驚愕! 地球救済作戦! その24
スイッチの起動によって、船の各所に設置された装置が動いた。
程なく、船の彼方此方から甲板が吹き飛ぶ。
ソレに伴い、船内外に警告音が響いた。
【警告! 本船の自爆装置が作動しました! ロケット発射後、本船は速やかに爆発します! 乗組員は即刻待避してください!】
『なんだなんだなんだぁ!? テメェ! 何しやがった!?』
良の声に、それをしたであろう男は笑った。
「改造されて耳が腐ったか? 改造人間如きが」
痛みは在るのだろうが、それでも男はジッと良を睨んでいた。
「聞いた通りだ、貴様等の負けだよ。 残念だったな?」
『化け物の次はロケットに自爆装置だ!? いい加減にしろ!!』
「それだけじゃない。 ソイツは標的の上で神経ガスが吹き出す仕組みだ!」
男は役目を終えた金属の筒を放り捨てると、立ち上がって両腕を左右へ伸ばす。
「さ、殺してみろ! それとも、ロケットを全部止めるか? 船を沈めでもしない限りは結果は変えられん!」
そんな声を合図に、艦橋の壁に大きなデジタル時計が現れた。
ただ、それは普通の時刻を表すモノではない。
表示される数字はドンドン減っていく。
【発射まで、一分】
無情な機械音声に、良は焦る。
『あー、この野郎!』
焦りも憤りはするが、時間が余りに足りない。
対して、男は勝利を確信した様に高らかに笑った。
「黙って作戦遂行させてくれれは良いモノを! 広がる毒は大勢を殺してくれるだろう! ざまあみろ!」
叫ぶ男を無視して、良は他の者達へ目を向ける。
『ええい! お前ら! 死にたくなきゃサッサと出ろ!』
命を懸けたといっても、いざそれが眼前に迫ると人は動いてしまう。
何人かの乗組員は、慌てて艦橋から出ると、我先にと海へ自ら飛び込んだ。
残されたのは、良とセイントの配下の男だけ。
『おら! あんたも出ろよ!』
「私に構うな! 逃げたきゃ勝手に失せろ!」
頑として動こうとしない男に、良は窓から見える巨人へ目を向けた。
言葉は交わせないが、良の眼に巨人が頷くのが見える。
頷くのを確認した良は、何も云わずに男へと駆け寄った。
その勢いのまま、男を捕まえて走る。
「何をする!? 放せ!?」
『うるせぇんだよ! 一人で死んで逃げようなんて腰抜け、誰が許すか!』
勢いもそのままに、良は窓を突き破って男ごと海へと飛んだ。
*
小さな水柱が二つ上がるのを見て、巨人が動く。
『フッ……デェヤアアア!!』
地鳴りの様な叫びと共に、巨人が船を持ち上げた。
信じられない光景に、海の上に浮かぶ誰もが目を奪われる。
『……ダァアアアア!!』
少し溜めを置いた裂帛の気合いと共に、白黒の巨人は船を放った。
大型の建物並みに船が重力を忘れた様に浮かぶ。
それは、水面へと出た良にも見えていた。
『おいおい、うっそだろう……』
改造人間でも信じられない光景。
誰もが浮かぶ船に目を奪われる中、巨人が独特の構えを取る。
『フゥア!! ヘヤアア!!』
以前に、良に放ったのと同じ怪光線だが、規模が違う。
良の纏う装甲は耐えてみせたが、船の材質はそれ程特殊なモノではない。
巨大化したセイントが放つ怪光線を浴びた船は、瞬く間に爆発四散。
彼方此方へ、煙を吐く破片が飛び散った。
*
船を一瞬にして瓦礫へと変えた巨人だが、僅かに身体を光らせると巨体が一気に縮んでしまう。
そのまま、元の人と同じ大きさに戻ると海に落ちていった。
『あ、おーい! う、ぬぅ!?』
身体の重さ辟易する良。
勢い余って海に飛び込んだまでは良いのだが、何せ沈む。
塩分が多少浮力を生むとはいえ、良は普通の人間ではないのだ。
幸か不幸か、船が吹き飛んだ際、救命胴衣が良の近くに落ちた。
良は何とかそれを掴む。
身体への負担が減ったからか、片手と脚で泳いで進んだ。
『あー!! 海で泳ぐなんてどんだけぶりだよ!?』
ブー垂れながらも、進む。
すると、海面に浮かぶモノが見えてきた。
それは、見知った青年で在るが、纏った背広は殆どボロ切れと変わらない。
意識が無いのか、大の字で浮かぶ青年を良は捉えた。
『おい! おーい! 生きてるかぁ!?』
近付くなり、青年の頬を遠慮無しで叩く。
すると、形の良い鼻がウーンと唸った。
『あぁ、生きてるみたいだな?』
良がホッとすると、セイントの目が開いた。
「……あぁ、貴方ですか」
『おう、見てたぜ? ありゃあ俺じゃ無理だな』
巨大化するという事を茶化すと、青年は苦く笑う。
「まぁ、出来る言っても、たったの五分だけですから」
『なんか、どっかで聞いた様な気がするが、まぁ、良いか』
青年も浮き輪に掴まらせ、良は変身を解く。
解いた所で重さは変わらないが、何となく息が通る気がした。
「あー、参ったぜ、今回もさ」
今までも、色々と面倒とは出会ったが、今回も楽ではない。
それを踏まえて良が声を漏らすと、青年は難しい顔をした。
「すみません、お手間を掛けさせたようで」
「全くだぜ? で? この後はどうすんだ?」
「と、言いますと?」
惚けるセイントに、良はムッとする。
「あんたさ、帰るって言ってなかったか?」
尋ねられた青年は、空を見る。
慌ただしい時は見ている余裕が無かったが、空は晴れ、月が明るく辺りを照らしていた。
「今更、私が出来る事は無いのではないかと」
「そうか? 結構頑張ったんじゃねぇの?」
労うつもりで良がそう言うと、青年は笑った。
「……こんな事言うのも変ですが、報われた気がします。 しかしながら、私が荷担した事で、被害者は出ています」
今まで忙しさから忘れて居たが、少し前までは良は化け物とも戦っていた。
「あー、そういや、どうなった!?」
辺りを見ても、見えるのは海原だけ。
恐らく、船の乗員達もあちこちに散らばっているであろう。
何とかしようにも、船はセイントが爆発させてしまっている。
其処で、良は共に浮き輪に捕まる青年を見た。
「よ、そろそろ飛んで他を拾わないか?」
改造人間の自分は多少なら放置されても問題は無い。
が、他の人間はそうは行かない事もわかっていた。
問われた青年だが、苦しげに首を横へ振る。
「もう少し時間が経てば何とか成るかも知れませんが、今はちょっと……」
「おーい、そら参るな」
ろくに泳げない改造人間と動けない青年は、静かに海を漂っていた。
*
どれくらいの時間が経ったか忘れた頃。 ふと、良は耳に音を感じた。
海の流れとは違う音。 寧ろ、その水を切るように進む何か。
ハタと其方へ目を向ければ、遠くから近付く灯りが見えた。
「おう?」
目を凝らせば見えるが、それは、船である。
然も、ただの船ではない。
船の先端に組織の意匠が付いた船が良へと近付いていた。
「彼処です!居ました!」
「あー! 居た! おーい! 首領!」
「篠原さーん!?」
聞き慣れた声に、良はフゥと息を吐く。
「あはは、どうやら、悪運は尽きてねぇみたいだぜ」
何処か勝ち誇る様な良に、青年は苦い笑みを浮かべる。
「今回は、私の負けですよ」
言葉だけを取れば負け惜しみにも聞こえなくもない。
が、負けた割には青年の声は晴れ晴れとして居た。
良と青年が船に引き揚げられる。
海水独特の匂いにウーンと唸る良だが、足場の有り難みを痛感した。
「あー、やっぱり人間ってのは地に足着けねーと駄目だな」
どっかりと腰を下ろす。
身体の疲れは無いが、気疲れは在った。
そんな良へ、タオルが差し出される。
「はい、首領。 他の遭難者を助けて居たので手間取ってしまい遅れました」
それをするのは、女幹部アナスタシアである。
既に変身を解いている彼女は、モンハナシャコ女ではない。
ただ、変身を経たせいか、シャツにジーパンといつもよりも若干粗雑な格好である。
「あー、ざっす。 助かります」
タオルを受け取りながらも、良は何処か気まずい空気を感じていた。
その理由だが、視線にある。
一番にタオルを持ってきたのはアナスタシアだ。
が、他にも同じ事をしようとして出鼻を挫かれたからか、何とも言えない視線が三人分良へと向いていた。
露骨に髪を逆立てる虎女の恨めしい視線は敢えて無視し、良はアナスタシアへと目を向けた。
「そういや、街の方は? 大丈夫なんすか?」
良の問いに、アナスタシアは少し顔を曇らせた。
「……今は、大丈夫です。 でも、そんな事よりも……」
「はい、何でしょう?」
「お帰りなさいませ」
意外なアナスタシアの声に、良は気が抜けた様にハァと息を吐いた。
「ちょっと、首領?」
「いやぁ、なんて言うか、力抜けた」
重い荷物を、ようやく下ろした気分が良に訪れる。
が、悪の首領には休息の時は許されらしい。
痺れを切らしたのか、虎女がバタバタと駆けてくる。
「首領! シャワー浴びた方が良いですよ!?」
「へ? え、ぁ、うん」
「あたし、洗ってあげますよ?」
「ほぁい?」
もはや、虎女はなりふり構って居られないらしい。
恥も外聞もかなぐり捨てるカンナである。
そうなると、他の者達も黙っては居られないらしい。
博士と愛が目の色変えて虎女の後へ続く。
「そういうのはいけないと思いま~す!」
「そうですよ! ソレに! 探したのは私の手柄なんですよ!? 探知機を急に調整したり、色々在ったんですから!」
虎女だけでも対処に追われてしまう良に、更に事が重なる。
女子らしい価値観を示す愛に、良を見つけたであろう博士。
「あの、皆さん、少し……落ち着いてください」
姦しい騒ぎに囲まれては、良も形無しである。
凄まじい攻撃にもビクともしない改造人間ではあるが、意外な脆さが見え隠れする。
そんな騒ぎを遠巻きに見ていた青年は、スッと立ち上がった。
「……首領」
良く通る声は、姦しさを抜けて届く。
良を含めた場に居る者達の目がセイントを見た。
「今回は、本当に助かりました。 ですので、もしも、何か手伝える事が在ったら……呼んでください。 星の向こうからでも駆け付けますので」
そう言うと、青年はパッと空へ飛び上がり、消えて行く。
それを見送る良は
「たく、せわしねぇ野郎だ」
良はそう言うと、目を閉じて息を長く吐いた。




