静寂! 裏で蠢く者達!? その11
愛と博士がバッタリと顔を合わせる頃。
2人を会わせた良はこっそりと基地から出ていた。
搬入口兼、出入り口の扉は、生身の人でしか開けない。
が、穴が在れば其処から出れば済む話しである。
荷物の殆どは新しい基地の中へと入れて居たが、そうでないモノも在った。
そして、その中には首領専用マシーンも含まれている。
車両故に、他の車両同様に外に置かれていた。
「よ、動けるか?」
主の声を受けたマシンは、ピカッとライトを灯す。
その明かりを、良は慌てて手で遮っていた。
「おいおい、頼むぜ? ちょっとお忍びなんだ」
そう言われたマシンは、ライトの光量を抑える。
実に忠実な機械を、良は思わず撫でていた。
「なぁ、急ぎで悪いんだが、頼むぜ? 俺を、連れてってくれ」
主の声に、機械は応じる様にエンジン起こす。
サッと良が乗ると、マシンは風の如く走り出していた。
*
行き先を誰にも告げず、良は独りでマシンを駆る。
これからやろうとしている事。
ソレは如何に馬鹿げた事なのかを、わからない程に愚かでもない。
だが、そうしなければ成らないという念が良を、突き動かして居た。
首領である自分が怪人達を見捨てたという事実は、消せない。
時間が経てば経つほど、何がどうなるかわからない。
本来ならば、たっぷりと時間を掛けて組織の再編成を済ませた後、改めて攻勢を仕掛けるべきだろう。
その方が、成功率だけを見ればグンと高くなる。
が、良はそうはしなかった。 したくなかった。
他人に任せる事は出来る。
しかしながら、その責任を負えるかどうかがわからない。
絶対に味方に損害が出ない保証など無い以上、全ての責任を自分だけで背負う。
その姿勢は、在る意味では自暴自棄と言っても過言ではない。
誰も見ていなかったが、実のところ良はそれだけ追い詰められていた。
背中に這い寄ってくるチクチクした感覚。
それに駆られた良は、捨てた筈の場所へと、独りで向かう。
ソレであれば、失敗して死ぬのも自分だけで済む。
下手に誰かに頼り、間違いを招く事もない。
何が起ころうと、それら全ては篠原良だけが負えば良い。
身勝手と云えば、全く持ってその通りだろう。
が、それを考えられる程、良は余裕が無かった。
少し考えただけでも、嫌な記憶が目に浮かぶ。
未だに姿こそ見えず、相手の正体もわからない。
だが、その残虐性は人間に引けを取らない事を良は身を持って知っていた。
必要ならば、其処に部下が居ようがお構い無し焼き払う。
そんな相手の元に、味方を置き去りにしていた。
そして、何よりも良を焦らせるのは、残してしまった大幹部である。
自分を切り捨ててでも逃げろと叫んでくれた。
あの時はそうせざるを得なかった。
だが、それは言い訳に過ぎない事もわかっている。
迷いを捨てて、戦えば或いは結果は違っただろう。
味方なのだからと、遠慮をしたからこそ、逃げ出す羽目に陥った。
その甘さを、良は自分を責め立てた。
【お前はただの腰抜けだ】と。
人によって、見方は違うかも知れない。 が、良は自分をそう見ていた。
「負けると分かってたって、やらなきゃいけない時って在るんだな……」
馬鹿げた自分を笑いながらも、良は自分を奮い立たせる。
絶対に間に合うと、必死に自分に言い聞かせながら、アクセルを捻った。
主の願いに、忠を尽くす機械は応えてくれる。
改造人間専用のマシンだけ在り、見た目に似合わない駿馬が如く駆けた。
夜の中、そんなムチャクチャな運転をしていれば嫌でも目立つ。
走る改造人間を、遠目から見ている者が居た。
何かを確認したからか、自分も跨がるバイクを起こす。
そうして、後を追うように走らせ始めた。
*
組織の首領が何処かへと向かう中。
新基地の中では、それを知らぬ2人の少女が方々を駆け回っていた。
「首領知りませんか!?」「ちょっと! 篠原さんを知らない?」
言葉は違えど、同じ質問をする博士と愛。
問われた構成員は、うーんと鼻を鳴らす。
「首領ですか? 我々に休めとの仰せでしたが」
皆疲れて居たのだろう。 中には寝ている者も居る。
「それで、何処へ行ったか見てません?」
「そうそう! 誰か知らないの!」
何度となく、同じ質問を繰り返す。
だが、構成員から帰ってくる答えは同じだ。
【わかりません】である。
困り果てた博士と愛は互いに顔を見合う。
「何処行ったんでしょうか」
「此処さぁ、無駄に広いんですけどぉ!」
彼方此方を探して回り疲れたのか、愛と博士はそう言う。
なんだかんだと、二人は基地をグルリと一周していた。
そんなの二人の前で、ドアが開かれる。
姿を見せたのは、女だった。
名乗ろうとしない以上、誰とも言えない。
強いて云えば、分かる事は二人よりも見た目には大人びているだけ。
『さっきから騒がしいが、どうした?』
見た目は女性ながらも、喋り方はどうにも違う印象が在る。
ともかくも、博士は女へと詰め寄った。
「良さんどっか行っちゃったみたいで」
「こんなに広いんだし、どっかに居るんでしょ?」
少女2人の尋常ではない空気に、女はハッとした。
『少し待て……』
耳に手を当て、目を細める。
待てとは云われたが、実質的には数秒間であった。
『この基地には居ない』
「なんでそんな事わかんの? つーかあんた誰?」
女を疑う愛だが、問われた女は耳から手を離した。
『済まないが、私が誰かは答えられない』
「はぁ!? 敵じゃないって保証は無いでしょ?」
憤る愛を博士が背後から止めた。
「大丈夫です! この人のお蔭なんですから! アナスタシアも良さんも助けられたんです!」
必死な博士の声に、愛は身体から力を抜く。
「……何て言うか、ごめんなさい」
如何にも渋々といった少女に、女はフゥと息を長く吐いた。
『八つ当たりの対象が欲しいなら他を当たってくれ。 私はまだ仕事が済んでない』
愛にそう言うと、女は今度は博士を見た。
その目は人とは違う光を放っている。
『高橋リサ。 君の人選眼は少し問題が在るな』
性格故か、女は率直な意見を博士へとぶつけた。
「え? いや、だって、そんなの……」
『私は、君に頼んだ筈だ。 誰かをやれ、と。 彼にお守りをさせろと云ったつもりは無い』
口調こそは激しいモノではない。
が、博士からすると、叱責を受けている事はわかった。
唇を噛む友人を見たからか、愛が女を睨む。
「ちょっと! さっきから何なの!? 偉そうに……」
幾度となく、死線を潜り抜けたという自信が少女の語気を強めるが、女の貫く様な目を見た途端、愛は言葉を止めていた。
『吠えるな。 喚くだけなら、その辺の子犬でも出来る。 自分は偉いんだと居丈高に成りたいなら余所でやってくれ』
明らかに子供扱いをされたからか、少女の口の中で歯が軋む。
が、少女にはこの場で喧嘩をするつもりは無かった。
黙る愛に代わり、博士が女に詰め寄る。
ギュッと胸の辺りを掴む仕草から、その悩みは外からでも見えていた。
「教えてください! 良さんは、何処なんですか!」
必死な博士に、女は『移動中だ』と答えた。
「何処なの? お願いだから!」
もはやなりふり構って居られないのか、愛も懇願する。
が、女はなかなか答えようとしない。
何故なら、勝手に何かをするという事は、良へ義理を欠く事に成るからだ。
基地の世話も、あくまでも良個人への恩返しに過ぎない。
アナスタシアを直した事も、それは良に頼まれたからだった。
逆に云えば、女には良以外の言葉を聞く義理は無いのだ。
もしその事情を他人が知れば【頭が硬い】と罵るだろう。
逆に云えば、それだけ他人を強く想っている事の現れでもあった。
他人がどうのこうのではない。 意固地なまでに自分を押し通す。
が、同時に世の中には【女の一念岩をも通す】という言葉もある。
答えない女に代わり「取り返しに行ったんだろう」と声が掛かる。
その声は、部屋から出て来たアナスタシアのモノだ。
片腕が無く、全身が包帯でぐるぐる巻きだが、目は死んでいない。
「アナスタシアさん!?」「ちょ、ちょっと!? 大丈夫なの!?」
2人の少女は驚き声を上げるが、当の女幹部は首を縦に振る。
「修理は済んだ。 そうだろう?」
アナスタシアに問われた女は、首を振らずに難しい顔を見せる。
『ハッキリ云っておく。 何をするにせよ、保証は出来ない』
女は端的にそう語る。
元々が改造人間を整備するには専用の設備が必要なのだが、この場にはそんな贅沢なモノは用意されていなかった。
一人前の整備士ですら、工具無しでは成り立たない。
それを踏まえた上で、博士と女がアナスタシアを直せたのは卓越した技術故だろう。
身体の事に関しては、アナスタシア本人が一番良く分かっていた。
「保証が欲しければ電気屋へ行けば良い。 そうだろう?」
女幹部なりの冗談に、女は笑う。
『そうだな、その通りだ』
その言葉をお墨付きと認めたのか、アナスタシアが片腕でマントを翻す。
「急ごう。 首領をお待たせする訳にはいかん」
我先にと歩こうとするアナスタシア。
それを見ていた博士も、慌てて自分の腕に在る腕輪を見た。
「私も、良さん迎えに行きます!」
「先に云われたし……まぁ、置いてけぼりは嫌だからね」
ズンズンと歩いていく3人を見送った女だが、クルッと振り向く。
すると、其処にはいつの間にか居たらしい壮年が立っていた。
「すまんな、世話を掛けて」
知り合いではない筈である。
それでも、大幹部の声は同僚に掛ける声に等しい。
それを受けて、女は口を開く。
『御老体も出陣か?』
歯に衣を着せぬ言葉だが、大幹部は動じない。
それどころか、くすぐったいのか額の角を撫でた。
「あの首領。 若い頃の自分を見ている様でな、捨て置けんのだよ。 それに、若者が馬鹿を仕出かすなら、それを窘めるのは年上の仕事さ」
そう言うと、壮年の大幹部は女の前を横切る。
が、ふと足を止めた。
「君も、そうなんだろう? 鉄頭」
確かめる様な声に、女は『そうだね』とだけ答えてくれた。




