油断大敵! 迫り来る影!? その3
アナスタシアとカンナは話が在るという事で部屋を出てしまう。
残された良は、する事も無いので課題を考えていた。
だが、結局の所、良は組織の為の計画が思い付かなかった。
「考えろってか? どうすりゃ良いんだろうねぇ?」
相談をしようにも、広い部屋には良しか居ない。
で在れば、自分独りで考える他は無かった。
とは言え、今まで組織を率いた経験が無い良にとっては、与えられた課題は実に難しく、思えて成らない。
在る意味では【世界征服】を唱えた方が余程簡単に思えてしまった。
改造人間を有する組織ともなれば、並みの軍隊では歯牙にも掛けないだろう。
構成員達の要望通り、改造人間を大量に増やせば、或いは世界を牛耳る事も出来てしまう。
ふと、良は想像した。
数えるのも馬鹿らしい程の改造人間を従え、世界を征服してしまう自分。
その想像の中では、良は地球の手の中に入れていた。
残虐な笑みを浮かべながら、全てを統治する。
そうなれば、全てが自由でもある。
何をするにせよ、誰も止めはしない。
如何なる行為ですら、それは容認される。
それと同時に、良は思い出していた。
かつて、自分が前首領を屠った際の疑問である。
【世界制服の目的は?】
仮に自分が地球を統べたならば、何をすべきか。
そうすると、少し前に戦い、共闘もした幹部であるセイントが思い出される。
かの青年は圧倒的な力を持ち、改造人間ですら手も足も出ない程の力を持っていた。
ソレほどの力が在っても、世界を変えられなかったという事実。
無論、無理やり変える事は可能だろう。
ただ力で我を押し通せば良いのだ。
そう考えた良だが、ウーンと鼻が鳴った。
「無理やり変えたってさ、んなもん、今と変わんねーんじゃね?」
世界の全てを見通す事は出来ないが、ある程度は見渡せる。
そうすれば見える事もある。
現在の世界は、一部の特権階級の者達の為の世界だろう。
仮に、その全てを退かし、良が、支配者としてすげ替わった所で、なにも変えられず、変わりはしない。
つまり、良が以前に提示した案。
【世界の平和】などは、ただの妄想に過ぎないという事実だった。
それを踏まえると、何故セイントの部下達が狂行に及んだのか、分かってしまう。
どう足掻いた所で、人は変えられないので在れば、全てを滅ぼしてしまえば良い。
人の心を変えられずとも、滅ぼせば問題その物は消えて無くなる。
その計画は理解は出来るが、納得は出来るがモノではなかった。
だからこそ、良はセイントと共に計画を止めている。
「でもなぁ、どうすりゃ良いのよ」
何とか説得をしたいが、それもまた無理だと分かってしまう。
セイントも語っていたが、話し合いには意味が無い。
話し合いで解決が可能ならば、この世には刑務所は不要だろう。
何故ならば、言葉で解決が可能ならば、犯罪を起こそうとして居る者に向かって【やめてください】と言えば済む。
それが可能なら、この世は理想郷に近付ける。
ただ、それもまたただの夢想に過ぎないのも事実だった。
「支配してもダメ、殴り込みでもダメ、話し合いでもダメ」
正に、八方塞がりである。
解決不可能な課題に、良は頭を抱えた。
「コレさぁ、無理だろ……手も足も口も出せねぇじゃん」
どう頭を捻った所で、万人の為の平和は決して訪れない。
何処かに強者が現れて、弱者を貪る。
最も、それが世界の理であった。
*
課題に1時間ほど費やした所で、良は休憩を取っていた。
改造人間には疲労は無いが、精神は消耗する。
何かないか、そう考えた所で、良は自前のスマートフォンを弄っていた。
インターネットにて検索するのは、この前の騒ぎである。
何となくだが、自分達がどう見られて居るのか、それが知りたかった。
アナスタシアの変身後の動画を見たことも、好奇心に拍車を掛けている。
「えーと、どらどら……と」
なんと文字を入力すべきか。
最初こそそう悩んだ良だったが、直ぐに杞憂へ変わった。
何の動画サイトを選んだとしても、事件の映像が表示される。
ソレはもう、選り取り見取りだった。
撮影された国、言語、どれも様々だが、共通点も在る。
見本には、良と同じ姿が映っていた。
その数は膨大で、もはやどれから見れば良いのかを悩む程である。
とりあえずと、良は一つを選んでみた。
流れる映像だが、アナスタシアが大変だと見せたモノと大差は無い。
映る風景から、恐らくは違う街なのだろう。
それでも【謎の怪人が化け物相手に立ち向かう】という構図は変わらなかった。
何度か他の動画も、概ね同じ内容である。
「あー、参ったねぇ……どうも」
自分の変身した姿と同じ格好の何者かが、戦う。
それには驚きこそすれ、嫌な気分でもない。
戦い方にも特徴は現れている。
現行の警察や軍隊が武器を用いるのに対して、怪人達は敢えて素手だ。
効率のみを追求すれば、もっと良い手は幾らでも在るだろうが、武器を用いない事で、誤射も防げる。
武器を使わないという点も、人々がその動画を見る理由に成っているのだろう。
更に、概ね動画を見たであろう人は、動画に対して肯定的な反応をして居る。
それも、良をホッとさせてくれた。
そんな映像の中でも、時折女幹部達の活躍も混じるのはご愛嬌だろう。
虎女の勇姿を映した動画も在るが、良が気になったのはモンハナシャコである。
見た目の事は置いておくとしても、人の為に闘う怪人。
当の本人であるアナスタシアは狼狽したり憤慨したりと忙しいが、シャコ女に対しても、肯定的な意見は多かった。
【見た目は何があるが、戦ってくれたヒーローである】と。
「でもなぁ、此処まで出回っちゃうと……ちょっとなぁ」
女幹部の事を想えば、何とかしてやりたくもある。
が、今広がりつつ在る動画全てを削除するというのは、良には難しい。
その手の事に疎いという事も在るが、シャコ女の中身がバレて居る訳でもない。
もしも、アナスタシアが本気で嫌がったなら考えるとして、良はスマートフォンの画面を消していた。
スマートフォンをテーブルへと置き、自分はソファへ横に成る。
在る意味では、久し振りの休息と言えた。
今の所、差し迫った危機は無く、憂いは少ない。
動画の事は心配だが、コレといった問題とも言い難かった。
身体を横にすると、意外にもゆったりとした気分にさせてくれる。
其処で、良は身体を伸ばした。
「偶にはさぁ……のんびりしても良いのかなぁ」
欠伸を一つすると、良は目を閉じる。
女幹部からの課題は済んでないが、今は休みが欲しかった。
*
寝る。 人には当たり前のソレも、改造人間には珍しい。
久し振りに感じるのは、浮遊して居る様な感覚。
生暖かい空気の中を、枯れ葉の様に漂う。
其処でふと、良は目を開いていた。
「コレは、またか?」
記憶の片隅に焼き付いている奇妙な感覚。
そして、見える斑の景色もまた、記憶には残っていた。
「ははぁ、二度目って事は、ただの錯覚じゃあねぇな」
良のそんな声に呼応する様に、斑の空気が歪む。
顔の様な形に成った景色を見て、良は目を細めていた。
「よう、随分と久し振りに感じるな? なんか、用かい? どっかの誰かさん」
敢えて不敵な態度にて、顔と化した何かと対峙する。
そして、景色もまた、目らしき模様を細めていた。
─篠原良。 我々が来た用件は、分かっているだろうな?─
問われた良だが、肩を竦めると、スッと片手を挙げた
先ずは、人差し指を立てる。
「第一、いきなり用件なんて言われても分かる訳ねーだろ?」
次に中指を立てる。
「第二に、何も言われてねーし?」
最後に薬指を立てて見せた。
「第三は、つーかそもそもよ、あんた誰?」
精一杯強がる良だが、コレが夢なのか現実なのかは定かではない。
しかしながら、地下基地のソファにて寝ていた事は憶えている。
で在れば、今居る場所は現実ではないという事の証明だろう。
─我々が誰なのか。 端的に言えば、お前達の創造主とでも言うべきか─
山彦の様に響く声に、良はふーんと鼻を唸らせた。
「で? そのお偉い創造主様が、わざわざ私めに何か御用が在ると?」
尊大な態度の良に、景色は歪む。
─貴様の行いは見させて貰っていた。 どういうつもりだ?─
「質問の意味が分からねぇな? どうもこうも、俺何かしましたっけ?」
─タダでその身体を貸し与えた訳では無いぞ、首領よ。 我々は、我々の為に働かせる為にソレを貸してやっているのだ─
響く声に、良は腕を組んで首を傾げた。
「あぁ! もしかしたら、あんたらは俺が自由に動く駒だと想ってたのか?」
何かを思い付いた様にそう言うと、良は景色を指差す。
「残念だったなぁ、誰かさん。 お生憎様だが、俺の脳みそは俺のまんまさ。 前の首領が、改造し忘れたらしいぜ?」
話しながら、良は自分の頭を指差す。
─なんだと?─
「ま、残念だけど諦めてくれないか? 俺は、誰だか分からん奴に従うつもりはないんでね。 それが例え、そーぞーしゅって奴でもな」
強がる良だが、間違いも在る。 今居る空間は、良のモノではないのだ。
景色が急速に混じり合い、形を為す。
尖った指先を持つ異形の手が現れていた。
本来、空間とは空虚なモノであり、それは実体を有しない。
が、今良が置かれている場所は、別のモノである。
現れた手が伸び、良を掴んでいた。
「うぉ!? なんだ!?」
いきなり捕まったという事実に、良は思わず焦る。
慌てて顔を戻せば、見える歪な顔は近くに寄って来ていた。
─図に乗るな、改造人間如きが─
「テメェ!? いきなり、なにしやがる!?」
何とか自分を捕まえる手から抜け出そうと足掻く良だが、脚がバタバタするだけで意味が無い。
─その身体も、貴様の胸の中の武器も、我々が与えた玩具に過ぎん─
おどろおどろしい声と共に、ゆったりと巨大な手の力が強くなる。
身体が軋み始めたが、良は謎の誰かを睨んでいた。
「だったらなんだよ?」
あくまでも反抗的な態度を崩さない良に、歪な顔から怒りが消えた。
─そうか。 貴様が我々に従わないのであれば、貴様は必要ではないな。 後任は新しい誰かにでも任せるとして、篠原良。 貴様には消えて貰う─
死刑宣告とも取れる声に、良は目を見開いていた。




