驚愕! 地球救済作戦! その19
飛び降りろ。
女からそう言われた良の目の前で、飛行機の臀部が僅かに口を開く。
とは言っても、人が飛び出すには十分でもあった。
但し、ビュウビュウと吹く風や凄まじい速度で流れていく景色に、足が竦む。
「あの、おーれー、スカイダイブとかやった事無いんですけど?」
一応はパラシュートを背負った良だが、不安である。
その手の番組や動画を見たからと云って、それは実体験ではない。
『何を云う、誰にも初めては在るだろう?』
「いや、まぁ、そうなんすけども」
いまいち踏ん切りの付かない良に、女は腕を組んでフゥと息を吐く。
ふと、何かを思い付いた様に目を見開いた。
『こうしている間にも、何かが起こってるかも知れない。 君は、それを見過ごす程に臆病者かい?』
敢えて、突き放す様な声に、良の震えは止まる。
意を決した様に縁まで歩いた。
身体を斜めにして、女に片手を上げてみせる。
「色々、お世話に成りました……いつか、また!」
そう言い残すと、良は空へと身体を投げ出す。
飛び立った良を見送る女は、懐かしむ要に笑った。
『君は、ホントに変わらないんだな。 また逢おう、友よ』
そんな声は、空気に混じって消えた。
*
勢い込んで飛び出したまでは良かった。
が、落ちていくという事実は、良に後悔を与える。
「うぉおおおおおああああ!?」
プロのスカイダイバーの様に、平然とはして居られない。
何せ、指導員も居なければ、落ち方の講義も受けては居ない。
全身を叩く風に、良は焦る。
何せ、腕時計代わりの高度計を見れば、どんどん地面は近付いていた。
「うおおあい、やべー!? 死ぬー!?」
無様に回転しながら、慌てて身体を彼方此方を探す。
「どうやって開くんだコレぇ!? あ! コレかぁ!?」
兎にも角にも、良は偶々運良くパラシュートを開かせる為の部位を引いていた。
ポフンと先ずは誘導用の小さな落下傘が開き、続いて本体が広がる。
急激な減速に、良は「わ!?」と声を漏らした。
落ちる速度が緩やかになり、冷や汗が伝う。
「ふぃー……死ぬかと思ったぜ……てか、結構速いな」
減速されたとは言え、落ちている事に変わりはない。
ただ、見慣れた街を空から見下ろすと言うのは、案外壮観であった。
「ほほー、こう見ていると案外街ってデケェもんだな」
実に呑気だが、ふと良は何かに気付く。
街の彼方此方から、煙が上がっていた。
「おいおいおい!? どうなってんだ! まだ時間は在る筈だろ!?」
セイントが時間を速めた事など、良は知らない。
今はともかくも、降りる事が先決であった。
*
空の上ではゆったりと出来たが、いざ地面が近付くとそうそう呑気では居られない。
ただ、生身の人間とは違い、良は平然と降り立った。
最も、本人は焦りが残っている。
「はぁ、エラい目に逢ったぜ……て」
見慣れた街は、一変していた。
自動車は事故を起こしたのか、建物に突っ込んで居たり、互いにぶつかり合っていたりと酷い有様である。
そして、何よりも良が目を剥いたのは、路上に放置された人だった。
「あ、この!?」
パラシュートの外し方を失念したからか、素手で拘束具を引きちぎり、戒めから抜け出すと人に駆け寄る。
「ちょっと! 大丈夫か!?」
声を掛けた良だが、思わず足を止めてウッと呻いてしまう。
一見すると無事かと思われた人だが、胸から下が無かった。
虚ろに開いた目を、良はソッと目蓋を下ろしてやる。
何の意味も救いにもならないが、そうしたかった。
「……ひでぇ事しやがる」
膝を着いてそう言うの良の耳に、何かがドンと乗る音が届いた。
バッと良は立ち上がった。
振り返れば、いつの間にか化け物達が良を囲んでいる。
どうやら、彼等は良をノコノコと姿を現したと見ているのだろう。
が、良は叫びもしなければ逃げ出そうともしない。
ただ静かに、目で相手の位置と数を把握していた。
「何でこいつらが居るなんて今更だよな。 ほら、来いよ、腹減ってんだろ?」
怪物達からすると、良は異様な獲物である。
のろまで脆弱な人間の筈なのに、妙に強気なのだ。
無論、威嚇などを用いて自分を大きく、強く見せようとする生き物は多い。
それに対して、良はと言えば、淡々と相手を睨む蛇だろう。
警告もしない、威嚇もしない。
化け物達は、いつもの戦法を取った。
良の正面に一匹を残し、他は逃げ出す。
後は、油断した相手を背後から仕留める。
その筈だが、良は動かなかった。
それどころか「やる気がねぇなら他へ行くぜ? 暇じゃないんで」と宣う。
先に業を煮やしたのは化け物達だった。
背後は取れずとも、左右同時でも有利は変わらない。
ただ、それは相手がただの人間だという事が前提である。
そして、良はただの人間ではなかった。
両腕を左右へ伸ばし、二匹を弾く。
弾かれた一匹は身体を強かに残骸に打ち付け、もう一匹は倒れかかっていた支柱へ刺さってしまう。
「おら! どうした!? こっちは丸腰だぜ!!」良が吠えた。
相手がとても勝てないと判断したのか、怪物達は逃げ散る。
が、良はその後を追えなかった。
無論、改造人間の足ならば簡単に落ち付けるだろう。
しかしながら、それが果たして正しいのか、良は迷っていた。
戦意を喪失した相手を殺すのは躊躇われる。
それでも、良はハッと成った。
「あぁ!! こうしちゃいらんねぇ!!」
そう言うと、良は地面に倒れる人に手を合わせる。
「すんません、後で、何とかしますので」
拝む行為は奇跡を起こせはしない。
それでも、良は言葉を掛けると駆け出した。
*
セイントの作戦が開始された以上、被害は甚大な筈。
が、いざ蓋を開けてみれば、結果は違っていた。
膨大な数の化け物達は脆弱な人間を圧倒する筈。
その筈が、未だに被害は軽微だという。
そんな報告を受けてか、洋上の船の中では騒ぎが起こっていた。
彼方此方から連絡が入るが、その全ての報告は似通っている。
【謎の軍団により、化け物達の被害の方が大きい】と。
そんな報告を受けたからか、ドンと誰かが地図の乗る台を叩く。
「いったい何が起こってる!? 我々の準備は完璧な筈だ!?」
「それが……」
「言い訳はいい! 映像は無いのか!?」
怒鳴る声に、通信士が手元のキーボードを叩く。
すると、艦橋室内に付けられた画面が灯った。
其処へ、各地からの映像が送られてくるのだが、ソレを見た途端、セイントですら目を見開く。
世界中に置いて、良と思しき姿の者が戦っていた。
「首領? いや、違うな」
ぼそりとセイントの口からはそんな声が漏れる。
が、その囁きは慌てる周りは気付けない。
「なんなんだ!? 此奴は、いや、此奴等は!?」
「わかりません!! あんな装甲服は自衛隊にも米軍にも登録されてません! 完全な所属不明です!」
報告を受けてか、セイントの配下はうなだれた。
「このままでは、今までの苦労が……」
何かを呪う様な声が吐き出され、落ちていた頭が上がった。
「艦、全速力だ!」
唐突な指示に、その場に居る全員の視線が集まった。
「諸君! 我々に失敗は許されない!」
眼を血走らせる配下の声に、セイントだけが眼を細める。
「そうなのかな」
その声に、配下の眼が青年を見た。
「どういう意味でしょう?」
「今からでも、まだ、間に合う気がするんだ」
青年の諭す様な声に、配下の歯がギリリと軋む。
「その件に関しては、十分に議論した筈です」
「うん、それは、わかっている。 でも……」
セイントが何かを云う前に、配下は前を向いてしまった。
「急げ! 機関全速力だ! 作戦Bを実行する!」
配下の号令に、その仲間達も「了解!」と答えてしまう。
その部下達の姿に、セイントは心を痛めた。
道半ばなれば、まだ、行き先を決め直す事も出来る。
無理を押して行くよりも、新たな道を模索したい。
が、既に時遅く、配下はセイントの手を放れていた。
*
人ならぬ脚力にて、混乱状態の現場に駆け付ける良。
其処で、良はようやく見知った顔見つけ出していた。
「お? おーい!」
良が声を出せば、反応が在る。
「良さん!?」「篠原さん!!」「首領!!」
博士、愛、虎女、三者三様の反応だが、三人に共通しているのは、安堵が窺える事だろう。
「いやー、ごめんなさい。 すげー、こう、道に迷っててさ」
取って付けた様な言い訳に、やはり反応は違う。
「遅過ぎー、女待たせて何してたんですか!?」
頬を膨らませ、苛立ちを示すが嬉しさが隠せてない愛。
「良かった……ホントに、良かった」
ただただ安堵する博士。
「首領!」
そして、虎女はと言えば、猫化である示すが如く良に巻き付く。
いきなりの事に良は慌てるが、虎女は放す気は無いらしい。
「「ああ!?」」愛と博士は、ほぼ同時に声をあげていた。
二人の驚きに、良も何とか虎女宥めようと試みる。
「あの、カンナさん? ちょっと……まずいですよ」
「うん? 暴れないでよ、別にいーじゃん」
豪放磊落な気性故か、虎女は周りの目など気にしない。
が、良はと言えば違う。
何故ならば、二人の少女がジロッと祟る様な目をしていたのだ。
「酷い、あんなに心配してあげたのに」
「いーんですよ、私なんか」
何とも言えない二人だが、例えるならば【黒い霊気を放つ】だろう。
実際に愛と博士から黒い何かが出ている訳ではない。
が、良にはそう見えた。
「あー、もう、そんな事してる場合じゃないからさ!」
声は激しいが、良はやんわりとカンナを押す。
多少爪を立てながら離れるのを拒む虎女だが、渋々ながらも放してくれた。
「ま、しょうがない、後でね?」
実に気楽な虎女に対して、愛の視線は黒かった。
「そそ、後で、お話ししますからね?」
愛の恨み節には、博士ですらウンウンと頷く。
やっとの事で戻ってきた良だが「参ったなぁ」と弱音を漏らしていた。




