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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
油断大敵! 忍び寄る影!?
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油断大敵! 迫り来る影!? その12


 大幹部達を召集した良。


 だが、全てが良の想像通りではなかった。

 首領である良の元へと駆け付けた二人を見て、絶句してしまう。


 そんな首領に、虎女とシャコ女は気丈に振る舞った。


「ちょっと首領! こんなの全然平気なんだから」

『そうですとも、全く問題有りません!』


 カンナとアナスタシアは、良の前だからと平静を装う。 


 が、二人の言葉が嘘である事は見れば直ぐに分かってしまった。

 

 元々身体を装甲で覆われていない虎女は、身体の至る所に損傷が目立つ。

 自慢の動きの速さを生かしても、避けきれない攻撃が在ったのは想像に難くない。

 致命傷が無いのが、せめてもの救いだろう。


 対して、アナスタシアだが、此方はもっと痛々しい。


 元々が戦車の如き重装甲を持つシャコ女ではある。

 が、女幹部が纏う装甲は、良のソレとは違い無敵ではない。

 

 実物の戦車ですら、硬いは硬いが、破壊不能ではなかった。


 動きの鈍さ故に避けられなかった攻撃も在ったのだろう。

 アナスタシアの全身は、酷い有り様である。

 

 それを見て、良は迷った。


 二人を一時的に戦線から離し、修復に回す事は出来る。 

 が、それは戦力を削る事に直結していた。


 大幹部二人が抜ければ、それだけ穴は大きくなる。


 で在ればどうなるか、答えは明白だろう。

 敵が布陣に穴を見つけ出したなら、戸惑いなどはしない。

 

 陣形の穴へと、戦力を集中すれば良い。

 対抗策としては、布陣を狭め、防御率を上げる事で対処が出来る。

 とは言え、それは文字通りの対症療法に過ぎない。


【穴が空いたのでとりあえず塞ぎます】と。


 それはそれのまま自分達がジリ貧に陥る事を示している。

 戦力が限られて居る以上、更に他へ負担が掛かる。 


『……とりあえず、二人は……休んでくれよ』


 自ら改造人間である良は、身体の修復に掛かる時間も身を持って知っていた。   

 理想としては、速ければ速いほど良い。


「大丈夫だってば、首領。 ね、アナスタシア?」

『無論だ。 下等な怪人風情、何人倒そうが問題ではないのです』 


 カンナとアナスタシアの二人もまた、首領の前だからと強がっている訳でもない。

 他に出られる者が居ない以上、幹部として部下を守る責任を負っている。

 

 以前の二人ならば、構成員達がどうなろうが知った事ではなかった。

 使い捨ての駒などは意にも介さなかっただろう。


 だが、今の新しい首領と出逢い、ソレと付き合う内に、二人の内面こころは随分と違うモノへと変貌していた。

 

 そんな大幹部の肩へ、良の手が置かれる。


 先ず、良の頭はシャコ女を向く。


『頼むよ。 アナスタシア』


 次に、虎女へ兜が向けられる。


『お願いだ。 カンナ』

  

 二人を想うからこそ、良は真摯な声で懇願する。

 首領として【休め】と命令は出来るが、良は敢えてそうしなかった。


 ただ単に指示を待っているだけの者であれば、良はそうしたかもしれない。

 が、自分の意志で戦ってくれている二人だからこそ、良は同じ立ち位置、同じ立場の仲間へ向けて頼んでいた。


 首領としては、有り得ない光景。

 それでも、二人にとってみれば良の声は何物にも代え難く感じられた。


「ま、まぁ、首領が其処まで云うんなら」

『……致し方ない』


 大幹部の声に、良は博士へ顔を向ける。


『博士、二人を頼むよ』

「はい! ぁ、じゃあこっちへ!」 


 なんとか二人の大幹部を博士に預けた良だが、まだやる事が在る。


 同じく大幹部であるソードマスターと、わざわざ駆け付けてくれ少女にも目を向けた。


『二人は、大丈夫か?』


 怪我こそ二人はしていない。

 が、見える顔には疲労が見え隠れしていた。


「いやはや、老体にはちと堪えるね」


 歳故か疲れを隠さない壮年に対して、魔法少女はウーンと鼻を唸らせる。


「うーんと、お腹空いて来ちゃったかなぁ」

 

 魔法少女が果たして何を原動力に魔法を使っているのか、それは不明だ。 

 だが、如何に魔法でも無限ではないのか、愛は空腹を訴える。


『すまん、何かないか、用意して貰うから』

「良いですけどぉ、約束、忘れないでくださいよ?」

『ん?』


 首を傾げる良に、愛はビシッと指差す。


「駄目ですよ? コレが終わったら、皆を豪華旅行へ招待してくれるんですよね?」


 愛の言葉に、良は『ああ』と唸った。

 戦い連続でついつい失念し掛けて居たが、云ったことを思い出す。


『分かってるって』

「じゃ、皆を護らないと駄目ですよね? せっかくの旅行に行けないとか、最悪ですから」


 少女の問いに、良は小さいが力強く頷いた。

 

 皆で旅行へ行く。 その目的自体は小さいモノかも知れない。

 だが、同時に実現させる為には多大なる努力が要る目標でもあった。


 そもそも【全員で旅行へ行く】を達成するには、誰一人欠ける事無く、全員を生還させる必要が在る。


 戦いに置いて、これほど馬鹿げた目標も無いものだろう。

 

 何せ、敵側の目的がなんであれ、派遣された者達はそれこそ死に物狂いで向かってくる。

 その証拠に、カンナとアナスタシアは無傷ではない。

 

 良にしても、その身体は煤に覆われていた。


 ソードマスターと、魔法少女が傷を負っては居ないが、そもそも生身の二人には傷を負った時点で死に直結する。


 良は気が重いが、当たり前であった。 

 何故ならば、ほぼ無理難題とも言える目標を達成しなければ成らないのだ。


 それでも、良は足に力を入れて立つ。


『わかってるさ』


 可能か不可能かは思考から追い出し、ただすべき事に頭を向けていた。


   *


 一つの山中にて激しい戦いが繰り広げられる。

 が、それを知る者は殆ど居ないだろう。


 その証拠に、道路では数台のトラックが走っていた。

 特に何処の企業のモノを示す印もない。


 その車内では、運転手と助手が話を交わす。


「いやー、しっかしよう、こんな時間にこんな急な荷物とかさ、面倒くせーよなぁ?」


 ハンドルを握る運転手の声に、助手席の相棒が笑った。 


「ま、そうなんすけどね。 ところで、後ろの荷ってなんでしたっけ?」


 うーんと鼻を鳴らす相棒に、運転手が鼻で笑った。


「さぁねぇ、そんなもん別に何でも良いんじゃないか? うちらも後ろの奴らも、運び賃が良いって云われたからこうしてんだし」

「えー? でも、気にならないっすか? 確か、警察だか自衛隊用の新装備って話ですけど?」


 興味津々といった相棒に対して、運転手はゆっくり首を横へ振る。


「お前も奇特な奴だね。 荷が何であれ、俺達がやるべき事は運ぶだけ」


 そう言うと、運転手は前を見る。


「中身がなんだなんて、気にしなくて良いんだよ」

─その通りだな─


 急に聞こえた声に、運転手は慌ててブレーキペダルを踏む。

 トラックは、少し軋みながらも止まった。


「おい、今、お前何か云ったよな?」


 訝しむ運転手に、相棒は「いや、何も」と返す。


「え? じゃ、誰だ? 他に居ないだろ?」 


 運転手は相棒と顔を見合わせるが、直ぐに前を向く。


「あれぇ? 気のせいだったのかなぁ……」


 自分の耳疑いながらも、運転手はギアへ手を伸ばす。


─いや、気のせいではない─


 今度は、確実に相棒にもその声は聞こえた。


「な、なんすか今の? まさか、幽霊?」

「ばっか、幽霊なんかいねーし、そもそも喋るのかよ?」


 互いを疑う運転手と相棒。

 そんな二人のポケットが、僅かに揺れた。


─すまない。 君達を脅かす気は無かったんだ─


 確かに聞こえる声に、二人は顔を青くする。


「あ? だ、誰ですかぁ?」

 

 恐る恐る、相棒が尋ねる。


─私が誰か? 残念ながら故在って名乗る訳には行かない。 ただ、此処まで運んでくれた事には感謝をしている。 君達の会社には運賃を、君達の口座には些少ながらボーナスを入れて置いたよ─


「は、はぁ、ど、どうも」

「幽霊がボーナスくれるのかよ?」


 どうにも事態が飲み込めない二人だが、トラックの荷台の蓋が勝手に開いていくのは見えていた。


「お? か、勝手にウイングが開いちゃった!?」

「ひぃいい!?」


 すわ、ポルターガイストかと怯えたからか、運転手と相棒は互いに抱き合う。

 姿も見せず、声だけを聴いているだから無理もない。


─では、帰り道は気を付けてくれ─


「は、はひぃ!」

「あざまーす!?」


 掛けられる労いの声に、運転手と相棒は声を裏返すしかなかった。


   *


 運転手達か喚こうが驚こうが、運ばれた【荷】には関係が無い。

 目的地まで辿り着ければ良いので在って、その為の料金も払い終えている。


 蓋が開いた荷台から、続々と降り立つのは、人型のモノだった。

 その姿は、良の変身後に酷似している。

 

 以前にも怪物騒動の際に現れた軍団である。

 

『友よ、直ぐ行くぞ』


 トラックに荷として運ばれた軍団は、その全てが一つの意志によって統率されていた。


 まるで機械が如き正確差で、軍団は迷わず山の中へと駈けていく。


 そんな光景は、トラックの運転手達も見ていた。

 と同時に、別の場所からも、その光景を見ている者も居た。


   *

 

 登る事すら難しい岩山の上で、佇む1人の青年。

 双眼鏡を使わねば見えない程の距離であっても、彼には見える。


 遠巻きに事態を見ていた青年は、フゥと息を吐いた。


「酷いな首領。 古巣の危機に呼んでくれないなんて」


 そう独り言を呟く青年だが、何かを思い出した様にハッと成る。


「あ! しまった……そう言えば、連絡手段を教えていなかったな」


 当たり前だが、連絡の方法が無ければ相手に何かを伝える事は難しい。

 そんな単純な事を失念していた青年は、鼻を唸らせる。


「ともかくも、約束は護らないとね」


 そう言うと、青年はヒョイと岩から身を踊らせる。

 普通の人間ならば重力に引かれて落ちるが、青年の場合は、落ちる事を身体が忘れた様に浮いていた。

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