静寂! 裏で蠢く者達!? その14
怪人と戦い始める良だが、迷いは捨てた。
辛い事は辛い。 何せ怪人には戦う意志が無いのだ。
その身体が如何に向かって来ようとも、それは本人の意志ではない。
遠隔操作にて、操られているだけだ。
だからこそ、良は戦う。 改造人間達を解放すべく。
一人へと掴み掛かると、肩を組む様に腕を回す。
『勘弁しろよ!!』
組んだ状態から、深いお辞儀をするように身体を丸める。
相手からすれば、良というローラーに巻き込まれた様に肩が破壊された。
倒れた相手には目をくれず、落ちた得物を見ると、掴む。
『どりゃあ!!』
倒れた怪人からライフルを奪うと、ソレを使うのではなく、投げた。
下手に撃ち、殺しては意味が無い。
射撃に自信が在れば、或いは良はそうしただろう。
が、自信が無いので在れば、在るモノを最大限に使う。
身体を使う事には、既に自信が出来上がっていた。
投げつけられたライフルが当たり、怪人の身体はぐらつく。
そのよろめきを逃さず、良は相手を両腕で捕まえる。
『……うぬぁあああ!!』
相手の腰を捕まえたまま、全力で前へと走る。
勢いそのままに、怪人の身体を樹木へと叩き付けた。
太い木が折れる程の衝撃を与えられれば、如何に改造人間といえども只では済まない。
前後から同時に挟まれるという事は、衝撃の逃げ場を無くすのだ。
崩れ落ちる怪人。
二人の改造人間を瞬く間に倒した良だが、まだ動くのを止めない。
勿論、相手からの射撃も飛んでくるが、それは纏う装甲が弾いてくれる。
白兵戦の際、最も威力が出せるのは体当たりだろう。
蹴りや突きといった技もまた、それなりに威力は在る。
が、全身の力を余すこと無く使うのであれば、やはり体ごとぶつかる事が最も無駄の無い技と言えた。
下手に防御したところで、勢いを殺せねば無駄に成る。
事実、良が用いた全身全霊の体当たりは、怪人を地面に倒すには十分な威力が在った。
倒れた相手の腕を掴み上げ、足で相手を固定する。
そして、背中と脚の筋肉を全開で反らす。
それは、技とは呼べないだろう。畑から大根を引っこ抜く事に近い。
それでも、怪人の肩から腕を引き千切る程の力は在った。
数の不利など感じさせない程の動きを、良は見せていた。
三人を戦闘不能にした後は、相手を指差す。
『オイコラ!! 人の後ろにコソコソ隠れてる誰かさんよ! そろそろテメェで直接喧嘩したらどうなんだ?』
そんな挑発に、まだ立っている怪人達の口からは一斉に笑いが漏れた。
『『篠原良。 それは、もしかしたら強がりかな?』』
複数の声が混じるが、喋っている事は重なっている。
聞き取り辛いが、聞けない訳ではない。
『あん? 誰が強がってるってんだ?』
鼻息荒い良だが、先程までの勢いが無い。 それは怪人達にも見えていた。
倒しこそしたが、基地からはまたエレベーターが上がってくる。
ソレにもやはり、怪人達が乗っていた。
『『誰がそもそも改造の仕方を教えたと想ってるんだ? そろそろ、蓄電が少なく成ってきてるんじゃあないか?』』
重なる声に、良は答えなかった。
実のところ、良の身体に在る感覚が溜まり始めている。
それは疲労にも似ているが、違うモノだ。
一応は無限の動力炉を搭載しているとは言え、出せる出力には限界が在る。
ましてや、良の様に全身を酷使すれば、その分蓄電は間に合わない。
『『答えないという所を見ると、図星の様だな?』』
良が答えないからか、怪人達が動いた。
囲まれてしまうが、良は鼻で笑う。
『性懲りもなく同じ手を使いやがるぜ』
ジリジリと迫ってくる怪人達に、良は足を引きたくなった。
強がりこそ言えども、内心では不安は残っていた。
どうせなら、このまま踵を返して逃げ出したい。
今までの人生はずっとそうだった事を思い出す。
面倒や責任から背を向け、安寧を願った。
だが、今の良はそうはせず、足を一歩前へと踏み出す。
既に逃げ場など無い。 で在れば、前へ進むしかないのだ。
『自分で神様名乗る割にはセコいな。 そんなんだから、人間一人倒せないのさ』
そう言うと改めて構えるが、作戦も、戦法も無い。
ただ己自身だけで戦う。
それは蛮勇でしかないが、それしか縋るモノが無かった。
『『どうしても屈服しないつもりか?』』
尋ねる声に、良はフンと鼻を鳴らした。
『俺を飼いたいか? だったらそっちが頭下げなよ。 お願いしま~すってな。 だったら、聞いてやらねーでもないぜ?』
良の声に対する返事は、銃弾であった。
怪人達が持つ大型の対物銃が火を噴き出す。
腕や胸、装甲に包まれた部分は問題無い。
が、在る一点だけ、問題も在る。
動き回る事を考慮している以上、鎧には必ず隙間が出来てしまう。
其処を塞いでしまうと、そもそも動けないからだ。
再改造によって、ある程度はその弱点も保護されては居る。
が、同時に無敵でもない。
何十と浴びせされた弾は少しずつだが良の体を削っていた。
寧ろ、今まで良く耐えたとすら言える。
そんな脆く成った部分に、弾がとうとう食い込んだ。
『……ぅぶ』
慌てて身体に空いた穴を手で塞ぐが、余り意味が無い。
その証拠に、良の兜の隙間からは、赤黒い液体が漏れ出していた。
『『篠原良。 貴様は大した男だ。 過去にも、貴様の様な者達は大勢居たぞ。 皆、それなりには英雄と呼ばれる者達だった。 家畜で在ることを否定し、先へ行こうとした。 全員死んだがな』』
そう言う声と共に、怪人達は一斉に良の頭へと狙いを定めた。
何とか回避したいが、良は立っているだけでも辛い。
『『変身を解け。 そうすれば、お前も楽にしてやる』』
今までの尊大な声とは違い、今聞こえた声は、何故だか優しい。
脅す様な色は無く、寧ろ憐れみすら含まれていた。
在る意味では、最上位の誉め言葉なのだろう。
申し出に関しては、良もわからないでもない。
受け入れてさえしまえば、楽には成れるだろう。
やるだけやった。 そう思いたくなる。
膝を着いて、兜を捨てて、鎧を脱ぐ。
戦う余力も、逃げ出すだけ場も無い。
今の良は、将棋に置いて言えば裸の王将であった。
目を凝らしても、見える範囲には敵しか居ない。
愛馬であるマシンも、脚を壊されて動けない。
兜の中で、良は目を閉じた。
『死んだら、どうなるかねぇ……』ぼそりと呟く。
様々な憶測は世界に在った。
天国や地獄、幽霊として世界をさ迷う、はたまた、魂は何処かへと連れて行かれる。
だが、それら全ては誰かが考えた妄想に過ぎない。
何故なら、誰一人としてそれを証明した者は居ないからだ。
今、篠原良が此処に居るだけ。 それが現実である。
良の顔を覆う兜の隙間が、ギラリと光った。
『やっぱりさ、死んだ後の事は死んでから考えるわ』
強がりに過ぎないとしても、良はそう言った。
死んだ後の事は忘れ、今の自分を全うする。
それを言葉として吐き出す事で、良は自分へと言い聞かせた。
降伏を否定した良に、怪人達が改めて銃を向ける。
その様は、まるで銃殺刑の様であった。
そんな場が、一気に眩しく照らされた。
派手なエンジン音と共に、一台のマシンが怪人達を跳ね飛ばす。
マシンに乗っている姿は、良も良く知っている。
『あんた』
困惑する良に、マシンに跨がる改造人間。
その兜は、蜂を燃している。
『よっ、奇遇かな? 遊びに行こうかなんて想ってたら、あんた一人でぶっ飛ばしてたからなぁ』
軽い声に、良は苦く笑った。
『貸し借りは無かったんじゃないのか?』
『じゃあ、今度は俺が貸しかな?』
そう言いながら、蜂は辺りを見渡す。
如何に弾かれたとは言え、その程度では怪人は倒せない。
が、銃火器を破壊する事は出来ていた。
『とにかく、話は後でな!』
そう言うと蜂はバイクから跳び降りる。
並び立つ改造人間二人。
奇しくも、二人共に大首領に背いた者同士である。
『………因果なモンだなぁ』
そんな良の声に、蜂は『あん?』と唸る。
『前に、あんたに誘われた時は断った癖に、こうして頼ってるんだ』
『ま、今更だわな』
『ところで、あんた、名前は?』
良の声に、蜂はフンと鼻で笑った。
『ははっ……そういや、まだ言ってなかったっけか? 橋本、橋本裕二さ』
『そっすか。 俺、篠原っす、篠原良』
短い付き合いにも関わらず、良は橋本と名乗った蜂に共感を感じた。
2人の改造人間を、怪人達が取り囲む。
『『たかが改造人間風情が!! 一人増えた所でどうなるという!!』』
怪人達の口からは、そんな声が吐き出される。
その声色こそ怪人のモノだろう。
ただ、それを喋らせて居るであろう誰かの焦りは隠せていない。
「2人だけじゃないんですけどぉ!?」
そんな声が辺りに響いた。
怪人達は辺りを見渡すが、見えるの良と蜂のみである。
『『何処からだ!?』』
焦りに答える様に、場に降り立つのは箒に似た乗り物。
その上に立っていたのは、1人ではない。
片方は、良も見慣れた魔法少女こと川村愛。
対して、そんな少女にしがみ付く様に居るのは見慣れない誰か。
「ほらリサ! 降りて!」
『で、でも、高いですよ!?』
乗り物の上で一悶着を始める2人だが、愛が同乗者を無理やり押し出し、自分と降り立つ。
華麗に着地を決める魔法少女に対して、もう一人の着地はお世辞にも華麗とは言い難い。
『あぃたた……』
どうやら、着地の際に臀部を強打したらしい。
が、纏っているスーツのせいか、痛みは余り強くないのか、立ち上がる。
ヘルメットにタイツという、些か怪しい出で立ちだが、聞こえる声は良も忘れては居なかった。
『博士か?』
良が尋ねると、ヘルメットは反応を示す。
パタパタと走ってくる小柄な姿は、どうにも慣れないが、どこかで見たような気はしていた。
『あ、良さん!? 大丈夫なんですか!?』
顔を合わせるなり、博士はそう言うが、無理もない。
傍目にも良はボロボロであり、兜からは吐血の跡が窺えた。
『んー、絶不調……かな?』
『そんな!?』
慌てる博士の背中を、ツンツンと愛が突っつく。
「リサ、私も篠原さんに色々云いたいけど……後にしてくれる?」
『で、でも!?』
「もう直ぐ、皆来るから」
愛がぼそりと言った言葉に、良は『みんな?』と驚く。
1人の改造人間と、2人の少女に続く様に、藪を掻き分けてトラックがその場へと割り込む様に走って来ていた。




