静寂! 裏で蠢く者達!? その9
怪しい基地に、怪しい一団が続々と入る。
本来ならば、この基地は想像を絶する悪と戦う為の正義の拠点と成る筈であった。
が、今この基地を選挙しているのは、悪の組織である。
とにかくも、運び込めるモノは運び込み、それは放置されていた。
それ以上に組織にはやるべき事がある。
「首領! 貨物はどう致しましょう! まだ梱包のままですが」
「荷物の整理は全部後で良い! 今は全員の安全を確保だ!」
今の良は、以前に無い程に首領らしく指示を飛ばしていた。
それに対して、構成員はビシッとポーズを決める。
「は! 首領! 直ちに!」
指示を受けた構成員は走り、また別の構成員が来る。
「首領! 手空きの者が出始めて居ますが?」
「とりあえず飯を用意して休ませてやってくれ。 皆、ゴタゴタし過ぎで疲れてるだろうからな。 順繰りで休みを取らせろ!」
もし、アナスタシアが起きていれば、目を見開いただろう。
切羽詰まったからこそ、良はそうせざるを得なかったともいえる。
逆に言えば、必要に迫られたからこそ、以前ならば嫌がっていた役目を自ら背負っていた。
*
新しい基地を手に入れたが、前途は多難である。
そもそも放置されていた以上、掃除などがされている筈もない。
とにもかくにも、構成員に基地の整備を任せた良は別の事に取り組んだ。
深刻な顔で良が見守るのは、意識が無いアナスタシア。
未だに、起きたらどうなるか分からないので眠らせている。
が、いつまでもそのままではいけないという事もわかっていた。
「なぁ、此奴の面倒、見てやってくれないか?」
未だに名を知らない女に、良はそう頼む。
が、女は実に難しい顔を浮かべていた。
『ふぅむ、以前に君にした様に……か?』
「あぁ、そうだ」
勝手にアナスタシアを再改造する事には抵抗が無い訳ではない。
が、そのままでは起こすことも出来ない以上、取れる選択肢は多くはなかった。
『良さん、本当に大丈夫なんですか?』
良の選択には博士が難色を示すが、そんな博士に良は目を細めた。
「えーとさ、ところで博士、その格好気に入ったのか?」
今の博士だが、いつもの白衣姿ではない。
怪しい腕輪のせいか、構成員以上に怪しい格好であった。
頭全てを覆うヘルメットに、桃色の派手なタイツ。
『好きでしてませんよ! もう!!』
そう言いながら、博士は地団駄を踏む。
ただ、本人は忘れて居るが、博士は変身をしていた。
軽く踏んだつもりなのに、床がミシリと僅かに凹む
その事には、博士本人ですら驚いた様子だった。
『あぁ、どうやったら戻れるのか……』
変身したという事実に、未だに博士は混乱しているらしい。
普段の聡明な頭脳は、引っ込んでしまっていた。
「着けた時と逆をやってみれば?」
『え? あぁ、はい』
灯台下暗しという言葉通り、案外身近な事には気付けない。
ともかくも、助言を素直に受け取った博士は、それを実行する。
すると、博士を覆っていたモノは淡い光を放って消えた。
全身が解放されたからか、博士は息を吸い込み、吐き出す。
全身全霊にて、安堵を感じているらしい。
「あー良かったぁ……戻れたぁ」
「まぁまぁ、別に変身しただけだろ? 死にゃあしないよ」
軽い良に、博士はジトッとした目を向ける。
「人事みたいに言って、酷くないですかぁ?」
「そうか? 別に気にしなくても大丈夫だろ?」
「そんな簡単に……」
途中まで言い掛けた博士は、慌てて口を塞ぐ。
博士は変身こそしたが、別に身体はどうという事はない。
あくまでも、生身のままである。
対して、良やアナスタシアは違った。
【戻れる】のと【戻れない】では、全く真逆であった。
改造人間は、もう人には戻れないのだ。
口を手で塞ぐ博士に、良は苦く笑う。
「ま、それはソレとして、アナスタシアの処置、頼めるか?」
改めて頼まれた女は、チラリと博士を見る。
『設備は粗末だが、専門家も居る。 何とか成るだろう』
「そら良かった。 駄目ですとか云われたらどうしようと想ってたんだ」
『なぁに、既に実直試験も済んでいる。 慣れたものだよ』
女の言う試験とは間違いなく自分だと分かる良。
実験材料にされたのは気分が滅入りそうになるが、アナスタシアの為だと思えばそう辛くはない。
「と、とにかく、頼む」
『そうか? では首領。 退出してくれ』
「え? なんで?」
首を傾げる良に、女と博士は目を細めた。
『私は構わないが、君は、彼女の中を見たいのか?』
「それに、アナスタシアさんも、見られたいとは言わないかと」
2人からそう言われた良は、ハッとなる。
如何に身近な人とは言え、その中身を見たいとも思わない。
ましてや、詳しくもないのに関わるのも野暮であると悟った。
「あー、そっか、じゃ、まぁ」
言葉を選びつつ、良は、ぺこりと頭を下げる。
「宜しくお願いします」
頼れる者が他に居ない。
今は、博士と女を信じて任せるしかなかった。
良が出て行った後、2人は女幹部の処置する為に準備を進めるのだが、チラリと女の目が博士を見る。
『ところで、高橋リサ』
「え? はい」
『首領はだいぶ無理をしている。 気丈には振る舞ってるが、体はともかく心がボロボロだろう。 だから、誰かをやった方が良い』
「誰かって……誰をです?」
『君にも友人は居るだろう? 信頼出来そう人が』
女の声に、博士は「ああ」と云うと白衣に手を伸ばした。
組織の関係者ではなく、友人と呼べる誰か。
多くはないが、それは博士にも居た。
*
女幹部の処置を任せ、良は部屋を出る。
まだまだ基地の中は知らない事だらけだが、構造その物は難しくはない。
「迷路じゃないだけ、感謝しないとな」
そう言いながら、良は基地の中をぶらつく。
ふと、差し込む光に気付いた。 照明の灯りとは違う、強い光。
それに気付いた良は、それにふらふらと吸い寄せられていた。
暗中模索である以上、何かに縋りたい。
無理をして首領らしく振る舞ってこそ居た。
だが、それは良にとっては楽な立場ではない。
人に縋られるからこそ、自分はそれを率いねば成らず、引っ張った。
しかしながら、それにも限界は訪れる。 体力的な話しではない。
道標すらない道を、大勢を引き連れて歩き通す。
それは、先頭に立つ良の精神を大いに疲弊させていた。
「おっと、見晴らし台って奴かな?」
光に誘われ、出て見れば、其処は小さいがベランダであった。
石造りであり、どれだけ時が経ったのか苔がむしている。
ふと気付いたが、其処には先客が居た。
「やあ、首領」
「ソードマスター、さん?」
良が思わず呼ぶと、壮年は小さく息を吐く。
「その呼び名は止めてくれ。 そんなに大した者じゃない」
「でも、名無しさんってのも」
「気にするな、此処には私と君しか居ないからな」
大幹部と共に、景色を眺める首領。
本来居た基地とはだいぶ違う場所だが、見える景色は似ていた。
「そう言えば、大丈夫かね?」
「え?」
「何というか、疲れた顔をしている」
図星を突かれ、良は目を落とす。
逃げ出すまでに色々な事があった。 逃げ出してからも、色々と在った。
そして、これからもソレは在るだろう。
その事が、良の気分を重くする。
「何て言うか……俺、どうなんだろって」
「君は良くやってるよ」
「そう、ですかね? どっちかって言えば、間違ってばかりじゃないかって思うんすけど」
良の声に、大幹部の目がグリッと動く。
「間違いばかりなのが人間だろう? それとも、何もかも上手くやらねば駄目かな?」
「でも、もっと上手くやっていれば、他の奴等だって……」
嘆く良を、大幹部は豪快に笑った。
「はは、でもでもだって? そんなのは女々しい奴の云うことだ。 もし、あの場で君が何をしようが、そう結果は変わらんよ」
何も言えない良に、壮年は遠くを見た。
「取り返しの付かない失敗なんて誰もがしている。 そして、皆が思うんだ。 あぁ、あの時ああしていれば、こうしていれば良かったのに、とね。 だが、そんな事は人間には出来ない。 出来るのは、その失敗から何を学ぶのかだ。 初めから何もかも失敗しない奴が居るとすれば、それは神の領域だろう」
其処まで言った所で、壮年は良を見た。
深い色の瞳は、言い知れぬ後悔と悲しみが垣間見せる色である。
思わず、引き込まれそうな錯覚すら良は感じた。
「それとも、君は、神に成りたいのか?」
問われた良は、ハッとなって慌てて首を横へと激しく振った。
自称ではあるが【神だ】と名乗る者の身勝手さは嫌という程に味わっている。
「冗談じゃねぇっすよ……あんな奴等」
きっぱりと否定して見せた良に、壮年は笑う。
「なら結構じゃないか。 君の失敗は、まだ取り返せるだろう?」
大幹部の助言に、落ち込んで居た良の気分も改善していた。
云われて見てわかった事だが、その通りでもある。
敵が誰なのか、未だにそれはわかっては居ない。
それでも、為すべき目的は既に見えていた。
用意を調え、盗られたモノを力付くでも奪い返しに行く。
「そっすね。 とりあえず、御礼参りに行きますか」
売られた喧嘩は買う。 盗まれた者は是が非でも取り返す。
そう自分へと言い聞かせる良に、大幹部もウンと頷く。
「その意気だよ首領。 あ、ところで」
「はい? なんすか?」
「お客様らしいぞ」
壮年は、どこか遠くを指差す。
示された方へと、目を向けると其処へと集中した。
改造人間の優れた目は、人には見えないモノでも見える。
よくよく見てみれば、何かに乗った誰かが、ブンブンと手を振りながら此方へと飛んできているではないか。
「かわ、むら……さん?」
困惑する良を余所に、壮年は肩を竦めて居た。
まるで、付き合いきれんと言いたげに。
「うーん、若いとは良いことだね。 ただ首領、年寄りから一つだけ言わせてくれないか? あんまり女の子を待たせると、どうなっても知らんぞ? 只でさえお嬢さん達はヤキモキしてるからな」
まるで、孫を諭すお爺さんの様な言葉を残して、壮年はベランダから立ち去ってしまう。
残された良だが、その耳に声が聞こえ居た。
「篠原さーん!!」
魔法使いにどうやって来たのかを問うのは野暮だろう。
ただ、聞き慣れた声は、良に僅かに安らぎをくれた。




