静寂! 裏で蠢く者達!? その7
「良さん! 何が起こってるんですか!? アナスタシアさん!?」
慌てる博士だが、良はアナスタシアを運ぶのに必死であった。
『話は後だ! 作業中だろうが全員を待避させろ!』
「え? でも、他の人は、それに……」
戸惑いを見せ博士の声に、良は兜の中で歯噛みをする。
考えるべき事は山ほど在るが、時間は殆ど無い。
『今は……頼む』
大声を出した所で、事態は解決しない。
「は、はい! 皆! 急いで!」
博士の声に、ピチピチタイツの構成員達も続く。
確かに、基地を放棄する予定ではあった。
が、それは良が予定していた形ではない。
在る意味、這々の体で逃げ出す、という方が近かった。
出入り口兼用の大型エレベーターへと、組織の皆を乗せるのだが、中には、急な事に遅れる者も出てしまう。
その為、良はアナスタシアを博士とソードマスターに預けると、自分は降りた。
『頼んだぞ!』
大会議室のドアだが、別に閉じられてはいない。
寧ろ、斬られた以上はそれは穴と同じである。
其処からは、ノロノロとした動きで怪人達が出て来て居た。
事情を知らない構成員は首を傾げる。
何故怪人は変身しているのか、何が起こっているのか、と。
「あれ? どうして……」
『離れろ!』
何も知らない構成員と怪人の間に、良が割って入る。
そうしなければ、怪人の腕が構成員の頭を潰しただろう。
「ひぃ!?」
腰を抜かしたのか、倒れる構成員だが、仲間が引っ張る。
それを見ていたからか、怪人が良を見た。
『首領、置いて行かないでくれ』
縋る様な声とは裏腹に、その身体は操られているからか、執拗に良を殺そうと狙う。
それが如何に本人の意志ではないとは言え、良にとっては気楽ではない。
『……すまん!』
相手がただ立っているだけならば、連れていけるかも知れない。
だが、攻撃をし続けるとなれば無理がある。
アナスタシアの様に一部を破壊するという手もなくはない。
だが、次々と穴から怪人達は出て来ていた。
遅れれば遅れる程に、逃げる機会は失われていく。
「首領! 早く!」
博士の声を合図に、良は、怪人を突き飛ばす。
明らかに見捨てる様なモノだが、それは良にもわかっていた。
上がり出すエレベーターへと、良は飛び移る。
そして振り返れば見えてしまう。
下から、逃げ出す自分達を見る怪人達。
必死に助けた筈の彼等を見捨てる。
ソレは、良にとって辛い決断であった。
*
行き先はともかくも、既に撤退の準備はほぼ終わっていた。
その甲斐もあり、構成員達は逃がせる。
だが、それは良にとっては吉報ではない。
何処へ行くかも決めず、ともかくも車両の一団は、逃げる様に走り出した。
その内、幌の張られたトラックの荷台では、一悶着起こっている。
『抑えろ!』
台に寝かされたアナスタシアだが、死んでは居ない。
そして勿論、身体は操られたままである。
片腕が無いとは言え、大幹部級の改造人間。
もし、良が居なければ、それを止めるのは難しいだろう。
何よりも辛いのは、アナスタシアの呻きだ。
必死に堪えては居るのだろうが、痛みを抑制されていない。
『博士! なんとかしてやってくれ!』
必死に抑える良の声に、博士も「はい!」と応える。
取り出されたのは、大型の注射器に似ている器具。
ソレを、博士はアナスタシアへと打ち込んだ。
僅かの間、アナスタシアが身体を震わせる。
直ぐ後、全身から一気に力が抜けた様にガクンとおとなしく成った。
それだけなら良いが、変身も解けてしまう。
そうなると、見えるのは痛々しい姿。
目を背けたくも成るが、良はそうしない。
自分がしてしまった事を、しっかりと焼き付ける様にしていた。
「とりあえず、損傷部は塞いで置きます」
テキパキと必要なモノを取り出すと、準備を始める博士。
それを見ながら、良の変身を解いていた。
「手伝える事が在ればやるよ」
「はい! ともかくも、急ぎましょう!」
必死にアナスタシアの傷を塞ぎ始める博士。
対して、良はソッとアナスタシアの頬を撫でていた。
意識が無いからこそ、今の彼女の顔には険が無い。
が、少し前に聴いた悲鳴は、耳にこびり付いたままであった。
暫くの後。
専門家である博士の懸命の処置が済む。
が、アナスタシアの、腕は肩から先が無い。
慌てて居たという事もあるが、あの場に置いて来てしまっていた。
「ところで、良さん」
「ん?」
「何があったんですか? いきなり色々在り過ぎて、何がなんだか……」
困惑する博士。
そんな彼女の質問に、良はどう答えるべきかを迷った。
無論、簡潔に説明は出来る。
首領の裏にいる大首領に、改造人間達は操られてしまったのだ、と。
が、それをどういうべきかが分からない。
何故なら、改造をしたのは博士である。
直接的な原因は彼女ではないが、その一端を担っていた。
とは言え、云わねば成らないという事も良はわかっている。
何せ、今はアナスタシアは大人しくしているが、起きたなら何が起こるのかは全く不明だ。
「なぁ、博士。 アナスタシアをこのまま寝かせ続けるって出来るか?」
「え? それは、出来ますが。 何故です?」
問われた良は、息をスッと吸い込んだ。
「何て言えば良いか、良くわかんねぇけど、首領よりも偉いって奴が居たんだ」
そう言われても、博士にはピンと来ないのか首を傾げる。
「それでな、其奴に、アナスタシアは操られた」
「アナスタシアさんがですか?」
博士からすると、気位の高い女幹部が操られるという点は納得出来ないのかも知れない。
無論、その推論は間違い無い。
精神を操られて居たわけではないからだ。
「でも、他の人は? カンナさんは?」
恐る恐るといった博士に、良は顔をしかめる。
云うのも辛いが、見捨てたという事が何よりも辛い。
「……改造されてた奴は、身体が乗っ取られてた」
良が告げると、博士はヒッと息を飲む。
予想していたとは言え、良はもっと上手い言い方が出来ない自分を恥じた。
「で、でも! それじゃあ」
「博士のせいじゃない」
「でも!」
必死に食い下がる博士を、良は出来るだけ優しく見る。
暗に【お前が原因だ】などと叱責しても意味が無いのだ。
「そんな事は良い。 ソレよりも、アナスタシアだけでもなんとかしてやれないか?」
「えと、それは」
良は、自分の身体を親指で突いてみせる。
「前にさ、俺が再改造されたって知ってるだろ?」
「はい、それは」
「だからさ、アナスタシアもなんとか出来ると思うんだ」
良の声に、博士は目を細める。
人差し指を噛み締め、何かを思案中らしい。
「出来ると思います。 ただ、此処では……」
今居るのは、トラックの荷台だ。
然も、アナスタシアを寝かせている台にしても、偶々それに積んであったというだけである。
如何に博士とは言え、設備が無ければ出来る事は多くはない。
今の良達には、基地が必要であった。
「困るね……今から取り返すってもなぁ」
悩む良を見ていた博士は、ピンと何かを思い付いたのか顔を明るくする。
「そ、そうですよ! 川村さんに頼めば!」
絶大な力を持つ友人に頼る。 それ自体は悪い事ではない。
かの魔法少女ならば、良の一声で駆け付けてくれるだろう。
だが、良の中にはその案は入って居なかった。
「たぶんな、呼べば来てくれるさ。 一緒に戦ってもくれる。 だけどさ、それでどうすんだ?」
「どうするって」
「基地に居る連中を片付けろってんなら、そら幾らでも出来るだろうさ。 でもよ、あいつ等は敵じゃないんだぜ? 無理やり操られてるだけ。 そんな味方を殺すのか?」
良の声に、博士は目を反らしてしまった。
現在は確かに基地を占拠されはした。
ただ、それをしているが味方であるという点は変わらない。
問題なのは、その味方が訳の分からない誰かに操られているという事だ。
女幹部1人ですら、戦闘不能にするのに大事であった。
それは、戦った良自身が一番良く分かっている。
然も、それは相手方がワザとアナスタシアだけを差し向けたからだった。
もしも余興などせず、あの場に居た怪人達を全員相手取って居たなら、今頃良はバラバラにされていただろう。
相手からすれば、あの戦いですら見せ物に過ぎない。
「じゃあ! その誰かを倒せば良いじゃないですか!」
博士にとっては妙案だったのだろう。
だが、良には苦笑いしか湧いてこない。
「わかってるよ。 ごもっともだ。 だけどさ、誰を倒せば良いんだ?」
「あ、それは……」
「影の黒幕なんて云うけどさ、ホントに面倒だぜ」
最も根本的な問題。
それは、倒すべき相手が誰なのか、ソレすらわかっていないという事だった。
【何処其処の誰々】であれば、良は1人であろうも今すぐ其処へ行っただろう。
例え相手に万の軍勢が居ようが、全員を叩き伏せる自負はある。
が、如何に気負った所で、相手が分からないのでは意味が無い。
良と博士が悩む中、博士の白衣から軽い音が響く。
「すみません、はい……え、あぁ、ちょっとまって」
通信機を耳から離した博士は、良を見た。
「あの、良さん」
「どうした?」
「先頭車両からですが、何処へ行けば良いのか……と」
当たり前だが、首領である部下から質問が来る。
行き先も決めずに逃げ出した以上、まだ行く宛が無い。
「何処へ……かぁ、うーん?」
悩む良のポケットから、着信音が響いた。
慌ててスマートフォンを取り出す良。
「はい」
『やぁ、首領』
「……あんたか、ビビったぜ」
『なかなか連絡が着かなくてね、今大丈夫かい?』
大丈夫と問われても、答えは決まっている。
「いや、すっげーやべーよ。 色々在り過ぎて、何処行きゃ良いのか」
藁にも縋る様な想いで良はそう言う。
『そうか、細かい話は抜きにしよう。 今から其方へ行き先を送る』
「それは、でも」
『そんなに遠くはない。 とにかく、今は信じろ』
短い言葉の後、通話は切れてしまった。
ただ、直ぐにメールの着信音が鳴る。
何だと調べて見れば、其処には住所が記されていた。
手を挙げ、博士にスマートフォンの画面を見せる。
「な、此処へ行けるかな?」
「はい、今すぐ」
良の声に、博士は頷くと運転手へと行き先を告げる。
その間、良はアナスタシアを見た。
女幹部を何とか連れ出したが、他の怪人はこの場に居ない。
そして、同じく大幹部の虎女も、此処には居なかった。




