る。
ただ、何か気を紛らわせるモノが在れば違った。
「わぁ……」
子供の目に映るのは、遠くを流れるほうき星。
一本が落ちる程度ならば、そう珍しくはない。
この時の子供の目には、無数のソレが見えていた。
尾を長く引いて飛んでいく星に、子供は慌てて隣で眠る親を揺る。
「ね! おかーさん! 見て! 見てよ!」
必死な子供の声に、親は一応目を覚ますが、機嫌は芳しくない。
雑多に追われ飛んでいる間は寝たかった。
「……もぅ、なに?」
「ほら! 流れ星!」
子供はウキウキとした声でそう言うが、親は苦く笑う。
「そうね、綺麗ね」
一応は子供の声に応えながらも、欠伸を抑える。
ふと親が腕時計を見れば、到着まではたっぷりと時間が在った。
「ほら、あんたも休んどきなさいね」
親としての体裁は取りつつも、眠気を押してまで取り合わない。
そんな親に、子供はムッとする。
せっかく起こしてやったのに、と。
年幼くまだまだ世界を知らない子供からすれば、大人とはつまらない生き物だと感じる。
こんな面白い事はないのにと。
世界を知らないからこそ、子供は空を流れる数多のほうき星に目を奪われていた。
*
とある上空を飛ぶ飛行機の中で、子供が星に目を奪われる頃。
その遥か上を飛ぶ、衛星軌道上を浮かぶステーションでは、別の意味で目を奪われる人々が居た。
地球上から流れ星が見えるという場合。
ソレは何かが地球の引力に引かれ落ちる際に燃えるのが原因だ。
勿論、高が小さな隕石や人工衛星の廃棄程度では、宇宙に居る人達も驚きはしないだろう。
そんな宇宙飛行士達の目を奪ったのは、数多くの流れ星を降らした原因。
ソレは、月の衛星軌道上に浮かぶモノに在った。
見たところで信じられないのか、飛行士の一人が慌てて地上へと連絡を繋げる。
震える手で操作パネルを弄るのだが、それは焦りを示していた。
「ステーション聞こえるか!?」
必死の呼び掛けに、返答が帰ってくる。
『此方、地上管理センター。 急に連絡を寄越すとはどうした? 何か緊急事態か?』
管理側の声は、飛行士からすると呑気に過ぎた。
自分と同僚達が見たモノは、一言で済ませられる事ではない。
「良いから今すぐ望遠鏡の奴に繋いで月を見るんだ!」
『何故だ? 月面でウサギがパーティーで盛ってるのか?』
暇なのか、性格故なのかはともかくも、地上からは冗談が返ってくる。
そんな言葉に飛行士はギリッと歯を軋ませた。
「バカを云ってないでサッサとしろ! 上司が寝てるなら叩き起こせ!」
飛行士の剣幕に、無線の向こう側から雑音が響く。
ドタバタとした音から、椅子からでも落ちたらしい。
が、通信士の腰骨が折れたところで、飛行士に取っては重大な問題ではない。
彼に取っては、差し迫った事がある。
『わ、わかった今すぐ緊急の召集を発令する!』
「急いでくれ!」
地上での事は地上の人に任せる他はない。
通信を終えた飛行士は、装置から手を離す。
無重力の場に居る以上、地上の様に闊歩していくのは無理だ。
水族館の魚の如く、飛行士は懸命にステーション内を泳ぐ。
程なく、他の同僚達が見えてくる。
皆、一様に窓の外を見ていた。
近場にやってきた飛行士に気付いた同僚が、その手を取る。
「どうだ? 連絡は」
「したよ。 ただ、どうなるかはヒューストン次第かな」
自分がやるべき仕事は果たした。
そんな飛行士も、同僚達の様に窓の外へ目を向ける。
小さいが、太陽の光に照らされた月が見えていた。
勿論、宇宙飛行士が月を見ても驚きはしないだろう。
が、彼等の目線には映るモノがある。
月の周りを、グルグルと有り得ない何かが回っていた。
肉眼で見えてしまう程に、ソレは大きい。
其処から漏れ出た破片が、流れ星の元であった。
*
飛行士が有り得ないモノを見て驚く頃。
地上の何処かでは、1人の子供と犬が元気に走り回って居た。
都会を離れた、人も疎らな農村らしい光景。
そんな長閑な空気の中を、幼子が走り、愛犬を追っていた。
「チャッピー! 待ってよ!」
幼子が赤子の頃から共に育った間柄故か、犬は引き綱無しでも幼子を置き去りにはしない。
パタパタと追い掛けてくる子を気にしながらも、犬は何処かを目指していた。
世間の毒に染まらない幼子と犬にとってみれば、彼らの住んでいる場所は正に楽園なのだろう。
余計なモノを持ち込む外的も来ず、毒を運ぶ利器もない。
一匹と一人は、村を抜け出して丘へと走った。
「どうしたの? 何にも無いでしょ?」
幼子からしても、愛犬が言葉で返事をくれるとは想っていない。
ただ、犬の目は遠い何処かを見据えていた。
愛犬の目線に、幼子も其方を見てみる。
すると、空を流れる一条の光が映った。
「あ! 流れ星だ! お願いしなきゃ!」
呑気に星に願いを始める幼子。
そんな相棒を、何かに気づいた犬が唐突に押した。
「わ! ちょっとチャッピー!」
いきなりじゃれつかれてしまったのかと、幼子は慌てる。
が、犬は幼子を抑えたまま動こうとしない。
次の瞬間、幼子の目を光が覆った。
一呼吸程の間を置いて、やってくる衝撃波。
加えて、耳をつんざく様な激しい音。
いきなりの事に、幼子は何がなにやらと慌てる。
もしも、愛犬が子を庇わなかったら、幼子は飛ばされて居ただろう。
衝撃と音が止む頃、犬はようやく相棒から退く。
「なになに、いきなり……」
多少衣服は汚れてしまったが、幼子は無事だった。
そして、起き上がるなり見えるモノに言葉を奪われる。
遠い森から見えるのは、大きく立ち上るキノコ雲。
そして、放射状に払われた無残な森。
そんな光景を、幼子と犬はお互いに寄り添って見守る。
まるで、この世の終わりが訪れたかの如き光景。
一人と一匹は知らなかった。
自分達が見ている惨状を作り出したのは、僅か3メートル程度の石ころだと云うことを。




