静寂! 裏で蠢く者達!? その3
今忙しい良に取って、博士の真意を汲み取るだけの余裕は無い。
それに加えて、今すぐ何とかしなければ成らない問題も在った。
「ま、旅行先はいずれ決めるとして、別の問題も在るんだよ」
「どんなです?」
聞き返す博士に、良は備え付けのリモコンを手に取った。
首領専用部屋だが、娯楽要素は多くはない。
ただ、一応の建て前なのかテレビは設置されていた。
果たして、この基地がどの様な技術にて電波を拾ってるのかを良は知らないが、見えるのである。
パッと画面が点くが、其処には何かの報道が流れて居た。
『……えー、現在事故の現場上空にて撮影しております。 期待の所属は自衛隊、米軍かはまだ分かっておりません。 専門家によるところ、期待の種類はハーキュリーズC130に近いものではないかと推定されています!』
事故の現場は、組織の基地から近い。
そんな場にカメラが入っている事は大問題である。
「コレは……マズいかも」
「いや博士。 本当はもっとヤバいんだ」
危険を危惧する言葉に【ヤバい】とは曖昧な表現ではある。
が、良自身は焦っていた。
「ヤバいって、まぁ、流石に此処まで近いと……」
「違うんだよ。 よく見てみなよ」
良の声に、博士は掛けている眼鏡をクイと上げながら画面を見直す。
端から見ている分には、それなりの事故の報道だろう。
救助の為か、彼方此方から人も来ているらしい。
だが、博士にはいまいちピンと来ない。
ある程度の大きな事故とも成れば、それは報道される。
精々想うのは【暫くはネタに尽きないだろう】とその程度だ。
「博士、何がヤバいか分かるか?」
「いえ」
良は、気付いていない博士と目を合わせた。
「俺達はさ、結構派手にドンパチしてたんだよな。 だけど、周りが気付いていないのか、映されているのは飛行機の残骸だけ。 おかしくないか?」
良の低い声に、博士はハッと目を見開く。
当たり前だが、博士も当然の様に現場には居た。
その際、川村愛が自慢の力で守ったからこそ、基地その物に被害は無い。
が、逆に言えばソレだけである。
派手な戦闘を行えば、その跡を完全に消すことは出来はしない。
事実、基地の周りは航空機の攻撃でボロボロなのだ。
その筈だが、報道は一切されていない。
まるで、誰かが裏から手を回した様に。
「そんな、じゃあ……」
「あぁ、誰かが居るんだろうな。 後ろにさ」
云いながら、良はテレビへと目を向ける。
相も変わらず報道は続くが、コマーシャルによってそれは途切れた。
呑気な宣伝を続ける画面に、良はフゥと息を吐く。
「なぁ、博士」
「え、はい」
「この基地以外に、同じ様な場所ってないかな?」
良が言わんとしている事は、博士にもわかった。
このまま自分達の居場所が知られているのは、多大な問題である。
何せ、相手が何処に居るのかを知っているだけでも、戦略上ではほぼ勝ちを拾える程の情報だろう。
1人や2人ならいざ知らず、もっと大勢となると、移動は困難を極める。
犠牲を厭わないのであれば、或いは問題ではないかも知れない。
だが、こと良の組織は既存のモノとは形が違う。
誰かの犠牲を、寧ろ恐れていた。
だからこそ、今は逃げ場を探すことが急務である。
首領からの問いに、博士が唸る。
同じ大幹部も居るのだが、部署が違えば考える事も違った。
アナスタシアは本部担当であり、専らは雑多に及ぶ。
構成員の管理や、計画に対する用意。
カンナは本来は外部の支部を担当者であり、調達などを行う。
ソードマスターだが、謎の多い人物であり、具体的に何をしているのかを知っている者は多くない。
が、実のところは首領及び基地の防衛を担っていた。
そして、組織の頭脳を担うのは博士である。
現場に置いて戦うのではなく、本来は後方からの援護やその他の事を任されていた。
だが、そんな優れた頭脳でも、無い物ねだり出来ない。
ましてや、博士の専門は【人間の改造】である。
「同じ規模で同じ規格と言うのは難しいかと……」
優れた頭脳だからこそ、分かってしまう事もある。
改めて基地を建造するにせよ、それは難しい。
当たり前だが、基地は独りでに建ってはくれない。
整地し、資材を運び入れ、組み立て、整備する。
どれ一つとして、簡単は話しでは済まない。
だからこそ、今在る基地は重要なのだ。
「そっかぁ、うん、まぁ、そうだよな」
良からしても、博士に無理を云うつもりはない。
駄々を捏ねた所で、出て来るモノではない。
良はそれなりの金を持っているとは言え、その額は個人的には大きくとも、企業ならばそうでもない。
暗に云ってしまえば、端金である。
八方塞がりなのか。
良と博士がそう考えた所で、ふとポンと手を鳴らした。
「そうだ博士」
「え? はい」
「幹部会開こう」
「は?」
戸惑う博士に、良は苦く笑う。
「だってさ、考えてみたら俺達だけで悩む事なくない? どうせならほら、皆で知恵を出し合ってさ」
良の意図を汲んだのか、博士も頷く。
「はい! じゃ、今すぐ皆を集めますよ! 丁度揃ってますし」
「頼むよ」
幹部会の召集を博士に任せ、良は、テレビを見た。
暇潰しではなく、ニュースへ目を向ける。
相も変わらず、テレビでは【事故】として報道がされていた。
何処からか引っ張って来られたで在ろう自称専門家達があれやこれやと議論する。
但し、良に取ってはそんな議論は意味が無い。
あくまでも、テレビは【攻撃】に対しては一切を報道していない。
あかたも、その近辺には何も無い事を示すが如く。
逆に言えば、敵側はそれだけの力を持っている事の証明でもあった。
*
緊急として召集される幹部達。
ただ、その面々の面持ちには違いがある。
ヤケにソワソワとしたアナスタシア。
逆に自信満々といったカンナ。
幹部の割には呑気な壮年。
そして、1人深刻な面持ちの博士。
部門が違う以上、幹部会が召集される事は滅多にない。
そんな中、カンナが前へ出る。
「で、首領。 要件はなに? もしかしたら、行き先が決まった?」
「え?」
唐突な虎女の声に、首領は驚く。
「え、じゃないよ。 旅行先決まってないんでしょ?」
「いや、そりゃあまだ決まってないんすけど」
首領が【そんな事してる場合じゃないよ】と云う前に、虎女はアナスタシアの手をグイと引く。
引っ張られてしまった女幹部は、目を泳がせた。
「か、カンナ! 何をするか!?」
「なにをするかじゃないでしょうが? あんた、こんなモンまで持参しちゃってさぁ」
「わ! 何をする!? 止めろ!」
女幹部よりも素早いからか、虎女はアナスタシアがこっそりと持参したらしい旅の広告を奪い取っていた。
如何に女幹部とはいえ、虎女は止められない。
「えーと何々?」
「コラ! 勝手な事をするんじゃあない! カンナ!」
アナスタシアは必死にカンナを止める。
が、誰かに云われて止める様ならば幹部などしていない。
その勇猛さを示すが如く、虎の目は広告をなぞっていた。
「……これから始める新生活。 その前に二人で確かめ合う互いの絆? そんな2人にハネムーンの祝福を?」
スラスラと広告の文言を読む進めてしまうカンナ。
普段の気丈さは消え去り、アナスタシアの顔は色が変わる。
そんな女幹部がチラリと目を向ければ、其処には唖然とした首領。
「いや、これは、その……」
とてもではないが、今のアナスタシアは部下の前に出られない。
虎女が勝手に広告を音読しただけなのだが、それは想像以上に女幹部に打撃を与えたらしい。
怪人に囲まれようが、怯みもしない筈の女幹部。
そんな姿は、今や見る影も無かった。
呆然とした良の視線に、アナスタシアはたじろいだ。
「ちが、違うんです首領! それ、は、偶々、そんな宣伝が載ってただけでして、私は、みんなと……」
最初こそ威勢が良かったアナスタシア。
だが、弁解を続ける内に声は窄まり、終いには蚊が鳴く程に小さい。
物理的に小さく成っては居ないが、どこか小さく見える女幹部の肩を虎女がポンと叩く。
「そんなん別に良いじゃん? 誰だって夢見る事だって。 あたしだってさ、色々考えてるしぃ」
しゃがみ込み、頭を抱えるアナスタシアをカンナが宥めた。
ハッキリ云ってしまえば、女幹部と虎女の会話は悪の組織のモノではない。
逆に言えば、それは2人の今の立場を示していた。
「ん? あぁ、儂は何処でも良いぞ。 まぁ、強いて言えば温泉か、釣りがのんびりできそうな場所が良いかな。 後、寒い所よりは暑い所の方が良いかな」
何処でも良いと云う割には、意外に注文が多い壮年である。
そんな呑気な幹部達の意見を聞くだけでも、旅先は決まらないだろう。
三人とはいえ、その三人を完全に満足させるのは至難だ。
が、そんな事でわざわざ幹部達を集めた訳ではない。
「いや、あの、皆さん。 違うんですよ?」
首領の声に、博士を除く皆が目を丸くした。
全員が呆気に取られる幹部会というのも珍しいが、それが見たい訳でもない。
「旅行の事はともかく………」
「え? 場所決めるんじゃないの!?」
良の声を遮るのは、虎女である。 そんな幹部に、良はウーン唸った。
「いや、それはともかくも、皆、聞いてくれ」
文句の一つも云ってやりたいが、それはグッと飲み込む抑える。
今は、もっと伝えるべき事が在った。
「ほら、今、俺達の基地は場所がバレてるだろ?」
良がそう言うと、アナスタシアも顔を真面目なモノへと戻していた。
「確かに。 今、我々は余り良い状態に居ないな」
先程の狼狽ぶりは何処へやら、アナスタシアは女幹部へと戻る。
対して、虎女は違った。
「なぁんだ、じゃあさ首領。 そんな奴を倒しちゃえば?」
竹を割った様な正確故か、虎女は思った事をそのまま口に出していた。




