驚愕! 地球救済作戦! その13
遠く離れた土地にて、良が雪に埋まっているなど、殆ど者は気付かない。
事実、愛と博士もまた、気付いても居なかったのだ。
「お待ちどう様です」
「はーい、どうもー」
次から次へと注文しては、熱い網の上に置く。
そして、好みの焼き加減に成り次第、パクパクと食べていく愛。
そんなに姿に、博士はハァと感嘆の声を漏らす。
「ん? 何?」
「いえ、凄いなぁ、と」
博士の声に、愛はチラリと皿を見る。
二人の体格にはそれ程差がない。
にもかかわらず、食べた量だけでも、数倍の差があった。
「んー、なんか、凄くお腹空くんだよね」
「それは、やっぱり変身の影響ですか?」
博士という異名通りなのか、ふと思い付いた事を知りたくなる。
問われた愛は、ウーンと唸りつつも頷いた。
「どう云えば良いのかな、凄く、疲れるって言うか、なんか、こう、栄養が欲しくなっちゃう、みたいな?」
「ははぁ、魔法少女も楽じゃないんですね」
同世代にも見え、尚且つ同性である博士の声に、愛の鼻が唸った。
「所でさ、博士さん?」
「リサです、高橋リサ」
「あ、そう……私は川村愛ったんだけどね。 聞いても良い?」
「なんです?」
博士の声に、愛は辺りに探りを入れる。
チラリと目をはわせて見れば分かるが、どうやら此方に注目は集まっては居ない。
「リサはさ、篠原さんの事どう思ってんの?」
ポンと出された問いに、博士が咽せた。
肺に入り込んだのか、ゲホゲホと咳き込む。
「なん、なんですか? 急に」
驚き戸惑う姿を見ても、愛は動じない。
「いや、だって、色々在るんでしょ? ほら、首領と、博士だし?」
そう言われた博士は、目を泳がせた。
在る意味で、その反応は【分かり易い】の部類に入る。
が、直ぐに博士の顔は曇ってしまった。
「私には、そんな資格無いですから」
「どして?」
続けざまの問い掛けに、博士は目を細め、唇を強く結ぶ。
数秒間の沈黙の後、唇は開かれた。
「そう言う川村さんは? どうなんです?」
本来、質問に質問で返すのは失礼に当たる。
それでも、話を反らす為にはそうせざるを得なかった。
一瞬はキョトンとした愛だが、直ぐに目を泳がせたながら、ウーと唸る。
「まぁ、嫌いじゃないよ。 寧ろ……かな」
絞り出す様な声でそう言う愛。 最後の方は殆ど聞き取れない
だからか、博士の目が向いた。
「で? そっちは?」
「私は……」
「そんな難しい事聞いてないでしょ? かるーい気持ちでさ、どうかなって云ってるだけだし」
やんわりと問われると、博士の唇が僅かに震える。
「それは、その、私も……」
やっとの事で、絞り出された答えはソレだけだ。
それでも、愛は満足したのかウンウンと頷く。
「でもさ、ソレだと色々考えない?」
「と、云いますと?」
なかなかに疎いのか、それとも疎いフリをしているだけなのか。
博士の反応は愛にとっては困るモノだった。
「あのさぁ、マジで云ってないでしょ? えーとね、その、まぁ」
場が場だけに、流石に言葉を慎重に吟味する。
「だからさ、アッチの方はどうなのかなぁ……」
愛は自分の中ではわかっては居るが、実のところ他人に伝わっているかは別の問題である。
他人から見れば、何事かをモゴモゴも云い澱んでいるとしか見えない。
「えーと?」
如何にもカマトトといった博士に、愛は業を煮やす。
「だからさぁ……」
もういっその事、ハッキリ聞いてやろうと少女は想った。
ああでもないこうでもないでは話が進まない。
息を吸い込み、それを声にしようとした時。
「お、お客様!? 困り……ます!?」
何とも困惑した様な声が店の中に響いた。
当たり前だが、急に大きな動作や大きな音がすれば、自ずと人の意識は其方へ向いてしまうモノだ。
「なんだろ?」
「さぁ、なんですかね」
愛と博士の困惑だが、それ以上に店員達も慌てていた。
店の中を、何者かが勝手に移動しているらしい。
段々と、それは二人に近づいて来る。
「おーい! コレ誰のだ!?」
痺れを切らしたのか、誰かがそう言うと、返事の代わりに音がした。
バルンバルン軽い音が。
「うそ」
「なんで」
店の闊歩していたのは、博士が良専用に調整したマシーンだった。
ライトが眼のように博士を見たからか、マシンは其方へと急ぐ。
「何その子、勝手に動くの?」
「まぁ、一応は、改造人間専用ですから」
ただのマシンでは、何かが起こった時に対処が出来ない。
其処で、博士はマシンに意志を与えていたのだ。
ジャイロに因る姿勢制御、そして、いざという時は勝手に起動する。
手元までわざわざやって来たで在ろうマシンは、博士の横で止まる。
それだけではなく、エンジンを店内にも関わらず響かせた。
その音は、まるで【今すぐ乗れ!】と訴えている様である。
「えー? なんか、云ってるみたいだけど?」
勝手に行動する怪しいマシンには、愛ですら動揺が隠せない。
「でも、篠原さんはどうして……」
博士と愛は、今やっと何かが起こったという事に気付く。
良の人柄を知って居る二人からすれば、この様な悪戯をする人物ではない、と。
「川村さん!」
「えぇ、まだデザートが」
「じゃあ食べててください!」
ムッとする博士に、愛は慌てて笑う。
「冗談だってば、ごめん!」
ようやく、愛も顔を真面目なモノへと変える。
「お客様! 困りますよ! 店の中でバイクなんて」
駆け寄って来た店員に、コレ幸いと博士が紙幣を差し出す。
「ソレで足りますよね? お釣りは取っといてください!」
そう言うと、博士はマシンに乗った。
ワタワタと揺れていたフロントフォークが、前を向く。
ぐいっと博士がハンドルを捻れば、マシンは店外へ向けて駆け出す。
「ちょっと!? 乗せてよ!」
一人慌てて走り出した博士を、愛が追った。
紙幣を渡された店員は勿論の事、他の客ですら呆気に取られてしまう。
唯一、そうでないのは親に連れられた子供。
「スゴーイ! パパ、僕もアレ欲しい!」
何とも呑気な声が、静まり返った店内に響いていた。
*
店の外へ出るなり、博士と愛は辺りを見渡す。
当たり前だが、其処に良の姿は無い。
「えぇ!? 篠原さんは? 電話してみる」
慌ててスマートフォンを取り出すと、電話を掛け始める愛。
一応は繋がった。
『現在、お掛けに成った携帯電話は、電源が切れているか、電波の届かない所に……』
自動の応対メッセージに、愛は唸った。
「ダメ、携帯繋がんないよ!」
愛の焦った声に、博士はマシンへ目を付けた。
「ソレ、貸してください!」
博士はそう言うと、愛の手からスマートフォンをむしり取る。
「あ、コラ!?」
一応は咎めるが、愛も博士を止めない。
今のところ、他に頼りに成りそうな人も居なかった。
愛の視線を受けつつも、博士はマシンの一部を弄る。
コードの一部を引っ張り出し、ソレを差し込んだ。
「もしかしたら、ドラレコ?」
「少し違いますけど、まぁ似たようなもんですよ」
博士が画面をチョンと弄ると、マシンからの情報が流れる。
愛のスマートフォンに、マシンが見た映像が流れ出した。
二人の青年。
片方は良だが、もう一人は愛の知らない顔だ。
会話もろくに無いが、背広姿の青年が良を抱えるなり、何処かへとあっという間に飛び去る。
其処で、映像は終わった。
「嘘、飛ぶなんて……でも、篠原さんは?」
愛の問い掛けに、博士は今一度マシンへと跨がる。
なんとか良を探したいが、この場では機材も何も無い。
博士は、行くべき所が一つしかない。
ヘルメットを被ると、マシンを唸らせる。
「ごめんなさい! 私、行くところが在ります……から?」
博士が言葉言い終えるよりも速く、愛がマシンの荷台へ腰を乗せていた。
如何に法的に【二人乗りOK】とは言え、お世辞にも乗り心地は良くはない。
「一緒に行っても良いでしょ?」
「え? でも、ヘルメットが……」
博士は何とか愛を降ろそうとするが、其処はソレ、愛もただの少女ではない。
「ちちんぷいぷい………と」
自前のバッグから怪しげな色の杖を取り出すと、唱える。
すると、それは瞬く間にヘルメットへと姿を変えていた。
「はい、コレで良い?」
愛の声に、博士はフゥと息を吐く。
無理に下ろした所で、魔法少女を振り切れる自信がない。
「じゃあ、飛ばしますよ? 落ちないでくださいね!」
そう言うと、博士はマシンのハンドルを捻った。
傍目にはただの商業用バイクだが、その中身は違う。
悪の組織の頭脳が結集されたソレは、見た目に似合わない爆発的な発進を見せた。
路上にタイヤの跡を残しつつ、マシンが加速して行く。
その加速は、下手なレーサーバイクでは足元にも及ばない。
*
街を駆け抜ける一台のマシン。 それは、見た者の度肝を抜く。
正に、爆走という言葉が正しい。
スポーツカーすら追い抜き、有り得ない加速にて走る。
実のところは、主である良がなるべく速度制限を護っていただけなのだ。
元々が改造人間専用に造られたマシンにとっては、ようやく本領を発揮出来たという所だろう。
然も、それが主の為ならばと、命を持ったかの様に動く。
忠誠心に溢れる、機械の駿馬であった。
とは言え、乗っている側からすればたまったモノではない。
しがみ付いては居るが、振り落とされそうで不安な少女
「ちょっとぉ!? 事故んないでよ!?」
風圧の為に、がなる様に叫ぶ愛。
対して、マシンを操る博士も必死である。
生身にて、凄まじい速度と言うのは楽な操縦ではない。
「急いでるんです! 嫌なら降りて!」
そう叫ぶ博士に、愛はムスッとしながらも掴む手を緩めない。
今の少女は、藁にも縋る様な想いであった。
改造マシンは、二人を速やかに運んでくれる。
其処は、博士に取っては馴染み深く、愛に取ってはあまり来たくない場所であった。




