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悪の組織、はじめました  作者: enforcer
驚愕! 地球救済作戦!
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驚愕! 地球救済作戦! その7


 博士の怪しい機械に因って、何とか充電を果たした良。

 身体は好調に戻ったが、苦虫噛み潰した様な顔をしていた。


「……あぁ、ヒデェめに合った」


 急速充電の率直な感想に、アナスタシアがフゥト息を漏らす。

 

「そう仰られましても………仕方ないかと」

 

 そう言う女幹部を、良は恨めしく見る。

 内心では【あんたも試さないか?】と云いたくなったが、我慢した。

 どうせなら自分の手で充電器をぶち込こんでみたい、という衝動を抑えねばならない。


「そんな事は置いといて、と……今、どうなってるんだ?」


 セイントが映像を世界中に流してから、一時間が経過していた。

 その間に、世界中で何か起こってしまったのかを案ずる良。


 首領の声に、アナスタシアは力無く首を横へ振った。 


「特には、大きな事は起こって居ないようです」


 女幹部も、一様はタブレットを持っている。

 それを駆使すれば、世界中の支部から情報が得られた。


 が、格別に大きな何かは起こっていない。

 散発的な殺人事件だけであれば、それは普段と大して変わりがなかった。


「多少は、死傷者も出たかも知れませんが、事故も混ざっているので、コレと言っては」


 アナスタシアの報告に、良はウームと唸る。

 深く何かを思案する様子は、在る意味首領として見えていた。


「アナスタシアさん」

「はい、首領」

「ちょっと、皆を集められるかな?」


 首領の声に、アナスタシアは首を傾げた。

 

「それは、構いませんが……如何するのです?」

「頼むよ」


 普段ならば、しないであろう首領らしい良。

 それに対して、アナスタシアもバッとポーズを久しぶりに取った。


「は! 首領!」

「悪いね」

  

 一瞬は首領らしかった良だが、やはり地が出てしまう。

 アナスタシアは、がっくりと肩を落とした。

  

   *


 暫く後、地下基地の大広間にて、構成員と幹部が召集される。

 セイントを抜いても、在る意味壮観な眺めと言えた。

 

「傾注! 首領から直々に皆にお言葉が在るそうだ!」   


 女幹部の号令に、ピチピチタイツの構成員達がバシッと姿勢を正す。

 ある程度自由にしているのは、大幹部のみ。


 相も変わらず首領の隣を陣取るカンナはともかくも、良は、咳を払った。


「………えー、皆も、動画の件は知ってると想うんだ」


 良の声に、構成員は動かない。


「それでなんだけど、3日後、どうなるかわからない」


 良にしても、セイントの脅しが嘘だとは想っていなかった。

 そもそも、多額の費用を掛けてあんな悪戯をする意味がない。


「で、首領? あたし達に何かしろ……と?」

 

 なかなか撫でて貰えない事に焦れたのか、カンナが問い掛ける。

 虎女からすれば、面倒くさいのは抜きにしたかった。


 要点をまとめるべく、良は唸りつつも頭を巡らせる。

 長々とした言葉では伝わり辛い。


「俺から、皆に頼みたいんだ。 いざという時は、どうか手伝って欲しい」


 首領として、構成員達に頭を下げる良である。

 本来ならば、支配者はそんな事をしない。

 頭ごなしに命令を下すだけだ。


 いつもで在れば、構成員達も首領の指示に従うのみ。

 が、この時は違った。


 アナスタシアが号令を出すよりも速く、構成員の中から一人が歩み出る。

 統率を無視した行動。 誰もがざわめいた。

 

 ジーッと見られている感覚に、良は眉を寄せる。


「あの、えーと?」


 幹部以下の構成員は基本的には同じ衣装であり、誰が誰なのかはわからない。

 顔にしても、マスクを被っている。 

 が、その一際小柄な構成員は、被っていたマスクを取ってしまった。


「……あ」見えた顔には、良も見覚えがある。


 見えた少女は、改造人間募集の際に来た女の子だった。


「それは、どういう意味なんですか?」

「はい? えーと」

「首領は、云いました! 手伝え、と。 それは、もしかしたらですけど、人助けのですか?」


 悪の組織に置いて、いち構成員が首領の指示に反目するなど言語道断であろう。 

 が、良が首領に収まって以来、組織の改変も知らず知らずの内に進んでいた。


「あー、そうだけど?」

「だったら言います! 嫌です!」


 構成員と成った少女は、堂々と首領に否を唱えた。

 無論、古くからの構成員は新人の馬鹿げた行動を囁くが、少女は良をジッと見詰める。


「私は! 人助けをする為に来たんじゃないです!」


 本来、少女は改造人間が志望であった。

 自分の境遇を呪い、周りを呪った。

 だからこそ、少女にとってみれば、悪の組織は意外にも居心地が良い。

 

「皆も、そうじゃないの!? なんで人助けなんてしなきゃいけないの!?」


 少女の大声を誰も咎めない。

 ソレもその筈、何故ならば、他の構成員もまた、外の世界が嫌になり此処へ来たのだ。


「私も……そう、思います」

「…………俺も」


 構成員の中から、何人かがマスクを取る。 

 その中には、良が面接をした者も混じっていた。


「……えっと」


 少女に咎められた良は、思わずアナスタシアを見る。

 が、女幹部は、目を反らしてしまった。


「残念ですが、彼女の云う通りかと」

「おいおい、でもさ」


 慌てる良に、虎女が「首領」と声を掛けた。

 振り向けば、寂しそうな顔が見える。


「あたしもさ、他の事なら手伝えるけどね、人助けだけは、やだ」


 ハッキリとしたカンナの拒絶。

 今までなぁなぁでやって来た良は在ることを忘れていた。


 彼が首領を努める組織は、慈善団体ではない。

 元々が世界征服を目論む悪の組織なのである。


 仲間からの言葉に、良は唇を噛んだ。

 忘れていたのは自分であり、同時に勘違いすらもしている。


 その事に気付いた良は、首領専用の椅子から立ち上がった。


 幹部や構成員を見渡すと、息を吸い込む。

 その場にて、良はぺこりと腰を折って頭を皆に下げていた。


「すんません! 俺、勘違いしてましたわ!」


 良の行動には、少女は勿論、構成員達も驚く。

 そんなざわめきに、良は頭を上げた。


「俺、此処を抜けます! 皆には、無理に命令出来ないんで」

 

 唐突な良の宣言。

 ソレには、アナスタシアとカンナですら目を剥く


「「首領!?」」

  

 同時に声を上げる二人にも、良はぺこりと頭を下げておく。

 

「勝手して、申し訳ないっす! でも、俺、独りで行きます」


 セイントを止めねば、何にしても世界は変わる。

 それが如何なる世界に成るかはわからない。

 

 が、もしも、止められるのであれば、良は止めたかった。


 勢いそのままに、ズンズンと大広間の出入り口へと向かう良。

 広間から出る前に、もう一度組織の面々に頭を下げた。


「今まで、お世話に成りました! 楽しかったっす!」

  

 手伝いを期待出来ない以上、良が組織に留まる理由も無い。


「首領!? ちょっと!!」


 大広間から出て行ってしまう良に、アナスタシアは腕を伸ばしたが、その足は止められなかった。


   *


 慣れた地下基地の中を堂々と行く。

 後少しで、地上へのエレベーターが在るのだが、良の足が止まった。


 廊下の側にて、博士が立っていたからだ。


「博士」

「首領、ホントに、出て行くんですか?」


 何かを訴える様な博士の目に、良はバツの悪さを感じていた。

 出て行くにしても、自分勝手な行動だろう。


 勝手に組織と自分を切り離して、無責任な行動を取る。 

 しかしながら、良にはそもそも組織の長としての自覚が無い。


 あくまでも、前首領を倒したからこそその地位に収まっただけだ。


「出て行くって云うか、俺、首領って柄じゃないからな」


 苦く笑いながら、博士と目を合わせる。


「上から目線でさ、アレやれ! コレやれ! とか、嫌なんだよ。 自分は安全なところでコソコソしながらさ、他人任せで偉そうにふんぞり返るとか」

「でも、その方がずっと楽じゃ在りませんか?」

 

 博士の声に、良は乾いた笑いを漏らす。 


「うん、その方がずーっと楽なんだろうな。 自分じゃない誰かに、あれやこれやして貰ってさ、自分は安全に女の子をいっぱい侍らせて、とか。 まぁ、それも、男の夢っちゃ夢だわな」

「でしたら……」


 博士が【そうすれば良いのでは】と云いそうに成ったが、良の目を見て言葉が詰まった。

 迷いは無く、寧ろスッキリとした色があった。


「それが出来る様な性格してれば、もっとずぅっと楽なんだろうけどね」


 そう言うと、良は片手を上げ、ポンと博士の頭に置いた。


「悪いな。 その……リサには色々、世話掛けたのに」


 普段は博士をそのままで呼ぶ。

 それは、組織の首領としての立場が良にそうさせていた。


 しかしながら、今は違う。

 組織と袂を分かち、違う方へと歩いて行こうと決めていた。


 頭を撫でられ、名前を呼ばれた博士は、何とも言えない顔をしていた。

 いつしか、強請っても誰もしてくれなかった事。

 

 ずっと昔に、忘れ去ってしまった感覚が博士の胸に過る。


「ごめ、ごめんなさい……」


 詫びの理由は、博士にもわからなかった。

 

 目の前の青年を騙したのは自分であり、改造してしまったのも自分。

 それを詫びたのか、それとも、付いていく度胸が無いからか。


 博士の詫びに、良は笑った。


「いいよ、別に謝らなくても」

「でも……私」

「何云ってんだよ、リサがしてくれたから、まだ戦えるんだ。 そうでなきゃ、俺はとっくに死んでただろうし……」


 別れに際して、何を云うべきか、良は迷った。

 今まで、そんな経験が無かった気がするのだが、同時にした様な気がした。


「バイク乗せてやれなかったな。 まぁ、原チャリ2ケツはマズいだろ」

「……それは」


 撫でる手を取め、良は博士の前を通る。 

 博士は、ぐっと自分の白衣を掴んで居た。


「じゃ、またな?」


 振り返らず、良は博士に別れを贈りつつ、片手を上げた。

 良がエレベーターに乗れば、彼は去る。


 博士は、慌てて、良の後を追う。

 

「首領……良さん」


 細い腕が伸ばされるが、既に良を乗せたエレベーターは上がり始めてしまう。


 博士が歯がゆい思いで良を見送る中。

 基地内の防犯用の監視カメラもまた、良を捉えていた。

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