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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
驚愕! 地球救済作戦!
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驚愕! 地球救済作戦! その17


 良が動けない間も、時は止まってはくれなかった。


 二時間とは、長いようで短い。

 とある洋上の沖にて停泊する船の中では、セイントが座っていた。

 

「やれやれ、やはり云われても何も起こらない……か」


 残念そうな青年に、部下が近付く。


「そろそろ時間です」

 

 その声は、まるで刑の執行を告げる様でもある。

 

「わかってるよ。 ほら」

  

 そう言うと、青年はポケットから鍵を取り出した。

 特段に変わった点もなく、傍目には極普通なモノである。


「お気持ちには、感謝を捧げます」

「うん、知ってる」 

 

 配下の者は、セイントに一礼を贈ると、踵を返した。


 カツンカツンと、敢えて音を立てて歩く。

 向かう先には、ポツンと怪しげな筒がある。

 駐車場などにある支柱にも似ているが、ソレには鍵穴が在った。


「諸君、我々の最後の仕事だ、始めよう」


 そんな声と共に、鍵が差し込まれ、躊躇い無く捻られる。

 ソレが合図の様に、筒の天辺に在る赤いランプがチカッと灯った。

 

 船の天井から一枚のガラス板が降りる。

 それは、ただの板ではなく、世界地図が記されていた。


 地図上にポツポツと赤い点が灯り出す。


 それを見てか、セイントは眼を閉じた。


   *


 遂に始まってしまった地球救済作戦。

 既に、作戦の遂行の為に世界中には在るモノが予め仕掛けられていた。


 ソレの外観は様々だ。

 

 ただの木箱から錆び付いたドラム缶。 排気口に偽装された蓋付きの箱。


 それらの封印が、切られる。

 戒めを解かれた化け物が、ノソリと顔を覗かせ、息を吐いた。


   *


 とある場所では、いつ留められたのか分からない大きめの商用車。

 其処は地下の駐車場であった。 

  

 辺りを伺い、慎重に外へと這い出る。


 見た目の割には知能は低くなく、物陰に素早く姿を隠すと息を潜めた。

 チラリと仲間を見つけては、同じ様に集まってくる。


 ふと、化け物達が耳を蠢かす。 一斉に其方へ向く。

 

 音を出しているのは、数人の家族連れ。

 買い物帰りなのだろうか、ペチャクチャと話すのだが、その内容は化け物達には関係が無い。

 彼等には、与えられた役目が在る。

 誰に教えられずとも、本能的にそれを知っていた。


「さぁ、そろそろ帰ろうか? あれ?」

 

 父親と思しき男はそう言うと、自分の車を見る。

 が、何かがおかしい。


「ね、どうしたの?」


 男の妻がそう問いながらも、夫の視線を追った。

 

 車の影から這い出すのは、無数の怪物である。

 常識から言えば、そんなモノが急に現れるのは有り得ない。


 子供が慌てて母親に抱き付く。

 

「な、なんなんだ!?」男は思わず、大声を張り上げてしまう。


 が、実のところそれは間違いだ。

 野生の動物ですら、急激な事には敏感に反応する。


 そして当然、化け物達もまた、一斉に動き始めていた。


   *


 鍵が捻られてから10分程が経過した時。

 世界中で、混乱が始まった。


 街行く人は、独り歩きをしていた噂を身体で体感する。


 のし掛かってくる重さ、化け物の体から漂う獣臭さ。

 そして、血走った黄色い目。


 と在る街では、突如として現れた怪物に警官達が応戦を始める。


「け、警告はどうしましょう?」


 新米の警官の声に、先輩である者はギリギリと歯を軋ませた。

 現状に置いて、警察官の発砲は厳に戒められるモノである。


 が、事が事だけに、そんな事を云っている余裕などはない。


「構わん! 撃て!」 


 何処とは云わず、世界中で銃声が鳴る。

 が、その効果は期待通りではない。


 本来、鉄砲とは手の届かない相手を一方的に撃ち倒す為のモノだろう。

 逆に言えば、弓矢の発展型でしかない。


 勿論、ただの一発でも急所に当たれば化け物は倒れる。

 

 人類が発明した銃器は、優れた武器では在る。

 が、だからといってその場の化け物全てが倒れた訳ではない。


 寧ろ危機を悟った途端に怪物は蜘蛛の子散らす様に逃げ散ってしまう。

 それは更なる惨劇を産む効果と成っていた。


   *


 まだ起こった出来事に気付かない者は、遠くを見る。


「あれ? 花火?」

「こんな時期にか? どっかのアホが騒いでるんだろ?」


 若い数人は、ケラケラと笑い合う。


 が、建物の隙間から何かが覗くなり、笑いは途絶えた。


「な、なんだ!!」

「こ、コイツアレだよ! ネットの動画で出た奴!!」


 人々が化け物に気付こうが気付くまいが、それはこの際問題ではない。

 本当に問題なのは、丸腰の人間の前に怪物が現れたという事だ。


 生臭い息を吐きながら、怪物は若者へと近寄る。

 野の獣特有の殺気立つ目線。


「な、なんだよ!? こっちくんな!?」

 

 精一杯の虚勢を張りながら、怪物を威圧。

 すると、意外にも小柄な化け物は下がった。


「あ? なんだよ、てんでヘタレじゃん?」


 相手の後退に、若者は一歩、また一歩と距離を詰める。

 が、それこそが化け物の手だ。


「こ、コウ君!?」


 絞り出される様な声に、若者はウンと振り返る。

 気付けば、連れの女性は怪物に取り囲まれていた。


「あ!? 何やってんだよ!!」

 

 慌てて駆け出そうとする若者だが、彼は在ることを失念していた。  

 今まで、彼は一匹を追い詰めようとしていたが、背中を向ければ話は違う。


 数十キロの塊が、若者の背にいきなりのし掛かっていた。


「ぎゃ!?」


 ドタンとその場で倒される若者。

 倒れてしまえば、如何に相手が大きかろうが問題ではない。


 暗がりから続々と化け物が現れては若者達を取り囲んでいた。


「ひ……やだ、来ないでよ!?」


 首を絞められた鶏の様な悲鳴。

 それは鋭い声だが、化け物を散らす事も脅かしにも成りはしない。


 相手が弱いと知った途端に、怪物達は笑った。

 厳密には頬の筋肉が引きつっているだけかも知れない。


 それでも、聴いている方にはゲラゲラという笑いにしか聞こえない。 


「だ、誰か!?」


 もはやこれまで、女性は彼氏を見捨てて踵を返す。

 最悪かも知れないが、せめて自分だけでも助かろうと足掻く。


 が、それは取り囲まれてからでは遅い。

 化け物の手が、容易に女の脚を捕まえてしまう。


「い、ぎ!?」


 ベタンと無様に倒れる獲物に、化け物達が嬉々として襲い掛かった。


「や、やだ!? 誰か!? ねぇ!?」


 死に物狂いの悲鳴が上げられるが、悲しいかな、他の人間もまた、自分の身惜しさに逃げ去ってしまっていた。


  *

 

 街での騒ぎは、当然の様に組織の地下基地にも伝えられる。


「大変です! どうやら、セイントは時間通りに計画を始めた模様です!」


 慌てて駆け込んで来た構成員の声に、アナスタシアが椅子の一部を叩く。


「くそ!? まさか本気でやるとは!?」 


 そんな声に、すっくと立ち上がるのは川村愛である。


「そんなの今更でしょうが!? 私行くから、其処で遊んでれば!」

 

 愛に取っては、場所さえ分かれば良い。

 後はその場へ駆け付け、事態の鎮圧を目指す。


「わ、私も行きます!」

 

 急に立ち上がり、賛同を示す博士に、愛は唸った。


「え? でも………」


 思わず【貴方戦えないでしょ?】という言葉を飲み込む。

 

「大丈夫です! 武器なら、一応在りますから!」


 博士の声に、愛は苦慮した。

 一応は悪の組織を名乗る以上、銃器なり何なりと在るのだろうとは推察出来る。

 が、それで本当に戦えるのか、と言えば難しい。


「いや、でも」

「お願いします! 駄目なら勝手に行きますから!」


 止めようとする愛に食い下がる博士。

 もはや、一刻の猶予も無い時である。


 そんな中、博士の肩に手が置かれた。


「あ、カンナさん」


 ハッとなる博士に、虎女が片目を瞑って見せた。


「じゃ、行こっか?」

「ちょっと!?」


 平然と博士を連れて行こうとする虎女に、愛が目を剥いた。


「吠えるな。 弱く見えるぞ」虎女が愛を一喝する。


 魔法少女と虎女の視線は絡むが、殺気立ったモノではない。


「誰かに云われたからじゃない、この子が自分で言い出したの。 だったら良いじゃない?」

「そんな! 何か在ったら……」

「それは、自分の責任でしょ? ね、博士?」


 虎女の射抜く様な視線に晒されても、博士は眼を背けない。

 必死に自分の特徴トレードマークである白衣を握り締めた。


「……はい!」

 

 もはや、意志を曲げるつもりは無いらしい博士に、愛はハァと息を吐いた。


「もぅ、まぁ良いか! とにかく、行くよ!」


 バタバタと慌ただしく駆け出す三人。

 其処へ、アナスタシアから「ち、ちょっと待て!」と止めが入った。

 が、足を止めたのは虎女のみ。


「ねぇ、アナスタシア」

「なんだ!? お前も抜けるつもりか!?」


 憤るアナスタシアに、カンナは哀れむ様な目を向けた。


「あんたさぁ、まだガキのお使いな訳?」

「……なんだと?」


 虎女の声に、アナスタシアの髪が戦慄く。

 今にも怒り出しそうな女幹部だが、虎女は動じない。


「上に云われたからやりましたぁ……ってね。 まぁ、少し前までは、皆そうだったけど。 でも、今は違うんじゃないの?」

「どういう意味だ?」


 女幹部の声に、虎女は目を丸くする。


「あんた、本気でわかってない訳じゃないよね? 前の首領はさ、支配者ボスだったけど、今の首領は、指導者リーダーって感じ、しない?」


 虎女の声に、アナスタシアの顔から力が抜けていた。


「ほら、なんて云うか……あの人はさ、ああしろこうしろって命令はしないけど、俺に付いて来てくれって感じがするんだよね」


 思い返す様に云いながら、虎女は手を広げた。


「まあ、この前は、部下の手前も在ったんだけど、あたしさ、やっぱりあの人の側に居たいんだ! それなら人助け云々の前にあの人の為だし、それに」

「……それに、なんだ?」

「あんな青臭い小娘二人にあの人を任せるとか、あり得ないし」

 

 虎女からすれば、親愛なる良を奪われるのは辛い事である。

 なにせ、初めて誉めてくれたのだ。


 何者にも代え難い人を、他人にポイと手渡す気はカンナには無い。


「だからといって!?」


 未だに癖の抜けない女幹部に、虎女は寂しそうな目を向ける。


「だから、アナスタシアもね、もう好きにして良いと想うんだ? だって、あの人は命令なんてしてないでしょ? じゃあ、後頑張って!」


 そう言い残すと、虎女は駆け出す。

 先に行ってしまった二人の少女を追う為に。


 残された女幹部は、椅子にポスンと腰を落としていた。


「……好きにしろ、か。 簡単に云ってくれる」

 

 そんな声を聴くものは、その場には居なかった。

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