驚愕! 地球救済作戦! その12
「変身!!」
腕さえ自由ならば、邪魔は無い。
セイントに対抗すべく、良は起動の動作を完了させた。
あっという間、姿を変える良。
『待たせたな!? そっちもやったらどうだ!?』
装甲に包まれた指が、青年を指す。
対して、セイントはといえば軽く微笑むだけであった。
「うーん、先程も云いましたけど、別に喧嘩売ってませんよ?」
『はぁ!? こんな訳のわからん場所に放り出しやがって、何を言う!?』
怒り心頭の良ではあるが、いきなりは仕掛けない。
以前に犯した失敗を、再びやるつもりはなかった。
ジリジリと、青年との距離を詰める。
「まぁ、かなり遠くまで運んだ訳ですが、理由は在りますよ?」
『あん?』
「だってほら、此処からだと如何に貴方でも戻るまでだいぶ時間を喰うでしょ?」
『……だから、なんだ?』
「いやね、それなら、残酷は場面は見ずに済むかなぁ、と」
何とも自分勝手なセイントの声に、良は片足を踏み鳴らす。
バシッと音がして、雪が飛び散った。
『何勝手な事ぶっこいてんだ!? それこそ余計なお世話だぜ! だったらそもそも、アホな計画建てなきゃ良いだろうが!?』
良の指摘に、青年はフゥムと鼻を唸らせる。
「まぁ、それはそうなんですよ。 でも、逆にお尋ねしますよ? どうやったら世の中良くなると思います?」
『あ?』
「私も、他に良い案が出ませんでした」
スッと息を吸い込み、青年は吐き出すが、その息は白い。
「人類が我が儘な子供である以上、少し叩いてでも躾るしかないんじゃないかな、と思いまして」
聞こえた声に、良の中で何かがカチンと来ていた。
『おー、そうかい? そりゃあまぁ、遥々宇宙の彼方から来てくださる様なご立派な御方には、人間って奴はさぞやガキに見えてんだろうさ』
静かに声を吐きつつ、良は青年を指差す。
『だからといってよ、何でも好きにして良いってか!? テメェよりも弱い子供しか叩けない糞大人みたいだな! とんだド畜生だぜ!』
問われた青年は、感心した様に小さく頷く。
「やはり……貴方みたいな人が上に立てれば、良いんですがね」
平行線が続く。 コレでは何も変わらない。
其処で、良は深く身構えた。
『柄じゃねぇのさ。 人の上に立つ、なんてのは』
静かにそう言うと、良は駆け出す。
意味が在るのか無いのか、とにもかくにも、今は目の前の青年に集中していた。
改造人間の突進だが、生身で止められるモノではない。
にもかかわらず、青年は平然と止めてみせる。
弾き飛ばす筈が、精々1メートルほど青年がずり下がっただけだった。
『ああ、くそ!? どうなってやがる!?』
困惑する良に、青年はニヤリと笑った。
「偶には、運動も良いですよね?」
そう言うと、青年は軽々良を持ち上げ放る。
空中にて、良は慌てた。
自分の体重は既に計っているが、とても投げられる重さではない。
『チィ!?』身体を捻り、なんとか着地する。
慌てて顔を上げて見れば、其処にはネクタイを取る青年が居た。
「これでも、一応格闘技は得意なモノでして」
二人の周りの気温は凄まじく低いが、それでも、青年はまるで準備体操でも始めるかの様に声が軽かった。
グルグルと肩を回すセイントだが、変身すふ素振りは無い。
得体の知れない技を幾つもの使う相手に、良は機を図り兼ねていた。
『よう、変身出来るんだろ? したらどうだ?』
モノは試しに、良はそう言う。
それを聴いたからか、セイントは目を丸くした。
「いやぁ、それは……ちょっと」
『勿体ぶってなんかあんのかい?』
ウーンと唸ると、青年は鼻を少し指で掻く仕草を見せた。
「なんと云えば良いのかな……云い難いのですが、私が本気に成るのはマズいので」
心底すまなそうな声に、良は首を傾げた。
青年のやんわりと言い方はともかくも、云われた事の理解は出来なくもない。
『つまりは、アレか? 俺が弱過ぎで本気に成れねぇ……と?』
良の低い声に、セイントは慌てて両手を振ってみせる。
「あー、まぁ、いや、お気を悪くしないでください。 別に貴方が弱いって訳じゃないんです」
なんとか良を宥めようとする青年。
とは言え、良にも一応の自負心というモノは在った。
『おーう、そうかい!』
無駄だと云われたからといって、諦める訳には行かない。
以前にもセイントと戦った際は、確かに不覚は取ってしまった。
しかしながら、それはアナスタシアを庇ったという点もある。
今の良と青年は、周りには何もないだだっ広い場所にて二人だけ。
つまりは、お互いに遠慮が要らない。
青年の正面には相対せず、左右へと地面を蹴り、ジグザグに良は進んだ。
ソレであれば、仮に青年が怪光線を放っても避けられる。
直接当たりさえしなければ良いと考えていた。
『ぅおら!!』
青年の真横へ来るなり、良は跳び掛かる。
相手の頭を狙った跳び蹴り。
マトモに当たれば、青年の頭は西瓜割りの如く弾ける筈。
が、青年がヨイショと屈むだけで蹴りは空を切っていた。
速いだけに、急には方向を変えられない。
地面の雪を抉りながら、良は慌てて振り返る。
想像では、とっくに青年が構えている筈だった。
その筈が、青年は腰に手を当てたまま悠然としている。
その姿は良に憤りよりも、恐れを感じさせていた。
【本気には成れない】と、セイントは語っている。
ソレをふまえて言えば、良は勝てない、という答えが待っていた。
『くっそう、俺も大概化け物に成っちまったと想ったが、まさかそれ以上の化け物が居るとはな』
それとなく探りを入れると、意外にも青年は目を細めて笑う。
「うーん、まぁ、化け物と呼ばれるのは心外ですね。 個人的には、戦車と歩兵と例えてくれた方が、品が良いかと」
そんな青年の声は、良を鼓舞する。
もしも、セイントが【蟻と人間】と例えたならば、そもそも喧嘩にも成りはしない。
一方的に踏み潰されてしまう。 が、状況は其処まで絶望的でもなかった。
『ほう、そうかい? だったら、まだやる価値は在るな』
戦場に動く要塞である戦車が登場して以来、それは恐れられた。
それでも、兵士達は果敢に動く要塞に立ち向かい、勝ちを得ている。
今の良は、そんな兵士の気分であった。
負ける為に無謀を尽くすのではない。 死中に勝ちを拾う為に立ち上がる。
徒手空拳である以上、前へ出なければ始まらない。
この時、良は自分にも何か【凄い力】が欲しいと願った。
しかしながら、良の体は寧ろ奇跡を遠ざける。
頼りたい筈のソレすらも無いので在れば、拳に頼るしかない。
『勝ち負けなんてのは! やって見なきゃわかんねぇだろ!?』
愚直なまでに突っ込んでくる良に、青年は、何とも言えない顔を浮かべる。
懐かしむ様でもあり、同時に寂しげな顔。
それは大凡、戦う者の顔ではない。 が、良は止まらなかった。
『ドリャア!!』
拳を振り上げ、突き出す。
硬く握り締められた筈の拳は、セイントの顔を捉えられなかった。
スイとかわされたと想った途端に、良の腕が逆に捕まってしまう。
「デヤアアア!!」突如、青年の口から裂帛の気合いが放たれた。
地面に着いて居た筈の足の裏までが浮き上がる。
セイントは、良の勢いをそのままに利用し、一本背負いを仕掛けていた。
改造人間の集中は、並みの人間を超える。
この時ほど、良はそれを呪った事はない。
何故ならば、自分が投げられ、地面へと落とされるのを見ていたのだ。
ズドンと、派手な音と共に雪原に爆発が起こっていた。
数秒間、辺りを包んだ雪煙だが、風が吹き払う。
開けた光景には、良が大の字で転がっていた。
目の光を失った兜を、青年が見下ろす。
「……もしもーし? 生きてますか? 一応、手加減はしましたが」
久しい感覚に、ついつい手加減を忘れたかと心配するセイント。
発せられた声に、良の頭を覆う兜の目が僅かに光る。
『……っ……やる、気、満々……だぜ』
強がりを言った所で、それが限界でもあった。
地面が雪だという事が幸いし、良の身体は死んではいない。
が、地球という惑星その物をブツケられた様な衝撃に、直ぐには動きが取れそうもなかった。
良の強がりを聴いたからか、セイントはフゥと額を袖で拭う。
「良かった。 それぐらい元気なら、この後も大丈夫ですよね?」
そう言うと、セイントはフワリと浮かぶ。
一体この青年が如何様な原理にて宙空を舞うのか、良にはわからない。
それ以上に、体を反転させ、起き上がるだけで精一杯だった。
『待ちやがれ、まだ、決着は着いてねぇ……』
全身を軋ませながら、立ち上がる良。
そんな姿を、セイントは複雑な顔で眺めていた。
悲しむ様であり、目を細め唇を強く結ぶ。
だが、直ぐにいつもの飄々とした笑みを浮かべた。
「ところで、そろそろですよ?」
『あ!? 何が……だ?』
ビュウビュウと煩い風は止まないが、何かが混じって聞こえる。
それは地鳴りの様に鈍いが大きい音だ。
良は気付いて居ないが、二人が戦って居たのはとある山の中腹である。
雪が降り積もり、重なっていく。
もしも、そんな場所で大きな爆音やソレに伴う衝撃を起こしたなら。
そんな結果が、いつの間にか近付いていた。
『うおおい!? なんじゃありゃあ!』
地面に立っていた筈なのに、得体の知れない波が近寄ってくる。
然もソレは、見渡す程に広かった。
上下左右、逃げ場など見当たらない。
『どわ!? か……』
白い純白の波が、良をあっという間に飲み込んでいた。
暴音立てながら、流れる白い波。
ソレを見ているセイントは、やはり白い息を吐く。
「首領。 貴方なら、死にはしませんよね。 それに、これからの事を見なくても良いんですよ。 貴方は、後でゆったりと、戻ってあげてください」
そう言い残すと、セイントは「シュワッ!!」と空へ消えてしまった。
*
雪崩が動きを止め、辺りが静まり返った頃。
辺り一面が雪に覆われる中。 一本の装甲に包まれた腕が突き出していた。




