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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
静寂! 裏で蠢く者達!?
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静寂! 裏で蠢く者達!? その12


 組織の面々が案ずる篠原良。

 その心配される張本人は、空る場所へと近付きつつあった。


 以前ならば、特に気にせず近付けたが、今は違う。

 慎重に行くべきか、大胆に突っ込むべきか、迷っていた。


 放棄こそしたが、その身取り図は頭に入っている。

 何処がどうなって、こうなっているという全てが。

 

 ソレを踏まえた上で、良は、マシンから降りて忍び寄っていた。


「全く。 まさか、自分でこんなのをする事になるとはね……」


 隠密ステルスを題材に選んだゲームは多い。

 が、本人が本当にやるとなると、話は違った。


 聞きかじった技術を思い出しながら、じりじりと進む。

 

 実際の所、良にはそんな経験が無く、端から見ていれば素人だろう。

 それでも見つからないのは、理由が在った。


 単純に、見張りが居ないのだ。


 以前に良達が居た頃から、基地に見張りは立たせなかった。

 その理由は、秘密基地の真ん前に堂々と歩哨が立っていたら位置がバレるからである。


 その為、接近だけは難しくはない。

 問題は、どうやって中へ入るかという事だった。


「さぁて……どうしたもんか」


 地下基地に入るのには、概ね二つの入り口が在る。


 正面玄関という言葉が正しいかは別にせよ、大型のエレベーター。

 もしくは、車両などの搬入口。


 そのどちらも、バレずに入る事は不可能に近かった。


「どうせなら、秘密の入り口ぐらい用意しとけば………ん?」 

 

 独り言を呟く良の目に、藪が動くのが見える。

 それは、エレベーターの蓋が開く合図でもあった。

 

「おっとぉ、渡りに船かな?」


 コレ幸いと、良はコソコソと近付く。

 誰かがエレベーターから出入りするのであれば、それに乗じて中へ忍び込む。

 が、そんな良の思惑は外れた。


 上がって来たで在ろう台。 ソレには、見慣れた者が乗っていた。 


「……カンナ」


 顔を見た途端、思わず名を呼んでしまう。

 声は小さなかったが、呼ばれた側は気付いたらしい。


「首領……来てくれたんだ」

 

 何処かフラフラとした足取りの大幹部。 

 が、いつもの凛とした虎女ではない。

 纏う衣服はボロボロであり、顔は憔悴を示していた。


 本来なら、潜入者は何が在ろうとも姿を見せてはいけない。

 何を見、何を聴こうが、自分は存在していない事を徹底する。

 あたかも幽霊の如く。


 が、良はその手の本職ではなかった。


「おい! どうした!?」


 本来の潜入など、虎女を見た途端頭から消え失せた良。 

 慌てて駆け寄ろうとするが、足は止まる。


 今更ながらに、良は頭に血が上ってしまったことを後悔していた。


 そもそも基地を破棄した理由は、改造人間達が操られてしまった事が理由である。

 その事を思い出すと、良は二の足を踏んでしまう。

   

 戸惑う良とは反対に、カンナはと言えば違った。

 足取りこそ覚束ないが、必死に良の元へ行こうとする。


「……首領……良」


 口から漏れ出る声は、まるで飼い主を探し求める子猫の様だった。

 寂しさからか、悲しさからか、必死に声が上擦る。


 本来ならば、良は虎女を疑って掛かるべきだろう。


 今見ている彼女は、果たしてどうなのか。

 本当に自分の意志で歩いて居るのか、歩かされて居るのか。

 その声はどの様な意図で出されているのか。


 但し、其処まで相手を疑えるほどの経験を良は持っていなかった。


「良……コッチ来て」甘えん坊とでも言わんばかりのカンナの声。 


 ただ、ふと良は気付いた事がある。 それは、虎女の眼だ。


 目蓋と目だけが、忙しいそうに動く。

 まるで、其処だけが彼女の意志が宿った様に。


 虎の目は、必死に動いた。

 前を向いて居たかと思えば、横へ。 それが、何度も繰り返される。


 言葉ではないソレが【何の意味】なのかは伝わらない。

 それでも、良はまだカンナが其処にいる事だけはわかった。


「エグい真似をしやがる……」


 思わず良がそう言うと、虎女の唇は勝手に動く。


「そうかな篠原良。 せっかくのおもてなしを無視する気か?」


 声色は虎女のモノだ。 が、それが本人の声ではない事は良もわかる。


「この野郎……飽きもせず女の後ろに隠れやがって……恥ずかしくねぇのか!?」


 意味の無い挑発である事は良もわかる。 が、云わずには居られなかった。


 良の声に、虎女の目が潤む。

 開かれた目の端からは、涙が零れ落ちていた。


 そんな意志は関係無いのか、虎女の唇は動く。


「異な事を言う。 ゲームをやってる人間が、その操り人形に何かを想うのか? こうして操ってやれば、可愛いモノだろう?」


 虎女は急にペタンとその場に座り込んだ。 

 所謂アヒル座りだが、脚の間に手を着き、胸を強調する。


 もしも、カンナ本人がやっているならば、魅力的にも見えただろう。

 が、それを無理やりさせられていると分かれば話は違う。


 良の全身に、寒気にも似た感覚が走った。

 毛が逆立ち、筋肉が収縮し始める。


「……てめぇ」それ以上の声が、良は出せなかった。


 大声で喚き散らす人間ほど、本気で怒っては居ない。

 怒りが在る一線を越えた段階で、寧ろ人は冷静に成る。

 今の良は、その段階に近かった。


「前にも尋ねたが、どうだ? お前が我等の軍門に下るならば、全てをやろう。 何もかもをだ。 何をしても許されるぞ?」


 虎女の口から、如何にも甘ったるい声が漏れる。

 それだけではなく、虎女は仰向けに寝転がると、腹を良に見せた。

 その体制は、動物で在れば【降伏】を示すモノだろう。


 纏う衣服がボロなせいか、虎女の肢体が見えてしまう。

 ただ、その目だけは必死に良を見ていた。


 何を云いたいのかはわからないが【見るな】と云っている様にも感じる。

 

 そう受け取ったからか、良は目を伏せた。


「恥ずかしがる事か? 人間ならば理想だろう? 相手の意志などは必要が無い。 ただ単に、欲求の捌け口をくれてやれる」


 そう言いながら、虎はゴロリと身体を反転させた。


「それとも、莫大な富か? 権力か? どちらも選り取り見取りだ」


 虎女の口はそう言いながら、身体を動かす。

 敢えて形容するならば、写真撮影の為の卑猥な体勢ポーズだろう。

 無論、それは本人の意志ではない。


「それが在れば、全てがお前の自由になる。 人間の世界でも珍しい事ではないだろう? 金の為に自分を売り払う人間などは腐るほど居るのだ」 

 

 誰が喋らせて居るにせよ、それが虎女の本心ではない事はわかる。

 ただ、それを聴いている良は、強く強く拳を握り締めていた。


「……ソイツは、魅力的な申し出だなぁ? マジでさ」


 如何にも心がぐらついた様な良の言葉。

 声も勿論の様に震えているが、それは怯えからではない。

 全身の筋肉が、今か今かと動こうとしている為の痙攣であった。


「ただ、生憎と俺の趣味じゃない………変身」


 一言、断りを告げるなり、良は軌道の動作を終えた。

 瞬く間に、篠原良は首領へと姿を変える。


 良が姿を変えたからか、虎女はスッと立ち上がる。


「馬鹿な男だ。 お前の様な奴は皆死んだ。 英雄を夢見てな」


 虎女の口からは、そう言葉が紡がれる。

 それと同時に、身体は変身が始まる。


「理想を抱くか? 家畜風情が。 なら、つまらない夢を抱えて死ね」


 変身が終わると同時に、虎女の目は兜に覆われ見えなくなった。

 

 向き合う首領と虎女。 以前にも、2人は対峙したことは在る。

 しかしながら、今回は2人共に事情が違った。


 以前の良は、仕方なく虎女と向き合った。

 虎女は、自分の意地を示そうとそうした。


 たが、今回は互いに互いを憎んで居ない。

 それどころ、無理やり戦わされる。

 

 ソレがわかっているからこそ、良はなかなか足が踏み出せない。

 対して、虎女は違った。

 

 今までの子猫の弱そうな素振りは消え失せ、悠然と歩く。

 

「さぁ戦え、篠原良。 今度は尻を叩いたぐらいではコレは止まらないぞ?」


 聞こえる虎の声に、良は兜の中で軽く舌打ちを漏らす。

 如何に操られているとは言え、虎女の意志は消されて居ない。


 それが何を意味してるのか、良にもわかっていた。


 人質を取りながらも、同時にその人質に戦わせる。

 戦法としては邪道だろうが、それを咎める意味は無い。

 

 迷う良とは違い、虎女は猛然と良に襲い掛かった。  

 数メートルの距離を、ひとっ飛びで詰める。


 勢いそのままに振り下ろされる虎の腕を、良は掴んだ。

 改造人間同士のぶつかり合いは、地面を抉る程の衝撃である。


『すまねぇ、カンナ』

 

 虎の腕を掴みながら、良は詫びた。

 顔が近いからこそ、カンナに聞こえていると信じて。


 必要だったからと、見捨てた。 

 その事は、良の中に棘として刺さったままだ。


「どうして?」

『んな』

「どうして捨てたの?」


 虎の口から出されたのは、悲痛な声だった。

 見捨てられ、それでも必死に飼い主を信じる様な小さい悲鳴。


 その声を聴いた途端、良の手は緩んでしまう。


 が、そんな絶好の隙を虎の身体は見逃さない。

 膝を一気に振り上げるのだが、膝の先からは刃が突き出していた。

  

 他の事に気を取られてしまったからか、虎女の膝は良を捉える。 

 幸いにも、身体を覆う装甲が刃と膝蹴りを止めていた。

 

 良は、慌てて虎女を振り払う。


 その程度ならば、虎はヒラリと身体を翻す筈。

 その筈が、虎はベタンと地面に転がってしまった。


「痛ぁい!!」幼子が喚く様な虎の甲高い悲鳴。


 その声は、良の追撃を止めるには十分な効果を示していた。


「どうして!? どうしてこんな事するの!?」


 悲痛な声は、良を揺さぶる。

 果たして、カンナが喋っているのか、それとも、誰かが喋らせて居るのか、その区別が良には付けられなかった。

 

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