油断大敵! 迫り来る影!? その13
広い山中にて、何かが起こって居たとしても気付けない。
まして、他の事に集中していたならば尚の事だろう。
一旦は敵が少なく成った。
だが、増援が来れば直ぐに燃料を足された焚き火の如く燃え上がる。
加えて、アナスタシアとカンナが抜けた穴を、良は補わねば成らなかった。
暗い森を明るく照らすのは、炎だ。
それを出すのは、敵側の怪人である。
『ゲッシャッシャ!! お前ら如きはこのファイヤークラブ様が焼き払ってくれるわぁ!』
改造された事を自慢する様に、蟹を模したで在ろう怪人が自慢のハサミから火を吹き出す。
それは、正に火炎放射器の如き様であった。
敵の施設を制圧するのに、炎は最も効果的な武器だろう。
が、改造人間相手には正しい武器とは言えない。
その証拠に、良は相手の蟹へと向かって一直線に走っていた。
『ゲジャア!? 馬鹿な奴だ! 丸焦げにしてやる!』
カニの爪から放たれる火炎。
その熱量は凄まじく、車ですら焼き焦がせたかもしれない。
とは言え、良の身体を覆う装甲は、炎では焼けなかった。
傍目には焦がす様にも見えるが、それは、表面に煤が着くに過ぎない。
『うるせぇ! このカニ野郎!』
身を焼く炎を掛け分け、蟹へと跳び掛かる。
相手の目を塞ぐ様に飛び乗った良は、勢いをそのまま生かして相手の背中へと組み付く。
『んなぁ!? 貴様! 放せ!』
自分に取り付く良を振り払うべく、蟹は体を振った。
が、ガッチリと組み付いた相手をその程度では払える訳もない。
『誰が放すかボケ!! この物騒なモン取っ払ってやる!』
そう叫ぶやいやな、良は蟹怪人の腕を捻った。
少し前ならば躊躇した良だが、今はそれを敢えて忘れる。
『ぅおらぁ!!』
肩の関節から、蟹怪人の腕をへし折り引っこ抜く。
怪人の口からは泡と共に悲鳴が上がるが、良は止めなかった。
更に片方の腕に手を掛け、へし折る。
残酷かも知れないが、其処までするのは、改造人間ならば少しの傷では死なないと身を持って知っているからだ。
『ぐぉああぁああ!?』
『ぎゃあすか喚くな! 腕くらいで死なねぇよ!!』
喚く蟹怪人を蹴り飛ばしそう言うと、良はまた走り出していた。
*
敵側の怪人達から見ると、良という改造人間は正に鬼気迫るモノがあった。
だが、それも当たり前だ。
ともかくも敵を払いのけ、最悪、退路だけでも確保せんと躍起なのだ。
その為ならば、良も自分の中の甘さを消す事を躊躇わない。
数体を戦闘不能にした所で、更に襲い来る怪人と対峙する。
『裏切り者にしてはやるじゃないか! 窮鼠猫を噛むとは良く言ったモノか?』
蟹怪人に引き続き現れたのは、少しだけ良に似ていた。
良の外観も爬虫類に近いが相手はより蛇に近いだろう。
そんな相手の声に、良は右腕で空気を払う。
『喧しい! 裏切り者裏切り者ってよ、どいつもこいつも同じ様な事を云いやがって! そう言うテメエは何様だ、あ!? どうせ言われたから来ましたーなんてアホだろうが!』
焦っているせいか、いつも以上に良の言葉は荒い。
それを聴いてか、蛇はやれやれと首を少し振った。
『それの何が悪い? 我々怪人は目的の為の尖兵だろう?』
やはりというべきか、説得などは無意味に等しい。
それは世界の人間にも共通している。
言葉で幾ら【止めろ】と言った所で、止める筈がない。
止められるならば、戦争などは起きはしないのだから。
『生憎とな! 俺様はただの怪人じゃねぇよ!』
頭を低く落としつつ、同時に足で地面を蹴る。
そんな姿勢で走ろうとすれば、頭は落ちてしまう。
が、良が力強く地面を蹴れば頭は上がる。
それを利用し、地を這う様な走りが出来た。
見た目に格好いい走法ではないが、意味は在る。
生き物が急に対処出来ない死角は数在るが、その内、足元もまた死角と言えた。
勿論見えては居るのだが、対処に困る。
避けるべきか、跳ぶか、蹴り飛ばすべきか。
何をするにせよ複数の回答が頭に浮かんでしまう。
そして、その考えている間こそ、良にとって狙うべき隙であった。
『な! 貴様!』
蛇は慌てて片足を上げるが、既に遅く、良は相手の膝を腕で掴んでいた。
『かっこつけて演説してんじゃ、ねぇ!』
勢いそのままにぶつかられて、倒れないと言う事は難しい。
バランスを崩した蛇は、そのままドタンと後ろへ倒れる。
そして、良は例によって相手を戦闘不能にすべくその身体へと手を掛ける。
が、奇妙な感触に唸った。
『あ!? 何だ!』
改造人間とは言え、中には体の姿勢を保つ為の骨格は在る。
が、在るべきそれが、手の中で形を変えるのが伝わった。
見た目の通りなのか、蛇怪人は身体の関節が普通のソレではない。
『貴様は少しばかり硬いらしいが、硬いばかりが能ではない』
蛇はその身体を生かして、逆に良へと絡み付く。
『さてさてと、このまま潰させて貰うぞ?』
そう言うやいなや、蛇は全身の力で良を締め上げた。
凄まじい重圧に、思わず良は呻く。
銃弾や炎ですら弾く良の装甲だが、一つだけ欠点が在った。
もしも、良の身体を覆うのが鱗ではなく鎧であったならば、或いは多少の締め上げにも屈しなかっただろう。
が、運動性を確保する為に鎧としての形はしていない。
即ち、無敵の装甲は今度は良を締め上げる為に機能してしまっていた。
ミシミシと良が軋む音に、蛇の眼が窄まる。
勿論、良もただやられて居る訳ではない。
自分に絡む蛇を剥がすべく、腕を動かす。
が、その腕も相手の腕が絡んだ。
『……甘いな』
『ぬぅあああ!! くそったれが!! テメェ、誰かに云われたら何の疑問も抱かねーってのか!?』
唯一動かせる口で、必死に相手を罵る良だが、蛇は首を傾げる。
『それがどうした? それとも、貴様は自分が特別だと勘違いしているのか?』
既に勝ちを確信しているからか、蛇は饒舌である。
『だったら諦めろ。 お前の様な考えを持った英雄は山ほど居ただろうが、皆惨めに死んでいる。 どれだけ戦った所で、何も変えられんよ。 貴様独りに、人を変えるなどは無理は話だ』
良を潰すべく、蛇は力を込め続けるが、なかなかに相手が潰れない。
『そぉら、力を抜け。 楽にしてやる』
『うるせぇアホが!? テメェこそ放しやがれ!!』
在る意味では、蛇と良は膠着状態であった。
一気に良を潰したい蛇だが、相手を抑える為にも力を割いている。
対して、良は全身に力を込めて潰される事を防ぐので忙しい。
良にとっての誤算は、基地から離れ過ぎていた事だろう。
もしも、基地の近くに陣取れば、或いは味方の援護も望めたかも知れない。
が、タラレバ話である。
『往生際の悪い! 死ねい!』
『ふん!? ぬぅうう』
敵である蛇にしても、必死であった。
何せ組織の幹部から云われた事と、現場で目撃した事は一致していない。
【極東の脆弱な裏切り者共を抹殺せよ】と、実に分かりやすい指示である。
蛇にとっても、どうせ容易い仕事であると高を括っていた。
わざわざ他の組織と手を組んでまでやる事ではない、と。
が、いざ蓋を開けてみれば、結果は恐ろしい。
数々の改造人間達が屠られ、散った。
自分にしても一人を抑えるだけで精一杯である。
そんな蛇の目に、誰かが近づくのが見える。
どうやら、それは昆虫型の改造人間なのだろう。
組織から渡された情報には、その姿は無かった。
『おお! 救援か! 助かった! コイツを始末するのを手伝ってくれ!』
聞こえる声に、良は不味いと感じた。
何せ自分は地面に倒されたまま、グイグイと絞められている。
如何に装甲が硬かろうが、動けないのであれば問題は無い。
強固な外骨格を纏う甲殻類ですら、人間は食べてしまう。
『あぁ、手伝ってやるよ』
そんな声に、良は聞き覚えが在った。
現れた改造人間は、蛇に近付くなり、腕をゆったりと上げる。
そして、腕から突き出す針で蛇の頭を貫いた。
『なん、なぜ、貴様は……』
戸惑いを隠さない蛇に、蜂型の改造人間は肩を竦める。
『悪く想うなよ?』
手向けとは言えない言葉と共に、蜂は腕を軽く振る。
強固な怪人であっても、直接中身をかき混ぜられたなら、只では済まない。
ましてや、その中枢部である頭部。
蛇の目から意志が失せ、同時に身体からも力が抜けていた。
ようやく、蛇から脱した良へと、差し出される手。
顔を上げた良の眼には、いつしか自分が叩き割った面が在った。
『なんでだ?』
言葉少ない良に、蜂はフフンと笑いを漏らす。
『まぁ、あんたには借りが在ったからなぁ。 でも、これで貸し借り無しだぜ?』
そう言う蜂の手を、良は掴んだ。
良からしても、以前に戦った相手に手助けされるのは何とも言えない気分になる。
ともかくも、二人の改造人間が向き合った。
『何だかな、変な感じがするぜ』
『どういう意味だ?』
蜂の疑問に、良は僅かに兜を揺する。
『前にも、俺はあんたを誘ったよな? 一緒にやろうって』
『あぁ、そうだったな』
二人が言葉を交わしながらも、互いに身体を反転させ背中を合わせる。
僅かな音だけだが、近寄ってくる気配を察知していた。
気付けば、二人は周りを囲まれていた。
『ほら、結局はこうしてるだろ?』
背中から聞こえる声に、良はフンと鼻を唸らせる。
『俺達だけじゃないだろ?』
どちらが言うでもなく、互いに背中を預け合う。
以前に戦ったからこそ、ソレが出来ていた。
『たかがはぐれ者如きに何を手間取ってる! サッサと殺せ!』
『そうだ! そいつ等は裏切り者だ!』
四方八方から罵声や侮蔑が浴びせられるが、良は不思議と怖さや焦りを感じなかった。
それどころか、冴えた頭は次にどうするべきかを考えてしまう。
『なぁ、旅行先ってさ、何処が良いと思う?』
急な良の質問に、蜂は肩を揺らした。
戦いの最中に尋ねるべき事ではないが、それでも、蜂が唸る。
『何だ急に? まぁ、暖かい所……かな? 海、とかな』
背中からの助言に、良は想像していた。
果たして、皆で行ったらどんな旅行に成るのだろうか、と。
蜂の声から想像されるのは、熱い日差しに、白い砂、青い海。
そして、知っている者たちの彩りの水着姿。
『こんなに成っても、まだ残ってるもんだな……』
我ながら、人間の癖が抜けていない事に良は安堵した。
先に業を煮やしたのか、怪人の1人が二人を指差す。
『何をゴチャゴチャ云っている!? そら行け! 殺せ!』
二人を囲んで居た改造人間達が、一斉に駆け出していた。




