驚愕! 地球救済作戦! その11
余裕を得た良。
今のところ、余程のムチャクチャな贅沢をしなければ問題は無い。
其処で、良が二人を誘ったのは、食べ放題の在る焼き肉屋であった。
「どうだ! 此処なら、川村さんも心行くまで食えるだろ?」
ワハハと笑い出しそうな良に、愛の目はジトッとしたモノへ変わる。
「篠原さんって、もしかしたら、私の事を大食らいか何かと勘違いしてません?」
「え? 違うの?」
既に何度か食事を共にしたからか、愛の胃の具合に付いては良は知っている。
が、少女は多感な時期でもあった。
「あー! ひどーい!? そんな風に私の事見てたんですか!?」
「え、いや、だってさ」
このままでは埒が明かない。 其処で、良は博士の方を見る。
「あ! ちょっと博士!」
「へ、あ、はい?」
「ちょっとコレ持って」
軽い声と共に、良は紙幣を博士に手渡す。
急に現金を預けられたからか、博士はキョトンとしていた。
「えーと? コレ……は?」
「悪いんだけどさ、二人で先に入っててくんない?」
「でも……それでは」
困った様子の博士に、良はマシンのシートを軽く叩く。
「ほら、コイツも、燃料無きゃ駄目だろ?」
如何にもな声に、愛は腕を組むとフンと息を吹いた。
「まぁ、私達だけでも良いですけどぉ?」
「そう怒らずにさ、美味いもの喰って、機嫌直してくれって、な?」
プンプンといった愛の肩を、良はソッとポンポンと軽く叩く。
良の声に、少女は如何にも【仕方ない】という顔を浮かべた。
「はぁい、じゃ、二人で先に入ってますからね? 後から来てくださいよ?」
「はいはい、わかってますよ!」
軽いやり取りの後、良は、博士を半ば引きずる様な愛を見送った。
博士にはそれなりの現金を渡してある。
愛が余程のムチャクチャをしない限り、無銭飲食とは成らない筈だった。
二人の姿が視界から消えるなり、良はフゥと息を吐く。
「よ? 燃料入れに行くか?」
良の声に、なんとマシンはライトをチカチカとさせたのだ。
「お? まじかよ? もしかしたら、生きてる?」
恐る恐る、良は博士謹製のマシンに声を掛ける。
すると、マシンのウインカーが返事を返す様に光った。
「そっか、じゃあ、お前にも飯食わせてやるよ」
声を掛けると、良はマシンに跨がった。
*
良がマシンの燃料補給へ行く間。
博士と少女は店員の案内で席に着くのだが、早速とばかりに愛は品書きを手に取っていた。
「さぁてと……時間制限在るしぃ、どんどん頼みましょ?」
そう言う愛は、傍目には満面の笑みを浮かべた少女にも見える。
が、実のところその笑顔はただの筋肉の引きつりであった。
それは、対面に座る博士にも分かってしまう。
「無理、してません?」
博士の問いに、愛は苦虫噛み潰した様な顔へと変わる。
「してるけど? だってさ、篠原さん、絶対来ないでしょ?」
愛の声に、博士の顔も苦いモノへと変わる。
「あの人は、たぶんですけど、適当な理由を付けてくれると思います」
そんな言葉に、愛はウンウンと頷いた。
「そそ、たぶんだけどね……あー、ガソスタ遠かったぜー、とかね」
愛は無理に良を真似るが、似ては居ない。
それでも、博士には伝わっていた。
何も云わない博士に、愛はチラリと目を向ける。
「篠原さんってさ、モノ……食べないよね?」
問われた博士は、目を下へ落とすと唇を噛む。
以前ならば、人間を改造しても何とも想わなかった。
精々が、機械の部品を入れ替える程度の認識しか持って居なかったのだ。
その筈だが、首領が篠原良へと変わって以来、博士の認識も違っている。
人間とは、タンパク質とカルシウムで出来た電気人形である。
そんな博士の考えは、良のせいかだいぶ違うモノへと変わっていた。
「あの人を、そうしたのは……私です」
博士の絞り出す様な声。 それを聴いた愛の全身の毛が逆立つ。
が、下を向いている博士の目には映らない。
「改造人間には、食べる意味が無い。 だから……」
今更ながらに、博士は悔いる。
篠原良という青年を、怪物へと変えてしまった。
だが、悔いた所で起こった事は変えられない。
懺悔とも取れる博士の言葉に、愛は目を細めていた。
本心から云えば、今すぐにでも変身し、目の前の悪党をとっちめたい。
が、それは愛の勝手であり、良はソレを望んでは居ないことを知っていた。
「……知ってる。 ところでさ」
「え? はい?」
「何食べる?」
「は?」
鳩が豆を食らった様な博士に、愛は品書きを押し付けた。
「せっかく奢って貰えるんだよ? 食べなきゃ損じゃない?」
愛の声に、博士の目が泳いだ。
「……でも」
「あー、もう! 私適当に頼むから!」
博士が何かを言い出す前に、愛は注文用のタッチパッドを弄る。
在る意味、それは彼女のやけっぱちとも言えた。
*
博士と愛の想像通り、良は店の外で二人を待っていた。
ガソリンスタンドが多少遠かろうが、それほど離れては居ない。
ヒョイと立ちより【満タンで!】と頼めば直ぐに済んでしまう。
敢えて店に入らなかったのは【食べられない】からだ。
自分が食べられないのに、他人が食べる様はなかなかに重い。
無論、無理に食べようとは出来る。
が、それを良は試した事もなく、また、試そうとも思えなかった。
マシンを留めると、ヘルメットを脱いでハンドルへ預ける。
其処で、良はどうしたものかを迷っていた。
入ることはそう難しい事でもない。
ドアを開け、店員へ【彼処の二人の連れです】と云えば良いのだ。
簡単な事なのに、良はソレが出来なかった。
恥ずかしがる様な歳でもない。
単純に、自分が食べても生き物が無駄に成る事が分かっていた。
其処で良は、二人を待つ間の暇つぶしとして、マシンの傍らに座る。
「はぁ、な、どうしたモンかねぇ?」
主の問いに、マシンは答えない。
それを受けて、良は苦く笑っていた。
「俺もさ、お前と同じで飯食わないからなぁ」
今更ながらに、良は自分がどんな存在なのかを思い出す。
人の見姿をしては居るが、その実、傍らのマシンに近いのだ。
それを想うと、良は唇を引き締める。
「人間の真似……してるだけなのかなぁ」
思わず、良が弱音を漏らす。
すると「それがいけませんか?」と答えが在った。
聞こえた答えに、良はマシンを見る。
それに対して、マシンはフロントフォークを横へ揺らす。
「こっちですよ?」
聞こえた方へと、良は顔を向けるが、其処には、探している張本人が居た。
「テメェ……何していやがる?」
アレほど時間を掛けても見つけ出せなかった筈の青年。
ソレが、直ぐ側に居た。
憤る良に、セイントは肩を竦めて両方の掌を見せる。
「やだなぁ? 別に喧嘩を売りに来てませんよ」
如何にも優男というセイントに、良も軽く腕を回していた。
「あぁ、そうかい? で? 要件はなんだ?」
今にも変身しそうな良に、セイントはウーンと唸る。
「ちょっと、貴方と話がしたくて」
「あん? 話?」
思わず、良は腕を下げてしまう。
それはセイントの思惑通りと言えた。
「すみません」
ぼそりとそう言うと、青年は見た目に似合わぬ素早い動きで良を抱え込む。
不意を打たれたとは言え、良は焦った。
「うぉ!? テメェ……」
良が何かを云おうとした途端に、青年は良を抱えたまま飛び上がっていた。
残されたマシンだけが、主の窮地に気付く。
が、悲しいかな、それを他者へ知らせる術を持って居なかったのだ。
*
急に空へと上げられた良は焦った。
なんとかもがくのだが、セイントの膂力は人のソレではない。
「テメェ!? このやろう放しやがれ!?」
喚く良に、抱える青年は笑った。
「はは、そう言われても、今放したら地面へ真っ逆様ですが?」
「だったら地上に下ろしゃいいだろ!?」
「まぁまぁ、そう仰らず。 偶には、空を飛ぶってのもオツでしょ?」
「オツじゃねぇよ!?」
セイントに対抗すべく変身しようとはする。
が、悲しいかな、良の両腕はろくに動かせない。
「無駄ですよ。 変身の起動動作無しには無理でしょ?」
「汚ぇぞ!? 変身前に攻撃するとかよ!?」
なんとか足掻き、首を左右へ振る良。
其処から見えたのは、恐ろしい速度で離れていく街の灯り。
改造人間である以上、多少の過重や空気抵抗などは問題ではないが、何処かへ連れて行かれるという点は、大いに問題であった。
「コラァ!? 何処連れていく気だ!?」
浴びせられる怒声に、セイントの鼻が唸った。
「そうですねぇ、まぁ、二人でゆっくり話せそうな所……でしょうか?」
そんな声に合わせて、周りの空気に変化が起こる。
壁の様に二人を抑え込んでいた筈の空気は、割れた。
ソレは、戦闘機などが音速の壁を突き破るのと変わらない。
音を置き去りにして、セイントは加速していた。
*
体感として、良が空に居たのは大凡で数分。
が、移動した距離は計り知れない。
辺りの空気が冷え切り、雪までもチラつく。
いつの間にか、高度を下げたのか、地面がうっすらと見えた。
「この辺で、良いですかね?」
「良い訳ねぇだろうがぁ!?」
良が叫ぼうが、セイントは構わず腕を放してしまう。
途端に空中へと放り出されていた。
「うぉおおおおおお!?」
着地とはとても呼べまい。
雪原に放り出されるなり、良は雪爆発させる様に散らしながら転がった。
派手な痕跡を残しつつ、雪に埋まる良とは対照的に、青年はスッと優雅に降り立つ。
其処で、ポンポンと背広の雪を払っていた。
「ふぅ、大丈夫ですかぁ?」
呑気な声に、雪の山が蠢く。
「……ぬぅあああ!? ふっざけんなぁ!?」
怒声と共に、雪を掻き分け良が姿を現した。




