驚愕! 地球救済作戦! その14
辺りは真っ暗だが、幸いにもマシンのライトが視界を確保してくれる。
道路を離れて、舗装がされていない道を行く。
程なく、博士と愛を乗せたマシンが止まった。
「えーと? 此処?」
当たり前だが、いきなり藪の中にマシンが止まったからか、愛は不安げな声を出す。
対して、博士はジッと前を見ていた。
「ちょっと待ってください」
元々博士は組織の一員である。
が、抜け出したという自覚は在った。
つまり、果たして裏切り者の自分を、組織が迎えてくれるのか。
それは彼女にとっては賭である。
程なく、藪の一部が開き、地面の一部がパカッと開いた。
「わー、こんなんなってんだ?」
意外な基地の入り口に、愛は思わずハシャいでしまう。
が、博士の顔に余裕が無い事はマシンのミラーで見えていた。
咳を払い、顔を真面目に変えながら、ソッと降りる。
「よっと……」
ヘルメットを脱ぎ、ポンと叩く。
すると、ソレまではヘルメットだったモノが元の杖へと戻った。
一連の事を見ていた博士が、少しだけ息を吐く。
「原理は全然わからないんですが、凄いですね、ソレ」
愛の力の源だが、それは一応は【魔法】なのだ。
が、科学者でもある博士にとっては、目で見ても眉唾である。
「んー、まぁ、私だって全部わかってて使ってないから」
当の本人からしても、説明など出来ない。
だが、使える以上は何でも使うというのが愛の考え方でもあった。
「ところでさ、私も入って、大丈夫?」
恐る恐る尋ねると、博士は首を縦に振った。
「大丈夫、というよりは、居てくれた方が心強いかと」
「え? そう?」
「川村さんの力に対抗出来るのは首領だけですが、今は居ませんから」
サラリと用心棒の扱いをされた愛だが、ウーンと唸る。
「まぁ、いっか」
実に軽い声と共に、博士と愛、そしてマシンを乗せた台が降り始めていた。
*
二人と一台を乗せた台が、地下の基地へと向かう。
本来で在れば、何の問題も無く到着する筈だ。
が、この時は違った。
「構えろ!」
エレベーターの台が降りきるよりも速く、そんな号令が掛かる。
それを合図に、ガチャガチャと音がなった。
「うっわ、やば」
「コレは……」
驚く愛に、困惑する博士。
そんな二人に向けられたのは歓迎ではなく、銃口だった。
今までは仲間と思っていた組織の構成員達が、銃を向ける。
思わず、愛がコッソリと動く。
そんな少女の微妙な機微に「動くんじゃない」という声が響いた。
声の主は、組織の大幹部であるブレードタイガーである。
相も変わらず派手な虎柄の衣装を纏っているが、その眼は笑っては居ない。
「これはこれは……いったいどんな風の吹き回し? ね、はかせ?」
チラリと虎女が魔法少女を見る。
「昨日の友はなんたらって云うけど、どうして戻ったの?」
当たり前だが、幹部は部下の命を背負っている。
ごく一般的な起業に置いては、従業員は使い捨てだが、組織では話が違う。
魔法少女の力を知っているからこそ、虎女は警戒をしていた。
相手の態度に、愛の顔もムスッとしたモノへと変わる。
以前は共闘したとは言え、別に親友という間柄でもないのだ。
何とか変身さえすれば、どうにか事態を打開出来る。
が、それ以前に、生身の状態で撃たれるというのは、愛に取っては非常に困る事でも在った。
「ヤバいなぁ」
焦りが隠せる程に、少女は老獪でもない。
そんな愛の横を抜けて、博士が立つ。
「お願いします! 首領が、良さんが危ないんです!」
博士からすれば、銃口を向けられている事もだが、もっと大切な事がある。
響く声に、虎女の顔にも動揺が走った。
「……何か、在ったの?」
「だから! 篠原さんが危ないんだってば!」
虎女の言葉に、愛が叫んだ。
数秒間の間、地下基地の音が止む。
虎女が、静かに眼を閉じると口を開いた。
「銃を下ろしな」
幹部の声に、構成員達は従う。
だが、中には従うのを拒む構成員も居た。
「なんでですか!? 彼奴等、裏切り者じゃないんですか!?」
新参者の構成員にとっては、勝手に組織を離脱した博士や篠原良は裏切り者である。
無論、それ自体は正しい。
が、虎女は従わない部下へ目を向けた。
「良いから、下ろしな」
「嫌です! 人助けしてる奴なん……て」
構成員の声は、唐突に弱まった。
それは、虎女から発せられる殺気に因るものだ。
「ねぇ、あたしさ、あんまり同じ事云うの嫌いなの。 三度は云わないよ?」
並みの人間では有り得ない気と、発せられる低い声。
ソレには、ただの構成員では逆らうのは難しい。
半ば無理やりだが、銃口を下げさせる。
安全を確保してから、虎女は博士に眼を戻す。
「詳しく、聞かせて」
そんな声に、愛はコッソリと胸を撫で下ろしていた。
*
事情聴取の為にと、博士と愛は地下基地の広間へ通される。
以前ならば闊歩していた基地の中は、博士にとっては違う場所に見えていた。
二人の視線の先には、首領用の椅子。
そして、其処に座るのはアナスタシアである。
「カンナ、私は拘束しろと云って置いた筈だが?」
女幹部であるアナスタシアの声に、虎女は腕を組んでフンと鼻を鳴らす。
「何を偉そうに、首領が不在だからあんたが代行してるだけでしょうが?」
組織の内情をアッサリとバラす虎女に、女幹部は頭を抱える。
実際には虎女の言葉通りであった。
篠原良が組織を急に抜け出してしまい、其処で急遽、首領代行として選抜されたのがアナスタシアである。
単純に云ってしまえば、他に適任が居なかったのも在った。
呑気なソードマスターは【趣味ではない】と嫌がり、ブレードタイガーは【自分よりも強い奴しか興味無い】という始末。
そんな中、とりあえず組織の運営の為に首領代行を任された。
ウームと唸るアナスタシアだが、コホンと咳を払うと、博士に目を向ける。
「で? 家出の次は何? 忘れ物?」
一応の体裁か、女首領というよりも、年上のお姉さんといった風情。
が、博士の顔には余裕は無い。
「そんな事は後で幾らでもお説教でもしてください! 首領が、良さんがセイントにさらわれたんです!!」
張り上げられる声に、アナスタシアもようやく事態が見えたのか、目を剥く。
「セイントが? でも、どうして」
「あぁ、もう!」
腰の重いアナスタシアに、博士は業を煮やした。
愛に「スマホ貸してください!」と頼み、受け取ると、バタバタと走る。
「お、おい!?」
戸惑うアナスタシアなどは無視し、博士は基地の設備にスマートフォンを繋げた。
元々基地の設備に関して云えば、博士の方が専門家である。
一々誰かに頼まずとも、操作は可能だ。
ウイーンと音を立てて、天井から大型のディスプレイが下りてくる。
博士がスマートフォンの画面をポンポンと弄ると、マシンが記録していた映像が流れた。
ソレを見て、虎女が絶句する。
同じ大幹部とは言え、自分とは全く異なる存在。
「うっそ、アイツ、空飛べるんだ……って! アナスタシア? なんでアイツのこと云わなかったの!?」
咎められ、アナスタシアは唇を噛む。
「あの後、直ぐに首領が出て行ってしまっただろう? それで、私の方も色々忙しさについつい言いそびれていた……」
驚きを隠さない虎女に、言い訳をするアナスタシア。
そんな二人のやり取りに、愛がバシッと床を蹴った。
「もう! そんな事どうでも良いでしょうが! リサ! 篠原さんはどこに居るの!?」
愛の声に「わかってますよ!」と博士も焦る。
カタカタと設備を弄ると画面が切り替わる。
大型の画面には、なんと世界地図が浮かんだ。
矢印やら何やらと、画面上を色々なモノが忙しく動き回る。
そして、画面上には【SIGNAL LOST】とだけ表示された。
「……そんな」
一人、絶望感を漂わせ博士に、周りの三人が目を向けた。
「博士、コレは?」
「ねぇ、首領は?」
「リサ! どうなの!?」
三人からはほぼ同時に同じ意味の質問をされた。
だが、博士はなかなか答えようとしない。
「首領が何処に居るのか……わかりません」
「どういう意味だ!?」
アナスタシアの声に、博士は首を横へと振った。
「本来、改造人間には位置を示す為の発信機が在ります。 ですが、それが機能して居ないか、壊れたか、もしくは……」
そんな博士の声に、アナスタシアは最悪の結果を想像した。
セイントの強さをその眼で見ていた彼女にとっては、良が勝てないという事実が分かってしまう。
押し黙る大幹部二人に、博士と少女。
重い沈黙が続くが、それを掻き消す様に、画面が灯った。
─あー、あー、マイクテスマイクテス。 どうも、見えて居ますか?─
響く声に、全員の目が画面を見た。
「セイント?」
アナスタシアはボソリとそう言うが、画面上の青年は気にせず手元の紙を持ち上げると、それに眼を落とす。
─えー、私が皆様にお願いをしてから、だいぶ時間が経過していますね? ですが、報告によると、余り皆様の活躍は報告されていませんな─
そう言うと、青年は紙をソッと置き、眼を前へ向ける。
恐らくはカメラを見ているだけなのだろう。
それでも、セイントの眼は射抜く様な何かが在った。
─私共と致しましては、大変に不満な結果です。 それは恐らく、皆様が私共の事をタダの詐欺師か、愉快犯である、と思って居られるのでは?─
青年の声に、アナスタシアが博士を見た。
「博士! コレは前回と同じか!?」
問われた博士は、慌てて基地の設備を弄ると、頷く。
「えぇ、はい。 以前の同じ方法で、話しているかと」
博士の報告に、アナスタシアの鼻が唸る。
だが、そもそもセイントが何処に居るのかも組織は掴んでは居なかった。
女幹部の焦りは、画面の向こうには届かない。
映る青年は、軽く笑うと手をあげ、指を二本立てた。
─前回、私は3日間待つと云いました。 ですが、考えてみればこの時間は全くの無駄でしたね。 72時間は長すぎです。 という訳で、時間を狭めたいと思います。 今から二時間以内に、行動を起こしてください。 では、悪しからず─
そう言い残すと、画面が黒へと変わった。
青年の声は、警告でもなければ忠告でもない。 一方的な宣告だろう。
が、世界を騒がすには、それでも十分であった。




