静寂! 裏で蠢く者達!? その15
もしも、良がアナスタシアが望む様に首領らしくしていたら。
恐らく今頃は篠原良は消え、新しい首領が新たな計画を練っていただろう。
それがどんな作戦なのかは誰も知らない。
首領でありながらも、首領である事を否定した結果が、良の目には見えていた。
車体が凹もうが部品が取れようが、お構いなしに突っ込んでくるトラック。
派手に停車するなり、エンジン部からは余程の無茶をしたのか煙が上がる。
ほぼ同時に、荷台の戸がゴンを音を立てて跳ね飛んだ。
戸を突き出ばしたで在ろう拳が、ゆったりと引っ込む。
一番乗りで姿を現したのは、大型の蝦蛄。
それに続くのは、以前とは姿の違う構成員達である。
『総員! 速やかに散開しろ!』
響く声に、構成員達が散らばる。
勿論、蜘蛛の子散らす様な乱雑さは無い。
そして、散らばるなり、構成員達は怪人達と合い向かう。
ソレを見て、思わず良は駆け寄ろうとする
『お、おい……あー、くそ』
何とか助勢したいが、足が云うことを聞かない。
そんな良の背中を、蜂がポンと叩いた。』
『ともかく! あんたはいい子にして見てな!』
そう言うと、蜂は乱戦の中へと切り込む。
蜂と共に戦う構成員達だが、新たな装備を得た彼等は、怪人にも引けを取らない。
生身で在りながら、改造人間を圧倒する。
無論、それは一人だけの力ではなく、団結力も含まれていた。
怪人の相手を部下に任せた蝦蛄が良に近寄ってくる。
『首領! ご無事ですか!?』そう声を出すのは、大幹部。
猛然と迫ってくる勢いの蝦蛄に、良は思わず数センチ背を反らす。
『あぁ、助かったよ……って、アナスタシア。 大丈夫なのか?』
自分の心配をしてくれる事は有り難い。
が、そう心配するアナスタシアもまた片腕が無かった。
しかしながら、それを感じさせない強さが窺える。
『勿論です! 腕の一本二本、既に捧げておりますゆえ!』
そう言うアナスタシアが、誰に何にを捧げて居るのかは、彼女しか知らない。
『頼むから、無理だけはしないでくれよ?』
『は! お任せを!』
遠隔操作から解き放たれたからか、アナスタシアの声はより一層強い。
猛然と怪人へと向かって歩き出す蝦蛄女。
『いいか! 怪人達は殺すな! 全員を生け捕りにせよ! その代わり! 腕や脚に構うな!』
派手に指示を飛ばすアナスタシアの勇猛さに、良は安堵の息を吐いた。
それと同時に、腹の辺りからこみ上げてくる。
僅かにブシュッと音を立てて、良の兜から液体が漏れ出していた。
『良さん!?』「篠原さん!!」
いきなりの吐血に、博士と愛は慌てる。 が、良はそれを手で制す。
制しながら、良は記憶を探りつつ藪の中を指差した。
『俺は良い、ソレよりも、その辺にカンナ放り投げちまった。 そっちを見てやってくれないか?』
「え、でも、篠原さんはどうするんですか?」
『そうですよ!』
必死に食い下がる少女2人に、良は『頼むよ』と優しく言った。
実のところ、大声で派手に指示を飛ばすだけの余力が無い事の現れでもある。
『……わかりました。 でも、直ぐに良さんも看ますからね!』
「しょうがない。 でも、篠原さんも待っててよ!?」
良の願いに答える様に、2人はパタパタと走っていく。
変身こそしているが、独特な走り方は隠せていない。
姦しい少女達の背中を見送りながら、良はふらつく。
蓄電量が少ないせいか、足場重いが、歩けない程でない。
ようやく、倒れたままの愛車に辿り着いた良は、しゃがみ込んだ。
『よ、生きてるか?』
機械に対して【生きている】と尋ねるのは不思議な話ではある。
それでも、心配する主に気付いたのか、マシンのライトがチカチカと光った。
言葉は無い。 車軸が折れている為に、走れはしないだろう。
それでも【生きています】と言わんばかりであった。
『待ってろ? お前をそうした奴をぶちのめして来てやる』
良の声に、マシンは小さくクラクションを二回鳴らした。
『いい子だ。 ちょっと行ってくるわ』
そう言うと、良はポンと車体を軽く叩き、立ち上がる。
すべき事はまだ残されていた。
*
基地に入る為には、エレベーターに乗らねば成らない。
ただ、その台に乗るのは良一人ではなかった。
『おいおい、美味しい所を独り占めか?』
そう言うのは、蜂である。
それに対して、良が何かを云う前に、ドカンと音を立てて大きいモノが台に乗った。
『首領! 先陣を切りたい気持ちはご理解致しますが、御自愛を』
行動には賛同しつつも、若干の苦言を呈するアナスタシア。
『ええと、あの……』
一応の弁解をしたい良だが、そうは問屋が卸してくれないらしい。
バタンバタンと、音を立てて台に乗ったのは愛と博士である。
「ちょっともう! いい加減にしてよ!」
苛立ちを隠さない少女は、良へと掴み掛かった。
愛の手が良に触れても、変身が解けない。
そんな事は怒る少女にとってみれば些細な事なのだろう。
「なんで!? なんでなの! どうして一人で行っちゃうの!?」
愛の声に、良は兜の中で苦く笑った。
『相も変わらず……人聞きが悪いぜ』
「茶化さないで! 何でよ!?」
橋本やアナスタシアとは違い、苛立ちを隠さない愛に、良は答えを迷う。
以前ならば、後ろを付いて来るだけだった少女が、必死に自分を前に出そうとする。
怒る愛の手を、博士が抑えた。
『良さん。 そんなに、私たち頼り無いですか?』
博士に云われて、良はハッとした様に周りを見た。
今更に気付くが、誰もが自分の為に此処へ来ている。
その想いに、良は背中から支えられる様な気がした。
ただ張り付くのではない。
倒れそうになる自分への柱の様な感覚すら在る。
自暴自棄になり、勝手に先走った事が恥ずかしくも在った。
『悪い………勝手しちまって』
先ずはと、一人先走った事を詫びる。
『ありがとな、助かったよ』
そして、助けに来てくれた事へ礼を贈った。
そう言う良の兜からは、まだ液体が漏れ出ている。
その様を見て、愛は怒りから寂しそうな顔へと変わった。
「もう少しだけで良いから、甘えてくださいよ……皆に」
魔法少女の辛そうな声に、兜の中の良は笑った。
『あぁ、次は、そうさせて貰うよ』
語り合う様な魔法少女と悪の首領。 そんな場へ、咳払いが響いた。
その主は、大幹部である。
戦っている時だけは、青年の姿を保っている剣豪。
「あー、お取り込み中に済まないが……」
エレベーターの縁をつま先でコンコンとならす。
「余りマゴマゴしていても時間が勿体ないのではないかと」
諭す様な助言に、博士がいの一番に動いた。
パタパタと走り、エレベーターを直接操作する。
『行きます!』
博士の声に合わせて、台がゴンと下がり出す。
その間、良は自分を見ていた剣豪と目を合わせた。
首領と大幹部。 2人の間に言葉は無い。
が、何となく良は応援されている様な気がした。
*
少しずつ、台は降りていく。 それは、本来ならば慣れた道のりの筈。
良からしても、エレベーターは何度も使っていた。
以前ならば大して気にもしなかったが、今は違う。
在る意味、敵の本拠地に攻め込む様な感覚であった。
『嫌なもんだな』
そんな良の声に、博士が『何がです?』と問う。
『家みたいに想ってた所へ、攻め込むってのがさ』
最初こそ、基地に住む事を遠慮していた良だったが、何度か泊まる内に、すっかりと慣れ始めていた。
そんな矢先、いきなり其処を訳のわからない輩に盗られる。
『だったら取り戻せば問題在りますまい!』
アナスタシアが良を鼓舞した。
失敗こそしたが、取り戻せば良いと示す。
そんな大幹部に、良は首領として『そうだな』と応えた。
*
台が下まで下がりきる。
良率いる一団は降りるが、愛が辺りを見渡した。
「なんか、空気違いません?」
魔法少女ながらも、悪の基地に出入りしていたからか、率直な感想を述べる。
愛の声に、良の兜が縦に揺れた。
『あー、何て言うか、いや~な空気だぜ』
空気とは視覚的に見えるモノではない。
が、今一団を取り囲む空気は重く、纏わりつく様な錯覚すら在った。
『ま、住む奴が変われば空気も変わるだろ』
橋本の意見に、良は頷く。
『そうっすね、じゃあ、チャチャっと取り返して、換気扇入れますか』
敢えて軽口を叩くが、それは実は不安の裏返しでもある。
外に居た分の怪人は何とか成るだろう。
が、覚えているだけでもまだ居るはずなのだ。
辺りを警戒しながらも、良は基地の中を思い出す。
何処かに、あの意匠が在るはずである。
少しずつ、一団は進む。
そんな中、バッと橋本とアナスタシアが構えた。
『おっと、やっぱり守りぐらいは置いとくわな』
蜂の声に、良も構えようとする。
が、身体が云うことを聞こうとしない。
腹から飛び込んだ一発の銃弾は、想像以上に良の身体に損害を与えていた
とは言え、痛みは無いために呻きはしない。
『しょうがねぇ、頼むぜ皆、あいつら操られてるだけなんだ』
良の声に、アナスタシア、愛、博士も構えを取った。
『勿論でございます!』「はいはいっと」
意気揚々と構える大幹部と魔法少女に対して、博士は消極的であろう。
元々が現場で戦う立場ではないのだ。
が、この場に居る以上は【戦えません】では通らない。
そう思ったからこそ、博士は庇う様に良の前へ立っていた。




