静寂! 裏で蠢く者達!? その8
這々の体で逃げ出した悪の組織は、指定された場所屁向かう。
数台の車が走る訳だが、その車内に明るい空気は無い。
寧ろ、どの車内でも重苦しい空気が漂っていた。
構成員達は勿論、大幹部ですらもそうなのだ。
そして、その首領はと言えば、なんとも難しい顔である。
果たして、自分達は何処へ行くのか。
辿り着いた所で、何か奇跡が起こるのか。
兎にも角にも、悪の組織は一路、目的の場所へと向かった。
*
時間にして、数時間は走った頃。 車両が止まる。
「着いたのか?」
良の声に、博士は通信機を耳に当てた。
「お待ちを……そう、はい。 その様です」
博士の報告を受けた首領は、ウンと頷くと1人でトラックから降りようとする。
が、その前にと博士を見た。
「いざという時の為に、俺1人で行くよ」
「え、でも」
「ヤバい時は、皆は先に行ける様に待機だ」
本来ならば、誰かを偵察に向けるべきだろう。
そうすれば何か在った場合は被害は最小に抑えられる。
だからこそ、良は自分でその役目を負うことを決めた。
下手に構成員達に犠牲を出したくはない。
「良さん……」
心配そうな博士に、良は笑って見せた。
「そんな顔すんなって。 俺なら、なんか出て来ても何とか出来るだろう? だから、いい子で待ってろ?」
颯爽と降りようとする良だが、ふと思い付いた様に足を止める。
「あっと……それと、アナスタシアを頼むな?」
二度足を止めたが、良はトラックの荷台から降りる。
そんな首領に、博士は少しだけムッとした。
チラリと、台に寝かされたままの女幹部へ視線を向け、口を開く。
「ズルいですよ……私だって……」
ぼそりと博士はそう言うが、その声は意識の無いアナスタシアには聞こえて居なかった。
*
1人で外に出る良は、辺りを見渡す。
指定された場所ではあるが、其処は所謂観光地の外れである。
特徴的なのは、其処は豊かな自然が残されているという点だろう。
「信じろって云うけどさ、何処だ、此処?」
疎い良からすると、其処が何処なのかと迷う。
真夜中であれば、人気の無い観光地はかえって不気味だ。
『此処は有名なんだよ? 首領』
聞こえた声に、良は其方を振り向く。
「あんたは」
『大変だった様だね』
そう声をくれたのは、知っている筈だが良は知らない人だ。
何処の誰で、本当に人間かも。
「感謝はしてるんだ。 ただ、昔にどっかで会ってないか?」
雪山でも会ったが、それだけではない何かを感じる。
存在しない筈の何かが、良の中に引っ掛かっていた。
『それは……言えない』
「どうしてだ?」
『これでも通すべき義理がある。 手助けだけで、勘弁してくれ』
懇願されれば、良もそれ以上の追求を求めなかった。
相手の正体がなんであれ、敵でないなら詮索は無用だ。
寧ろ、助けてくれる相手を怒らせるのは賢いやり方ではない。
「わかった。 恩にきるぜ。 ただ、此処は……」
『人手が必要だ。 博士を呼ぶと良い』
やはりと云うか、良は謎の人物の正体が気に掛かる。
傍目には人だが、並外れて整った顔立ちに、完璧な肢体。
それ故に、何処か人ではないと感じさせる目。
加えて、良以上に何かを知っていると想わせる素振り。
それらをひっくるめて問いたくも在るが、今は別の用がある、
「わかった、博士を呼んでくる」
『うん、頼むよ』
サッと踵を返す良を、女は見守っていた。
*
良から来てくれと言われれば、博士も頷く。
「アナスタシアは?」
「今は安定しています。 当分はだいじょう……ぶ?」
知らない人にいきなり遭遇したからか、博士は目を丸くした。
会ったこともない誰かが居る。
「だ、だ、誰です? その人は!?」
博士の慌てる声に、女は笑う。
『あぁ、そう言えば初めましてだな。 高橋リサ』
「なん、なんで私の事を?」
慌てて良の後ろへ隠れる博士に、女は目を細めて鼻を唸らせる。
『ふぅむ。 君は、アイアンヘッド、という単語に聞き覚えは?』
「はい? なんですかソレ?」
至極当然の反応に、女は頷く。
『ソレで言い。 とにかく此方へ来てくれ。 時間は押している』
サッと振り返る姿も優美なのだが、妖しさが在る。
「良さん、誰なんです?」
「うん? あぁ、何度か助けて貰った恩人なんだ」
首領の恩人ともなれば、博士も悪い気はしない。
ただ、歩く後ろ姿に何かを感じていた。
何処かで見たような気はするが、記憶には無い。
『ボーッとしてるんじゃない』
全く背後を見ずに、女は2人を急かす。
頭の後ろに目が付いているのかと問われれば、実は間違い無かった。
*
『此処だ』
そう案内されたのは、ヤケに古めかしい扉の前である。
取って付けた様な扉は在る意味組織の基地に似ていた。
「へぇ、こりゃあ……立派な扉だね?」
良はそう言いながら扉を指で探る。
だが、分かるのはそれが如何に古いかと言うことだけだ。
「えーとさ、でも、開きそうもないぜ? ま、開けろってんなら試すけどさ」
『うん、我々では無理だな』
女はそう言うと、博士を見た。
『高橋リサ』
「え、はい?」
『君が開けるんだ』
それは、世間で云うところの【無茶振り】にも似ていた。
改造人間ですらてこずりそうな扉を、女は細腕の博士に開けろという。
「や、バールとかも、一応在りますけど」
『そんなモノは要らない筈だ。 試してくれ』
理系の博士からすれば、馬鹿げた頼みであった。
質量と体積から察すると、岩の扉は数十トンは在るだろう。
そんなモノを、博士に動かせという。
「どうしろってのよ」
科学者からしても、どうしたら良いかが分からない。
素手では無理だと、思わず手をペタリと扉に着けた。
次の瞬間、なんと扉は動いたのだ。
「おお、すげー」
『うむ、やはり生身の人間でないと駄目だったか』
良が試した時は、岩の扉は動かせなかった。
だが、博士が手を当てただけで、扉は開く。
「こんなの、有り得ない……」
見たものを信じられない博士だが、そんな彼女の肩を良がポンと叩く。
「良いじゃない、今は、何でも頼りたいんだ」
良はそう言うが、博士からしても、藁にでも縋り付きたいのは同じだ。
「えと、でも、中はどうなってるんです?」
恐る恐るな博士の質問。 それに対して、女は首を横へと振った。
『それは私も知らない』
「そんな……じゃあ、なんでこんな場所知ってるんですか?」
問われ、ふぅむと鼻を唸らせると、女は苦く笑った。
『時間だけは、たっぷり在ったのでな』
見た目に不相応な物腰やしゃべり方をする女に、博士はウーンと唸る。
引っ掛かるモノは在るが、やはりそれが何なのかは分からない。
見た目には華奢な女だが、何処かで見たことが在る気がした。
『ともかく、入ろう。 中を確かめねば成らん』
颯爽と中へ足を踏み入れる女には、迷いや躊躇は無かった。
*
三人がなかへと入ると、まるで迎えるように灯りが点る。
「おお? こりゃあ……」
中を見た途端、良は、思わず声を漏らした。
長年手入れがされてないからか、辺りは埃に覆われ、お世辞に綺麗とは言い難い。
だが、そんなモノすら忘れさせる偉容が在った。
ソレは、人型ながらも人ではない巨人。
有り体に言えば、超大型ロボットが居たのだ。
だが、余程放置されていたのだろう、とても動きそうには見えない。
「凄い! でも、此処は何なんですか?」
至極当然な博士の質問に、女は笑う。
『此処か? まぁ、世界が終わりそうな時、それを阻止する為に造られたんだろう。 造ったのが誰かなんて知らないが』
女の説明を受けても、博士にはチンプンカンプンである。
何処の誰が、果たして何の目的でこんな場所を造ったのだろうか。
それを考察すべく、博士は良を探す。
「首領、良さん?」
そう言う博士の目には、なにやらヘンテコなモノを見つめる良が映った。
「ははぁ、こんなモンまであるぜ? ほら」
良から放られたモノを、博士は思わず受け取った。
ソレは、傍目にはゴツい腕時計という所だろう。
だが、時を示す板は無い。
「なんです? コレ?」
「着けてみれば」
「え? な、なんで私が?」
いきなり怪しいモノを着けろと云われれば、誰でも嫌がる。
が、良は既に別の腕輪を弄っていた。
「いや、だってさ、俺が着けても弄っても、うんともすんともいわねーんだよ」
其処で、博士も気付いた。
生身の人間だからこそ、博士は扉を開くことが出来たのだ、と。
つまり、今手の中の腕輪も、改造人間では動かせないと察する。
「でも、大丈夫ですかね」
「嫌なら、まぁ、やめときなよ」
やんわりと止める良に、博士は息を吸い込む。
自分だけは、今まで安全な場所で護られていた。
だが、今こそは知恵を捨て、蛮勇を振るう。
「えい!」
掛け声と共に、博士は腕輪を装着する。
すると、古めかしい筈の腕輪が動き出したのだ。
瞬く間に、博士は、なんと変身をしていた。
ピチピチのタイツなのは組織のソレと似ているが、見た目は違う。
『な、なんです? コレ?』
いきなりの変身に慌てる博士を見ながら、良は何かを悟る。
人でなければ開けられない扉、謎の大型ロボット、変身腕輪。
それらは、何処かで見た気がした。
「此処はたぶん……正義の味方の基地って所かな?」
『うん、そうだろうな。 見た限り、長らく放置されていたらしいがね』
女の肯定する声に、良は辺りを見渡す。
見てみれば、博士に渡した分を除いても、山ほど腕輪は在った。
その数は、連れて来た構成員達に回しても余る程である。
「そっかぁ、ホントならさ、正義の味方が此処を使うんだろうけど……」
良はそう言うと、息を深く吸い込む。
多少埃っぽいが、改造人間には関係が無い。
「……悪いが、此処は俺たち悪の組織が頂くぜ」
そう言う良は、何かを思い付いた様な笑みを浮かべていた。




