油断大敵! 忍び寄る影!?
辛くもセイント率いる配下の作戦を打ち破った篠原良。
続く戦いに、心休まる間も無い。
孤軍奮闘かと思いきや、仲間の助けを得た良は生還を果たした。
海での遭難中に回収された後、その身は組織の基地へと運搬されている。
それが、束の間の休息と成るのだろうか。
*
良の体を心配した博士の提案により、良は診断を受ける運びとなる。
最も、普通の人間の様な人間ドックを実施する訳ではない。
正しい言葉を選ぶならば、身体の整備だろう。
何度目か忘れた良は、台に寝かされていた。
今回、意外な違いが在るとすれば、枕だろう。
誰が作ったのかは定かではないが、稚拙ながらも手製のカバーが掛かっている。
「……それで、と。 博士?」
「え? はい!」
改造人間の整備をしながらも、チラチラと視線を送ってきている事は良も気付いて居た。
然も、寝かされる際に【コレどうぞ】と枕を出したのは博士である。
「えっとね……」
「大丈夫ですか?」
何かを問う前に、博士が良へと問う。
が、質問の主題は抜きにされていた。
とは言え、博士の目は【枕はどうですか?】と言わんばかりに爛々として居る。
此処まで露骨にされれば、如何に良が疎くともわからないとは言えないだろう。
「あー、お陰様で首が楽だよ」
「良かったぁ」
果たして、改造人間に枕の意味が在るのかと良は考えるが、それを言うほどに野暮でもない。
ともかくもと、咳を払う。
「ソレでなんだけど、どうだろう?」
「え? そんな、急に言われても………」
当たり前だが、別に良は博士に【●●●して】とは言っていない。
にもかかわらず、妙に焦り出す博士に、良は少しだけ唸った。
「んー、とね、俺の体の調子だよ?」
このまま勘違いを続けては、事態は悪い方へと行きかねない。
それではマズいと感じたからか、良は体調を尋ねた。
普通の人間であれば、彼処が痛い、苦しい、と医者へ訴える。
が、感覚の鈍い改造人間ではそうは行かない。
分かり易い程に肩の力をガクンと抜く博士だが、直ぐにシャキッとした。
彼女にも【悪の組織の頭脳】という一応の面子は在るらしい。
「えーと、りょうさ……いえ、首領」
「うん?」
「身体、何処かで弄りませんでした?」
博士の質問に、良は思い当たる節がある。
「あー、うん」
具体的に誰かとは言わない良だが、そもそも誰なのかも知らない以上答えようがない。
遠くを見るような良に、博士は手元のタブレットへと目を向けた。
「間接各部、骨格、人工筋肉、内部機関、殆ど全身に手が入ってますね。 後、胸の装置にも多少の違いが見られます」
そう言うと、博士は良の身体を見渡す。
外見上の変化は全く無い。 が、今の良は以前の良とは違っていた。
車に例えれば、中身を総入れ替えした様なモノである。
外装だけをそのままとして、中身を全て入れ換える。
エンジン、サスペンション、フレーム、各部配線、その他諸々。
其処まで改造すれば、外見上は同じ車でも全く違うモノに成るだろう。
事実、博士にしてみれば今の良はそう見えていた。
「私も、それなりに自信は在ったんですけど……」
そう言った所で、博士は口を慌てて手で塞ぐ。
手放されたタブレットは、床へと落ちた。
改造されても飄々とは振る舞うが、別に篠原良は嬉々として改造された訳ではない。
寧ろ、勝手に連れ去られて無理やり改造人間にされた。
然もそれをしたのは博士である。
「……ごめんなさい」
詫びる博士に、良はフゥと息を吐いた。
「良いって……前にも言ったけど、怒ってないよ」
「でも!」
座っていた椅子から立ち上がると、博士は良に詰め寄る。
何事かと見てみれば、良の目に映るのは目を潤ませる博士だった。
「あの……良さん」
「えーと、はい?」
「私は、その……」
何かを言わんとする博士の目が、忙しそうに泳ぐ。
それだけでなく、彼女の頬は熱を持った様に紅が差していた。
何を思ったのか、博士の顔が良のそれへ近付く。
此処で問題なのは、診療中の良は身体を動かせないという事だった。
整備中の事故を防ぐ為の処置だが、使い方次第とも言える。
「あの、ちょ……」
金縛りに掛かったが如く、身体が動かない良。
そんな良へ、博士が段々と覆い被さろうする。
開かれていた目が細く窄まる。
後少し。 そう言う所で、部屋に乱入者が現れた。
「首領!! 大変です!」
いきなりの事に、博士が「ヒャッ!?」と声を上げながら派手に転がった。
受け止めてやりたいが、生憎と良は動けない。
「いたたたた……」
「あ、へい! 何でしょう!」
呻く博士を心配しながらも、良は部屋に来たアナスタシアへ目を向ける。
女幹部も、ウンウン呻く博士をチラチラ見ながらも、コホンと咳を払った。
「話すよりも、映像を見て貰った方が良いかと……」
そう言うと、アナスタシアは早速準備を始めようとする。
が、その為の専門家は床で呻いていた。
「ええい! 博士! 何をしてるんだ! 速く起きて準備を!」
「……うぅ、はぃ」
女幹部に助け起こされる博士だが、その目は何処か恨めしさが含まれる。
が、同時にアナスタシアの目にもしてやったという色が在った。
そんな見えない戦いが目の前で起こっていても、良は動けない。
女幹部と博士、両者の思惑がどうであれ、事は進む。
天井から下がる画面の用意は博士が、そして、操作は女幹部であった。
暫く後。 ようやく戒めを解かれた良の前で、画面が灯る。
「で、アナスタシアさん。 大変だーって言ってましたけども、何が大変なんすか? まさか、まだ化け物の残りが出たとか?」
心配する良の声を聞きながらも、アナスタシアは首を横へと振る。
「其方の心配は今の所は……それ以上に、此方が問題です」
女幹部の操作にて、画面に在るモノが映る。
ソレは、所謂動画投稿サイトの一つであった。
画面上には様々な動画や宣伝広告が踊る。
「コレです、ちょっと見てください」
数ある中から、アナスタシアは一つの動画を選択していた。
程なく、動画が再生される。
*
動画が始まるが、どうやら誰かが手で持った何かで撮ったのだろう。
画面は激しく揺れ、内臓の弱い者なら酔いかねない。
ハァハァという荒い息遣いに、バタバタと必死に走る音。
そんな中、急に画面が揺れる。
揺れが収まったかと想った途端に、映るのは怪物である。
醜悪な見た目はさることながら、獲物を見つけ出したであろう目線。
動画である以上、臭いは無いが、伝わってくる生々しさが在った。
撮影者が動けないからか、怪物は大きく口を開く。
このままでは、撮影者が食べられるという残酷な記録映像に成ってしまう。
が、怪物が撮影者に噛み付くよりも速く、何かが化け物を蹴飛ばしていた。
直ぐに装甲に包まれた手が、撮影者を引き起こす。
『おい、邪魔だ。 速く逃げるんだ』
そう言う何者かは、良の返信後の姿に良く似ていた。
撮影者は特に喋らないが、画面が上下に揺れる事から頷いて居るのは伝わる。
良に似た者は、撮影者が逃げるのを待たず、跳んでいた。
跳んだ先で、怪物へと跳び蹴りを見舞う。
その後も、撮影者はカメラを止めなかった。
装甲に包まれた怪人が、次々に化け物を倒す。
派手な技は無いが、格闘技の熟練者を想わせる動作。
無駄の無い打突、蹴り、どれも機械の様な正確さが在る。
其処で、動画は終わった。
*
見終わった良は、ウーン唸る。
「あー、そういえば助かったな。 俺はちょっと用事が在って見てなかったんだけどあの後大丈夫だったのかな」
「そんな呑気な事を言ってる場合じゃないんです!」
そう言うと、アナスタシアは更に画面を操作する。
すると、画面一杯に【関連動画】として似たような動画が現れた。
ただ、表示されたと言葉にすると単純ながらも、問題なのはその数だ。
「投稿は世界中からです……困りますよねぇ」
アナスタシアはボソリとそう言うが、本当に頭を痛めて居るのだろう。
彼女の顔には苦味が走っていた。
「あー、まぁ、あんだけ暴れちゃったからなぁ」
ハハハと軽く良だが、それが益々アナスタシアの頭を痛める。
「喜んでる場合ではありません! 首領!」
「えぇ……」
咎められ、気落ちする良に、アナスタシアは画面を指さして見せた。
「分かってますか? 世界なんですよ!? 世界中で、然も選りに選って首領と同じ姿をしてたってのが問題なんです!!」
本来、悪の組織とは秘密を大事にするモノだ。
当たり前ではあるが、門外不出の技術も多く、それだけではない。
ハッキリ言えば漏洩すれば、犯罪に成ることも多いのだ。
「いやいや、でもほら、俺、顔割れてないし……」
良にとってみれば、顔はバラしていない自覚は在った。
如何に変身後の姿がバレた所で、中身が誰なのかは割れてない筈である。
そう考える良とは反対に、アナスタシアの鼻がウーンと唸る。
「首領。 確かに、貴方の顔は割れてでしょうが、そういう事ではないんですよ! 我々の存在が、外に出てしまってるんですよ!? だいたい、お帰りに成る前から首領には首領としての自覚と言うモノがですね」
如何にも焦る女幹部の長い説教が始まりかねない。
それに対して、良も一応は言いたい事もある。
【自分だって募集広告を堂々と出してただろ?】と。
とは言え、女を責めるのは良の趣味ではない。
同時に、何かに気付いたらしい博士が、良を軽く肘でつつく。
それを受けた良も、オッと鼻を鳴らした。
「……ああー、と、分かってます分かってます……今後はもっとこう、秘密大事にしますから。 あ、所で、其処の動画見せてもらえます?」
如何にも取って付けた様な良の言い訳に、女幹部は目を細めた。
「お願いしますよ? えーと、コレですか……」
言われるがままに、アナスタシアは確認もせずに動画を再生してしまった。
そして、画面一杯に現れるのは、良と同型の怪人に混じる大型のモンハナシャコである。
単純ながらもパンチだけで化け物を倒して行く姿は実に勇ましい。
が、カメラを向けられている事に気付いたのか、シャコが撮影者の方をグンと振り向いていた。
『おい!? 貴様! 何を勝手に撮ってるんだ!? 肖像権の侵害だぞ!?』
『ひぃいい!? すんませんすんません!?』
迫り来るモンハナシャコ女の怒声と、撮影者らしい声が混じる。
在る意味、ホラー映画よりも生々しい怖さが在った。
何せ小さいならどうという事もないが、そのシャコは人よりも大きい。
「なんで……動画残ってるのぉ……消してってあんなに頼んだのにぃ」
当の本人であるアナスタシアは顔を手で覆い座り込んでしまう。
良と博士は、してやったりでニヤリと笑っていた。




