驚愕! 地球救済作戦! その4
「はーい、どうぞ」
流石にアナスタシアも疲れているのか、若干言葉が重い。
実際の所、改造人間には疲労は無縁だが、気疲れというモノはある。
『ヨイショっと』
サッと体裁を整える幹部に、首領も合わせていた。
「あー、こんばんは」
ドアを開けて中へ入ってきたのは、青年だ。
ただ、今までの様な切羽詰まった感じはなく、寧ろ飄々とすらしている。
そして、何よりも、良はその顔に見覚えが在った。
『あ、あんた』
「セイント? どうして」
首領とアナスタシアが驚くが、現れた青年は余裕を崩さない。
それどころか、持参のビニール袋を軽く上げて見せた。
「や、募集広告見ましてね。 だいぶ、疲れてるかなぁ……と」
そう言うのは、組織の大幹部の一人、セイントである。
大幹部である青年は、先ずはと部屋の中を歩き、良とアナスタシアの前に立った。
「とりあえず、どうぞ」
二人に出されたのは、特に変哲もない缶コーヒーであった。
そのままビニール袋をポケットへと押し込むと、青年は面接用の椅子へと座る。
「さてと……まぁ、私は面接に来た訳ではないんですがね」
「だったらどうして来たの?」
アナスタシアの声は、同僚に向けられるモノだが、些か辛辣であった。
彼女からすれば、自分の仕事に茶々を入れられたくはないという事は良にも分かる。
問われた青年は、フフンと軽く笑うと、良を見た。
「首領。 その後、如何です?」
『え?』
「ほら、世界の平和について……ですよ。 進捗は?」
以前の幹部会にて、良は大幹部の面々にソレを云った記憶は在った。
自分が何を目指して居るのかを。
しかしながら、それは、まだ形にも成っては居ない。
具体的な道筋や、何から始めるべきか。
『あー……まぁ、ボチボチと』
モゴモゴとした良の声に、青年は少し困った様に微笑んだ。
「実は、私も兼ねてから首領と同じ事を考えて居たんですよ。 其処でなのですが、どうでしょう? 私の計画を試しませんか?」
青年の申し出に、首領は勿論、アナスタシアも目を丸くする。
『あー、するってぇと、どんなのなんすか?』
ただ計画を実行する。 それは、余りに無責任だろう。
首領として、良は大幹部に尋ねた。
問われた青年は、背中を背もたれに預ける。
安物故か、パイプがギシリと軋む。
「えぇ、まぁ、簡単に云えば……新しい敵を造る……とかですかね?」
『え? 敵?』
「そ、敵です。 人心を纏めるのに、最も手っ取り早いのは、何か一つの敵を槍玉に上げてしまえば良いんですよ」
そう言うと、青年は片腕を天井へと伸ばす。
何となく、良には見えない槍が見えた気がした。
『いやでも、急に敵なんて無理じゃないっすかね?』
首領としては言葉使いに貫禄が掛けていた。
とは言え、この場には三人しか居ない。
青年にしても、良が首領らしくない事にはまるで気を向けて居なかった。
「いいえ、既に用意はしてあるんですよ? それに、きちんと実地試験も済ませて居りますよ」
クスクスと笑う青年は、傍目には美麗だがどこか影が在る。
その雰囲気は、一種の近寄り難い何かを放っていた。
『おいおい、待ってくれよ! そんな事したらどうなるんだ?』
大幹部の計画に、首領は続きを促した。
「いやなに、そうですなぁ」
青年は少し頭を上げると、ウーンと鼻を唸らせる。
「差し当たり、世界中の首都圏にバラ撒いて見ますか? たぶんですが、明日にでも世界中で大混乱かと」
『おいおい、おい! 冗談じゃねぇぞ!』
幹部の計画に、良は焦る。
『そんな事して、人が死んだらどうすんだ?』
何とか悪の計画を止めようとする首領。
今度は、青年が目を丸くしていた。
「いけませんか? 誰かが死んだら?」
青年の顔には、全く悪の色が無い。
それどころか、ただ単に驚きだけがある。
『いけません? いけないに決まってんだろ?』
自分とは全く違う価値観に対して、良は声をあげていた。
「どうしてです?」
『どうしてって、そりゃあ……』
「人殺しは、在る意味重罪でしょう。 法律上では。 が、別に日常的なモノですし、毎日何処かで人は死んでますよ? それに、戦争でもあれば、寧ろ人殺しは推奨こそされ、非難はされませんよね? 英雄扱いされますが?」
淡々とした青年に、良は目を細める。
『あんたまさか、戦争でもしようってのか?』
良の脳裏に過るのは、恐るべし光景である。
戦争ともなれば、出来上がるのは死山血河である。
夥しい量の死体と、流れる血。 そして、残骸だけ。
良はそんな光景を想像し、背筋を寒くするが、青年はウーンと唸るのみ。
「いえ、私達がするのであれば、裏方ですかね? 別に私が戦争をしようとか、そうは思って居ませんよ?」
飄々とする声に、良は思わず長机を叩いていた。
改造人間の力で叩かれた机は、簡単に割れてしまう。
『おい! ふざけんな!? それでなんで平和だなんて云うんだ?』
怒る良に、青年は深く息を吸い込むと、鼻から吹いた。
「首領。 貴方は、人以外の声を聞いた事が在りますか?」
『は? 声だ? 誰のだ?』
荒ぶる良に関わらず、青年は腕を組んだ。
「私もね、実は昔、正義の味方をしていたんですよ」
幹部の意外な表明には、アナスタシアですら立ち上がる。
『ホントかよ?』
「セイント!? 貴方!?」
首領と女幹部が立ち上がっても、青年は取り合わない。
それどころか、落ち着いてすら居た。
「まぁまぁまぁ、落ち着いてくださいな。 昔々の話ですよ。 まぁ、その頃は色々とこの星に来てましてね。 それらをこう、秘密裏に倒して居たんですよ。 私が、この星を護るんだ……とね」
話をしながら、青年は持参の缶の封を切る。
一口啜ると、フゥと息を吐いた。
「それからも、星を護ろうとしてたんです。 ですが、ある時気付いたんですよね。 私は、本来は弱者を護る為に尽力していたんだ、と」
『なんだ、結構な事じゃあないか?』
青年の言葉に、良は一応の誉め言葉を贈る。
ただ、贈られた側は苦く笑っていた。
「そう、結構な事。 その筈でした。 ですが、よくよく耳を澄ませば、聞こえて来るんですよ」
『何がだ?』
問う首領を、青年は見た。
「ですから、先程も述べた通り、弱い者達の声がです」
要を得ない声に、良は首を傾げてしまう。
『だからさ、誰の事を云ってるんだ? その弱い者達ってのはさ?』
なかなか主点に入ろうとしない青年に、良が焦れた。
それに呼応する様に、青年は良を見詰める。
その視線は、何かを見抜く様な強さが在った。
「まぁ、平たく云えば、動物、魚、植物といった者……そう言えば分かりますかね?」
青年は、至極真面目な顔でそう言う。
が、良にとっては眉唾物の話であった。
『いや、だってさ、喋らないだろ?』
改造人間である以上、普通の人間とは違う。
が、視覚や聴覚といった感覚は人のソレと大差は無い。
良が自分の感じるままを答えると、青年は目を細めた。
「えぇ、まぁ、確かに。 正確に云えば、彼等は確かにしゃべりはしません。 鳥の中には、真似できる者も居ますが、厳密に言語を交わすという者は、地球上では人間だけでしょうね」
『だったら、なんで喋るなんて云うんだ?』
「ですから、聞こえるんですよ……私はね」
ぼそりと言葉を吐くと、青年は持っていたコーヒーを飲み干す。
「聞こえる、といっても、耳で聴ける訳じゃない。 こう、彼等の放つ念、とでも云いますか、感覚をね。 具体的に痛い、苦しい、助けて、とは彼等は喋らない。 ですが、想っては居るんですよ。 追い回される恐怖、抑えつけられる際の苦しさ、殺される直前の絶望感。 それらが、私は聞こえるんだ」
青年は、持っていた缶を床に置くと、耳に手を当てる。
あたかも耳の幅を増幅させ、より音を聞き分ける様な素振りであった。
「こうしている間も、ずーっと聞こえるんですよ。 虐げられる弱者達の声がね」
耳に当てた手を下ろすと、青年は良に目を戻す。
「本当に平和を望むなら、弱者達を助けるべきではないですか? 多少無理に人間の数を減らしてでも」
問われた良は、どうにも見ている青年がただの人間には見えなかった。
傍目には背広姿の男だが、何かが違う。
『なぁ、一つ聞いて良いか? あんた、人間か?』
もしかしたら、このセイントという大幹部は人ではないのかも知れない。
良はそう仮説を立てた。
考えられるのは、そして、自分と同じ改造人間。
もしくは、川村愛の様な異能力者。
何にせよ、ただの人では有り得ない力を有しているのは伝わる。
首領からの問いに、青年は笑った。
「あぁ、つい言いそびれてましたが、私は、宇宙人ですよ?」
『「はぁ!?」』
青年の意外な答えに、首領は勿論、女幹部ですら驚き声が漏れていた。
「そんなに驚かれると、心外ですな? まぁ、地球人には宇宙人はあまり縁が無いようですし、驚かれるのも無理はないでしょうね。 でもほら、昔々ならば、隣の大陸から人が来たとしても、同じ反応をしてましたから」
アナスタシアは驚愕の顔を浮かべ、良も同じであった。
『おいおい、そんな与太話を……』
「そうですか? 現に貴方は色々と出逢ってる筈だ。 中には、憶えていない事も在るんでしょうが」
意味深な言葉を青年は漏らすが、良はソレに気付けない。
同時に、魔法などという有り得ない事も良は知っていた。
『んまぁ、確かに、今更宇宙人ぐらいじゃ驚いちゃ失礼だろうな。 で、何だってそんな宇宙人様が、そんな事するんだ?』
良の声に、青年は片方の眉をヒョイと上げた。
「これは異な事を仰いますな。 世界の平和を目指すと云ったのは貴方の筈だ。 私もソレには賛同しています。 それに、首領は別に【人間の為の平和】とは仰いませんでしたよね? 私は、地球人ではなく、地球の平和の為に戦おうとしているんですよ?」
想像を遥かに超える青年の計画。
それは、正に【地球救済計画】と言える。
それを聴かされて、良は思わず唾を飲み込んでいた。




