油断大敵! 迫り来る影!? その17
改造人間と対峙して、戦える生身の人間は有り得ない。
人間がブルドーザー相手に殴り掛かった所で、ブルドーザーが損傷するかと問われれば、塗装を僅かに剥がすのが精々である。
改造人間とは、其処まで人からかけ離れていた。
狭い操縦室に逃げ場等は無い。
操縦士達には【戦う】事も【逃げる】事も選択肢が無い。
唯一生き残りたければ、【降伏】を選ぶ事だろう。
そう思って、良も相手そう云っている。
それに対する機長の反応だが、それは奇妙な笑いであった。
泣いている様でもあり、怒った様でもある。
だが、口は笑いに歪む。
「降伏か、そうしたいのは山々だが、此方の事情が在ってね」
機長は、それだけを云うと腰から拳銃を引き抜く。
良にとってみれば、拳銃などは恐るるに足らない。
が、まさか機長が隣の同僚を撃つという事は、良に取っては想定外であった。
銃から吐き出された弾は、副操縦士の頭に当たり、反対側が弾ける。
ガクンと力が抜ける姿に、良は機長を睨んだ。
『テメェ!? 仲間を撃ちやがるのか!?』
跳び掛かろうとする良を押し止めたのは、機長の行動だ。
自ら、顎の下に拳銃の先を当てる。
「それがどうした? さっきまで下を撃てと云われたからそうしたんだ」
『くそったれが! 死ねって云われたらそうするってか!?』
黒幕を吐かせる為には、何とか相手からの情報が欲しい。
だが、果たして相手が自分を撃つよりも速く動けるかと云われれば、それは良には難しい事だった。
機動性に特化した改造人間で在れば、或いは可能だろう。
が、良の場合は寧ろ鈍重である。 硬さを重要視した結果、その分鈍い。
『おいこら、死ぬのは勝手だが、その前にテメェの裏を教えろよ』
そう言うと、良は機長を指差す。
『最後くらいケジメ取れや』
良からしてみれば、目の前の人物は理解し難い。
命令されたからと、仲間を平然と捨てる。
それだけでなく、隣で働いたで在ろう仲間ですらも撃ち殺してしまう。
何が其処までそうさせるのか、それは良には分からない。
「言える訳がないだろう? 言ったら、俺の家族はどうなる?」
機長の指が、引き金に触れる。
「家畜はな、命令に従うしかないんだよ」
諦めた様な乾いた笑い。 瞬き程の後、機長は自らを撃ってしまった。
ゴトン崩れ落ちる姿に、良は機内の壁を殴る。
『クッソ!? この卑怯者が!!』
死体を罵りたくはないが、思わず言葉が漏れてしまう。
そんな良を揺れが襲った。
『うお!? なんだなんだ! こりゃあ!?』
揺れだけでなく、体に掛かるのは浮遊する感覚。
それは、ジェットコースターが降りる際に身体に掛かる感覚に似ていた。
操縦室の中に、ビービーと煩い警告音が響く。
『くそ、どうやれば良いんだ!?』
どうにか機体を安定させねば、墜落は必至である。
が、いざ操縦しろと云われても、良にそんな経験がない。
揺れが在って、他の乗組員を呼ぶのも難しい。
そんな中で何とか良が動けるのは、改造人間故である。
とりあえずと、ダメ元で操縦桿を持つと、グイと引いた。
『この! 上がれよコラ!』
一度制御を失った機体がソレを取り戻すのは難しい。
専門の操縦士ですら、時には立て直せず機を落としてしまう。
ましてや、良は素人どころの話ではなかった。
『うぉおおおお!?』破れかぶれと、良が叫ぶ。
機体の計器は、僅かに動いた。
*
安定して空を飛んでいた筈の航空機だったが。
制御を失い段々とフラフラと覚束ない動きを取る。
その途端に、航空機は地面に向かって真っ逆様に落ちる。
落ちる少し前、奇跡的に機首が持ち上がったが、それは直接地面に落ちるのを防いだに過ぎなかった。
山腹へと降りる成り、木々を倒しながらも、機体はギリギリ不時着の様な墜落を果たしていた。
*
煙をあちこちから吹き上げ、同時に僅かに漏れ出る火。
機体が形を保っている事は偶然だろう。
そんなボロボロの航空機だが、中から音がした。
ガンガンと、硬い何かが当たる。
程なく、歪んだドアが無理やりこじ開けられた。
中からのそりと現れたのは、良である。
『あー、死ぬかと思ったぜ』
改造人間とは言え、無敵ではない。
思わず声を漏らす良に、パチパチと音が聞こえた。
音の正体は、良を運んでくれた青年の拍手である。
「流石は首領」
誉めてはくれているが、余り有り難いお言葉でもない。
『あのさぁ、こんな事云うのも変だと思うんだが、手伝えよ』
そう言いながら、良は変身を解く。
随分と長い時間変身していたからか、肌に当たる風が新鮮だった。
とは言え、焦げた臭いが辺りに立ち込め心地良くは半減している。
良の声に、青年はウーンと呻く。
「いや、貴方が外へ飛び出したら、拾おうと想ってたんですよ。 まさか、着陸させるとは思ってなかったので」
元大幹部とは言え、現在の青年は組織に所属していない。
で在れば、運んだだけでも御の字だという事は良にも分かる。
「んまぁ、勢いさ」
「ソレはそうと、中は?」
尋ねられた良は、チラリと後ろを振り返る。
一応、機体の原型は留めているが、それだけで在った。
然も、中の乗組員の殆どは固定された席に座っていた訳でもない。
「さぁな、伏せてりゃ、生きては居るんじゃないかな」
もしかしたら、生存者がいるかも知れない。
だが、ただの下っ端を捕まえた所で、得られるモノは多くはないだろう。
「ソレよりも……少し休みてぇなぁ」
疲れを見せる良だが、それも当たり前であった。
怪人との連戦に続き、飛行機ともやり合っている。
身体を動かす為の蓄電は、もはやギリギリ残っているだけであった。
良の声に、青年は耳を澄ます。
怪人以上の超人とも言える青年には、良ですら聞こえないモノも聞こえた。
「休みたいなら、大丈夫だと思いますよ。 今頃、貴方を迎える為に皆が慌てて此方へ来てますから」
青年の声に、良はホッとした。
敵が迫って居るのではないと分かると、途端に疲れがドッと押し寄せてくる。
「そっかぁ……ところで、ありがとな」
雑ではあるが、良は青年へ礼を述べた。
もしも、元大幹部が来なければ、航空機を落とせたかは怪しい。
良の礼に、青年は眼を閉じると少し微笑む。
「いえ、私としても、友達を助けられたのは嬉しいですよ」
青年に取って、一度は捨てた筈の星である。
が、良と付き合う内に、もう少しだけ頑張れるのではないかという希望が生まれていた。
友達という単語に、良がピクッと反応する。
「友かぁ、そういや……」
何かを言いかけた所で、良は言葉を止めた。
自分を助ける為に犠牲にしてしまった軍団が、頭を過る。
それをした航空機は落としたが、だからといって死んだ者は帰っては来ない。
気分を落ち込ませる良だが、ポケットから着信音が響いた。
「お? なんだ? 誰だろ」
何事かと、良はスマートフォンを取り出す。
変身中は装甲に護られているせいか、それはまだ生きていた。
ともかくも、画面を見てみると、知らない番号である。
「あー、もしもし? どちら様です?」
『やぁ、首領』
聞こえて来た声に、良は立ち上がった。
声の主だが、名も知らぬ誰かである。
「あんた!? ど、どうして!?」
良からすると、声の主は焼ける森で死んでいた筈だ。
が、平然と電話を掛けてきている。
『どうして、と言われてもな。 私も友を心配していたんだぞ?』
「いや、でも、あんたは死んだんじゃ?」
良は慌てるが、届く声は驚いた様であった。
『うん? 私が? いいや、無線経由の外部端末が損傷を受けた所で、私は別に傷を負ったりはしないぞ。 まぁ、連絡は滞るだろうがね』
そんな説明を受けた良だが、細かい所はどうでも良かった。
膝から力が抜け、その場に座り込む。
「相も変わらずよくわかんねー説明だな。 もっと分かり易く……あれ?」
説明を簡潔に頼もうとした良だが、何かが引っ掛かった。
何故、そうしようとしたのか、それが分からない。
『ともかくも、衛星経由で君の無事はわかった。 あんまり無茶をするモノではないぞ? 友よ』
聞こえる声に、良は苦く笑う。
「ビッグなお世話と云いたいけど、今はいいや、あんがとな」
『なに、君も達者でな』
僅かな挨拶を残すと、通話は切られた。
電話を終えた良は、その場へと大の字で寝転ぶ。
身体の消耗と、気疲れからか、長く息を吐いた。
地面に寝る良を青年が見守る。
「大丈夫ですか、首領?」
問う声に、良は力無く首を横へ振る。
「だいじょばない、休みが欲しい」
本人は大丈夫ではないと言うが、傍目には問題は見えない。
それを確認した青年は、スッと息を吸い込む。
「では、私もコレで」
「あれ? 帰っちまうのか? お茶ぐらいなら出ると思うぜ?」
良の誘いに、元大幹部は首を横へ振った。
「お誘いは嬉しいのですが、その心だけ貰っておきますよ」
そういい残すと、青年はその場から立ち去ってしまう。
立ち去ると言っても、飛び去ると言う方が正しい。
直ぐに見えなくなる姿に、良は「相変わらずか」と呟いた。
空を見上げれば、星が見える。
「おぉ、こらすげぇ」
まだ飛行機からの火は見える。
が、それでも、灯りの少ない山の中ともなれば星は普段以上の姿を見せていた。
プラネタリウムにも似ているが、見えている星は全て本物。
そんな淡い輝きに、良は目を奪われる。
宇宙の中で、独りきりに成った様な錯覚。
だが、孤独を感じる前に、良の耳に声が届いた。
「居た! 居ました! 彼処です! 首領!!」
「首領!? ご無事ですかぁ!?」
ワーワーと響く姦しい声に、良は、思わず笑っていた。
「……はーい、まだ生きてるよ」
そう言うと、良は星を見上げたままフゥと息を吐いた。




