静寂! 裏で蠢く者達!? その2
問題が山済みである以上、それは解決せねばならない事である。
そして、今一番の課題だが、基地であった。
秘密基地と呼称される通り、悪の組織の基地とは秘密でなければ意味が無い。
ましてや、近場の山では墜落が起こったばかりであった。
それを引き起こした張本人はと言えば、頭を痛めている。
「あー……なんか良い物件が、無いかしら?」
首領専用部屋にて、良は首領らしく組織の為に頭を巡らせていた。
やってる事に関して言えば、スマートフォンと睨めっこだ。
始めてから30分ほど経過したが、状況は芳しくない。
お金は在るので、借りようと思えば出来なくはないだろう。
が、なかなか条件に見合う物件は見付からなかった。
第一に、秘密基地は人に知られては意味が無い。
第二に、可能な限り人里離れて秘匿されている必要がある。
第三に、大所帯に成ってしまった以上、狭い所は不可である。
それら全てを満たせる物件となると、近場ではなかなか見付かる筈もなかった。
「うぇ~……空き倉庫とか、廃物件とかも在るけどさぁ」
何とか良さげな物件が在っても、条件が満たせないと意味が無い。
近所の人が【あら? 怪しい人達が出入りしてるわ!】と成れば、直ぐにお引っ越しである。
只でさえ怪しい組織である以上、貸してくれるのかも不安材料であった。
あれやこれやと考える内に、良はフゥと息を吐く。
「……てか、何だって俺こんな事してんだろ?」
今更ながらに、そんな疑問か良の中に湧いた。
自分に対しての言い訳は出来なくはない。
単に一言【首領だから】と言い聞かせれば、体裁は整う。
が、それは果たして疑問に対する答えなのかと問えば、答えは出なかった。
何の為にこんな事を悩むのか。
もしも、今すぐ良が基地を飛び出して一人逃げたらどうなるか。
それこそ組織は大混乱だろう。 皆、目的が無く、行き場所も無い。
改造人間に成ってしまった者などは、その最たる例である。
戦い続けるならば、それも理由には成るだろう。
適当な理由を設けて、それにしがみ付けば良いのだから。
が、それでは正に迷走であった。 何処へ行き、何を成すでもない。
「あー、そっかぁ……だからか」
ふと、良は在ることに気付いた。 友人である者達。
人知を外れた力を持つ魔法少女。 組織から抜け出した改造人間。
正体不明の機械の王。 遥か彼方から来た宇宙人。
誰もが、人が欲しがる力を持ちながら、それを持て余している。
使おうとすれば、それこそ世界を牛耳る事も出来るかも知れない。
しかしながら、それをしない。
何故なら、それが目的ではないからだ。
誰もが、何かを探し求めてさ迷う。
それが見付からないから、誰かの理想に縋り付きたくなる。
ただ、首領である良も喉から手が出そうな程に欲しいのは答えだった。
幾ら、悩んだ所で答えは出ない。
ならばと、良は今一度スマートフォンを手に取る。
「しゃあない、とりあえず頑張りますかね」
解決すべき問題に取り組めば、答えは探す事は後に回せる。
今は、組織をどうにかすべきだと判断していた。
敢えて別の事に頭を向ける事で、悩みを忘れる。
だが実際には良は分かっていた。
改造人間と成ってしまった以上、人としての幸せは望めはしない。
普通の生き物であれば、恋をし、子を為し、命を紡ぐという基本的な【目的】が既に与えられている。
であれば、誰もが其処へ向かうのが自然の流れでもある。
悲しいかな、良は既に人ではなかった。
*
さて、首領としての職務を全うせんとする良だが、其処に邪魔が入らないのには理由が在る。
部屋の戸には札が掛けられ、護衛が立てられていた。
札には【現在、首領在室中。 関係者以外立入禁止!】とある。
コレは、余計な邪魔者を良に近付けない為のアナスタシアの案である。
流石に組織に従っていた怪人達には、この手の札は効果はてきめんだ。
ただ、良と共に過ごした者に取っては、違って居る。
スタスタと、ペットボトルを持参して現れたのは小柄な姿。
それは、組織の頭脳の博士である。
戸の前に立てば、構成員はビシッとポーズを取る。
「ちょっと首領に用が在りまして」
博士がそう言えば、構成員は道を譲ってくれた。
息を吸い込み、息を決する。
トントンと叩くと、中からは「はーい、どうぞ」と声がする。
その声は、悪の首領とは言えない程にのんびりとしていた。
*
「失礼します」恭しく、部屋の中へと入る博士。
当たり前だが、部屋の中には偉そうな首領は居ない。
その代わりに、ソファーでウンウン唸る良が居た。
「お、博士、どったの?」
首領とは思えない気楽さに、博士の顔も緩む。
「いえ、少し、根を詰めて居たようですから」
そう言いながら、博士は持参のペットボトルを良に見せた。
わざわざ其処まですれば、良も博士の意図を汲み取れる。
「はいはいはい、ま、どぞ」
良く言えば腰が低く、悪く言えば威厳に欠ける。
が、そんな良が博士は嫌ではない。
例え貫禄や威厳に欠けていたとしても、安心出来る何かが在った。
良の対面のソファーへと腰を下ろしつつ、目を向ける博士。
「どうですか? 首尾は?」
問われた良はウーンと唸った。
「それは、基地の事か? それとも、旅行かな?」
良にとってみれば、どちらも頭の痛い問題である。
基地の移転先は見つからず、旅行先も決まっていない。
暖かい所が良いという者も居れば、温泉が良いという者もいる。
十人十色というだけあり、その要望全てを満たすのは簡単ではなかった。
「お疲れ様です」
「ホントだよ。 みーんな好き勝手云うんだぜ? やれカニ食べ放題が良いとか、焼き肉無いのとか、バーベキューしたいとか……参るよな」
絶対的な窮地に置いても、良は【参った】を云うことはない。
ただ、事戦い以外の事になると、それは違った。
その事は、誰よりも博士が知っている。
組織に置いて、首領の健康を保つのは博士の勤めであった。
そして、その良が、如何に疲弊しているのかを知っているのも彼女だけだ。
「……私も、手伝えれば良いんですけど」
博士は、ぽつりとそう言った。
彼女の本心から言えば、在ることを云って欲しい。
【お前も改造人間に成れ】と。
博士に取って、自分とは何なのかを惑う。
如何に身体の世話をしているとは言え、それは、平時の時だけだ。
緊急時に置いては、博士は戦力とは言い難い。
無論、博士には緊急時よ衛生兵としての立場もある。
だがもし、博士が改造人間に成れば、より現場に密着出来るだろう。
と同時に、それは、人をやめると言う事でも在った。
踏ん切りの付かない博士からすると、良の一押しが欲しい。
【お前も成れよ】と。
博士からすると、共に現場に立てる者達が羨ましいのだ。
アナスタシア、川村愛、カンナ、他の怪人達。
が、そんな博士の本心など良が知る筈もない。
「あそう? じゃ、少し手伝って貰っちゃおうかな。 ほら、基地の候補地とか、旅行先の事とか」
首領として良は頼むが、それは重いものではなかった。
問われた博士だが、ホッとすると同時に、残念に思ってしまう。
それでも、彼女から言い出せる程の覚悟も無かった。
「……はい、出来る事なら」
「じゃあさ……」
悩む博士を余所に、良も悩む。
「博士は何処が良いかな?」
「えと、それは……基地の移転先ですか?」
ポンと出た博士の声に、良が手を振る。
「いやいや、旅行先だよ? なんかアイデアが無い?」
逆に問われる博士だが、それも難しい問いであった。
悪の組織に属する内にすっかりと博士も変わっている。
普通の事を問われると、コレが思いの外難しいのだ。
年若い少女ともなれば、問われれば幾らでも言える筈。
が、博士にはソレが無い。
そんな事を問われた事自体、何時ぶりか忘れ果てている。
目を伏せ、苦虫噛み潰した様な顔を見せる博士。
そんな彼女を見て、良は慌ててソファーへと座り直す。
「おいおいおーい、そんなに深刻に成るなよ。 ちょっと聞いただけでしょ?」
何か悪い事を尋ねたのかと、良は慌てた。
慌てる良に、博士は顔を上げる。
「良さん」
「へ? はい」
「この後、どうするんですか?」
「えーと、どうするってもね。 何て言うか、予定は未定ってか」
良の中でも、まだ先の見通しは立っていない。
何処へ行き、何をすべきなのか。
加えて、良は更に先をも見通していた。
「ホントはさ、すっげー悩んでるよ」
「何をです?」
「いや、まだ敵が何処かに居るだろうし、問題は山積みだし、旅行先は決まらないし」
片付けたいのは山々だが、力で解決出来るのは多くはない。
考えねばならない事が多く、頭の痛い事であった。
「それにさ、もしもだよ」
「はい」
「全部が終わって、自由に成ったら、博士はどうしたい?」
良の問いに、博士の頭は真っ白に成ってしまう。
少し前までは、前首領の云うことに従って居れば良かった。
それが例え、どんなに非道な事だろうとも。
何故ならば、自分は駒であり、何も考えなくて良いのだ。
ただ、云われたままにする事をするだけ。
だが、それら全てから解き放たれ【お前は自由だ】と良は云う。
「あ、えと、その……」
今まで、博士として生きてきた高橋リサ。
いざ、自分に戻ると、何も無い事に気付いてしまう。
行くべき場所が無く、やるべき事も無く、したい事も無い。
リサにとってみれば、自由とは恐ろしく思えた。
彼女の心を例えるなら、いきなり飛行機から追い出され、空に放り出されるか、船から突き落とされて海に漂う様な気分ですらある。
このまま独りきりで漂流するのか。
そう博士が恐れた途端、ポンと頭に何かが置かれた。
「へ、あ、り、良さん?」
「おいおい、そんなに面倒くさい事聞いてないでしょ? リサにもなんか在るだろ、ほら、コレが食べてみたいとかさ」
実に気軽は良では在る。 が、往々にして本人と他人の目線は違った。
良からすれば、自分とは鏡に映るだけのソレである。
それ以上でも以下でもない。 ただ、篠原良が居るだけだ。
が、博士にとっては違う。 良はまるで、灯台の様に見えていた。
「私は……何処までも、付いていきますよ」
この言葉自体は、博士の覚悟を示す事でもあった。
何せ、ソレが何処であれ【ついて行く】と応えているのだ。
が、其処まで汲み取れる程に良は老齢でもない。
「えぇ、参ったなぁ……それじゃ参考に成らないんだけどぉ」
旅行先が決まらない事に、悪の首領は弱音を吐いていた。




