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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
驚愕! 地球救済作戦!
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驚愕! 地球救済作戦! その8


 藪が開き、地面という擬態カモフラージュをされた蓋が開いた。

 ウイーンと音を立てながら、エレベーターが良を地上へと届ける。


 見えたのは、浮かない顔の良。

 そのまま降りると、良を運んだ台は下がり、蓋は閉じてしまった。

 なんとなく、閉め出された様なモノを感じてしまう。


「うーん、どうしたもんかね」


 大見得切った割には、実際には無計画ノープランも甚だしい。

 唸る良に「やぁ首領」と声が掛かった。


 ウッと呻いた良が振り返ると、其処には大幹部である筈の壮年が居た。


「あ、ども。 確か、ソードマスターさんでしたね……あれ?」


 何故だか、良は変な感覚を味わう。

 こうして言葉を交わした事は少ない筈だが、何故か以前にも同じ様な事をしていた気がする。


「なんだね? 人の顔をジッと見たりして」

「あ、すみません」

 

 詫びる良に、大幹部は肩の釣り竿を揺すって見せる。


「どうかな? お暇なら」

「え? あー……」


 やはり、以前にも同じ事を聞かれた気がする。

 が、そんな記憶は良には無い。


「いえ、俺……もう、首領じゃないので」


 良が丁重にそう言うと、壮年の眉がピクリと動く。


「……そうか。 まぁ、何事も好きにするさ。 私は釣りで、君が何をするのかは、君に任せよう」


 そう言うと、片角の大幹部は良の横を過ぎる。


「すみません、次は、つき合いますので」

 

 ぺこりと頭を下げると、良は駆け出す。

 そんな良の背中を、ソードマスターは見ていた。


「次、か……ふぅむ」


 何かを思っては居るのだろう。

 が、壮年の想いは外へは漏れ出す事はなかった。


   *


 基地を抜け出し、街へ向かう。

 少し前ならば、専用のマシンが在ったが、今の良は徒歩だ。

 どうせなら乗ってきても良かったとも想うが、それは敢えてしない。

 

 自分勝手な真似をして、更にモノまで強奪するのは良の主義ではなかった。


 とは言え、元々改造人間である。

 マシンが無くともオリンピック選手以上の速度で良は走ることが出来ていた。

 

 もう少しで、街に入る。  

 其処で、良は足の速度を緩めるのだが、ポケットが鳴り響く。


「おっと? 誰だろ」

 

 着信を告げる音に、良はスマートフォンを取り出す。

 画面を見てみれば【川村さん】と在った。


「なんだろ? はーい、もしもし?」


 画面を軽く叩き、通話を繋げる。


『篠原さん!』


 耳に当てるなり、そんな声が良に届いた。


「おぅ、なんだなんだ? どうしたの? そんな切羽詰まった声出して」

『なんだ、じゃないです! 知らないんですか?』


 聞こえてくる少女の声には要点が抜けているが、良もわからない訳ではない。


「あー、もしかしたら、川村さんも、見たの? あの動画」

『えぇえぇ、見ましたとも! ところで、今何処です?』


 問われた良は、唸りながら辺りを見渡す。


「えっとね、とりあえず、街中だけど?」

『そうですか、なら、お時間取れます?』

「え? あー、まぁ」

  

 時間が在るかと問われれば、良に問題は無いだろう。

 組織の首領を辞めてしまえば、その分時間は浮く。


『じゃあ、お昼に前のファミレスで待ってますから!』


 川村愛の声に、良は眉を片方上げた。 


「おいおいおい、ちょちょ、おま」

 

 良の焦りが伝わったかどうかはわからない。

 返事が来る前に、通話は一方的に切られてしまった。

 

「待ってますってもなぁ……」


 スマートフォンをポケットへと押し込みつつ、ついでに財布を取り出す。  

 恐る恐る中を窺うが、それなりには入っていた。


「まぁ、大丈夫……だろ」


 不安は在るが、今の所相談出来そうな相手も思い付かない。

 で在れば、知人の少女を頼るのも吝かではなかった。


  *


 徒歩である以上、移動に時間は掛かってしまう。

 それでも、予定の時間に間に合ったのは、改造のお陰だろう。


「いらっしゃいませー!」


 目的のファミリーレストランへと入るなり、店員の挨拶が贈られる。


「お一人様ですかぁ?」


 若干間延びした声に、良は「えっと」と店内を見渡した。

 すると、良に気付いたであろう人物が手を振るのが見える。 


「あ、先に人を待たせていたので」

「はぁーい、ではどうぞー」


 呑気な店員に「どうも」と声を掛けてから店の奥へ。

 席に近付けば、顔も見えてくる。

 

 先に店に着いたであろう少女は、ジッと良を見た。


「遅いですよ? 女を待たせるなんて」

「悪い、色々、在ってさ」


 普段とは少し違う良は浮かない顔である。

 それを敏感に悟った愛は、どうぞと合い向かいの席を示した。


「あ、まぁ、とりあえず……座ってくださいよ。 立ち話もなんですから」


 そう促された良は「すまん」と声を出して腰を下ろした。

 対面に座る良の雰囲気に、愛はウーンと唸る。


「あのぅ、篠原さん」

「あー、うん? なに?」

「なにか、在りました?」


 心配そうな少女の声に、良は、唇を噛んだ。

 正直に言えば色々在るのだが、何から話すべきかを迷う。


 良の顔を見た愛は、コソコソと辺りを目で窺う。

 幸いな事に、誰もが自分達の会話に夢中で二人には目もくれていない。


「あの、私で良ければ、相談に乗りますけど?」


 ソッとテーブルへと身を乗り出し、ぼそりと愛はそう言った。

 顔が近付けば、良も気付く。


「あー、じゃあ……」


 今、色々起こってしまった出来事を何から話すべきか迷う良。

 そんな二人の間に、横槍が入った。


「お待たせしました! ご注文をどうぞー」


 実のところ、良が店に入った時点で愛は備え付けのボタンを押していたのだが、失念していた。


「あ、あぁ、じゃあ、俺……ホットのコーヒーで」

  

 注文しながら、良は店の品書き(メニュー)を愛に差し出す。

 水を差され、少し不機嫌そうな愛だが、直ぐに受け取った。


「じゃあ、とりあえず……ランチのAセットに、ついでにBとCも、後、アイスティーでお願いしま~す」


 軽く三人前を頼む少女。

 それでも、店側は別に料金を払って貰えば良いので問題視はしない。


「畏まりました、少々お待ちを」


 ぺこりと頭を下げると、サッと引き上げる店員。

 店員を見送ってから、良は愛へ目を向ける。


「俺……そんなに食べない、あ、いや、川村さんの?」

「そうですよ? 私が食べるんです」

 

 如何にも当然でしょ、という少女に、良は苦く笑った。


「なんつーか、健啖家だなぁ」


 賞賛半分、呆れが半分でそう言うと、少女は微笑む。


「だってぇ、これから色々話すんですしぃ、長丁場に成りそうじゃないですか?」


 若干媚びる様な愛の声に、良は肩を竦めた。


「参ったな」

「それはそれで、動画の事なんですが」


 早速とばかりに、愛が話を切り出す。

 それは、良にとってみれば相談したい事の一つでもあった。


「あぁ、見たってきいたよ」

「アイツ、誰だと思います?」


 謎の人物の正体を探ろうとする愛に、良はウーンと唸る。

 別にセイントの正体を隠す理由も無かった。


「彼奴はね………宇宙人だ」

「は?」


 いきなりの事に、愛は呆気に取られるが、その気持ちは良も分かった。

 

「うん、俺も、最初知った時はそんな感じだったな」

「いや、てゆーか、なんで篠原さん知ってるんですか?」


 真相を知るべく、更に深く追求する少女に、良は唇を強く閉じる。

 鼻で息を吸い込み、吐いた。


「別に隠す事じゃないんだけどね」

「はい」

「彼奴はさ、元々組織の大幹部なのよね」


 良の声に、愛の髪の毛が僅かに逆立つ。


「……それって、篠原さん所の、一人だと?」


 今までとは違い、少し低い声で愛はそう尋ねる。

 まるで、警戒する猫を想わせる声に、良は小さく頷いた。


「だとって云うよりも、だったって云う方が近いかな」


 良の声に、愛は少しホッとした様に顔が緩んだ。


「あー、じゃあ、抜けちゃった人って事ですか、宇宙人が? でも、じゃあ何の為にその人はあんな事を?」

「動画は見たんだろ?」


 愛は腕を組むと、ウンウンと頷く。


「えぇ見ましたよ? うちの学校なんか、その話で持ちきりなんですよ。 アレは本当だって云う人も居れば、いや、アレはシージーだって云う人も居ますし」


 自分が見たこと、聞いた事を思い返しつつ、愛はチラリと良を見る。

 其処には、目をテーブルへと落とした思い悩む良が居た。


「アレって……本当に在ったんですか?」


 恐る恐るという愛の問いに、良は、深く頷く。


「本当だ。 たちの悪い冗談とか、映画だった方が良かったけどな」


 良が肯定すると、愛の顔が青くなる。 

 出来れば【アレ? あぁ、良く出来た映画だろ?】と言って欲しかった。

 だが、起こってしまった事実に、少女は思い悩んでいた。


「えっと、でも、終わりの方で云ってましたよね? 3日だけ、待つって」

「あぁ、云ってたな」


 良の答えに、愛はバッと立ち上がる。


「じゃあ! 今すぐ探しに行かないと!」


 愛からすれば、今すぐなんとかしたくなる。

 考えるよりも、動いてしまう少女。


 そんな愛を、良は手で制した。


「落ち着けって、まだ話す事がある」

「で、でも!」

「良いから、座るんだ」


 普段とは違う良の低い声に、愛は思わず腰をストンと落としていた。

 

「とにかく、相手の居場所もわからん、それにだ」


 いつになく真面目な顔の良に、愛は思わず唾をコクリと飲む。 


「はい、えと、それ……に?」

「腹が空いては戦は出来ん、そう言うでしょ?」


 最初は低い声だったが、最後には笑う良。

 改造人間故に、近付く店員の足音を耳が拾っていたのだ。

 

「あーい、お待たせしましたー!」


 そう言う店員の声と共に、少女の前に食事が置かれる。


「ま、とりあえず、食べなよ。 冷めちゃ旨くない」

「はい、じゃあ……いただきま~す」

 

 早速とばかりに、食べ始める少女。

 それを、良は静かに見守っていた。

 

 パクパクという控えめな表現よりも、愛の食べ方はバクバクとかき込むという方が正しい。

 多少品には欠けるが、それは、良の寂しさを和ませてくれた。

 

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