表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の組織、はじめました  作者: enforcer
静寂! 裏で蠢く者達!?
87/112

静寂! 裏で蠢く者達!? その10


 相も変わらず、謎の原理にて空を飛ぶ少女。

 何度も見ている良は、もはやそれに対して感覚が麻痺していた。


「川村、さん? どうして?」

「いいから、篠原さん、ちょっと其処、空けてください」


 箒に似た何かに乗る少女は、チョイチョイと手で良に示す。

 手で退けと云われたからか、良は一歩下がる。


 着地する場所が出来た。 


「とう!」


 軽い掛け声と共に、愛は箒からヒョイと飛び降りる。

 通常の物体は重力に逆らう事は出来ない。

 が、魔法使いは違うらしい。


「おっとと」


 スカートを気にしながら、フワリと降り立つ少女。

 着地するなり、愛は良を上目遣いで見た。


「見えちゃいました?」


 軽くそう言う愛に、良は苦く笑った。


「あー、いや、見てなかった」


 わざとらしく、残念そうな素振りを見せる良。

 そんな青年に、少女は少しだけムスッとした様だった。


「まぁ、とりあえず……はい、お土産です」


 そう言って差し出されたのは、ファーストフードの紙袋。


「あー、サンキュー」


 良が、グイと出されたそれを受け取る際、二人の手が触れる。

 その途端に、魔法少女はただの少女へと戻ってしまった。


「おっと……悪い」


 詫びる良に、愛は首を横へと振る。


 変身こそ解かれたが、実のところ愛はいつもの見慣れた格好ではない。

 良が見慣れた川村愛という少女は、学生服という印象が在ったが、この時の彼女は、めかし込んだ様であった。


 その様は、まるで【慌てて用意して来ました!】という風情。


「もう、慣れましたぁ。 ソレよりも! ちょっと座りましょう!」


 率先する少女に、良は「ハイハイ」と答える。

 言葉自体は如何にもしょうがないという風を装いながらも、それとは裏腹に良は気が軽く成るのを感じた。

 

「あー、でもさ、良く分かったな? 此処に居るの」


 隣り合う様に座るなり、ポンと出された疑問。

 それに対して、少女は持参の紙袋を探りながら鼻を唸らせる。


「うーん、そうですね、まぁ、それは別に良いんですけどぉ……はい」


 少女は、質問をはぐらかす様に紙コップを良に手渡した。

 本来なら、愛は良の質問に答えられる。 

 が、彼女はそれに対して答える気は無かった。


「おう、どもども」

「コーヒーですけど良いですよね? 確か、ぶらっくぅ?」


 間延びした様な声に、良はなんとも言えない気分に成った。


「よく、憶えてるな」

「そりゃあもう。 じゃ、いただきま~す」

 

 実質的に愛が持ってきたお土産はコーヒーだけである。

 とはいえ、良がそれに文句を云うつもりは無い。

 渡された所で食べる真似は出来るが、それは意味が無い事だからだ。


 早速とばかりに、ハンバーガーをパクつく愛。

 場所こそ違えど、見慣れた光景。


 そんな【当たり前】を見ていると、良は何かを話したくなる。


「あー、そういや、どうだい? 学生さん」

「うむ?」 


 問われた少女は、口の中のモノをドリンクで流し込む。

 そして「何がです?」と聞き返した。


「いやぁ、学生生活を、謳歌してるのかなぁ……とか」


 出来るだけ当たり障り無い質問を選んだ良。

 対して、問われた愛はニヤニヤと笑う。


「えぇ、女の子の私生活知りたいんですかぁ?」


 意地悪げに笑う愛に、良も少し笑う。


「うーん、ちょっぴりな」


 片手を上げて、人差し指と親指で輪を作ってみせる良に、愛は感慨深いという視線を向けていた。

 以前に出会い、話した時よりも、篠原良は変わっていた。

 

「まぁ、篠原さんだから良いですけど……」


 少女はハンバーガーを食べるのを一旦止め、遠くを見る。


「うーんと、篠原さんは、色々在るだろって言ってくれましたけどね」

「あぁ、そういや云ったな」

 

 良か気楽に答えたつもりではあるが、少女はといえば目を落としてしまう。


「だから、私も、頑張ってみたんですよ。 こう、普通になろうって」

 

 相手が何を考えているのか、それはわからない。

 心を読む読心術といった心得も無ければ、そんな機能は良には無い。


 それでもわかること在った。


 唇を僅かに尖らせ、眉を寄せる。 少女が困って居る事は、良にも伝わる。


「だけど、楽しくない……とか?」


 モノは試しと、鎌を掛けて見る。 

 すると、愛はハッとした様に良の方を向いた。


「そうそう、そうなんですよ!」


 想像以上の反応に、良は思わず背を反らせる。

 何故ならば、愛がグイと身を前出すのだ。


 二人はいつまでもそんな体勢で居るはずがなく、お互いに示し合わせた様に元通りに戻る。


 良はホッとした様だが、愛は不満げであった。


「ともかく! 楽しくないって訳じゃないんですよ。 勉強とか、部活とか、友達の付き合いとか、ただ……」

「おいおい、どうしたんだよ?」


 少女が敢えて引けば、今度は良が出てしまう。

 その手応えを感じ取ったのか、愛は笑った。


「いや、普通って、何なんでしょうね」

「えあー、そりゃあ……うーん」


 いきなりの質問に、良は答えられずに悩む。

 普通を問われた所で、今の良には答えようが無いのだ。

 そうだった記憶は在る。 が、その記憶は鮮やかではない。


 悩む良だが、愛は別に答えを求めては居なかった。

 欲しかったのは相槌だけだ。


「いやいや、私だって一応ほら、分かってますって。 篠原さんが云ったみたいに、友達とあれこれしたりとか、男の子と話したりとか、でも、あんまり面白くないんですよね」


 平凡を取り戻した筈の少女、川村愛。 ただ、その口振りから良は察した。

 彼女は、日常生活を楽しめて居ないんだ、と。


 その理由は、良にも分かる。


 改造人間と魔法少女と、お互いに全く違う存在ではあるが、種類が問題なのではない。

 一度変わってしまった者にとってみれば、普通という事柄自体も変わってしまう。


 良自身も、以前の生活と全く違う生活を送っている。

 川村愛は篠原良が失った筈のモノを取り戻した筈である。

 が、取り戻した所で、それは多感な少女にとっては無味乾燥なモノだった。

 

 一応学生生活は送るが、愛に取っては退屈なモノだらけなのだ。

 

 ただ、それは少女が変わった事を示している。


 命懸けの戦いを続けていた。 殺すか殺されるか。

 そんな瀬戸際で戦い続けた少女にとっては、穏やかな生活は刺激に欠けるモノなのは良にも分かる。


 だが、一つだけ二人には違いが在る。 

 愛は【戻れる】が、良は【戻れない】のだ。


「良いじゃないか、穏やかな方がさ?」

「えー、だってそんなのつまら………」 


 羨ましいといった良の声に、思わず愛は良を見る。

 が、見た途端に、少女はハッとなってしまう。

 

 今の良は、まるで誰かの葬式を見つめている様であった。

 流石にその顔を見てしまえば、愛も内心穏やかでは居られない。


「あ、そ、そう言えば。 急にリサから連絡来たんですよ! なんか、篠原さんの事を頼むーとか? それに、此処は新しい基地らしいですけどぉ、前のはどうしたんです?」


 何とか空気を和まそうとしたのか、投げ掛けられる質問。 

 が、良にとっては答える事は出来ても、答えたくない質問であった。


 一旦は愛の力も借りて、怪人軍を撃退した。

 続く航空機の攻撃も耐え、落とした。

 それらの功績は、少女無くしては有り得なかったかも知れない。


 問題なのは、更にその後の事である。


 諸々の諸事情によって、愛は帰らざるを得なかったが、その後に起こった事に関しては彼女には責任は無い。

 寧ろ、その責任は良にこそ在る。

 

 それ故に、良は口を閉ざしてしまった。


「あの、云いたくないなら……」


 何か癪に障ってしまったかとオロオロしだす愛に、良は首を横へ振った。

 悪いのは帰ってしまった少女ではない。


 そもそも、誰かに頼らねば何も出来ない方が悪いと良は自分を責めていた。

 

「川村が帰った後さ、ちょっと在ってな」


 他の事に気が向いて居るからか、良は自然と呼び捨てにしていた。

 が、一々それを咎める程少女も狭い心の持ち主でもない。


「ちょっとって、どうかしたんですか?」


 そう促されたが、良は語ろうとは思わなかった。


 巷の噂によれば、他人に愚痴るのは良くないという。

 人はそれを、女々しいと罵る。 それが良の口を蓋の如く塞いで居た。


「いや、別に聴いたってつまらん話だよ」

「そんなの……あ、でも、皆居るんですよね? アナスタシアも、カンナも、博士も、皆も」


 少女は悪気が在って尋ねては居ない。

 そもそも、愛が連絡を受けた際、事細かい説明は省かれていた。

 博士も忙しい故にそうしていたが、少女は事情を知らないという。


 忙しさにかまけて、良は失念していた。

 自分が、何をしてしまったのかを。


「……おっと、そう言えば」

「え? あ、はい?」

「博士も川村に会いたがってたからさ、ちょっと、会ってやってくれないか?」


 急な話しだが、愛も何となく察する。

 恐らくは、博士から何らかの話が在るのではないか、と。


「そりゃあ、構いませんけど」

「そっか? じゃあ頼めるかな? ほら、俺も……他の奴の面倒見ないといけないからさ」 

「えーと……はい、じゃあ」


 何とも言えない優しい微笑みに、愛も思わず頷いてしまった。


   *


 知らない場所ではあるが、少女に不安は無い。

 自分は強く、加えて、中に居るのが知っている人達だという安心感から、愛は良に教えられた通りに闊歩していた。 


「此処かな?」


 基地の中はそう難しい構造はして居らず、迷いはしなかった。

 とある部屋の前に来たところで、愛は手を挙げる。


 いきなり部屋のドアを開けるよりは、先ずはノックからしようと。

 が、戸は叩かれる前に開いた。


「愛さん?」

「ヤッホー! ハンバーガー買って来……って、どうしたの!?」


 部屋から出て来た博士だが、一見するとただ事ではない。

 羽織っている白衣の彼方此方には、何かが飛び散った跡が多く残されていた。

 例えるならば、殺人事件の犯人だろうか。


「え? あー、コレは、アナスタシアさんの治療をしてて……」

「治療!? ちりょーって何!? 何が在ったの!?」


 困惑する愛の様子から、呼び出した張本人は在ることを感じ取る。


「あの、もしかしたら、良さんから何も云われてないんですか?」

「云われてないよ! あんたに会ってやってくれって頼まれたんだもん! それにさ、あんたも何も云わなかったじゃない」

 

 愛の声に、博士は【しまった】と感じた。

 

 良は、首領らしく振る舞っては居る。


 が、それは傍目から見ていればの話である。   

 見方を変えれば、何もかもを独りで抱え込むという事になるだろう。


 だからこそ、博士は女から頼まれたのだ。 

 誰かをやれと。 支えに成れるであろう誰かを。


 悲しいかな、年若い少女にその役目を負えるかどうかを、博士は考慮に入れて居なかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ