驚愕! 地球救済作戦! その22
悪の組織の首領とは言えない性格の良。
そんな人の良さに、セイントは過去を懐かしむ要に笑った。
「前にも云いましたけど、ホントに貴方は昔の自分を見ているみたいです」
『そういう昔話は後にしてくれ先輩! こっちは時間が無いんだ! 俺は何をすればいい!』
咄嗟に口をついて出た言葉は、青年を揺さぶった。
セイントの身体が、一瞬だがブルッと震える。
「……こんな事を頼むのは失礼ながら、付き合って頂けますか?」
青年の声に、良は片足を思わず引いた。
『おーいおい、まさか……また空飛べってのか?』
「生憎、瞬間移動が出来れば良いのですが……」
すまなそうな声に、良は一瞬考える。
この場に関して云えば、自分が居なくとも何とか成るだろう。
魔法少女に、悪の組織の大幹部三人。
これだけでも、一国の軍隊丸ごと相手に出来そうだ。
然も、それだけではない。
正体は不明だが、自分と同じ事格好をした軍団。
そして何よりも、戦う事を選んだ人達。
此処まで揃って負ける要素は無い。
で在れば、自分は他の救援へ回るのも吝かではなかった。
『あー、わかったよ! どうにでもしてくれ!』
破れかぶれな良の声に、セイントが歩み寄る。
以前の様に無理やりという事はなく、敢えて肩を組んだ。
「じゃあ、行きますよ?」
『はいよ』
良が答えると、体が浮き上がった。
無重力でもないにも関わらず、フワリと重い筈の身体が上がる感覚は、良にとっては慣れないモノだった。
ジェット機の様な派手な音も無く、二人は飛び上がっていた。
*
以前は悠々と眺める余裕が無かった。
無理やりとは違い、肩組んで飛んでいた。
だからか、良は景色を眺める余裕が在る。
『おぉ……すげーよ、まるで俺が戦闘機に成ったみたいだぜ』
光度を上げれば、真っ暗闇でも見通せる良は、在る意味絶景を味わう。
『あんたさ、いつもこんなに優雅な気分なのか?』
隣を飛ぶセイントに、良が尋ねる。 すると、青年は苦く笑った。
「まだ何時とは言えません。 が、人もいつかは飛べますよ」
『そうかな……いや、そうだな。 だったら、その為にも止めなきゃね』
「わかってます、飛ばしますよ!」
青年が一声掛けると、速度が増す。
セイントと悪の首領は、音の壁をぶち破っていた。
煙の様な雲を引きながら、良は空を駆け抜けた。
*
一方、全速力で陸へと向かう船でも、異変を感じ取ったらしい。
「レーダーに感在り! 此方へ向かい何かが接近中!」
「もはや一刻の猶予も無い! 構わん、撃ち落とせ!」
掛けられる号令に「了解!」と反応が在った。
船員に指示に、危機を感じ取った船が形を変えていく。
彼方此方の塗装が剥げ落ち、続々と武器が覗く。
大型小型の砲台、各種の機関銃。 魚雷発射管に爆雷散布機。
さらには多連装のミサイル。
これだけでも、何処かの国の海軍丸ごと相手に出来そうな程の武器である。
「出し惜しみは無しだ! もうコレが最後だからな!」
そんな声を合図に、船の火器が一斉に火を噴いて居た。
*
良と共に空を飛ぶセイントが、ウンと呻き眼を細める。
そんな声に、良も目を凝らすと何かが遠くでチカッと瞬くのが見えた。
『お? なんだ?』
「ちょっと、回りますよ?」
そう言いながら、青年は一気に身体を左へ捻る。
グルン横へ一回転するのだが、本来二人が居た場所を、何かが通った。
『おいおいおーい!? なんだぁ、今のは!?』
「あー、長距離用の対空火砲でしょうね」
『まさか、バレてるってのか!?』
良の焦りに、セイントも気まずそうな顔を見せる。
「今回は、その、貴方も一緒ですから。 たぶん、レーダーに引っかかったのではないかと」
『じゃあどうなるんだ?』
「大丈夫、避けますから」
そう言うと、セイントは一気に高度を上げた。
やはり、二人の居たであろう場所を曳光弾が通る。
通過に伴う衝撃波にはビクともしない良だが、やはり焦りが隠せない。
『おいおい! すげーのが飛んで来たぞ!?』
「もっと来ます、しっかり掴まっててください」
砲弾の後は、飛んでくる何かが良にも見える。
煙を吹き出しながら飛ぶソレには見覚えが在った。
『げ!? うぉああああ!!』
殆ど掴まってるだけの良にとってみれば、今回の飛行もやはり最悪であった。
急に高度が下がったと思った途端、左右へ捻る様に避ける。
が、避けたとしても、ミサイルは大きく旋回してまた追いかけて来るのだ。
『ヤバいぜ!!』「大丈夫、振り切ります!」
海面スレスレを飛ぶ良とセイント。
文字通り、海面の飛沫が時折斯かる程に低く飛ぶ。
さしものミサイルと言えど、其処まで低く飛ぶ標的は想定していなかったのだろう。
悉くが海面に突き刺さり、爆発四散した。
ミサイルや砲弾を避け、更に船へ近付く。
すると、今度は船から花火の様に火が散った。
一見する分には花火の様な火花にも見えるが、それは曳光弾である。
「もっと動きますので、舌噛まないでくださいよ」
『冗談じゃねぇや!』
今までも、マトモな人間ならば、とっくに意識を失っているで在ろう機動である。
そんなムチャクチャな動きをされても、良は嘔吐もしなければ気絶もして居なかった。
雨粒の様に飛び来る中を、セイントと良は縦横無尽な動きで避けつつ接近する。
既存の戦闘機やヘリコプターではとても有り得ない動きで、何とか船に近付きつつあった。
元々が所属故か、セイントは船の何処に穴が在るのかを知っている。
船の後部、ヘリコプター当が離発着する甲板へと良を放した。
火花散らしながらも、着地する良。
『こらぁあ! もっと丁寧に下ろしてくれても良いだろ!!』
放り投げられたらからか、若干言葉の荒い良。
ソレを受けて、セイントは微笑む。
「それだけ余裕が在れば、大丈夫そうですね」
『で? この後どうしろと?』
「方法は任せますよ。 私も、船を止めますから」
『だからさ、止めるたってどうしろってんだ? そっちはどうすんだ?』
相も変わらず機械に疎い良である。
「私は私でやります。 其方の方法はお任せしますよ……それと、出来れば……」
何かを思い悩む様な目に、良は青年の思いを悟る。
『へぇへ、なるべく殺すなってんだろ?』
「ご理解が速く、助かります」
そんな二人の耳に、近付く足音と声が聞こえてくる。
『ほら来たぞ! 速く行けって!!』
パッと立ち上がり構える良に、青年は「お願いします」と願った。
飛び去るセイントが如何にして船を止めるつもりなのかを良は知らない。
が、自分は自分で出来る事を全うしようと決める。
「居たぞ! 変な格好の侵入者だ!」
いきなりぶつけられる侮蔑に、良は『余計なお世話だよ』と囁く。
「拘束は無用だ! 撃ち殺せ!」
そんな声と共に、船の乗員は良へ銃撃を始める。
人体を容易に引き裂く筈の銃弾は、装甲が弾いていた。
『止めときな、別にあんたら殺しに来た訳じゃねぇ』
身体へ浴びせられる銃撃など意に介さず、良は乗員へと近寄る。
手で届く程に近付けば、改造人間の独壇場と言えた。
ヒョイと手を振り、相手の持つ銃を弾き飛ばす。
適当に一つを取り上げては、それを捻って見せる。
『ほら、こんな風に成りたいか?』
グニャリと姿を変えたライフルを見せ付けられても、乗員はメゲなかった。
「俺達は命捨ててんだ! 殺されたって止めるもんか!」
何をして居るにせよ、彼等には彼等なりの意地が在るのだろう。
だからと言って、殺す訳にも行かず良は難儀するが、ふと、船の縁に掛かる救命用の浮き輪を見て思い付いた。
『おい、泳げるよな?』
「あ? 何を云ってんだぁああああ!?」
近寄り、相手の衣服を掴むと、良は乗員を船の外へと放った。
船のスクリューに巻き込まれないように遠くへと。
ボチャンと、派手に水柱が上がる。
『季節外れで悪いが、ちょいと海水浴してて貰うぜ?』
そう言うと、良は浮き輪をポイと海へ放る。
そして向き直ると同時に、兜の目をビカッと光らせた。
『そら、次に海でスイミングしてぇ奴は誰だ?』
そう叫ぶ良へと、再び銃口が向けられていた。
*
船の異変は直ぐに艦橋へと報告される。
「大変です! 後部に侵入者です!」
バタバタと部屋に駆け込む乗員の報告に、セイントの配下は眼を細めた。
「知っている。 あれだけの銃撃を無視して入って来る連中だ。 ソレよりも、後少しだ。 船を死守してくれ」
敢えて、部下に向かって【死ね】と命じる。
命じられた部下も「了解!」と端的に応えていた。
配下の目は、前しか見ていない。
既に、船からも陸地の灯りが見えるほどに近付いて居た。
「進路そのまま!」
後が無い事を知っているからか、配下はもはや退路を断ってしまう。
彼に取って、人間こそが地球を蝕む害悪であると信じて疑わない。
その眼からは、かつての光は失われていた。
もう少しで、船が着く。 その筈が、船体が大きく揺れた。
鍋に放り込まれたが如き揺れに、誰もが焦る。
「なんだ!? 岩礁にでも当たったのか!?」
「いえ、この海域では有り得ません!」
「だったらなんだ!」
怒鳴りに近い声に、レーダーの観測手が目を剥いた。
「何か、大きなモノが現れて居ます!」
その報告に嘘は無い。
海を割るように、海面から一気に大きなモノが現れる。
現れたソレに船がぶち当たりまた大きく揺れた。
艦橋の窓からでも見えるほどに大きい巨人が、船を掴んで居たのだ。
黒と白に彩られた身体に、夜の闇でも黄色く輝く三つの目。
その偉容とした姿を、セイントの配下達は忘れては居ない。
何故ならば、その巨人はかつて共に戦った者なのだ。
「おのれ、此処まで来て裏切るか! 偽善者めが!?」
配下の声は、外へは届いては居ない。
それでも応えるかの様に『ジェア!!』と叫び声が海に響いた。




