油断大敵! 迫り来る影!? その7
組織の面々が準備に忙しい中。
その頭目である良はと言えば、基地の中には居ない。
細かい準備は皆に一任し、自分は一人、外で辺りを伺う。
まだ到達の時間ではないが、なんとなく、浮き足立って居た。
「やだね、盛りの付いた熊みてぇな気分だわ」
啖呵を切ったまでは良いが、やはり不安は残る。
果たして、自分は全員を護れるのか。
別の組織とは聞いたが、逆に言えば情報はソレだけである。
本来、戦略に置いて最も重要なのは兵力や火器ではない。
最も考慮され、重要視されるのは情報だ。
何故ならば、相手の事が分かれば、如何なる対策も戦略も立てられる。
極端な例を出すならば、敵軍の奥地に単身潜り込み、相手の頭を潰すという事すら可能に成ってしまう。
が、ソレが無い以上、良は不安であった。
更に不安なのは、拡散された動画である。
何処の誰が撮っていたか、それはこの際問題ではない。
それを特定し、止める前に既にそれは漏らされていた。
つまりは、良達は自らの情報をさらけ出してしまっている。
それはもはや、誰を咎めた所でどうなるモノではない。
在る意味、やってしまった事の結果でもあった。
良は目を瞑ると、手の平と拳を合わせる。
バシッと小気味良い音が響く。
「……さぁて、鬼が出るか蛇が出るか」
どんな相手が来るのか、それは分からない。
だが、首領として逃げるという選択肢は既に頭から捨てていた。
「昔の船の艦長とかも、自分が逃げるのは一番後って言うしな」
そう独り言を呟く良の耳に、ガサガサと音が響く。
最近に成って慣れたが、それはエレベーターの蓋が開く音だった。
後は、当然台が上がってくる。
程なく、台に乗った数人が良の目に入った。
「……お?」見える姿に、思わずそう声が漏れる。
女幹部に虎女、博士と壮年、組織に置いて、上を占める幹部の面々。
ただ、壮年はともかくも、良は他の3人に目を奪われていた。
「お待たせ致しました、首領」
普段以上に着飾った女幹部。
以前も派手では在ったが、今は艶やかとすら見えてしまう。
一見すると遊女だが、同時に戦士としての厳しさも在った。
「ど、どうも!」
更には、普段は殆ど化粧っ気が無い博士なのだが、この時は違った。
決して濃い訳ではなく、控えめながらも美しく見せる工夫が凝らされている。
「おっと? どうしたの、首領?」
何かを確かめる様な虎女に、良は静かに微笑む。
内心では【馬子にも衣装】という言葉を浮かべてしまったが、それを外へ出すほどに野暮ではない。
派手な虎という名に相応しい凛々しさが在る。
「んー、とっても、お綺麗です」実に月並みな美辞麗句。
が、ソレは良にとってみれば精一杯の賛辞であった。
コレから戦わねば成らない。
そんな状態の時、余り心の余裕は無いのだ。
無論、それは言葉を贈られた側にも伝わっている。
「勿体なき御言葉です、首領」
普段とは違い、妙齢の女性を想わせるアナスタシア。
「ふふぅん? そういう言葉はさ、今度二人っきりの時に聴かせてね」
片目を瞑り、軽く唇を鳴らす虎女。
「あり、ある、ありがとございます」
しどろもどろな博士。
三者三様の反応に、良も少しは肩の力が抜けていた。
「何だよ皆、俺もドレスアップしとけば良かったかな?」
外で監視をしていた以上、着替える時間も無かった良。
そんな声に、壮年が笑う。
「そうだな首領。 本来、動物でも派手なのは雄だ。 次の機会には嬢さん達に失礼に成らないよう、今度手解きしよう」
言われた良は、苦く笑った。
「はい、お願いしときます」
誰と言うでなく、期待や教えを請うにしても、機会が要る。
そして、その機会を得る為には【次】を得る必要が在った。
即ち、全員を守り通す必要性が在る。
それは簡単な事ではないだろう。
それでも、やり通さねば成らない事は分かっていた。
息を吸い込み、吐き出す。
「……では、と。 博士、まだ時間は在るのかな?」
良の問いに、博士は持ってきたタブレットを弄る。
薄く色が添えられた唇が、キュッと噛まれた。
「予定では、もう少しかと……」
博士がそういった途端に、近場の草がガサガサと鳴った。
一斉に其方を向く悪の組織一同。
「意外だな、まさか地上から来るとは……」
早速とばかりに構える良。
が、草を掻き分け出て来たのは、見知った青年であった。
「よ、組織一同集まっちゃって、悪だくみかい?」
実に軽い声を掛けてくるのは、以前にも共闘した彼である。
「あんた、どうして?」
何故、組織を嫌いな筈の青年が居るのか。 それを良は訝しむ。
警戒を解かない良に、青年は肩を竦めた。
「どうしてかって? そら、わざわざ連絡が在ったからね」
誰から、良がそう頭で考えたが、虎女を見てみればそっぽを向いている。
一応は誤魔化しているつもりなのだろうが、バレバレであった。
「でも、あんた、良いのかい?」
以前は戦った相手に、良は懐疑的だが、青年の顔に陰は無い。
「だって、他の組織が来るんだろ? そら、俺の出番さ。 なんせ、正義の味方だからな? 弱者を守るのも勤めさ」
「足手まといはごめんだぜ?」
良の声に、青年は「今度は負けねーよ?」と強がる。
二人の改造人間が、お互いに笑う。
その間に、空中に誰かが来訪したらしい。
音に目を向ければ、青く光る粒子が見えた。
「あ! いたいた! とう!」
実に軽い声が、空から届く。
何事かと良が見上げれば、落ちてくるのは見知った少女であった。
地面にストンと着々するなり、淡く光る粉を撒きながら変身を解くのは、友人でもある川村愛である。
スカートが捲れないよう抑えているのは、御愛嬌だろう。
「川村さん? えーと、なんで?」
意外といった顔を見せる良に、少女は頬を膨らませ露骨に怒っていますと態度で示す。
「なんで? 寧ろこっちがなんでなんですけど? リサから連絡が来て、慌てて駆け付けてあげたってのに、何ですか、その態度は?」
グイグイと顔を寄せてくる愛に、良は両手を軽く上げてみせた。
「すまん、ちょっとゴタゴタしてて、頭が回らなかったって言うか」
敢えて誤魔化す良だが、本音では友人を組織の争いに巻き込みたくないという想いが在った。
とは言え、それは良の都合であり、愛の都合とは関係が無い。
「えー! それって酷くないですか!? 今まで散々助けてあげたのに!?」
「悪かった悪かったって、勘弁してくれよ」
もうあまり時間が残されていない。
何とか愛を宥めようとする良に、少女はフンと鼻から息を漏らす。
「いいですよぅ? でも、今度はお礼しっかり貰いますからぁ?」
愛の声に、良は思わず【次が在ればな】と考える。
「わかったわかった。 コレが無事に終わったら……」
そう言ってから、良は場に居る皆を見た。
当たり前だが、虎女も女幹部も良い顔はしていない。
博士にしても、眉間にシワが寄っていた。
このままでは、内乱に発展しかねない。
ならばと、打開策を頭で巡らせた。
「えー……皆さんを、豪華旅行に招待したいと想います」
唐突な思いつきでは在る。
良の突然の宣言に、博士が「でも皆って?」と尋ねる。
「そらもう、みんなですよ」
良の声に、アナスタシアとカンナが顔を見合わせる。
当たり前だが、以前の首領では有り得ない発言だろう。
悪の組織一同で、旅行へ行く。
「どうしよう?」
「いや、新しい水着でも買いに行く?」
「カンナ、正気か?」
「なんで? ダメなの?」
「あいや、別に、ダメではないが」
「じゃあ良いじゃん」
ノリノリな虎女に対して、目を忙しそうに泳がせる女幹部。
何とも言えない反応を見せる大幹部二人に、良はフゥと息を吐いた。
予算に関しては問題ではない。
どうせなら、皆の為に大盤振る舞いも悪くないと思える。
姦しい空気に、青年と壮年が揃って咳を払う。
「あー、お嬢さん達。 お取り込み中すまないが」
「どうやら、おいでなすったみたいだぞ」
遠くからでも分かる、大きな何かが近付く轟音。
もはや、攻める側も隠すつもりも無いらしい。
「堂々と来るとは、意外かな?」
意外な正攻法なのかと、良が思った途端、壮年が腰の剣に手を掛けた。
瞬き程の間も無く、一気にソレを引き抜く。
派手な気合いを発する事も無く、壮年は空気を斬った。
誰もが、何事かと其方を見れば、ドサリと音がする。
パチパチと音を立てて、壮年が切り捨てた者が姿を現す。
全身が細かい鱗に覆われた、ギョロっと大きめな目を持つ怪人。
ただ、その頭は二つに切り裂かれていた。
「ほっ……何かと思えば擬態とは、陳腐な仕掛けだ」
場の誰もが気付かない程の気配に気付いた壮年。
その技の冴えは、ソードマスターと名が付く理由なのだろう。
「気を付けろ? どうやら、もう囲まれている様だ」
壮年の声に、誰言わずとも円陣を組む。
全員が背中を護り合えば、死角は無い。
とは言え、敵がどれだけ居るのかも分からないのだ。
懸念は残るが、不安は拭い去られている。
「おっと、準備しなきゃあな……」
「そうさな」
そう声を掛け合いながら、良と青年は構えを取った。
「んじゃ、あたし達もね」
「……不本意ではあるが、致し方ない」
首領である良に合わせて、アナスタシアとカンナも構えを取る。
「あ、私も!」
そんな二人に続く様に、愛も慌てて杖を取り出した。
良は、変身の起動動作を取り、青年も倣う。
「変、身!!」「へーんしん!」「変身」「……変身」「変………………身!!」
五者五様の変わり身。
場に居る者達は、戦うべくその身を変えていた。




