油断大敵! 迫り来る影!? その6
まさか世界中の組織から目の敵にされるとは良も思っても見なかった良。
が、信じたくないからと言って事態は変わらない。
如何にそれを受け入れ、対処をするのか。
首領として、逃げ出す訳にも行かなかった。
「でと、博士」
「えぁ、はい!」
急に呼ばれたからか、博士の声は上擦る。
ただ、それに構っている余裕は首領である良には無かった。
「どんくらいで、連中は来るんだ?」
首領としての良の声に、博士は慌てふためく。
「え、あ、その、どのくらいと言われても……距離や何で来るかにもよりますし」
「細かい事は良いんだ。 だいたいで良いから」
「は、はい!」
良の指示に博士はタブレットを叩く。
焦りからか、何度も間違えながらも計算をしていた。
程なく、計算が終わり、博士は顔を上げ、良を見る。
「確定とは言えませんが、おおよそ、二時間程かと」
提出された報告に、アナスタシアが目を剥いた。
「二時間!? それだけか!?」
焦る女幹部に、良は深く息を吸い込み、吐く。
「アナスタシアさん。 落ち着いてよ」
「首領! そんな呑気な事を!?」
焦っている際、他人に言われて冷静に成れれば苦労は無い。
が、良の目を見た女幹部は、言葉を失っていた。
「頼むから、落ち着けって、アナスタシア」
普段は絶対しないであろう良の声に、アナスタシアも思わず頷いてしまう。
「申し訳ありません、首領」
詫びる女幹部を手で制しつつ、良は博士を見る。
「つまりは、時間的余裕はあんまり無いって事だな?」
「……はい」
沈む博士の声に、良は目を細めると、うーんと鼻を鳴らした。
「まぁた、切羽詰まってんなぁ……」
悩む良に、アナスタシアとカンナが目を向けた。
「如何致しましょう?」「どうすんの?」
二人から、ほぼ同時に同じ質問が投げ掛けられる。
ソレを受けて、良は顔を上げながら、両手も軽く挙げる。
「こういう時ってさ、だいたい取れる方法は二つぐらいなんだよね」
先ずは、右手の人差し指を立てた。
「一つ目。 手っ取り早く降参する」
恥を忍んで降伏という事も、生き延びる為の手ではある。
「ちょっと、本気なの?」
虎女の訝しむ声に、良は「カンナ、まぁ聞けって」と答えた。
「此処までやる連中さ。 てことは、逃げ出したとしても、逃がしてくれる保証なんて無い。 下手すると、地球の裏側でも追っかけて来るだろうな」
そう言いながら、良は左手の人差し指を立てる。
「其処で、二つ目だ。 打って出る」
抗戦するという案に、虎女は目を閉じるが、アナスタシアが目を細めた。
「しかし、それは……」
言葉を詰まらせる女幹部。
当たり前だが、如何に改造人間とは言え、無敵無双でもない。
寧ろ、敵側にどれだけのソレが配備されているのか、何もわからないのだ。
女幹部の声に、良は両手を下ろした。
「わかってる。 まぁ、むちゃくちゃな話さ。 だから……」
良は、アナスタシアの目を見た。 色違いの瞳に、良は苦く笑う。
「構成員達は、逃がそうと思う」
「本気ですか!? 首領!」
一歩踏み出す女幹部。
「本気だよ。 改造された奴が相手じゃ、無駄だろ? 下手に犠牲を出すぐらいなら、逃がして欲しいんだ。 そのくらいの時間は在るだろ?」
首領として、良は女幹部に構成員達を逃がせと命令していた。
アナスタシアは暫し悩むと、口を開く。
「……直ぐ、皆を集めます」
女幹部の声に、良は静かに頷いた。
*
基地の大広間にて、集められる組織一同。
この際、良は恒例の【怪しい首領】の格好はして居らず、素の自分を晒していた。
そんな首領の近くを、大幹部が固めるのだが、この時の二人の衣装はいつもよりも豪華である。
良としては【どっから引っ張り出したんだ?】という疑問が残るが、口には出さない。
先ずはと、居並ぶ構成員達の前で女幹部がマントを翻す。
「皆! 聞け!」
片足軽く上げると、バシッと踵を鳴らした。
「正直に打ち明けよう! 我等は今、絶望的な状況に置かれている」
女幹部の説明に、構成員達は動かない。
「本来、組織に忠誠を違った貴様達は選択肢は無い。 が、今日だけは違う」
アナスタシアに続き、虎女が脚を前に出す。
着ている衣装がチャイナドレスに近いせいか、切れ目からは彼女の脚が覗く。
「今回、我等は指示を出さない。 ただ、お前達が選べ!」
虎の如き色合いを持つ髪を、サッと掻き上げた。
「残って戦うか、此処を離れても良い」
大幹部の声に、流石の構成員達も動揺が走る。
それを見て、良が椅子から立ち上がった。
すると、なんと首領はぺこりと頭を下げていた。
「みんな、この前は、助けてくれてありがとうございます!」
首領とは支配者であり、配下へ礼を述べない。
多少の労いはするが、それだけである。
つまりは、今の良は首領としてはその道を外れていた。
「でも、俺の都合でみんなに戦えなんて言えません!」
其処で、スッと良は頭を上げた。
「なので、皆さんを、解雇したいと思います!」
首領からの突然の解雇宣言。 当たり前だが、構成員達はざわついた。
普通の勤め人ですら、いきなり【クビ】と言われれば焦るのも無理はない。
が、コレは良から出来るだけの処置でもあった。
戦いともなれば、誰もが無傷という事は難しく、下手をすれば死傷者が出かねない。
事実、以前の戦闘でも構成員達にも被害は出てしまっていたのだ。
で在れば、多少無理やりでも戦地から遠ざけたい。
騒ぐ構成員達に、博士が前へと出ていた。
「みんな! 聞いて!」
博士の必死な声は、場を一気に静める。
「良さんは、みんなに死んでほしくないの! だから、わかってあげて!」
博士にしても、必死であった。
今まで、多くの人間を改造し、化け物へ変えた負い目も在る。
贖罪としては足りないが、それでも、博士は訴えた。
では、構成員達がどうするべきか。
誰もが悩むが、その場を発とうとしない。
ただ、全員が示し合わせたかの如く、組織のお決まりのポーズを取った。
「「首領! 万歳!」」
言葉は少ないが、意味するモノは大きい。
構成員の誰もが覚悟を示す。
ソレを受けて、アナスタシアも肩を張った。
「貴様ら! 覚悟は良いか!! 共に戦うのであれば、命の保証は無いぞ!」
女幹部の声にも、やはり構成員達の足は動かなかった。
全員が姿勢を崩さないが、一人がぐっと両手を構える。
「御言葉ですがアナスタシア様! 首領は、我々を解雇すると仰いました! ならば、我々は勝手にします!」
「大幹部の皆様も勝手になさるんでしょう! こっちもそうします!」
本来、下部の構成員達に発言権等はない。
が、解雇をされた時点で、彼等との上下関係は断ち切られている。
つまりは、どんな発言も自由であった。
声を聞き、ソレを見て、虎女がフフンと笑い肩を竦める。
「首領。 みんな、ああだってさ」
クビにされても逃げないという事は、【逃げろ】という命令を無視した事になる。
誰に言われたのでもなく、誰かに従うのではなく、自らの意志でそうする。
「バッカ野郎共が……」
良が吐いたのは侮蔑ではあるだろう。
が、同じ志を持つ者へは、賛辞とも聞こえた。
「……俺に、ついて来てくれ!」
改めて、全員を護ろうと胸に秘める良。
全員を意を受けて、アナスタシアが、マントを翻してポーズを決める。
「首領、万歳!」
女幹部の声に、構成員も続く。
「「「首領、万歳!」」」
揃ったその声は、地下基地に響いた。
*
誰も逃げ出さない以上、戦う事を選んだという事になる。
その結果、地下基地は今までに無い程に騒がしかった。
彼方此方から武器やら弾薬などが運ばれ、準備が進む。
ライフルやら何やらが山と詰まれたカートが走り回る。
「ソレは後で搬入口へ持って行け! 大砲が先だ!」
バタバタと慌ただしい用意。
念には念を入れ、とにかく運ばれる。
構成員達とは別に、忙しい者達も居た。
特に目立つのは、アナスタシアとカンナの大幹部二人だろう。
二人は、何故だか念入りに化粧の確認をしていた。
カンナは、足の爪にまで紅をさし、アナスタシアは睫毛の手入れに忙しい。
そんな幹部の姿に、博士は首を傾げる。
「お二人は、なんで化粧なんかを?」
悩む博士の横に、いつの間にか戻ったらしい大幹部の壮年が立つ。
「うん? あぁ、古い習わしだからな、お嬢さんは知らないだろう」
「だから、なんなんです?」
少しだけムッとする博士の声に、壮年は苦く笑った。
「戦化粧ってね。 自分を奮い立たせる意味も在るが、専らは死してその身が見苦しく成らぬよう、予めするのさ」
聞かされた説明に、博士が唾を飲み込む。
表向きは飄々としている大幹部二人だが、内側には並々ならぬ覚悟を秘めていた。
二人に比べると、博士は自分の覚悟の足りなさを痛感させられる。
膝が震える博士だが、キッと顔に力を入れると、二人の方へ走った。
「すみませーん! 私にも、少しお化粧教えてください!」
二人に化粧の師事を頼む博士を見送る。
ああでもないこうでもないと、化粧を教わる最中、博士はチラリと二人へ目を向ける。
「あの、お二人に相談が在るんですけど」
「なに?」「あと、あんまり動かないの」
丁重に化粧を施すカンナとアナスタシアの声に、博士の喉がグビリと動く。
「……じゃあ」
博士が何かを話そうとした時、壮年はその場を静かに離れる。
男である者が、女の話へ混ざるべきではないという判断であった。




